第8章 法曹法の概要
(2)法曹の独立性
共産主義的社会運営機構は古典的な三権分立体制を脱し、全権力が民衆代表機関としての民衆会議に統合される。従って、司法権も民衆会議から離れてはあり得ず、「司法の独立」といった古典的な概念も妥当しない。
とはいえ、司法権が外部から介入を受け、特定の個人や団体、社会集団の利益に奉仕するような偏向を来たしてはならず、中立性を高度に保持すべきことは司法の普遍的な鉄則である。この鉄則を実現するため、共産主義的司法制度にあっては、司法を担う法曹の独立性が保障される。
「法曹の独立性」とは、前回見た法務士と公証人という二種の法曹がその職務遂行上、外部から干渉されることなく、独立して判断することを意味する。法務士は種々の司法職の人的給源ともなるが、司法職に就いている間はもちろん、民間で私的な法律業務に従事している間も独立性を保障される。
例えば、企業体の法務部署に勤務する法務士であっても、その業務遂行に当たり、他の内部機関・部署から介入を受けることはない。そうした独立性が保障される結果、経営陣の指示によって企業内法務士が不正の法的隠蔽を図るような企業ぐるみの不正工作を防止することができる。
また、法務士が特定個人や企業その他の団体の法律顧問として専属することは認められない。こうした専属的法律業務は、依頼者との継続的な互恵関係ゆえに法曹の独立性を保持できないからである。個人も企業その他の団体も、何らかの法的助言を得たければ、そのつど法務士に相談、依頼することになる。
一方、法務士が私的に経営する法律事務所や公証人が詰める公証役場は捜査機関等の法執行機関による安易な捜索押収を受けない権利が保障される。捜査の必要上、それらの場所で捜索押収するときは、人身保護監が発付する特別な授権令状を要する。
さらに、法曹は身分保障という点でも特別な処遇を受ける。各種司法職にある間、その罷免やその他の懲戒処分は民衆会議弾劾法廷の判決によらなければならない。また民間にある間も、法務士や公証人の懲戒処分はその職能団体のみが行なうことができる。
法曹の職能団体は法に基づいて高度な自治権を保障され、その内部運営に関しては、民衆会議を含む外部からの監督・干渉を受けることはない。ただし、準公的な団体として、一般護民監の監査対象となることはあり得る。