跋
前回まで、「議会制ファシズム」に支配された近未来2050年における日本社会の諸相をあたかも政権マニフェストのような形で記述してきたが、最後に本編ではまとまった記述ができなかった外交関係について付言的に予測しておきたい。
まず、2050年のファシスト政権は引き続き米国との同盟関係を外部的な基盤として成立するだろう。否、現行体制以上に米国の庇護を必要としているだろう。米国は表向き「反ファシズム」を旗印とするため、ファシスト政権を米国に認知させるには、現在以上に親米協調姿勢を強固に表明する必要があるからである。
そのためにも、本編で言及したように、改憲によって再軍備が明確にされ、自衛隊は防衛軍に格上げされたうえ、集団的自衛権に関する法的制約は憲法上も完全に取り払われ、無制限の日米共同軍事行動が可能な状況になっているはずである。
それとも関連して、沖縄政策はいっそう超然主義・強権主義に傾斜しているだろう。沖縄には、政府の代表部が置かれ、沖縄全権代表を通じて、中央政府が選挙や県政にも介入する間接支配体制となっている。反基地闘争は反軍活動とみなされ、本編でも言及した防衛軍情報保安隊による厳しい監視と弾圧を受け、萎縮している。
こうした抑圧策に対しては、米軍統治時代に匹敵する「沖縄植民地化」という批判も向けられるが、官製報道により情報統制された本土メディアが沖縄の情勢を詳細に伝えることはない。
またファシスト政権は歴史問題に関しても強硬な愛国主義の立場を明確にしているため、東アジア近隣諸国とは第二次大戦終結以降、最高度の緊張関係にあり、日米軍事同盟といっそう軍拡した中国が対峙する東アジア冷戦構造が定着している。特別永住者制度の廃止により、韓国との関係もいっそう冷却し、事実上の断交状態に置かれているだろう。
以上のような諸相を示す議会制ファシズムの世界は、ジョージ・オーウェルの『1984年』に描かれた全体主義体制に比べると、未来性に欠ける印象を受けるだろうが、それだけに、すでに現存する諸制度を再編拡大するだけで十分にファシスト体制を構築することができる。書きながらこのことに気がつき、連載を終えた今、改めて愕然としている。
ファシズムの基礎となる食材はすでに出揃っていると言って過言でない。あとは調理するだけ、調理者となる新政党が現われるか、既存政党が調理者となるかの問題だ。
議会制ファシズムのような新型ファシズムは意外に地味である。目に見えないウィルス的な性質を持ち、知らないうちに侵されている。そこが恐ろしいところである。そのためにも、将来、ファシスト政権の樹立をもくろむ勢力に参照・利用される危険を冒して、あえて項目的なマニフェストのような形で新型ファシズムの実相を可視化してみたのであるが、筆者の希望は、もちろんこれとは正反対の方角にある。(了)