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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第41回)

2025-01-11 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第9章 計画化の時間的・空間的枠組み

(2)計画過程の全体像
 ここで、計画化の時間的・空間的枠組みについて見ていく前に、世界共同体を前提とする経済計画過程の全体像を示しておくと、大きく次の三段階に整理される。


①世界共同体における世界経済計画の策定

⇒世界経済計画は、まさしく世界共同体における経済計画の全体的な設計図となるたたき台的な指針である。そこでは、エネルギー計画を前提に組み入れた全体的な生産計画と汎域圏ごとの環境状況及び人口を参酌した需要と供給の見通しを考慮した生産計画が軸となる。策定に当たっては、環境規準の定立に当たり、世界環境計画のような環境政策機関も関与する。計画案は、世界共同体諸機関での検討を経て、最終的に世界共同体総会で承認されて発効する。

②各構成領域圏における経済計画の策定

⇒領域圏経済計画は、世界経済計画の枠内で、世界共同体構成領域圏ごとの計画機関(経済計画会議)が策定する領域圏独自の計画である。この計画は、実際に民衆の日々の生活に直接関わる最前線の計画となる。これは、一般計画Aと農林水産に係る計画B、特殊な生産分野として製薬に係る計画Cの三分野に分けられる。また、災害や感染症パンデミック等に備えた余剰計画を伴う。計画案は、最終的に領域圏民衆会議で審議・承認されて発効する。

③広域地方における経済計画の策定

⇒広域地方における経済計画とは、各領域圏内部の広域地方(地方圏または準領域圏)における消費計画である。持続可能的計画経済では地産地消が原則であるので、領域圏経済計画を大枠としつつ、食糧を中心とする日常生活財の分配消費に関しては広域地方ごとに計画を策定する。計画案は地方消費事業組合が策定し、広域地方の民衆会議で審議・承認されて発効する。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第40回)

2025-01-10 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第9章 計画化の時間的・空間的枠組み

(1)総説
 計画経済全般について言えることであるが、計画経済の過程には、時間と空間の二つの次元がある。時間的次元とは、具体的な計画の及ぶ時間的範囲である。その点、旧ソ連型の経済計画では5か年を標準としていたが、持続可能的計画経済では3か年を標準とする。
 このような計画化の時間的枠組を何年と定めるかについて絶対的な定式はないが、持続可能的計画経済の時間的枠組みを3か年と中期に設定するのは、地球環境の状態という可変的な自然現象の予測を前提とするため、3年を超える長期的な計画化よりも、中期的な計画化のほうが適していると考えられるからである。
 この計画化の時間的枠組みは、一度決定されれば、原則的に以後も踏襲され、各次計画ごとに変えられるものではない。仮に3か年の時間的枠組みをより長期に変更するのであれば、それは相応の合理的な根拠に基づき、実行されなければならない。(逆に、3か年未満の短期に変更すると、計画化の時間的枠組みとしては窮屈になり、事実上計画としての意義を失う恐れがあるため、適切でない。)
 計画期間の経過中に、地球環境予測の修正や予期していなかった災害の発生等により、各次計画の内容を一部変更することは、計画化の時間的枠組みの修正とは異なり、適宜認められる。
 一方、計画化の空間的枠組みとは、どの圏域で経済計画が策定されるかという問題である。計画化の地理的範囲と言い換えることもできる。その点、旧ソ連型経済計画は一つの主権国家を空間的枠組みとしていたが、持続可能的経済計画は世界共同体‐領域圏‐領域圏内広域圏という三つの空間に重層的に及ぶ。
 この三つの空間的枠組みは完全に対等ではなく、世界共同体における世界経済計画が地球全域をカバーする上限枠(=キャップ)としての役割を持ち、その範囲内での割り当て枠(=クウォータ)として領域圏経済計画が機能する。
 領域圏内広域圏の経済計画は専ら消費に関わる計画であり、領域圏経済計画の消費部門としての意義を持つ。これは旧ソ連における計画経済の改革策として試行された「計画の地方分権化」とは異なり、そもそもの計画化の構造として組み込まれた機能的分化である。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版]・総目次

2025-01-09 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

本連載第1部は終了致しました。下記目次各「ページ」(リンク)より全記事をご覧いただけます。第2部以降は、順次連載中です。


統合新版序文 ページ1

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

第1章 計画経済とは何か

(1)計画経済と市場経済 ページ2
(2)計画経済と交換経済 ページ3
(3)マルクスの計画経済論 ページ4

第2章 ソ連式計画経済批判

(1)曖昧な始まり ページ5
(2)国家計画経済 ページ6
(3)本質的欠陥 ページ7
(4)政策的欠陥 ページ8

第3章 環境と経済の関係性

(1)環境規準と経済計画 ページ9
(2)科学と予測 ページ10
(3)環境倫理の役割 ページ11
(4)古典派環境経済学の限界 ページ12
(5)環境計画経済モデル ページ13
(6)環境と経済の弁証法 ページ14
(7)非貨幣経済の経済理論 ページ15

第4章 計画化の基準原理

(1)総説 ページ16
(2)環境バランス①:「緩和」vs「制御」 ページ17
(3)環境バランス②:数理モデル ページ18
(4)物財バランス①:需給調整 ページ19
(5)物財バランス②:地産地消 ページ20
(6)物財バランス③:数理モデル ページ21
(7)自由生産領域の規律原理 ページ22

第2部 持続可能的経済計画の過程

第5章 計画経済の世界化

(1)非官僚的計画 ページ23
(2)グローバル計画経済 ページ24
(3)貿易から経済協調へ ページ25
(4)世界経済計画機関 ページ26
(5)汎域圏経済協調機関 ページ27

第6章 計画経済と政治制度

(1)経済体制と政治制度 ページ28
(2)政経二院制 ページ29
(3)世界共同体の役割 ページ30
(4)世界共同体の構成単位 ページ31

第7章 経済計画とエネルギー供給

(1)エネルギー源の民際管理 ページ32
(2)エネルギー供給計画 ページ33
(3)エネルギー事業体 ページ34
(4)エネルギー消費の計画管理 ページ35

第8章 計画組織論

(1)総説 ページ36
(2)世界計画経済の関連組織 ページ37
(3)領域圏計画経済の関連組織 ページ38
(4)地方計画経済の関連組織 ページ39

第9章 計画化の時間的・空間的枠組み

(1)総説 ページ40
(2)計画過程の全体像 ページ41

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第39回)

2025-01-08 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的計画経済の諸原理

 

第8章 計画組織論

(4)地方経済計画の関連組織
 ここで言う地方とは、統合型領域圏と連合型領域圏とでは、意味するところが異なる。前者の場合は広域の地方圏を指すが、後者では連合を構成する準領域圏を指すことになる。
 このうち、準領域圏はその名称のごとく、領域圏に準じ、現行の連邦国家における州のような自己完結性を持つ圏域であるから、まさに領域圏に準じて独自の経済計画(生産計画)を策定する権限を持つことが許されるのではないかという議論があり得る。
 これについて、連合領域圏の場合は、領域圏全体の経済計画の策定に関わる経済計画会議に各準領域圏の経済代表者の参加を認めることは、最低限必要とされるであろう。それを超えて、準領域圏にも固有の経済計画を策定する権限を付与するかどうかは、各連合領域圏の自主的な決定に委ねられる。
 統合型にせよ、連合型にせよ、地方における経済計画の中心は消費計画である。消費計画は、地産地消を目標として策定される消費に限定された経済計画であり、その策定組織は地方ごとに設立される消費事業組合である。
 消費事業組合は、それ自身が日常必需品の供給組織であると同時に、消費計画策定機関でもある。また、地方における末端消費も領域圏全体の経済計画と無関係ではあり得ない以上、消費事業組合は領域圏経済計画会議に代表部を置き、領域圏経済計画の策定にもオブザーバー関与することが認められる。
 消費事業組合は多数の物品生産企業体を提携組織として擁するが、これらの企業体の多くは基本的に計画経済の適用外となる自主管理企業(生産協同組合)である。これらの企業体は消費計画の策定に直接関与することはないが、消費計画の範囲内で独自の企業内生産計画を立てて生産する。
 ちなみに、消費事業組合が供給する物品の相当部分を食品が占めるので、食品の素材となる農産品や水産品の生産に関わる農業生産機構や水産機構も、消費計画に関しては、重要な当事者となる。具体的には、それら機構の地方事業所が消費事業組合の法人組合員を兼ねることにより、消費計画に関与する。
 つまり、農業生産機構や水産機構は、その機構全体として領域圏経済計画に関わると同時に、地方事業所のレベルでは地方の消費計画に関わるという形で、二重に経済計画に関わることになる。
 さらに、消費計画は地方の民衆会議(統合型では地方圏民衆会議、連合型では準領域圏民衆会議)に提出され、審議・議決を経て発効する点では、領域圏経済計画の場合と同様の構制となる。
 その点、消費事業組合は管轄地方の住民全員を自動的組合員としつつ、代議制によって運営される会議体であり、それ自体が地方における下院的な意義を持つと言える。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第38回)

2025-01-07 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第8章 計画組織論

(3)領域圏計画経済の関連組織
 持続可能的計画経済の最前線となるのは、世界共同体の構成主体である領域圏である。各領域圏は通常、単立し、それぞれが世界経済計画の枠内で独自に経済計画を策定・運用していく経済計画主体ともなる。
 ただし、小規模な領域圏の場合は、単独で計画経済を運営するだけの経済基盤を持たないことが多い。そこで、こうした小規模領域圏は近隣の同規模領域圏またはより大きな領域圏と合同を結成し、合同領域圏という単位で計画経済を運用する。合同領域圏の主たる役割は、こうした共通経済計画の運用という点にある。
  これら領域圏経済計画は世界経済計画における汎域圏をベースとして汎域圏内での経済協調をも考慮しつつ策定されるが、そうした汎域圏内経済協調の実務を担うのが五つの汎域圏の経済協調会議である。同会議は汎域圏内で経済協調の対象分野を担う生産企業体の代表者で構成され、汎域圏内の経済協調協定を締結したうえ、汎域圏民衆会議の承認・議決を得る。
 汎域圏経済協調協定に続いて、各領域圏経済計画の策定に進むが、単立、合同いずれの形態であれ、領域圏経済計画の策定機関となるのが、経済計画会議である。これは、旧ソ連の計画経済における中枢機関であった国家計画委員会のような行政機関ではなく、計画経済の適用対象となる生産企業体の共同運営による合議機関である。
 その構制は各生産企業体の計画担当役員を議員とする会議体であり、これに会議を実務的に支える事務局が付属する。会議は、一般、農林水産、製薬の三種類の計画に沿って一般産業部会と農林水産部会、製薬部会が分岐する三部会制であるが、これに消費計画の策定単位となる地方圏(または準領域圏)の消費事業組合の代表部もオブザーバー部会として設置される。
 三部会のうち一般産業部会の内部は、経済計画の基礎となる産業連関表の産業分類におおむね沿った専門部会に分かれ、それぞれ討議のうえで部会ごとの計画案を策定する。農林水産部会も同様に専門部会に分かれるが、製薬部会はそれ自体が専門部会を兼ねる。
 経済計画の前提部分を成すエネルギー計画に関しては、経済計画会議の下部機関として、製油や電力等のエネルギー関連事業体で構成するエネルギー計画協議会が設置され、同協議会が発議するエネルギー計画案について、経済計画会議で審議・議決を行う。
 一方、領域圏の施政に関わる民衆会議も経済計画の策定にノータッチではないが、民衆会議が主導することはない。民衆会議の役割は、経済計画会議が議決した計画を改めて審議し、承認することである。その点、民衆会議と経済計画会議の関係性は、ある種の上院(≒民衆会議)と下院(≒経済計画会議)の関係に相当すると言える。ただし、民衆会議は計画を全面的に否決することはできず、できるのは一部不承認、差戻しのみである。
 なお、合同領域圏単位での経済計画の場合は、合同領域圏に民衆会議が設置されない代わりに、合同の政策協議会が計画の承認権を有することになる。この限りで、政策協議会が単立領域圏における民衆会議に相当する役割を果たす。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第37回)

2025-01-06 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第8章 計画組織論

(2)世界計画経済の関連組織
 持続可能的経済計画の起点となる世界共同体における経済計画の全体的な設計図である世界経済計画の策定に当たる機関は、まさに世界経済計画機関であるが、この機関は、第5章でも述べたように(拙稿)、官僚制行政機関ではなく、生産企業体の連合的世界組織による共同計画を策定する合議制機関である。
 その概要は上掲拙稿に記したので、ここでは、世界経済計画の策定に関わる関連組織について見ておく。
 世界経済計画機関が世界経済計画の中心的な実務機関となることは当然であるが、環境的持続可能性に重点を置く持続可能的計画経済においては、世界的な環境政策に関わる世界環境計画のような環境政策機関の関与も不可欠である。
 世界環境計画は現行の国連環境計画を継承する世界共同体機関であり、世界共同体の環境政策における中心的実務を担う。持続可能的計画経済における世界経済計画とは、環境基準の枠内での計画であるからには、世界環境計画の政策に合致していなければならず、世界環境計画の代表者は世界経済計画にも専門的に参与し、計画策定に関与する。
 さらに、世界経済計画における土台ともなるエネルギー計画の策定に際しては、世界天然資源機関の関与が欠かせない。その点で、世界経済計画機関と世界天然資源機関とは世界経済計画策定における双璧機関として常時密接に連携する。
 また、あらゆる生産活動において不可欠な水資源の公平な利用を調整する世界水資源機関も、水資源に特化した天然資源機関として、世界経済計画の策定に関与する。
 一方、地域的な特色が濃厚な農林水産関係は、世界計画経済の直接的な対象ではなく、各領域圏の経済計画に委ねられるが、世界食糧農業機関(漁業や林業も兼轄)は食糧供給の観点から、世界経済計画の策定に専門的に参与するとともに、世界環境計画と連携しつつ、環境的に持続可能な農林水産の観点から、世界経済計画よりは規範性が弱いものの、世界経済計画の補充的指針となる世界農林水産計画を策定する。
 さらに、世界経済計画の策定に当たっては、五つの各汎域圏の経済協調会議が関与する。汎域圏の主要な役割の一つは資本主義経済における貿易に代わる域内経済協調にあり、同会議はそうした域内経済協調の実務機関である。具体的には、五つの各汎域圏の経済協調会議事務局長が大使的な立場で世界経済計画機関における討議と議決に加わる形で、計画策定に関わることになる。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第36回)

2025-01-05 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第8章 計画組織論

(1)総説
 計画経済は、個別企業ごとの経営計画以外に全体的な計画が存在しない市場経済とは異なり、全体的な経済計画に従って期間的に運営されていくものであるから、計画の策定と運用に関わる計画組織を必要とする。この計画組織のあり方を探るのが計画組織論である。
 計画経済は、どのようなタイプのものであろうと、合理的な計画組織によって支えられていなければ、計画の原理原則だけで動くものではない。一方で、合理的な計画組織をあまりに複雑なものにすると、その運営に支障をきたすこともある。旧ソ連における計画組織はそうした教訓事例である。
 ソ連は15の主権なき共和国で構成された超大な連邦国家という特異な形態をとったため、計画組織も連邦全体のものと各共和国のものとに二元化されたうえ、連邦及び共和国の各行政機関も計画に関与し、さらに部門ごとの国有企業が計画最前線で関与するという何重もの複合体であった。しかも、計画全体を方向づけるのは支配政党であった共産党である。
 基本五か年を基準とした計画の策定に当たっては、共産党指導部の方針を至上命令としつつ、多数の計画関与機関がそれぞれ自身の権益を主張して、しばしば競争的関係に立ったために、計画の策定プロセスは不安定なものとなった。
 このような複雑かつ不安定な計画組織のもとで、ソ連が半世紀以上にわたってどうにか計画経済を切り盛りし、アメリカと対峙する超大国として存続し得たことは奇跡に近いと言ってよいが、最終的にソ連が解体される以前に、この計画組織はすでに破綻しかけていたことも事実である。
 それには様々な要因があるが、一つには計画組織があまりに複雑化し、計画の策定に多大の時間と労力が費やされ、円滑な経済運営が阻害されていたことが想定される。ここから学ぶべき教訓は、計画組織はできる限り簡素であることが望ましいということである。原理的には、単一の計画機関が一貫して計画策定に当たるのがよいが、現実にはそこまで簡素化することはできない。
 その点、世界共同体を前提とする持続可能的計画経済にあっては、世界共通の経済計画を策定する世界機関を軸に、世界共同体を構成する各領域圏の計画組織が連携して計画を策定、運用する体制である。しかも、政府とか政党といった政治組織が存在しないうえ、計画機関は計画対象の企業組織自身の合議機関として構成されるので、計画組織の在り方はソ連のものより、各段に簡素なものとなる。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第35回)

2025-01-03 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第7章 計画経済とエネルギー供給

(4)エネルギー消費の計画管理
 持続可能的計画経済におけるエネルギー供給計画は、末端需要者のエネルギー消費のあり方にも影響を及ぼす。当然にも、資本主義経済下のように需要者が欲するだけ無制限に消費できるということにはならない。
 特に二次エネルギー源の中でも最も重要な電気の消費は厳正な計画供給制となるが、その場合、事前告知による計画停電のような全体統制的な方法とリミット制のような個別規制的な方法とがある。
 計画停電は大災害時等の非常措置としてやむを得ない場合もあるが、日常的にこうした全体統制的な供給体制を採ることは、電力供給システムが整備されている状況では不必要である。
 そこでリミット制が選択されるが、その適用方法は一般世帯と企業体のような大口需要者とでは異なる。大口需要者については、電力事業機構との個別協定により日量のリミットを設定するが、一般世帯では個別協定ではなく、予め通知された約款で定められた日量上限を超えた場合、事前警告のうえ自動的に停電するという方法によることになるだろう。
 実際、持続可能的計画経済が確立される将来には、こうした厳格なリミット制を支える技術革新が進み、末端需要者が電力使用量をリアルタイムで正確に把握でき、リミットに接近すれば警告されるような測定装置が一般世帯にも普及すると予測され、厳格なリミット制に現時点で想定されるような煩雑さはないものと思われる。
 同様のリミット制はガスにも導入されるが、持続可能的計画経済はオール電化とかオールガス化といった消費エネルギー構成の偏向は認めず、消費エネルギーバランスが考慮される。そのためにも、電力供給とガス供給は統合的な事業体(電力・ガス事業機構)を通じて包括的に行われることが望ましい。
 とはいえ、こうしたエネルギーの大量供給体制はいかに計画化を進めても環境的持続可能性にとって十分ではないから、エネルギー自給システムの普及も併せて考慮されなければならない。具体的には自家発電装置の常備や地方集落では薪火のような伝統的発火手段の復活・併用などである。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第34回)

2025-01-02 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第7章 経済計画とエネルギー供給

(3)エネルギー事業体
 一般世帯と企業体その他のエネルギー需要者に対するエネルギー生産・供給を任務とする事業体(エネルギー事業体)のあり方は、生産様式一般とも無関係ではないが、必ずしも必然的な関係にあるわけではない。
 すなわち資本主義生産様式にあっても、天然資源の共有化政策によりエネルギー事業体に関しては国有などの公企業体の形態を採ることはままあるし(特に石油などの資源事業体)、電力自由化以前の日本の旧電力事業体のように株式企業ではあるが、地域独占企業体としての特権を国から保障された公認独占企業体の形態を採ることもある。
 しかし、近時のいわゆる新自由主義的なイデオロギーはエネルギー生産・供給の自由化にも及び、特に電力事業の民営競争化を志向する傾向が強まっている。
 これに対して、エネルギーの民際管理に基づく供給計画化が図られる持続可能的計画経済下のエネルギー事業体は、社会的所有型の公企業を基本とする。具体的には、後に改めて見る生産事業機構の形態を採ることになる。
 例えば、電力であれば、電力事業機構である。このような企業体は地域ごとに分割するのではなく、全土統一的な事業体として設立されるが、いくつかの地方管区ごとに地方事業所が置かれ、一定の分権的な運営は図られる。
 また民際管理される石油をはじめとする一次エネルギー源は、商業的な輸入によるのでなく、各領域圏ごとの供給枠に従い計画供給されることになるため、その統一的な受け入れ窓口となる事業体が必要である。
 その点、前回指摘したように、経済計画会議の下部機関としてエネルギー事業体で構成するエネルギー計画協議会の直轄事業体として、供給資源の包括的な受け入れ窓口となる天然資源渉外機構を設置し、同機構が供給枠の交渉から海上輸送までを担当する。受給した資源の領域圏内での二次供給については、エネルギー計画協議会が担う。
 なお、原子力発電を用いない持続可能的計画経済は同時に原発廃止という歴史的な時間を要するエネルギー廃棄のプロセスをも含んでいる。こうした脱原発計画も世界規模で実施されるが、さしあたり領域圏内でも電力事業機構とは別途、原発廃止事業機構のような専門事業体が設置される。

 

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年頭雑感2025

2025-01-01 | 年頭雑感

このところ、地球環境、地域紛争、物価高騰その他内外の多くの問題が未解決状態で積み残され、年越しとなる事態が続くため、年が明けた気がせず、前年の続きに過ぎない感覚である。この雑感コラムも、毎年同内容の繰り返しとなりつつある。

そうした中、昨年目についたのは、選挙を通じたいわゆる「極右」勢力の躍進現象である。まず欧州議会選挙(6月)、続いてフランス国民議会選挙(6‐7月)、ドイツ地方議会選挙(9月)、そしてアメリカ大統領選挙(11月)でのトランプ返り咲き再選もその亜種現象である。

さしあたり欧米において顕著な現象ではあったが、従来、民主主義の手本を自他ともに任じてきたはずの欧州連合とその二大主導国の仏独両国に米国でこのありさまなら十分過ぎるほどであり、いずれは中南米、アジア、アフリカなど欧米外にも類似現象が追随的に拡散していく可能性は大である。

メディア上では漠然と座標図式的に「極右」とくくられるが、より具体的に見れば、これは反移民政策を基軸とする国家主義的かつ権威主義的なファッショ勢力の躍進現象であり、それをとりわけ労働者階級有権者が支えている。

反移民ファッショ勢力の共通した特徴として、インターネットを巧妙に活用して、虚偽・誇大政治宣伝を展開する大衆迎合/扇動戦略があり、これに労働者階級有権者がはまる傾向を増しているのである。アメリカでも、衆愚政治という言葉が聞かれるようになっている。

結果として、一般大衆が平等に参加する普通選挙が、ただでさえ民主主義の制度としてはより直接的な民主主義に比べ過渡的で不完全な間接民主主義を没却し、ひいては権威主義・独裁政治を正当化する手段と化してきている。現代の選挙過程は反民主主義への道程である。なぜそんなことに?

その点、経済界や富裕層がかれらの総利益を代弁する保守系ブルジョワ政党を支持する傾向は20世紀から変わっていない。変わったのは、労働者階級有権者の投票行動である。

20世紀の労働者階級は労働党、社会党、共産党その他党名は様々ながら、労働者の階級的利益を擁護・代表することを標榜する政党(アメリカでは二大政党の片割れの民主党がそれに相当する)に所属労組を通じて集団的・自動的に投票する傾向があったが、20世紀末頃から労組組織率の低下が進み、労働者階級が集団投票をしなくなってきた。

皮肉にも、資本主義先進諸国で労働者代表政党が議会で地歩を築き、時に政権政党ともなることにより、労働者階級の生活水準が向上し、中間層に食い込むことができるようになったことが労働者の労働運動への関心を低下させ、労組組織率の低下を結果したのである。

ただ、元来、集団投票(いわゆる組織票)は一人一人が熟慮して良心に従い投票するという一人一票の投票の自由原則に反する習慣ではあったのだが、労組を通じた集団投票に支えられた労働者代表政党が議会で安定的に議席を占めることは議会制を通じた代議政治を健全に保つ効用は発揮していた。

ところが、そうした集団投票習慣が廃れたことで労働者階級の投票が個人化され、毎回投票先が変わるようないわゆる浮動票が多くなると、大衆迎合/扇動戦略に長けた勢力への傾倒現象が生じやすくなる。これが反移民ファッショ勢力躍進の一因と考えられる。

実はそうした傾向を90年近く前に先取りしていたのが、ナチスの勝利であった。ナチスが当時としては民主主義の手本とみなされていたドイツのワイマール共和国の自由選挙を通じて誕生したということは忘れてはならない教訓である。

現代なら、ナチスの反ユダヤ主義を反イスラーム主義―欧米における反移民政策の核心である―に置き換えれば、現代版ナチスを作り出すことは難くない。さしあたり、ナチス復活阻止のための厳格な法的諸制度を維持してきたドイツの今後の動向に注目したい。

同時に、アメリカの第二次トランプ政権がアメリカご自慢の民主主義をどれほど掘り崩すのか、それとも古典的な合衆国憲法に阻まれて意外に掘り崩せないのか、も今年の注目点である。

日本の過半数割れ保守政権の状況はやや特殊であるが、この弱体政権が、もはや労働者代表政党そのものが消滅した日本では多数派と言ってよい浮動層有権者の大きな失望を招いたとき、日本版「極右」の躍進もあり得なくはないだろう。

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第33回)

2024-12-30 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第7章 経済計画とエネルギー供給

(2)エネルギー供給計画
 前節で、共産主義的な計画経済下での経済計画過程の起点はエネルギー計画であると指摘したが、ここで第4章で述べた持続可能的計画経済の原理を今一度振り返ると―
 持続可能的計画経済には環境アセスメントが予め包含されており、従って、主として生産の量的な調節を目的とする「物財バランス」にとどまらず、環境的持続可能性に適合するエネルギー資源の選択、生産方法や生産品構造の規制にも及ぶ質的な「環境バランス」も組み合わされなければならないのであった。
 特にこの「環境バランス」の前提として、エネルギー計画が必要となる。その場合、エネルギー計画を経済計画本体と分離して独立に組むか、それとも経済計画の前提部分のような形で組み入れるかという技術的な問題がある。
 エネルギー計画が経済計画の外部的規制ではなく、経済計画全体の内部的前提となることを強調するためには、組み入れ型が適切と思われるが、いずれにせよ、このようなエネルギー計画は、経済計画本体と同様に規範性をもって生産企業に適用される指針であって、単にエネルギー政策の基本方針を綱領的に掲げたものではない。
 またエネルギー供給は、エネルギー源の世界的な共同管理の制度とも密接に関連するため、世界レベルでのエネルギー源管理計画ともリンクしていなければならず、ここでは「一国エネルギー計画」は存立し得ない。
 内容的には、石油などの枯渇性エネルギーの節約と再生可能エネルギーの積極活用が基調となり、二次エネルギー源の中でも高度産業社会で最も比重の高い電力の環境持続的な総量規制はエネルギー計画の重要な柱である。
 ちなみに発電に関し、ひとたび事故が発生した際の環境破壊性において他に例を見ないことが実証済みの原子力は質的に見て安全に持続可能的なエネルギー源とは評価できないため、持続可能的エネルギー計画からは除外される。
 こうしたエネルギー計画の策定主体も行政機関ではなく、生産企業体で構成する経済計画会議であるが、エネルギー計画の原案は、会議の下部機関として製油や電力等のエネルギー関連事業体で構成する「エネルギー計画協議会」で策定されることになる。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連最第32回)

2024-12-29 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第7章 経済計画とエネルギー供給

(1)エネルギー源の民際管理
 およそ高度産業社会がエネルギーを物理的な基盤としていることは、いかなる生産様式にあっても変わらない。しかし、エネルギー供給の理念と方法は、生産様式いかんと密接に関連している。
 その点、資本主義産業社会にあっては、エネルギーは物質的な生産活動の手段にすぎない。すなわち「初めに生産ありき」であって、想定された物質的生産活動に見合うエネルギーを供給しようと試みる。しかも、その生産活動は全体的な計画に基づいておらず、個別資本による利潤追求を目的とした競争的な経営計画の競合であるから、エネルギー供給に限界を設定することを忌避する。
 共産主義的な持続可能的計画経済の発想は、それとは逆である。すなわち「初めにエネルギーありき」であり、環境的持続可能性に配慮されたエネルギー供給計画の枠内で生産活動が展開される。言い換えれば、持続可能的計画経済下での経済計画過程の起点はエネルギー計画である。
 エネルギーはエネルギー源(ここでは、狭義のエネルギー源、すなわち一次エネルギー源を指す)から生み出されるから、持続可能なエネルギー計画の前提には、持続可能なエネルギー源管理、すなわち持続可能な天然資源管理がなければならない。
 資本主義社会には、そもそも「エネルギー源管理」という発想自体がなく、エネルギー源は枯渇の限界に達するまで恒久的に開発の対象であり、せいぜい天然資源の埋蔵国の政府や国営開発企業による間接的な開発コントロールがなされているにすぎない。
 近年はそうした間接コントロールすらも弛緩し、資源が投機の対象にすらされている。その結果は、石油を中心とするエネルギー源の価格変動による経済不安、そして資源の浪費・枯渇である。
 持続可能的計画経済は、こうした「エネルギー無政府状態」とは対極にあるエネルギー源の民際管理と結びついている。エネルギー源の民際管理とは、石油に代表されるエネルギー源はその埋蔵国に属するという「資源ナショナリズム」の国際常識と決別し、エネルギー源を無主物とみなし、人類全体の共同管理下に置くことを意味する。
 簡単に言えば、「天然資源は誰のものでもない」ということである。ただ、天然資源の民際管理を単なる理念でなく、実際に可能にするためには、地球規模での計画経済化を前提とした効果的な共同管理システムの構築を必要とする。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第31回)

2024-12-27 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第6章 計画経済と政治制度

(4)世界共同体の構成単位
 本章の最後に、世界共同体全体における計画経済体制の概要をまとめておく。すでに述べたように、世界共同体は世界政府のような中央集権的な単一の主権団体ではなく、分権化された構造を持っている。
 そうした世界共同体の基礎構成単位となるのが領域圏であるが、領域圏は在来の国に相当する政治単位であるとともに、世界経済計画の枠内での計画経済主体でもある。例えば、日本領域圏は日本の政治単位であるとともに、日本領域の計画経済主体である。
 この領域圏のレベルにはそれぞれ単一の経済計画機関として経済計画会議が置かれ、世界経済計画機関が設定した経済計画に沿って、各領域圏内の経済計画を策定することになる。世界経済計画機関と領域圏経済計画会議とは完全な上下の指揮命令関係にはないが、後者は前者の受託機関のような関係に立つ。
 グローバル計画経済は、こうした縦関係の計画だけでなく、横のつながりとしての経済協調関係を内包しているが、そうした経済協調は地理的・文化的に共通項を共有する近隣領域圏がまとまる連関地域を単位に行なうことが合理的である。
 そのような領域圏の連関地域的な協力体となるのが、汎域圏である。汎域圏自体は、計画経済主体ではなく、計画経済を補充する相互経済協調主体であるので、固有の経済計画機関を持たない。
 汎域圏の分け方には種々あり得るが、筆者はかねてより、世界をアフリカ‐南大西洋、ヨーロッパ‐シベリア、アメリカ‐カリブ、東方アジア‐オセアニア、西方アジア‐インド洋の五つに区分することを提案している(拙稿参照)。
 このような連関地域の経済協力体は現在でも存在しているが、それはしばしば連関地域ごとの経済競争関係に転じ、最悪の場合、排他的な経済ブロックと化し、国際戦争の要因ともなる。他方で、国境を越えてグローバルに跋扈する多国籍資本はこうした連関地域経済協調とは調和しない。
 グローバル計画経済における汎域圏は競争的単位でもなければ、旧ソ連が主導した旧コメコンのような国際分業圏でもなく、相互補充的な経済協調に特化した、グローバル計画経済に特有の単位と言えるだろう。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第30回)

2024-12-26 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第6章 計画経済と政治制度

(3)世界共同体の役割
 前回、世界共同体には政経二院制は適用されず、世界経済計画機関は世共総会の下部機関の位置づけとなると論じたが、とすると、そうした政経一元的な世界共同体というものは計画経済体制においていかなる役割を担うことになるであろうか。
 その点、旧ソ連の行政指令型計画経済は、複数の構成共和国の連邦体ではあったが、ソ連邦という単一の主権国家一国限りでの計画経済として運用されていたから、その目標はソ連邦一国の経済開発に置かれていた。そのため、一国を越えたグローバルな計画経済の構想は、ついに現れることがなかった。
 これに対して、新たな計画経済は、地球環境の保全を何よりも優先する持続可能的計画経済という性格上、地球規模で実施される。そのために、その究極的な計画も全世界を包摂するようなレベルで協調的に行われる必要がある。そのような協調主体が、世界共同体である。
 ここで、そうしたグローバルな計画経済をより実効的に行なうには、「世界連邦」のような本格的な世界政府機構を設立したほうが効果的ではないかとの疑問が向けられるかもしれない。「世界連邦」はまさに世界を統一する政治機構であり、かねてより主として世界平和の観点から提唱する運動も存在している。
 実際、世界共同体は英語でWorld Commonwealthと表記されるが、このcommonwealthには「連邦」という政治的な意味もあり、現存する制度としては、英国とその旧植民地諸国で結成する国家連合体の英連邦がCommonwealth of Nationsと呼ばれている。これと同様にWorld Commonwealth を「世界連邦」と訳しても誤りとは言えない側面もある。
 しかし、行政指令型でなく、企業体による自主的な共同計画を軸とする新たな計画経済にあっては、国家という枠組みが無用であるのと同じように、「世界連邦」のような連邦国家的な枠組みも無用であり、「世界連邦」のような制度はグローバルな計画経済を上部構造的に保証する政治制度としてふさわしいものとは思われない。
 その点、commonwealthとは語源的にcommon=共通+wealth=富という二語の合成語であり、そこには「世界共通の富」という経済的な含意も認められる。このようなグローバルな人類共通の富の計画的な生産・分配に関わる統合体としての世界共同体というものが、想定されてくるのである。

 

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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第29回)

2024-12-24 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第2部 持続可能的経済計画の過程

 

第6章 計画経済と政治制度

(2)政経二院制
 計画経済と政治制度の関係においては、代表制のあり方が問題になる。この点、旧ソ連のような行政指令型の計画経済では、経済計画は行政機関の任務であったから、旧ソ連の国家計画委員会のような計画行政機関が用意されれば足り、代表制の問題はさほど重要性を持たない。
 もっとも、そのような強大な権限を持つ行政機関を代表機関がどのように監督し得るかという民主的な監督の問題は発生するが、これは代表制そのものというより、行政監督の問題である。
 しかし、企業体の自主的な共同計画を軸とする新たな計画経済にあっては、そうした共同計画を策定する代表機関の制度や構成いかんが重要な問題となる。
 最もラディカルな制度としては、企業体の代表機関に一本化することが考えられる。例えば、業界ごとの代表者で構成する代表機関である。これは職能代表制に近い構成となる。
 特に、「合理的な共同計画に従って意識的に行動する、自由かつ平等な生産者たちの諸協同組合からなる一社会」という定義に基づくマルクスの共産主義社会論からは、生産協同組合(企業体)自身が代表機関を持つという構制が導かれるであろう。
 マルクスによれば、共産主義社会では、(一)統治機能は存在せず、(二)一般的機能の分担は何らの支配をも生じない実務上の問題となり、(三)選挙は今日のような政治的性格を完全に失う。そして共産主義的集団所有の下ではいわゆる人民の意志は消え失せ、協同組合の現実的な意志に席を譲るという。イメージとしては、協同組合が合同して直接に執政するような体制である。
 しかし、経済計画はそれだけでも多くの審議と調整を要する作業であるので、他の一般政策の審議は別途代表機関を設けて機能分担するほうが合理的であろう。その意味で、経済計画機関は一般代表機関とは別立ての企業代表機関として設置運営し、一般代表機関は経済計画機関の策定した経済計画に承認を与えるのみにとどめるのがよい。
 こうした計画(経済)/一般(政治)の二本立て代表機関―政経二院制―は、世界共同体を構成する領域圏のレベルにセットで設置されることになる。ただし、政経二院制といっても、両者の関係は完全な対等ではなく、政治院である民衆会議が言わば上院的な位置づけとして計画の最終的な承認権を保持する構造になるだろう。
 また世界共同体レベルにおける経済計画機関(世界経済計画機関)には、二院制構成は適用されず、総会(世界民衆会議)直轄機関としての位置づけが強くなる。世共の場合、政治的統合性が重視されるからである。ただし、この場合も世界経済計画機関は官僚制機関ではなく、世界の生産事業機構体で構成する合議機関である。
 なお、世界共同体内部の広域的なまとまりである汎域圏は経済計画そのものよりも、世界経済計画の枠内での地域間経済協調を主任務とするから、固有の経済計画機関が設置されることはない。

 

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