十一 情報科学と情報資本・情報権力(続き)
情報資本の無限拡大と過剰情報化社会
元来、情報科学はあらゆる科学の中で最も進歩のスピードが速いとともに、理論性以上に実用性の高さゆえに、資本との親和性も高度である。成否は別としても、多くの情報科学者/技術者が自らの創案したテクノロジ―を商品化する起業資本家を兼ねてきたゆえんである。
そうした情報科学の進歩と情報資本の相乗的な拡大は、インターネットの汎用化が始まった1990年代後半以降、加速度的に高まり、21世紀に入ると、その動きは無限化していった。とりわけ、ブロードバンドによるインターネットの大衆的普及は決定的であった。こうして急激に拡大した情報資本は、それ自体が独自の三次元産業分類に服する。
第一次情報産業は、コンピュータそのもの(部品を含む)の開発・製造に関わる製造業分野であり、一般産業分類上は第二次産業に分類される。情報資本はまずコンピュータの開発・製造から始まったことから、第一次となるのである。
第二次情報産業は、コンピュータソフトの開発のように情報産業の知的基盤に関わる生産に従事する産業であり、一般産業分類では農業に代表される第一次産業に匹敵する分野である。一般の産業分類とは異なり、製造業分野より後発であるため、第二次となる。
第三次情報産業は、コンピュータ及びコンピュータソフトを利用して種々の情報サービスを提供する産業であり、これは一般産業分類上も第三次産業に含まれる。
インターネットの大衆的普及に伴い、ほぼ無限的に拡大しているのが第三次分野である。21世紀最初の四半世紀を通過する現時点で情報産業の中心を成しているのは、この第三次分野だと言ってよい。
この分野は情報そのものの生産と流通に関わるため、その無限拡大は社会に個々人が適切に処理し切れないほど過剰な情報をもたらし、言わば情報洪水の状態を引き起こしている。こうした過剰情報化社会は、人類が20世紀以前の歴史上は経験したことにない事態である。
それは個人情報の流通・交換を仲介するソーシャルネットワーキングサービスのように、誰でも簡単に情報の発受信が可能になるという利便性の影で、個人情報の意図しない拡散を制御できないという個人情報危機、また虚偽情報の意図的拡散による大衆操作の日常化をもたらしている。
情報資本は総資本の中でもとりわけ専門技術性が高く、その進化のスピードもあまりに速いため、適切な規制が困難であり、事実上は原初的な自由放任経済の中に置かれている。
情報科学自体も次章で見る生命科学におけるような倫理的規制に無関心であることも、如上の深刻な社会的危機を助長していると言える。21世紀の折り返し点を迎える2050年までの次の四半世紀では、こうした社会危機の解決が世界的な課題となるべきはずである。