ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

弁証法の再生(連載第3回)

2024-01-31 | 〆弁証法の再生

Ⅰ 問答法としての弁証法

(2)ソクラテスの問答法
 弁証法の基底は「問答法」であるが、こうした「問答法」としての弁証法を最初に確立したのは、ソクラテスであった。アリストテレスによれば弁証法の創始者とされるゼノンの弁証法はまだごく初歩的な弁論術にとどまっており、その内容も不確かな点が多いが、ソクラテスの問答法は、弁証法の歴史における実質的な元祖と言い得る特質を備えていた。
 彼の問答法をめぐっては、しばしば「ソクラテス式問答法」の名のもとに様々な議論がなされているが、彼の問答法の特徴は、相反する命題を徹底的に対質させる点にある。それは、彼の高弟プラトンが自身の著作で示した「勇気」の本質をめぐるソクラテス式問答法の実際に象徴されている。
 しかし、ソクラテス式問答法は相反する命題間で論争を戦わせて相手を論破するという現代における“ディベート”の論争ゲームとは次元の違う対論である。
 ソクラテス式問答法の実質は反証ということにあるが、ここでの反証とは、対立命題を否定する証拠を提出してその命題の正当性を崩すという消極的な証明にとどまらず、そこから容易に結論を導けない難問—アポリア—を浮上させようとするものである。
 その点で、ソクラテス式問答法の最終目標を確定的な真理の証明にあるとする解釈は妥当ではない。彼は対立命題を反証して確定済みの真理へ誘導しようとしているのではなく、別の問いを立てさせようとする。
 言い換えれば、答えを導くのではなく、問いを導き、さらにそこから、未知の真理を浮かび上がらせるのである。彼の問答法が比喩的に「産婆術」と呼ばれたのも、このようにいまだ知られていなかった新しい真理を浮上させることの手助けをする手段であったからにほかならないだろう。
 また彼の有名なモットー「無知の知」も、こうした文脈からとらえれば、単なる知的謙虚さの自覚にとどまらず、いまだ知られていない知見の謂いであったとわかる。そのような未知の真理を浮かび上がらせるためには、無知の自覚が必要であるという限りでは、「無知の知」は知的謙虚さの箴言でもあろう。
 しかし、このようなソクラテスの方法論は、政治的には危険視されかねない。それは既知の命題への批判的反証活動を活性化させるからである。彼の時代、それは政治社会の基盤であった宗教的な教条との対決が避けられなかった。ソクラテスが青年を堕落させる宗教的異端者として有罪・死刑を宣告され、毒殺刑に処せられたことには理由があったのである。
 実際のところ、ソクラテスは無神論者でも異端宗教者でもなかったが、ソクラテス式問答法が神の存在について展開されたときには、あらゆる宗教が措定する神の存在に関する絶対前提が反証に付され、揺らぐ可能性は十分にあった。当時のアテナイ当局は、そうした危険性を嗅ぎ取り、言わば予防的保安措置としてソクラテスを葬ったのであろう。
 こうして、弁証法創始者ゼノンと同様、ソクラテスも政治犯として命を絶たれることになった。彼の後も弁証法実践者は程度の差はあれ、政治的に迫害されることがしばしばあったことは決して偶然ではない。弁証法は、政治的には我が身の安泰を保証してくれない方法論である。それは、彼がまさに弁証法の主題とした「勇気」を必要とする哲学方法論なのかもしれない。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第11回)

2024-01-24 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(3)ミャンマー合同

(ア)成立経緯
主権国家ミャンマーのうち、ビルマ人主体の地域と少数民族主体の地域が分割されたうえで、改めて合同して成立する合同領域圏。ただし、迫害により難民化したロヒンギャ人の多いラカイン地方は世界共同体の直轄自治圏となる。ヤンゴン都市域と最南部タニンダーリ地方域は合同直轄域とする。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の3圏である。

中部ミャンマー
ビルマ人主体の地域(中部)を継承する連合領域圏

東部多民族ミャンマー
少数民族集住地域(東部の6州)を継承する連合領域圏

チン
少数民族チン人の集住する西部のチン州を継承する統合領域圏

(ウ)社会経済状況
合同全体では持続可能的計画経済に基づく農林業が主軸となる。東部多民族ミャンマー領域圏に集中する宝石をはじめとする天然資源の採掘は、世界共同体の管理下で持続可能的に実施される。長期に及ぶ内戦で疲弊した経済の再建のため、合同復興計画が継続される。

(エ)政治制度
合同領域圏は各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、三つの領域圏の都市で輪番開催される。長く独裁支配を行った軍は世界共同体の軍備禁止条約に基づき解体される。

(オ)特記
旧版ではミャンマーも次項のメコン合同領域圏に包摂していたが、複雑な多民族の社会構成ゆえに長期の内戦に見舞われてきたミャンマーの特殊性を考慮し、単立の合同領域圏とした。

☆別の可能性
少数民族州(チン州を含め7州)すべてが分立し、それぞれ単立の領域圏となる可能性もある。その場合、全体でミャンマー合同領域圏を形成するか、合同を形成せず各別の領域圏となるかいずれかの可能性に分かれる。最悪の可能性は世界共同体に包摂されないまま、軍部独裁と内戦が継続される可能性である。

 

(4)メコン合同

(ア)成立経緯
東南アジアのメコン河流域のタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの各領域圏が合同して成立する合同領域圏。ミャンマー合同領域圏も当合同の招聘領域圏となる。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の4圏である。

タイ
主権国家タイを継承する複合領域圏。王制は廃止され、王は称号のみの存在となる。マレー系が多数派の最南部パッターニーは準領域圏として高度の自治権を持つ。

○ラオス
主権国家ラオスを継承する統合領域圏。一党支配を続けていた人民革命党(実質共産党)の中央組織は解散する。

○カンボジア
主権国家カンボジアを継承する統合領域圏。王制は廃止され、王は称号のみの存在となる。

○ベトナム
主権国家ベトナムを継承する統合領域圏。一党支配を続けていた共産党の中央組織は解散する。

(ウ)社会経済状況
合同内ではタイとベトナムが工業的な基盤を持ち、他の構成領域圏は農業が中心である。かつては全般に貧困が課題であったが、貨幣経済によらない合同共通経済計画を通じて解決される。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、四つの領域圏の都市で輪番開催される。

(オ)特記
元来はメコン河水資源の国際管理を担ったメコン河委員会を母体に合同に発展する。メコン河の環境的に持続可能な管理は引き続き流域にとって共通課題であるため、合同領域圏においても最大の共通政策課題となる。

☆別の可能性
ミャンマーが正式に合同に参加する可能性もなくはない。

コメント

弁証法の再生(連載第2回)

2024-01-16 | 〆弁証法の再生

Ⅰ 問答法としての弁証法

(1)ゼノンの原始弁証法
 漢字文化圏で「弁証法」(中:辩证法)が定訳となっているδιαλεκτική(ディアレクティケー/英:dialectic)は、元来は古代ギリシャ哲学に発し、かつそれが「問答」を語源とすることは哲学史上の確定事項である。このことは、古代ギリシャ哲学に限らず、東洋の儒学や仏教哲学を含め、多くの古代哲学が師弟間の問答を軸にして展開されていったことと無関係ではないだろう。
 その点、漢字文化圏にδιαλεκτικήが摂取された際に与えられた「弁証法」の訳は、「弁じて証明する」といったやや一方向的な弁論のニュアンスに傾いており、「問答」という双方向的な対話の要素が希薄である。いささか素朴に「問答法」と訳したほうがよかったのかもしれない。
 もっとも、漢字文化圏にδιαλεκτικήが摂取されたときには、近代のヘーゲルやマルクスの弁証法がすでに台頭していたために、論証手段的な「問答法」では済まされず、ヘーゲル及びマルクス弁証法におけるような実質的命題論証のニュアンスを出すために「弁証法」と訳されたのかもしれない。
 それはともかく、「弁証法」の基層に「問答」という双方向的な対話の要素が存在していることは、当連載の主題である「弁証法の再生」のために再確認しておくべき点である。現代社会が弁証法を喪失したことの要因として、双方向的な対話の欠乏あるいは困難という現代人に共通する性向があるからである。
 ところで、問答法と言えば、ソクラテス式問答法で知られるソクラテスが想起されるが、アリストテレスによれば、問答法=弁証法の創始者はエレアのゼノンであるとされる。ゼノンはソクラテスより一世代ほど年長の哲学者で、運動という概念を反駁した「ゼノンのパラドックス」の命題は、今日まで論争の的とされてきた。
 ゼノンの弁証法は、問答を通じて矛盾を暴き出し、反駁するという今日では普通に用いられている弁論術を創始したものであり、問答法=弁証法の最も基層的な、まさに出発点を示すものである。それだけに、ゼノン弁証法と近代弁証法の間には距離がある。
 むしろゼノンに関して注目されるのは、その世界観である。彼は万物の本質を相互に変化し得る温・冷・乾・湿の四要素ととらえたうえ、人間の魂もこれら四要素から均衡的に組成されると信じていた。ここには、やはり原初的ながら、近代のマルクス弁証法が到達した唯物論的思考を読み取ることができるかもしれない。
 さらに、ゼノンはマルクス同様に反体制政治運動にも身を投じ、エレアの独裁的僭主ネアルコスの打倒を図るも失敗、捕らわれて拷問の末に処刑されたと伝えられる。運動概念の不能性を論じたゼノンが政治運動で命を落とすとは皮肉に映るが、弁証法の根底には批判という営為が埋め込まれており、それは実践において積極的な政治運動を導くことにつながることがゼノンの壮絶な最期によって示されているとも言える。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第10回)

2024-01-13 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

汎東方アジア‐オセアニア域圏は、東南アジア、東アジアからオセアニアに至る島嶼地域を包摂する汎域圏である。主権国家体制の時代にはロシア領であった極東シベリア地方はロシアから分立し、当汎域圏に包摂される。またオセアニアに散在していた欧米植民地島嶼もすべて独立し、または周辺島嶼と合併して当汎域圏に包摂される。さらに、20世紀冷戦体制の残存であった大陸中国と台湾、南北朝鮮の統合も実現する。汎域圏全体の政治代表都市はアメリカから分立するハワイ領域圏のホノルルに置かれる。

包摂領域圏:
モンゴル、チャイナ、ミャンマー合同、メコン合同フィリピン、環海峡合同インドネシア、東ティモール、ニューギニア合同オーストラリア、ニュージーランド太平洋諸島合同沖縄諸島、日本統一コリア、極東ユーラシア

 

(1)モンゴル

(ア)成立経緯
主権国家モンゴルを継承する領域圏。後述のように準領域圏を含む複合領域圏

(イ)社会経済状況
かつては自足的であった伝統産業の牧畜(遊牧)は市場経済化の中で低迷していたが、持続可能的計画経済の導入により、牧畜が復活するとともに、過放牧を主因とする砂漠化現象が食い止められる。鉱業は世界共同体による資源管理下に移されることで、鉱業利権が生み出した汚職・政争問題が解消される。市場経済化の負の遺産であったストリートチルドレンの社会問題も解消される。

(ウ)政治制度
イスラーム教徒のカザフ人が人口の大半を占める西部のバヤン・ウルギー県は高度の自治権を持つ準領域圏となる。その余は統合的な10余りの県に区分される。

(エ)特記
旧版では中国との経済関係を強める現状にかんがみ、中国と統合された連合領域圏を構想したが、モンゴルの民族的自立性の強さから、改めて別個の領域圏とした。

☆別の可能性
可能性は高くないものの、情勢次第では中国との統合の可能性もなくはない。他方、極東方面と結び、後述する極東ユーラシア領域圏に統合される可能性もなしとしない。

 
(2)チャイナ

(ア)成立経緯
主権国家・中華人民共和国と台湾(中華民国)の平和的統合によって成立する連合領域圏。ただし、チベットと新疆ウイグルの両自治区は分立し、汎西方アジア‐インド洋域圏に包摂されるチベット領域圏ウイグリスタン領域圏として分立する。

(イ)社会経済状況
経済的には、共産党主導で社会主義市場経済に基づく経済発展を遂げていた中国と、資本主義的経済発展を遂げていた台湾の経済力を統合的に引き継ぐ形で、持続可能的計画経済体制へ止揚される。生産力では汎東方アジア‐オセアニア域圏の主軸であり、世界共同体全域でも後述する北アメリカ領域圏に匹敵するか、もしくは上回る。

(ウ)政治制度
旧中国の広域行政区分「省」(新規加入の台湾を含む)及び「省級」行政区分すべてが高度な自治権を有する準領域圏となり、連合領域圏として再編される。連合民衆会議は各準領域圏から人口比に応じて配分される定数抽選された代議員によって構成される。なお、長く支配政党であった中国共産党は民衆会議体制への移行に伴って中央組織は解散、地域的な民間政治団体として存続する。

(エ)特記
中国における世界共同体‐共産主義革命は、「共産党に対抗する共産主義革命」の代表例として実現される。結果、共産党は役割を終えて解散したうえ、近代史を通じて長く分断と対立・緊張関係にあった台湾との平和的再統合が実現する。 反面で、異民族支配の地となっていたチベット、ウイグルは分立し、本来の地政学的位置である西方アジアへ包摂される。

☆別の可能性
中台の分断が永続化し、台湾の独自性が強まれば、台湾との統合は成立せず、台湾がそのまま独自の領域圏として分立する可能性もある。一方、上述のように、モンゴルが統合され、チャイナ・モンゴル領域圏として再編される可能性もなくはない。ただし、中国共産党の支配力が強力なため、共産党支配体制が遷延し、世界共同体に包摂されない可能性もある。

コメント

弁証法の再生(連載第1回)

2024-01-09 | 〆弁証法の再生

序説

  
 現代世界の大きな特徴として、「哲学の貧困」ということが挙げられる。20世紀までは各々の時代を代表するような指導的な哲学者が存在し、良くも悪くも人々に知的な刺激を与えていたものだが、今や、哲学者という職業カテゴリー自体が絶滅しつつあるように見える。
 代わって、実用的な“ハウツー”思考を売り物にする文化人や経営者といった人々が、かつての哲学者の代用を果たしているようである。もっとも、世界の総合大学には哲学部/哲学科がなお存在しているが、そこに所属する人々の多くは主として過去の哲学文献を学術的に研究する学者—哲学研究者—であって、自称はともかく、他称としてはもはや「哲学者」とは呼び難い人々である。
 とはいえ、現代世界も哲学を完全に失ったというわけではない。むしろ、現代世界では、三つの主要な哲学が隆盛しているとも言える。すなわち、現実主義・実証主義・功利主義である。これら各々が、(古典派)経済学・自然科学・倫理学(政治学)という主要な学術と結ばれて、知の世界を支配している。
 哲学的な順番としては、最も基礎部分の根本哲学(倫理学)として功利主義があり、その上に思考手段としての実証主義があり、さらに表層部分を世界観としての現実主義が覆うというような関係構造になるであろう。
 いずれにせよ、現代人は程度の差はあれ、また意識的か無意識的かの差はあれ、これら三つの哲学によってその思考を支配されている。実はこれら三つの哲学はそれ自体哲学でありながらも、脱哲学的な思考に人を導いていくため、現代人の思考から哲学が消滅しようとしているとも言える。
 一方、上記三哲学に最も欠けているのは、弁証法的思考である。弁証法は古代ギリシャ哲学に端を発しつつ、西洋哲学の中で様々に加工・熟成され、最終的にはヘーゲル弁証法をもって一つの完成を見たが、その後、マルクスによる脱構築的な再解釈によってマルクス哲学の核心に据えられた。
 ところが、それはマルクス自身が拒否した「マルクス主義」によって形式化・教条化され、ソ連共産党に代表される共産党支配体制のイデオロギーに利用されたことから、弁証法もこれら支配体制の思想統制の道具とみなされ、ソ連解体以降の世界では思想上の有罪宣告を受け、すっかり周縁に追いやられてしまった。
 しかし、本来の弁証法は決してそのような政治的教条ではない。弁証法はあれかこれかという二項対立的な素朴思考を脱却し、対立するものを総合して新しいものを創造するための思考手段であって、目的ではない。その点を誤って、弁証法が自己目的化すれば、共産党支配体制下でのイデオロギーのようなものに化けてしまうだろう。
 他方、弁証法を政治的イデオロギーと決め付けて廃棄するならば、哲学の貧困から脱却することはできず、とりわけ現実主義の表層的世界観に支配されて、社会の革新・変革が阻害されることになるだろう。それは、人類社会の閉塞と衰亡を促進する。
 そこで、この小連載では弁証法を歴史的に検証しつつ、歴史の過程で弁証法にまとわりついたあらゆる不純物を除去し、その本来の姿を取り戻させ、新たな時代に応じてこれを再生することを試みる。同時に、これは筆者の『共産論』の根底にある思考を抽出する試みでもある。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第9回)

2024-01-04 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

一 汎西方アジア‐インド洋域圏

(15)トルコ

(ア)成立経緯
主権国家トルコを基本的に継承する領域圏。ただし、ギリシャとの協定に基づきキプロス島北部を占めるトルコ系北キプロスが準領域圏として編入されるとともに、世界共同体の飛び地禁止原則によりトルコに接するアゼルバイジャンの飛び地であるナヒチェヴァンも準領域圏として編入されるため、複合領域圏となる。一方で、南東部のクルド人居住地域は多民族クルディスタン領域圏の一部として分立する。

(イ)社会経済状況
工業分野では、汎西方アジア‐インド洋圏の主軸となる。東部に残存していた半封建的な大地主制度は革命後の土地の無主物化によって解体され、環境的持続可能性に配慮された計画農業が発展する。南東部のクルド独立運動が長年社会経済の発展をも阻害する未解決課題であったが、世界共同体の創設を機に、隣接するイラクやイランをまたぐ形での多民族クルディスタン領域圏の創設という形で解決され、社会を分断する民族紛争に終止符が打たれる。

(ウ)政治制度
新規に編入される北キプロスとナヒチェヴァンは高度な自治権を有する準領域圏となる。トルコ領域圏としては、欧州大陸部にも領域がまたがっていることから、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏の招聘領域圏としてオブザーバーを送る。

(エ)特記
旧版ではアジア大陸とヨーロッパ大陸にまたがるトルコの地政学的位置関係や、トルコが長く欧州連合加盟を希望していたことなどから、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏に含めたが、その後、トルコはイスラーム圏への帰属意識を強めていることにかんがみ、汎西方アジア‐インド洋圏に組み替えることとした。

☆別の可能性
特記にも記したように、未来の情勢によっては、トルコが汎ヨーロッパ‐シベリア域圏に包摂される可能性もある。また、可能性は高くないが、南北キプロスが統合され、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏に包摂される可能性もなくはない。

 

(16)アゼルバイジャン

(ア)成立経緯
主権国家アゼルバイジャンを継承する統合領域圏。ただし、飛び地の自治共和国ナヒチェヴァンはトルコ領域圏に編入される。

(イ)社会経済状況
旧ソ連からの独立後は石油が経済基盤であったが、世界共同体のもとでは石油その他の天然資源は世界共同体の共同管理下に移行する。工業分野は軍需重視からの脱却が目指される。旧ソ連時代以来の相互関係から、中央アジア合同領域圏及び南コーカサス合同領域圏(後述)と経済協力協定を締結し、共通経済圏を形成する。

(ウ)政治制度
統合領域圏であるが、2023年にアルメニア系分離国家を武力で排除し編入したナゴルノ‐カラバフは特別州として民衆会議にアルメニア系住民の代表枠が設けられる。

(エ)特記
旧版ではアゼルバイジャンを近隣のアルメニア及びジョージアとともに汎ヨーロッパ‐シベリア域圏に包摂される南コーカサス合同領域圏に含めたが、その後、上述ナゴルノ‐カラバフをめぐるアルメニアとの対立やキリスト教が優勢なアルメニア、ジョージアとは対照的に、イスラーム教が優勢な宗教事情にかんがみ、汎西方アジア‐インド洋圏に組み替えることとした。

☆別の可能性
アゼルバイジャンとアルメニアの和解が進展すれば、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏に所属替えしたうえ、南コーカサス合同領域圏に参加する可能性もなくはない。

 

(17)中央アジア合同

(ア)成立経緯
旧ソ連から独立した旧5か国を継承する5つの領域圏に、中国領新疆ウイグル自治区から独立するウイグリスタンが加わって成立する合同領域圏

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の6圏である。いずれも統合領域圏である。

○トルクメニスタン
主権国家トルクメニスタンを継承する領域圏。

○カザフスタン
主権国家カザフスタンを継承する領域圏。ロシアの租借地だったバイコヌール宇宙基地は租借を解消したうえ、カザフスタンとロシア、世界共同体の三者共同運営に移行する。

○ウズベキスタン
主権国家ウズベキスタンを継承する領域圏。

○タジキスタン
主権国家タジキスタンを継承する領域圏。

○キルギスタン
主権国家キルギスを継承する領域圏。

○ウイグリスタン
旧新疆ウイグル自治区が分立する領域圏。公用語はウイグル語と中国語を併用。

(ウ)社会経済状況
新規のウイグリスタンを除けば、旧ソ連時代からの結束性を生かし、合同共通の社会経済計画を策定し、緊密な連携のもとに持続可能的な計画経済を実行する。とりわけ、この地域の環境破壊の主因であった灌漑農業の持続可能的計画化は環境回復を促進する。

(エ)政治制度
合同領域圏は各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、カザフスタンのアルマトイに置かれる。合同公用語はエスペラント語を第一言語とするが、旧ソ連圏で通用するロシア語も併用。

(オ)特記
中国領時代は独立運動が厳しく抑圧されていたウイグリスタンは、旧新疆ウイグル自治区は世界共同体の創設に伴い、平和的に分立が実現する。

☆別の可能性
新疆ウイグル自治区での民族同化が高度に進展すれば、中国(チャイナ領域圏)に残留する可能性もある。

コメント

年頭雑感2024

2024-01-01 | 年頭雑感

昨年最大の世界的な出来事は、中東ガザ戦争の勃発であることに異論はあるまい。同時に、これは今年も持ち越されて最大級の出来事になるだろう。対戦当事者はどちらも和平に向かう意思がなく、どちらかが滅亡するまで総力戦を続ける所存のようだからである。

この間、イスラエルは優位に立っているように見えるが、実際のところ、迷路のような地下通路が張り巡らされたハマースの地下要塞を攻めあぐねており、地上を壊滅させることで相手をあぶり出す作戦を取っているように見える。結果として、地上で大量犠牲者が出ているばかりか、救出すべきイスラエル人の人質にまで被害が及んでいる。

イスラエルがリスクの高い地下要塞攻めをためらい、地上壊滅作戦を継続すれば、意図しているとは言えなくとも、結果的にガザは更地となり、住民も排除されてジェノサイドに等しい事態となるが、第二次冷戦下にある分断された国際社会には、それを阻止するだけの力量はないだろう。

その第二次冷戦の契機となった一昨年来のウクライナ戦争も、解決の糸口は見えない。西側はウクライナ支持を口にしつつ、ウクライナに資金と兵器を供与して代理戦争を続けてきたが、ウクライナ軍単独でロシアを撃破することには無理があり、このままではウクライナでの戦争被害は拡大するばかりである。だが、西側首脳たちには、あえてロシアに宣戦布告して「欧州大戦」に発展させるような蛮勇はなさそうである。

一方、昨年の地球規模での最大事象と言えば、観測史上最も暑い夏、最も暑い日、最も暑い年というワースト「三冠」記録を達成する見込みとなったことである。その大きな要因として、昨年から続くパンデミック後のリバウンド過熱経済が拡大し、生産活動が極大化したことが想定される。化石燃料からの世界炭素排出量も過去最高を記録したことはそれを裏書きする。
 
その結果、地球環境の損傷にいっそうの拍車がかかった。地球環境の損傷は根治的に対処しなければ確実に進行して死に至る慢性疾患であるから、昨年は病気の進行度がさらに上がった年と言えるだろう。

しかし、世界の主流は依然として資本主義に固執し、それ以外のシステムを思考することすらしないから、地球の病気の進行を止める根治的な対策を打つ機運も生じない。昨年のCOP28での「エネルギーシステムにおける化石燃料からの漸次脱却」合意を含め、病気の進行を遅らせる対処を策しているに過ぎないから―その実効性すら怪しいが―、最終的な地球の死を防ぐことはできない。

外部環境的には資本主義はすでに終末期にあると言えるが、資本主義は強力な生命維持装置を装着したシステムであるから、本人や家族の同意なく生命維持装置の撤去はされないように、世界の大半の人々の同意なくして資本主義の生命維持装置も撤去されない。資本主義システムは今年もよろしく生き続けるだろう。

コメント