〈自由権〉
【第97条】
1.何人も、正当な理由に基づき、かつ事前または事後の公正な司法過程を経ない限り、生命及び身体の自由を侵されることはない。拷問は、いかなる状況においても、絶対に禁じられる。
2.何人も、この憲章に特別の定めがない限り、世界共同体域内においては、死刑またはその他の生命を剥奪する処分を宣告されることはない。
3.奴隷制または奴隷的慣習は、当事者の同意の有無を問わず、絶対に禁じられる。
4.人体実験は、当事者の同意の有無を問わず、絶対に禁じられる。ただし、厳格なプロトコルに基づく医学的に先端的な臨床試験は、本項の人体実験に該当しない。
[注釈]
第2項における特別の定めとして、反人道犯罪の主唱者等に科せられる致死的処分がある(第96条第1項第1号)。
【第98条】
1.何人も、自己の私事、家族、家庭もしくは通信に対して、みだりに干渉され、または名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉または攻撃に対して平等に法の保護を受ける権利を有する。
2.何人も、正当な理由に基づき、かつ事前または事後の公正な司法過程を経ない限り、その住居、書類及び所持品または通信について、侵入、捜索及び押収、開封、盗聴、秘密裏の監視を受けることはない。
3.何人も、自己または家族に関する個人情報(通信記録を含む)を保有している第三者に対し、その全面的な開示を求める権利を有する。
[注釈]
プライバシー権及び名誉権の規定である。第1項は世界人権宣言第12条をほぼそのまま転用している。第3項は個人情報開示請求権に関する新規の条項である。
【第99条】
1.世界共同体構成領域圏及び直轄自治圏の住民は、世界共同体域内において自由に移転及び居住する自由を有する。ただし、いずれかの構成領域圏もしくは直轄自治圏で犯則行為を犯し、手配中の者または法令で禁じられた物品を所持している者については、この限りでない。
2.世界共同体構成領域圏及び直轄自治圏の住民は、その意に反して、現に居住する領域圏もしくは直轄自治圏から追放され、または帰住を拒否されることはない。前項但し書きの規定は、本項にも準用する。
3.すべて人は、現に居住する地における迫害、戦乱または飢餓もしくはその他の非人道的な危難を逃れるため、世界共同体域内の任意の地に避難することができる。この場合、避難者は世界共同体の適切な機関を通じて、直ちに必要な人道的保護を受ける権利を有する。
[注釈]
世界共同体は国境という概念を持たないから、世界共同体の構成領域圏及び直轄自治圏の住民である限り、原則として世界共同体域内の移転・居住は自由であり、例外は指名手配犯及び法禁物所持者の場合だけである。
同様に、避難の権利も広く認められる。もっとも、移転・居住の自由が世界共同体の構成領域圏及び直轄自治圏の住民に固有の権利であるのに対し、避難権は、世界共同体域外の住民にも保障される点に違いがある(第3項)。
【第100条】
1.成年者は、いかなる制限をも受けることなく、当事者間の自由かつ完全な合意にのみ基づき、他人と共同の生計を営み、家庭を形成する自由を有する。共同の生計を営む者は、その継続及び解消に関し、互いに平等の権利を有する。
2.世界共同体域内において、18歳未満の幼年婚または幼年婚に準じる制度もしくは慣習は、当事者間の合意の有無を問わず、禁止される。
3.婚姻中または婚姻に準じた関係にある未成年者は、教育を受ける権利を奪われない。
[注釈]
本条で言う「共同の生計」は、伝統的な異性間の婚姻に限らず、民事婚、公証パートナシップなどの新しい準婚的制度もすべて包括する用語である。伝統的な婚姻の制度または慣習が本条に反する限りにおいては、本条は「婚姻制度からの自由」を保障した規定ということになる。
なお、世界共同体は法定婚姻年齢に関して統一的基準を設けないが、人生設計の自由を阻む16歳未満の幼年婚またはそれに準ずる制度慣習は全域で禁止する。また、合法的に婚姻中または婚姻に準じた関係にある未成年者が教育を受ける権利も確保される。
【第101条】
1.住宅その他衣食住に必要または有用な財産は、個人の所有に属する。
2.動物を所有する者は、飼育者としての責任において、飼育下の動物を愛護し、かつその動物の特性に応じて安全に監護する義務を有する。
[注釈]
次条の土地に対して、日常的な「小さな財産」に関する規定である。愛玩動物や家畜もその中に含まれるが、動物の所有者には第2項で愛護及び監護義務が課せられる。
【第102条】
1.地球上の土地は、何人の所有にも属さない自然物である。
2.世界共同体構成領域圏は、その領内の全土地に対する包括的な管理権を有する。直轄自治圏内の土地の管理権は、世界共同体が保持したうえ、これを直轄自治圏に包括的に委任する。
3.個人または公私の法人は、前項の管理権が許す範囲内で、土地を利用し、または譲渡し、もしくは貸与する権利を有する。
[注釈]
地球上ですべての人間及び動植物の共同的な生活圏となる土地は無主物とされるが、その包括的管理権は、世界共同体構成領域圏または世界共同体から委任された直轄自治圏に属する前提で、個人や公私の法人が土地の利用等の権利を有するという二段構制である。
【第103条】
世界共同体域内の住民は、経済計画の適用を受けない経済領域において、その居住する領域圏または直轄自治圏の法令に従い、私的な事業を営む権利を有する。
[注釈]
経済計画が適用される環境負荷的産業分野は社会的共有に属する公企業で占められるが、その余の経済分野では私的な事業活動の自由が保障される。とはいえ、世界共同体域内では貨幣経済が廃されるため、私的事業の大半は非営利の公益事業となるだろうが、物々交換型の私的営業活動も本条によって保障される。
【第104条】
1.すべて人は、思想、良心及び信仰の自由に対する権利を有する。この権利は、信仰または信念を変更する自由及び単独でまたは他の者と共同して信仰または信念を実践する自由並びに特定の信仰または信念を強制されない自由を含む。
2.すべて人は、その手段または名義を問わず、表現の自由に対する権利を有する。この権利は、懲罰や干渉、脅迫を受けることなく自己の意見を表明し、あらゆる可能な手段により、広く世界に情報及び思想を求め、受け、及びこれを伝える自由、並びに集会及び結社の自由を含む。
3.本条の権利及び自由は、この憲章が保障する他人の権利及び自由を明らかに侵害し、または侵害する明白かつ現在的な危険が認められる場合において、十分な反論の機会が保障された公正な司法過程を経ることによってのみ、制限され得る。
[注釈]
第一項は聖俗問わず、広い意味での思想信条の自由に関する包括的な規定、第二項は表現の自由とその制限に関する包括的な規定である。本条の自由の制限に際して司法過程を経ることを義務付ける第二項の規定により、行政的な検閲や行政許可制は禁じられることになる。
【第105条】
1.すべて人は、学術的及び芸術的活動の自由に対する権利を有する。この権利は、この憲章が保障する他人の権利及び自由を明らかに侵害する場合または学術的もしくは芸術的にあまねく承認された倫理に反する場合にのみ制限され得る。
2.すべて人は、自由に芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵にあずかる権利を有する。学術的研究及び芸術的作品は万民が享受すべき人類共有の資産及び遺産であり、何人も科学的研究、芸術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を独占することはできない。
[注釈]
学術及び芸術活動の自由に関する規定である。第二項は、科学的研究や芸術的作品に対する知的財産権という壁を超克する革新的な規定である。もっとも、盗作・盗用を自由に認める趣旨ではなく、盗作・盗用は第一項の学術的または芸術的にあまねく承認された倫理に反する場合の一つとして、何らかの制限が加えられることになろう。