昨年1994年は内外ともに大事変はなく、比較的地味な年度ながら、世界でも日本でも、冷戦の後始末と言えるような印象的な出来事がいくつか見られた。
中でも冷戦期の西側による旧ソ連を中心とする対共産圏への輸出統制を担っていた多国間輸出統制調整委員会(COCOM)の解散は、東西冷戦の終結を印象付けた。
これとセットになるのは、自由貿易の国際指令部となる世界貿易機関(WTO)の創設を定めたマラケシュ合意である。これにより、旧共産圏を包摂する自由貿易体制が本年以降動き出すことになる。
また、ロシア軍の旧東ドイツやバルト諸国からの撤退は、旧ソ連の覇権が終了したことを印象付ける出来事であった。ロシアと中国が互いを核兵器の照準から除外することに合意したのも、冷戦時代の東側の分裂要因であった旧ソ連と中国の対立関係の終了を画した。
アフリカでは冷戦時代、白人至上の人種差別政策を半世紀近く維持し、ボイコットで国際的に孤立しながらも西側反共陣営の一角を占めていた南アフリカで全人種参加選挙が実施され、反アパルトヘイト運動の象徴で、1990年に27年間の投獄から解放されたネルソン・マンデラが同国初の黒人大統領に就任したことも、特筆される。
他方、旧ソ連の援助を失った朝鮮は自立的な防衛策として核開発に走り、朝鮮半島危機が生じたことは冷戦終結のマイナス事象であったが、危機の中、建国以来の最高指導者であった金日成主席が急死したことで、朝鮮も新たな時代に入った。
さて、我が足元では、一昨年に成立した非自民党による連立政権が早くも崩壊し、各々55年体制下の与野党第一党として長年の宿敵関係だったはずの自民党と社会党が社会党の村山富市委員長を首相に立てて連立するという奇策で、自民党が政権復帰した。
議席数では自民党が圧倒的に多いので、頭は社会党、胴体は自民党というスフィンクスのような異例の政権である。政治門外漢にとってはこりゃ一体何なのかという怪物的政権であるが、考えてみると、これも冷戦が終結し、旧ソ連に支持されていた社会党の存在意義が薄れ、自社の区別も相対化したのだと思えば、これも冷戦終結の後始末なのかもしれない。
しかし、総選挙によらないこのような唐突な連立は民意に沿っているとはいえず、特に社会党に投票した有権者にとっては裏切りに等しい。政治不信を高める自社両党の権力的術策ではないか。その代償は自民党より社会党にとって高くつくだろう。