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中国憲法評解(連載最終回)

2015-05-01 | 〆中国憲法評解

第四章 国旗、国歌、国章、首都

 最終章の第四章は、表題のとおり、国旗・国歌等の国家儀礼に関わる規定の集成である。こうした集成規定が置かれるのも、旧ソ連憲法と同様である。なお、国旗や国章にあしらわれる五星とは、共産党の指導を象徴する大星に、各々労働者、農民、小資産階級、愛国的資本家を象徴する四個の小星が伴われるという政治理念を表現しているという。
 ただし、これは建国時の階級横断的な連合独裁論に沿っており、その後のプロレタリアート独裁の理念とはややずれているが、社会主義市場経済の進展により、共産党支配下で新たに「社会主義有産階級・資本家階級」が誕生してきていることからすると、再びリアリティーを持ちつつあるのかもしれない。
 ちなみに、中国憲法では日本国憲法をはじめ諸国の憲法にしばしば見られる憲法改正に特化した章は置かれておらず、改正手続条項は、第三章第一節に挿入されている。

第一三六条

1 中華人民共和国の国旗は、五星紅旗である。

2 中華人民共和国の国歌は、義勇軍行進曲である。

第一三七条

中華人民共和国の国章は、その中央が五星に照り映える天安門で、周囲は穀物の穂と歯車である。

第一三八条

中華人民共和国の首都は北京である。


※初回でもお断りしたように、本連載の条文訳は個人運営の中国情報サイト『恋する中国』に掲載されている訳を意味内容が変化しない限度で一部変更のうえ、引用させていただいたものである。この点、筆者が調べた限り、国会図書館を含めた日本の公的機関による公式的な中国憲法訳は出されていないようである。重要な近隣諸国の憲法を知ることはその国の理解の窓口となることからしても、これは一つの公的な懈怠と言うべきである。

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中国憲法評解(連載第17回)

2015-04-30 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

第七節 人民法院及び人民検察院 

第一二三条

人民法院は、国家の裁判機関である。

第一二四条

1 中華人民共和国に、最高人民法院及び地方各級人民法院並びに軍事法院その他の専門人民法院を置く。

2 最高人民法院院長の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とし、二期を超えて連続して就任することはできない。

3 人民法院の組織は、法律でこれを定める。

 中国の裁判制度も最上級審である最高人民法院を頂点としたヒエラルキーを採る点では諸国の制度と大差ないが、最高裁長官に相当する最高人民法院院長は全人代で選出され、任期も全人代の任期と符合するのは、建前上は全人代が司法を含む全国家権力の源泉となる人民代表機関とされるためである。

第一二五条

人民法院における事件の審理は、法律の定める特別の場合を除いて、全て公開で行う。被告人は、弁護を受ける権利を有する。

 本条は裁判公開原則であるが、非公開の例外がすべて立法政策に委ねられているのは穏当でない。

第一二六条

人民法院は、法律の定めるところにより、独立して裁判権を行使し、行政機関、社会団体及び個人による干渉を受けない。

 本条は司法の独立に関する規定であるが、個々の裁判官の独立性は保障されておらず、裁判機関の独立性にとどまる。しかもそれは第一二八条で民主集中制により制約されるほか、共産党支配体制によっても事実上制約され、党からの独立性は保障されない。これは旧ソ連をはじめ、一党支配制に共通する司法制度の特徴―欠陥―である。

第一二七条

1 最高人民法院は、最高の裁判機関である。

2 最高人民法院は、地方各級人民法院及び専門人民法院の裁判活動を監督し、また、上級人民法院は、下級人民法院の裁判活動を監督する。

 最上級審の最高人民法院は下位の法院を監督し、下位の法院内部では上級が下級を監督するというように、集権的な運営が想定されている。「監督」とは第一三二条に定める検察院内部の「指導」より緩やかなチェックと思われるが、上級裁判機関ひいては党の裁判干渉の余地を残している。

第一二八条

最高人民法院は、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負う。地方各級人民法院は、それを組織した国家権力機関に対して責任を負う。

 裁判機関も民主集中原則に基づくため、自己を選出した代表機関に対して責任を負う。この点で、司法の独立性は制約されるが、見方を変えれば、司法制度の民主的基盤を一定担保しているとも言える。

第一二九条

人民検察院は、国家の法律監督機関である。

第一三〇条

1 中華人民共和国に、最高人民検察院及び地方各級人民検察院並びに軍事検察院その他の専門人民検察院を置く。

2 最高人民検察院検察長の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とし、二期を超えて連続して就任することはできない。

3 人民検察院の組織は、法律でこれを定める。

 検察制度の具体的な規定を憲法上に置くのは、旧ソ連憲法の影響と思われる。検察制度が単なる訴追機関にとどまらず、国家の法律監督機関という性格を与えられているのも、旧ソ連憲法と同様である。その具体的な制度構成は、裁判機関に準じる。

第一三一条

人民検察院は、法律の定めるところにより、独立して検察権を行使し、行政機関、社会団体及び個人による干渉を受けない。

 検察機関も裁判機関に準じた独立性が保障されるが、これにも裁判機関と同様の制約がかかる。

第一三二条

1 最高人民検察院は、最高の検察機関である。

2 最高人民検察院は、地方各級人民検察院及び専門人民検察院の活動を指導し、また、上級人民検察院は、下級人民検察院の活動を指導する。

第一三三条

最高人民検察院は、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負う。地方各級人民検察院は、それを組織した国家権力機関及び上級人民検察院に対して責任を負う。

第一三四条

1 いずれの民族公民も、全て自民族の言語・文字を用いて訴訟を行う権利を有する。人民法院及び人民検察院は、現地で通用する言語・文字に通じない訴訟関係人に対し、翻訳しなければならない。

2 少数民族が集居し、又はいくつかの民族が共同居住する地区においては、現地で通用する言語を用いて審理を行い、また、起訴状、判決書、布告その他の文書は、実際の必要に応じて、現地で通用する一種又は数種の文字を使用する。

 本条は、多民族国家における多言語主義を司法手続きにも及ぼす規定である。これも、旧ソ連憲法に類似の規定が存在した。

第一三五条

人民法院、人民検察院及び公安機関は、刑事事件を処理するに当たって、責任を分担し、相互に協力し、互いに制約しあって、法律の的確で効果的な執行を保障しなければならない。

 裁判‐検察‐警察の三大法執行機関の責任分担、相互協力、相互牽制に関する規定である。法治国家を支える規定と言えるが、公正さよりも法確証に比重を置く形式的法治国家の理念に基づいている。

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中国憲法評解(連載第16回)

2015-04-17 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

第六節 民族自治地域の自治機関

第一一二条

民族自治地域における自治機関は、自治区、自治州及び自治県の人民代表大会及び人民政府である

 本節は、少数民族の自治制度を規定している。これも前節が規定する地方制度の一種ではあるが、少数民族自治を保障する建前から、別途規定されている。その基本構制はやはり人民代表大会と人民政府の組み合わせにより、その職権も一般的な地人代・人民政府のそれに準じるが、いくつかの点で、民族自治地域に固有の自治権が認められている(第一一五条)。
 少数民族問題は、チベット、ウイグル問題に象徴されるように、中国統治のアキレス腱であり、安定のためには民族自治の強化が重要な課題となるだろう。

第一一三条

1 自治区、自治州及び自治県の人民代表大会においては、区域自治を実施する民族の代表のほか、その行政区域内に居住するその他の民族も、適当な数の代表を持つべきである。

2 自治区、自治州及び自治県の人民代表大会常務委員会においては、区域自治を実施する民族の公民が主任又は副主任を担当すべきである。

 自治機関の長に少数民族公民を充てることを求める本条第二項と次条は、人事面から民族自治を担保しようとするものだが、実際上は自治区域ごとに置かれた共産党の地方組織が優位にあり、その長には漢族が充てられることが多いため、民族自治の人事的保障は多くの場合、形骸化していると見られる。

第一一四条

自治区主席、自治州州長及び自治県県長は、区域自治を実施する民族の公民がこれを担当する。

第一一五条

自治区、自治州及び自治県の自治機関は、この憲法第三章第五節の定める地方国家機関の職権を行使するとともに、この憲法、民族区域自治法その他の法律の定める権限に基づいて自治権を行使し、その地域の実際の状況に即して国家の法律及び政策を貫徹する。

第一一六条

民族自治地域の人民代表大会は、その地域の民族の自治、経済及び文化の特徴にあわせて、自治条例及び単行条例を制定する権限を有する。自治区の自治条例及び単行条例は、全国人民代表大会常務委員会に報告して、その承認を得た後に効力を生ずる。自治州及び自治県の自治条例及び単行条例は、省又は自治区の人民代表大会常務委員会に報告して、その承認を得た後に効力を生じ、かつ、これを全国人民代表大会常務委員会に報告して記録にとどめる。

 一般の地方制度との相違として、本条では民族自治地域の憲法に相当する自治条例の制定権が認められている。

第一一七条

民族自治地域の自治機関は、地域財政を管理する自治権を有する。およそ国家の財政制度によって民族自治地域に属するものとされた財政収入は、すべて民族自治地域の自治機関が自主的に調整して、これを使用する。

 本条及び次条は、民族自治の具体化として、財政自治権と一定の経済自主権が特に規定している。

第一一八条

1 民族自治地域の自治機関は、国家計画を指針として、地域的な経済建設事業を自主的に調整し、管理する。

2 国家は、民族自治地域で資源の開発及び企業の建設を行う場合は、民族自治地域の利益に配慮を加える。

第一一九条

民族自治地域の自治機関は、それぞれの地域の教育、科学、文化、医療衛生及び体育の各事業を自主的に管理し、民族的文化遺産を保護し、及び整理し、並びに民族文化を発展させ、及び繁栄させる。

 本条は、教育・文化政策における自主権を規定している。少数民族固有の文化を保護する趣旨である。

第一二〇条

民族自治地域の自治機関は、国家の軍事制度及び現地の実際の必要に基づき、国務院の承認を得て、その地域の社会治安を維持する公安部隊を組織することができる。

 本条は言わば警察自主権の規定であるが、独自公安部隊の組織化には国務院の承認という縛りがある。

第一二一条

民族自治地域の自治機関が職務を執行する場合には、その民族自治地域の自治条例の定めるところにより、現地で通用する一種又は数種の言語・文字を使用する。

 本条は、少数民族言語を区域公用語として使用する言語自主権の規定である。これにより、民族言語の使用を封じる言語抹殺政策は禁じられることになる。

第一二二条

1 国家は、財政、物資、技術その他の各面から少数民族に援助を与えて、その経済建設及び文化建設の事業を速やかに発展させる。

2 国家は、民族自治地域に援助を与えて、現地民族の中から各級幹部、各種専門分野の人材及び技術労働者を大量に育成する。

 本条で明かされるように、民族自治も究極のところで国家の援助に依存しているため、自立的発展には限界が設定されている。裏読みすれば、本条は「援助」を通じた民族独立の阻止条項とも言えるだろう。

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中国憲法評解(連載第15回)

2015-04-16 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

第五節 地方各級人民代表大会及び地方各級人民政府

第九五条

1 省、直轄市、県、市、市管轄区、郷及び鎮に、人民代表大会及び人民政府を置く。

2 地方各級人民代表大会及び地方各級人民政府の組織は、法律でこれを定める。

3 自治区、自治州及び自治県に、自治機関を置く。自治機関の組織及び活動は、この憲法第三章第五節及び第六節の定める基本原則に基づき、法律でこれを定める。

 本節は、地方制度に関する細目を規定している。中国の地方制度は完全な地方自治制ではなく、中央集権を前提とした相対的分権制である。さらに憲法には直接規定されないが、地方には各級ごとに共産党地方組織が置かれており、一党支配体制が地方的にも貫徹されている。ただ、中国の広大な領土と巨大人口を集権的に統治することには無理があり、今後は地方自治制への漸次移行が課題となるだろう。
 人民代表大会と人民政府という組み合わせは、中央の全人代と国務院の組み合わせの縮小形である。これもソヴィエト制に沿革を持つが、現在では諸国の地方議会・地方政庁に近いものになっている。なお、本条第三項にいう自治機関の詳細は次の第六節に定められている。

第九六条

1 地方各級人民代表大会は、地方の国家権力機関である。

2 県級以上の地方各級人民代表大会に、常務委員会を置く。

 本条から第一〇四条までは、地方人民代表大会(地人代)の選挙方法や任期、権限等に関する規定である。民主集中制に基づくその基本構制は全人代にほぼ準じているが、幹部会に相当する常務委員会は県級以上の地人代にのみ置かれる。

第九七条

1 省、直轄市及び区を設けている市の人民代表大会代表は、一級下の人民代表大会がこれを選挙する。県、区を設けていない市、市管轄区、郷、民族郷及び鎮の人民代表大会代表は、選挙民が直接に、これを選挙する。

2 地方各級人民代表大会代表の定数及びその選出方法は、法律でこれを定める。

 県級以下の地人代の代表(代議員)に関しては、選挙民による直接選挙が保障されているが、一党支配の下では出来レースである。

第九八条

地方各級の人民代表大会の毎期の任期は五年とする。

第九九条

1 地方各級人民代表大会は、その行政区域内において、この憲法、法律及び行政法規の遵守及び執行を保障し、法律の定める権限に基づいて、決議を採択・発布し、地方の経済建設、文化建設及び公共事業建設についての計画を審査し、決定する。

2 県級以上の地方各級人民代表大会は、その行政区域内における国民経済・社会発展計画及び予算並びにそれらの執行状況についての報告を審査承認し、同級の人民代表大会常務委員会の不適当な決定を改め、又はこれを取り消す権限を有する。

3 民族郷の人民代表大会は、法律の定める権限に基づいて、民族の特徴にかなった具体的措置をとることができる。

第一〇〇条

省及び直轄市の人民代表大会並びにその常務委員会は、この憲法、法律及び行政法規に抵触しないことを前提として、地方的法規を制定することができる。地方的法規は、これを全国人民代表大会常務委員会に報告して記録にとどめなければならない。

第一〇一条

1 地方各級人民代表大会は、それぞれ同級の人民政府の省長及び副省長、市長及び副市長、県長及び副県長、区長及び副区長、郷長及び副郷長並びに鎮長及び副鎮長を選挙し、かつ、これを罷免する権限を有する。

2 県級以上の地方各級人民代表大会は、同級の人民法院院長及び人民検察院検察長を選挙し、かつ、これを罷免する権限を有する。人民検察院検察長の選出又は罷免は、上級人民検察院検察長に報告して、その級の人民代表大会常務委員会の承認を求めなければならない。

第一〇二条

1 省、直轄市及び区を設けている市の人民代表大会代表は、選挙母体の監督を受ける。省、区を設けていない市、市管轄区、郷、民族郷及び鎮の人民代表大会代表は、選挙民の監督を受ける。

2 地方各級人民代表大会代表の選挙母体及び選挙民は、法律の定める手続きに従って、その選出した代表を罷免する権限を有する。

第一〇三条

1 県級以上の地方各級人民代表大会常務委員会は、主任、副主任若干名及び委員若干名をもって構成し、同級の人民代表大会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。

2 県級以上の地方各級人民代表大会は、同級人民代表大会常務委員会の構成員を選挙し、かつ、これを罷免する権限を有する。

3 県級以上の地方各級人民代表大会常務委員会の構成員は、国家の行政機関、裁判機関及び検察機関の職務に従事してはならない。

第一〇四条

県級以上の地方各級人民代表大会常務委員会は、その行政区域の各分野の活動の重要事項を討議決定し、同級の人民政府、人民法院及び人民検察院の活動を監督し、同級の人民政府の不適当な決定及び命令を取り消し、一級下の人民代表大会の不適当な決議を取り消し、法律の定める権限に基づいて国家機関の職員の任免を決定し、また、同級の人民代表大会閉会中の期間においては、一級上の人民代表大会の個々の代表を罷免し、及びこれを補充選挙する。

第一〇五条

1 地方各級人民政府は、地方の各級国家権力機関の執行機関であり、地方の各級国家行政機関である。

2 地方各級人民政府は、省庁、市長、県庁、区長、郷長及び鎮長の各責任制を実施する。

 本条から第一一〇条までは、地方人民政府に関する規定である。その任務は要するに各級地方行政ということに尽きるが、特に県級以上の人民政府には比較的広範な権限が与えられている(第一〇七条第一項、第一〇八条)。ただし、全地方人民政府は、究極的に中央人民政府である国務院に服従する(第一一〇条第二項第二文)。

第一〇六条

地方各級人民政府の毎期の任期は、同級の人民代表大会の毎期の任期と同一とする。

第一〇七条

1 県級以上の地方各級人民政府は、法律の定める権限に基づいて、その行政区域内における経済、教育、科学、文化、衛生、体育及び都市・農村建設の各事業並びに財政、民政、公安、民族事務、司法行政、監察、計画出産その他の行政活動を管理し、決定及び命令を発布し、行政職員の任免、研修、考課及び賞罰を行う。

2 郷、民族郷及び鎮の人民政府は、同級の人民代表大会の決議並びに上級の国家行政機関の決定及び命令を執行し、その行政区域内における行政活動を管理する。

3 省及び直轄市の人民政府は、郷、民族郷及び鎮の設置並びにその行政区画を決定する。

第一〇八条

県級以上の地方各級人民政府は、所属各部門及び下級人民政府の活動を指導し、所属各部門及び下級人民政府の不適当な決定を改め、又はこれを取り消す権限を有する。

第一〇九条

県級以上の地方各級人民政府に、会計検査機関を置く。地方の各級会計検査機関は、法律の定めるところにより、独立して会計検査監督権を行使し、同級の人民政府及び一級上の会計検査機関に対して責任を負う。

第一一〇条

1 地方各級人民政府は、同級の人民代表大会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。県級以上の地方各級人民政府は、同級の人民代表大会閉会中の機関においては、同級の人民代表大会常務委員会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。

2 地方各級人民政府は、一級上の国家行政機関に対して責任を負い、活動を報告する。全国の地方各級人民政府は、いずれも国務院の統一的指導の下にある国家行政機関であり、全て国務院に服従する。

第一一一条

1 都市及び農村で住民の居住区ごとに設置される住民委員会又は村民委員会は、基層の大衆的自治組織である。住民委員会及び村民委員会の主任、副主任及び委員は、住民がこれを選挙する。住民委員会及び村民委員会と基層政策との相互関係は法律でこれを定める。

2 住民委員会及び村民委員会は、人民調停、治安保衛、公衆衛生その他の各委員会を置いて、その居住区における公共事務及び公益事業を処理し、民間の紛争を調停し、社会治安の維持に協力し、人民政府に大衆の意見及び要求を反映し、並びに建議を提出する。

 住民委員会及び村民委員会は、最末端に位置する地区の大衆的自治組織と位置づけられている。この組織は一定の行政・経済機能まで備えており、かつての人民公社の名残を思わせる要素も見られる。この組織が真に自治的に機能すれば民主化に寄与するが、一党支配制の現状では末端の住民統制組織として機能している面が強いと見られる。

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中国憲法評解(連載第14回)

2015-04-03 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

第三節 国務院 

第八五条

国務院、すなわち中央人民政府は、最高国家権力機関の執行機関であり、最高の国家行政機関である。

 国務院は中央政府であり、軍事を除く一般行政権を掌握する。ソ連大臣会議に相当する機関であるが、ソ連の制度に比べると、合議性が弱く、総理の指導性が強い。

第八六条

1 国務院は、次に掲げる者によって構成される。

 総理
 副総理 若干名
 国務委員 若干名
 各部部長
 各委員会主任
 会計検査長
 秘書長

2 国務院は、総理責任制を実施する。部及び委員会は、部長責任制及び主任責任制を実施する。

3 国務院の組織は、法律でこれを定める。

 国務院は総理(首相)を長とし、大臣及び大臣級役職者で構成される。会計検査長も大臣級とされるのが特徴的であるが、これにより、会計検査の独立性が失われる恐れもある。

第八七条

1 国務院の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とする。

2 総理、副総理及び国務委員は、二期を超えて連続就任することはできない。

 国務院は最高機関である全人代によって選出され、全人代から授権されて国務に当たる建前のため、全人代の任期と符合される。

第八八条

1 総理は、国務院の活動を指導する。副総理及び国務委員は、総理の活動を補佐する。

2 総理、副総理、国務委員及び秘書長をもって、国務院常務会議を構成する。

3 総理は、国務院常務会議及び国務院全体会議を招集し、及び主宰する。

 国務院総理(首相)の権限を定めている。総理の指導性が強いため、党内序列も高位に置かれる。国務院を構成するメンバーの数が多いため、会議の効率性を考慮して常務会議と全体会議に分かれている。

第八九条

国務院は、次の職権を行使する。

一 この憲法及び法律に基づいて、行政上の措置を定め、行政法規を制定し、並びに決定及び命令を発布すること。
二 全国人民代表大会又は全国人民代表大会常務委員会に議案を提出すること。
三 各部及び各委員会の任務及び職責を定め、各部及び各委員会の活動を統一的に指導し、かつ、各部及び各委員会に属しない全国的行政事務を指導すること。
四 全国の地方各級国家行政機関の活動を統一的に指導し、中央並びに省、自治区及び直轄市の国家行政機関の職権の具体的区分を定めること。
五 国民経済・社会発展計画及び国家予算を編成し、及び執行すること。
六 経済活動及び都市・農村建設を指導し、及び管理すること。
七 教育、科学、文化、衛生、体育及び計画出産の各活動を指導し、及び管理すること。
八 民政、公安、司法行政及び監察などの各活動を指導し、及び管理すること。
九 対外事務を管理し、外国と条約及び協定を締結すること。
一〇 国防建設事業を指導し、及び管理すること。
一一 民族事務を指導し、及び管理し、少数民族の平等の権利及び民族自治地域の自治権を保障すること。
一二 華僑の正当な権利及び利益を保護し、帰国華僑及び国内に居住する華僑の家族の適法な権利及び利益を保護すること。
一三 部及び委員会の発布した不適当な命令、指示及び規程を改め、又はこれを取り消すこと。
一四 地方各級国家行政機関の不適当な決定及び命令を改め、又はこれを取り消すこと。
一五 省、自治区及び直轄市の行政区画を承認し、また、自治州、県、自治県及び市の設置並びにその行政区画を承認すること。
一六 法律の定めるところにより、省、自治区、直轄市の範囲内の一部地区の緊急事態への突入を決定すること。
一七 行政機構の編成を審議決定し、法律の定めるところにより、行政職員の任免、研修、考課及び賞罰を行うこと。
一八 全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会の授けるその他の職権

 国務院の職務権限を列挙した規定である。軍事を除くあらゆる行政領域に及んでいる。

第九〇条

1 国務院の各部部長及び各委員会主任は、その部門の活動について責任を負い、かつ、部務会議又は委員会会議若しくは委務会議を招集し、及び主宰し、その部門の活動上の重要事項を討議に付して決定する。

2 各部及び各委員会は、法律並びに国務院の行政法規、決定及び命令に基づき、その部門の権限内で命令、指示及び規程を発布する。

 国務院の各部は中央省庁に相当する行政機関、委員会は合議制の専門行政機関である。それぞれの長は大臣として担当部門について責任を負う。

第九一条

1 国務院は、会計検査機関を設置して、国務院各部門及び地方各級政府の財政収支並びに国家の財政金融機構及び企業・事業組織の財務収支に対し、会計検査による監督を行う。

2 会計検査機関は、国務院総理の指導の下に、法律の定めるところにより、独立して会計検査監督権を行使し、他の行政機関、社会団体及び個人による干渉を受けない。

 会計検査機関が国務院総理の指導の下にある一方で、独立性を求められるのは矛盾的であり、会計検査の実効性にも関わるであろう。

第九二条

国務院は、全国人民代表大会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。また、全国人民代表大会閉会中の期間においては、全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。

 国務院は全人代で選出され、権限を授権されて活動する機関であるため、全人代に対し、責任と報告義務を負う。これも民主集中制の現われである。

第四節 中央軍事委員会 

第九三条

1 中央軍事委員会は、全国の武装力を指導する。

2 中央軍事委員会は、次に掲げる者によって構成される。

 主席
 副主席 若干名
 委員 若干名

3 中央軍事委員会は、主席責任制を実施する。

4 中央軍事委員会の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とする。

 中央軍事委員会は、言わば軍事限定の国務院のようなものである。第八九条第一〇号は国務院の職権として「国防建設事業を指導し、及び管理すること」を挙げているが、これは軍政事務を意味しており、統帥は中央軍事委の任務となる。政軍を分離する思想に基づいている。
 ただし、人民解放軍は共産党の党軍としての性格を維持しているため、実際上は共産党中央軍事委員会が最高統帥機関となり、国家中央軍事委とはメンバーが重複する非効率を生じている。
 中央軍事委主席は、最高統帥機関の長として、国家主席が兼任する慣例があるが、同時に党総書記・党中央軍事委主席をも兼任し、党・国家・軍の長を最高指導者が単独で兼職するのが近年の慣例であるため、個人への権力集中が強まる危険もある。

第九四条

中央軍事委員会主席は、全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負う。

 国務院における第九二条と同様、民主集中制に基づく責任規定であるが、報告義務は規定されていない。

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中国憲法評解(連載第13回)

2015-04-02 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

第二節 中華人民共和国主席 

第七九条

1 中華人民共和国主席及び副主席は、全国人民代表大会がこれを選挙する。

2 選挙権及び被選挙権を有する年齢四五歳に達した中華人民共和国公民は、中華人民共和国主席及び副主席に選ばれることができる。

3 中華人民共和国主席及び副主席の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とし、二期を超えて連続して就任することはできない。

 中国の政治体制は、社会主義的な会議体共和制を基本とするため、本来はソヴィエト幹部会(中国では全人代常務委員会)が集団的な元首となるはずのところ、現在の中国では一般的な共和制の例に従い、大統領的な単独執政官職として人民共和国主席(通称国家主席)が置かれている。
 国家主席は本質上儀礼的な職であり、憲法上国家元首とは明記されていない。ただ、支配政党である中国共産党の指導者(総書記)が国家主席を兼ねる慣例から、実質上は国家の最高指導者である。

第八〇条

中華人民共和国主席は、全国人民代表大会の決定又は全国人民代表大会常務委員会の決定に基づいて、法律を公布し、国務院の総理、副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、会計検査長及び秘書長を任免し、国家の勲章及び栄誉称号を授与し、特赦令を発布し、緊急事態への突入を宣布し、戦争状態を宣言し、並びに動員令を発布する。

第八一条

中華人民共和国主席は、中華人民共和国を代表し、国事活動を行い、外国使節を接受し、並びに全国人民代表大会常務委員会の決定に基づいて、海外駐在全権代表を派遣し、又は召還し、外国と締結した条約及び重要な協定を批准し、又は廃棄する。

 第八〇条及び八一条では、国家主席の権限が列挙されているが、いずれも諸国の国家元首が儀礼的に持つ権限であり、明記されないものの、国家主席が元首的地位にあることがわかる。

第八二条

1 中華人民共和国副主席は、主席の活動を補佐する。

2 中華人民共和国副主席は、主席の委託を受けて、主席の職権の一部を代行することができる。

 共和国副主席は諸国の副大統領に相当する副官職であり、主席以上に儀礼的な性格が強い。

第八三条

中華人民共和国主席及び副主席は、次期全国人民代表大会の選出する主席及び副主席が就任するまで、その職権を行使する。

第八四条

1 中華人民共和国主席が欠けた場合は、副主席が主席の職位を継ぐ。

2 中華人民共和国副主席が欠けた場合は、全国人民代表大会がこれを補充選挙する。

3 中華人民共和国主席及び副主席がともに欠けた場合は、全国人民代表大会がこれを補充選挙し、その補充選挙前においては、全国人民代表大会常務委員会委員長が臨時に主席の職位を代理する。

 本来の体制原理からいけば集団的元首の代表者たるはずの全人代常務委員長は、正副主席がともに欠けるという稀有の政治空白時において、はじめて主席職を代理するにすぎない。

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中国憲法評解(連載第12回)

2015-03-21 | 〆中国憲法評解

第七二条

全国人民代表大会代表及び全国人民代表大会常務委員会の構成員は、法律の定める手続きに従って、それぞれ全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会の権限に属する議案を提出する権利を有する。

 本条以下は、主として、全人代代表(代議員)の権限について定めている。全人代代表はソヴィエト代議員を範としているが、実態としては諸国の国会議員に近くなっている。その主要な権限は、本条の議案提出権と次条の質問権である。

第七三条

全国人民代表大会代表は全国人民代表大会の開会中に、また、全国人民代表大会常務委員会構成員は全国人民代表大会常務委員会の開会中に、法律の定める手続きに従って、国務院又は国務院の各部及び各委員会に対する質問書を提出する権利を有する。質問を受けた機関は、責任を持って回答しなければならない。

第七四条

全国人民代表大会代表は、全国人民代表大会議長団の許諾がなければ、また、全国人民代表大会閉会中の期間においては全国人民代表大会常務委員会の許諾がなければ、逮捕されず、又は刑事裁判に付されない。

 本条及び次条は、全人代代表の不逮捕及び免責特権を定めている。日本国憲法にも定めのある国会議員の特権と同様のものであるが、不逮捕にとどまらず、訴追免責まで認められているのは特徴的である。

第七五条

全国人民代表大会代表は、全国人民代表大会の各種会議における発言又は表決について、法律上の責任を問われない。

第七六条

1 全国人民代表大会代表は、模範的にこの憲法及び法律を遵守し、国家機密を保守するとともに、自己の参加する生産活動、業務活動及び社会活動において、この憲法及び法律の実施に協力しなければならない。

2 全国人民代表大会代表は、選挙母体及び人民との密接な結びつきを保持し、人民の意見及び要求を聴取し、及び反映し、並びに人民のために奉仕することに努めなければならない。

 全人代代表の義務・責務に関する規定である。全人代代表は国会議員のように事実上の専業ではなく、本業との兼職が原則であるため、それぞれの生産現場等で憲法・法律の実施に協力し、また選挙母体及び有権者人民との密接な結びつきも求められる。なお、第一項で全人代代表に国家機密の保守義務が課せられているのは、ひるがえって第七三条の質問権を大きく制約することになるだろう。

第七七条

全国人民代表大会代表は、選挙母体の監督を受ける。選挙母体は、法律の定める手続きに従って、その選出した代表を罷免する権利を有する。

 民主集中制のため、全人代代表は命令委任により、選挙母体からのリコールを受ける。この点は、自由委任が基本の国会議員とは大きく異なる。

第七八条

全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会の組織及びその活動手続きは、法律でこれを定める。

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中国憲法評解(連載第11回)

2015-03-20 | 〆中国憲法評解

第六五条

1 全国人民代表大会常務委員会は、次に掲げる者によって構成される。

 委員長
 副委員長 若干名
 秘書長
 委員 若干名

2 全国人民代表大会常務委員会の構成員の中には、適当な数の少数民族代表が含まれるべきである。

3 全国人民代表大会は、全国人民代表大会常務委員会の構成員を選挙し、かつ、罷免する権限を有する。

4 全国人民代表大会常務委員会の構成員は、国家の行政機関、裁判機関及び検察機関の職務に従事してはならない。

 本条以下では、主として全人代の指導部に当たる常務委員会の構成や権限について定めている。全体として、旧ソ連最高会議幹部会を範例としている。

第六六条

1 全国人民代表大会常務委員会の毎期の任期は、全国人民代表大会の毎期の任期と同一とし、次期全国人民代表大会が新たな全国人民代表大会常務委員会を選出するまで、その職権を行使する。

2 委員長及び副委員長は、二期を超えて連続して就任することはできない。

第六七条

全国人民代表大会常務委員会は、次の職権を行使する。

一 この憲法を解釈し、及びこの憲法の実施を監督すること。
二 全国人民代表大会が制定すべき法律以外の法律を制定し、及びこれを改正すること。
三 全国人民代表大会閉会中の期間において、全国人民代表大会の制定した法律に部分的な補充を加え、及びこれを改正すること。但し、その法律の基本原則に抵触してはならない。
四 法律を解釈すること。
五 全国人民代表大会閉会中の期間において、国民経済・社会発展計画及び国家予算について、その執行の過程で作成の必要を生じた部分的調整案を審査及び承認すること。
六 国務院、中央軍事委員会、最高人民法院及び最高人民検察院の活動を監督すること。
七 国務院の制定した行政法規、決定及び命令のうち、この憲法及び法律に抵触するものを取り消すこと。
八 省、自治区及び直轄市の国家権力機関の制定した地方的法規及び決議のうち、この憲法、法律及び行政法規に抵触するものを取り消すこと。
九 全国人民代表大会閉会中の期間において、国務院総理の指名に基づいて、部長、委員会主任、会計検査長及び秘書長を選定すること。
一〇 全国人民代表大会閉会中の期間において、中央軍事委員会主席の指名に基づいて、中央軍事委員会のその他の構成員を選定すること。
一一 最高人民法院院長の申請に基づいて、最高人民法院の副院長、裁判員及び裁判委員会委員並びに軍事法院委員長を任免すること。
一二 最高人民検察院検察長の申請に基づいて、最高人民検察院の副検察長、検察員及び検察委員会委員並びに軍事検察院検察長を任免し、かつ、省、自治区及び直轄市の人民検察院検察長の任免について承認すること。
一三 海外駐在全権代表の任免を決定すること。
一四 外国と締結した条約及び重要な協定の批准又は廃棄を決定すること。
一五 軍人及び外務職員の職級制度その他の特別の職級制度を規定すること。
一六 国家の勲章及び栄誉称号を定め、並びにその授与について決定すること。
一七 特赦を決定すること。
一八 全国人民代表大会閉会中の期間において、国家が武力侵犯を受け、又は侵略に対する共同防衛についての国際間の条約を履行しなければならない事態が生じた場合に、戦争状態の宣言を決定すること。
一九 全国の総動員又は局所的動員を決定すること。
二〇 全国又は個々の省、自治区若しくは直轄市の緊急事態への突入を決定すること。
二一 全国人民代表大会が授けるその他の職権。

 全人代常務委員会の職権は多岐にわたるが、栄典の授与や特赦など通常は国家元首が行うような行為も含まれている。現在の中国には他国の大統領に相当する国家主席が置かれているが、ソヴィエト制の建前上は本来、ソヴィエト幹部会が集団的元首となるため、中国では全人代常務委員会にそうした痕跡が残されていると考えられる。

第六八条

1 全国人民代表大会常務委員会委員長は、全国人民代表大会常務委員会の活動を主宰し、全国人民代表大会常務委員会の会議を招集する。副委員長及び秘書長は、委員長の活動を補佐する。

2 委員長、副委員長及び秘書長をもって委員長会議を構成し、全国人民代表大会常務委員会の重要な日常活動の処理に当たる。

 全人代常務委員長は本来ならば集団的元首のトップとして、事実上の国家代表者となるはずであるが、その役割は現代中国では国家主席に譲られている。

第六九条

全国人民代表大会常務委員会は、全国人民代表大会に対して責任を負い、かつ、活動を報告する。

 全人代常務委員会は民主集中制原則(第三条第一項)により、自己の選出機関である全人代に責任と報告義務を負う。

第七〇条

1 全国人民代表大会は、民族委員会、法律委員会、財政経済委員会、教育科学文化衛生委員会、外務委員会、華僑委員会その他必要な専門委員会を設置する。全国人民代表大会閉会中の期間においては、各専門委員会は、全国人民代表大会常務委員会の指導を受ける。

2 各専門委員会は全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会の指導の下に、関係の議案を研究し、審査し、又はその起草に当たる。

 全人代には諸国の議会と同様に専門の常任委員会が置かれ、審議の分散・効率化が図られている。第一項所定の六つの委員会については、憲法上設置が義務づけられている。

第七一条

1 全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会は、必要があると認める場合は、特定の問題についての調査委員会を組織し、かつ、調査委員会の報告に基づいて、それに相応した決議を採択することができる。

2 調査委員会が調査を行うときは、関係のある全ての国家機関、社会団体及び公民は、これに対して必要な資料を提供する義務を負う

 国政調査権に当たる規定である。ただし、一党支配体制下では党の方針が優先され、全人代が独自の国政調査を発動することは困難である。

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中国憲法評解(連載第10回)

2015-03-19 | 〆中国憲法評解

第三章 国家機構

 第三章は、憲法の中核を成す国家機構に関する章である。中国の国家機構は、ブルジョワ民主主義で定番の三権分立制ではなく、人民代表大会を軸とするソヴィエト制であるが、旧ソ連と同様の共産党一党支配体制の下、事実上は立法・行政・軍事・司法の部門的機能分化がなされている。ただ、諸国の憲法のように、各部門ごとに章を立て起こすのではなく、全部門を国家機構として本章に包括している点が特徴的である。ここには、全人代を全権力の源泉とみなす一元的な権力機構の構想が横たわっているようにも見える。

第一節 全国人民代表大会

第五七条

全国人民代表大会は、最高の国家権力機関である。その常設機関は、全国人民代表大会常務委員会である。

 全国人民代表大会(以下、全人代)は、旧ソ連のソヴィエト最高会議を範例とする最高権力機関である。言わば、中国版ソヴィエトであるが、共産党支配体制下では、共産党の施政方針の追認機関と化す点でも同様の傾向を持つ。ただし、連邦制を反映して二院制を採ったソ連最高会議とは異なり、中央集権制の中国全人代は一院制である。

第五八条

全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会は、国家の立法権を行使する。

 全人代の最大任務は、立法権の行使である。この点では、政治的美称とはいえ、「ソヴィエト連邦の管轄に属するすべての問題を解決する権限をもつ」と包括的な全権機関として規定されていたソ連最高会議に比べ、中国全人代はブルジョワ議会的な立法機関としての性格が強まっていると言える。

第五九条

1 全国人民代表大会は省、自治区、直轄市、特別行政区、軍隊の選出する代表によって構成される。いずれの少数民族も、全て適当な数の代表を持つべきである。

2 全国人民代表大会代表の選挙は、全国人民代表大会常務委員会がこれを主宰する。

3 全国人民代表大会代表の定数及びその選出方法は、法律でこれを定める。

 全人代の代表(代議員)は、選挙区でなく、省以下の地方行政区および軍、さらに公認少数民族を単位として選出される。その構成からいくと、旧ソ連最高会議の第二院民族会議に近い。軍が独自に代表を送り込めるのは、抗日及びその後の建国革命で軍(人民解放軍)の果たした歴史的な役割の大いさから、軍の自立性が認められていることを示す。
 全人代代表の選出方法は第三項で法律に委ねられており、直接選挙は憲法上保障されていない。従って、直接選挙制を採用することも可能ではあるが、現行法は上記選出単位ごとの間接選挙によっている。

第六〇条

1 全国人民代表大会の毎期の任期は、五年とする。

2 全国人民代表大会の任期満了二か月月前に、全国人民代表大会常務委員会は、次期全国人民代表大会の選挙を完了させなければならない。選挙を行うことのできない非常事態が生じた場合は、全国人民代表大会常務委員会は、その全構成員の三分の二以上の賛成で、選挙を延期し、当期全国人民代表大会の任期を延長することができる。非常事態の終息後一年内に、次期全国人民代表大会代表の選挙を完了させなければならない。

 全人代(代議員)の五年任期、任期満了二か月前の選挙という原則的なプロセスは、旧ソ連憲法の例にならったものである。前条第二項とあわせ、全人代の選挙は、政府(国務院)ではなく、全人代の幹部会である常務委員会が自律的に主宰する。

第六一条

1 全国人民代表大会の会議は、毎年一回開き、全国人民代表大会常務委員会がこれを招集する。全国人民代表大会常務委員会が必要と認めた場合、又は五分の一以上の全国人民代表大会代表が提議した場合は、全国人民代表大会の会議を臨時に招集することができる。

2 全国人民代表大会の会議が開かれるときは、議長団が選挙されて、会議を主催する。

 旧ソ連最高会議の会期は年二回であったが、中国全人代は年一回とされる。これは大人口のため代議員も多数に上る(定数は最大3千人)中国では、年一回開催が現実的なためかと思われる。

第六二条

全国人民代表大会は、次の職権を行使する。

一 憲法を改正すること。
二 憲法の実施を監督すること。
三 刑事、民事、国家機構その他に関する基本的法律を制定し、及びこれを改正すること。
四 中華人民共和国主席及び副主席を選挙すること。
五 中華人民共和国主席の指名に基づいて、国務院総理を選定し、並びに国務院総理の指名に基づいて、国務院の副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、会計検査長及び秘書長を選定すること
六 中央軍事委員会主席を選挙し、及び中央軍事委員会主席の指名に基づいて、中央軍事委員会のその他の構成員を選定すること。
七 最高人民法院院長を選挙すること。
八 最高人民検察院検察長を選挙すること。
九 国民経済・社会発展計画及びその執行状況の報告を、審査及び承認すること。
一〇 国家予算及びその執行状況の報告を、審査及び承認すること。
一一 全国人民代表大会常務委員会の不適当な決定を改め、又は取り消すこと。
一二 省、自治区及び直轄市の設置を承認すること。
一三 特別行政区の設立及びその制度を決定すること。
一四 戦争と平和の問題を決定すること。
一五 最高の国家権力機関が行使すべきその他の職権。

 本条は全人代の職権リストである。筆頭に憲法改正が来ていることからも、制憲機関としての役割とそれを基盤とする立法機関としての役割が重視されていることがわかる。

第六三条

全国人民代表大会は次の各号に掲げる者を罷免する権限を有する。

一 中華人民共和国主席及び副主席
二 国務院総理、副総理、国務委員、各部部長、各委員会主任、会計検査長及び秘書長
三 中央軍事委員会主席及び中央軍事委員会その他の構成員
四 最高人民法院院長
五 最高人民検察院検察長

 全人代は、国家主席以下、前条により任命権を持つ行政・軍事・司法の要職者を罷免する権限も持つ。罷免権を前条から独立して規定しているのは、そうしたリコール機関としての役割を明確にするためと思われる。

第六四条

1 この憲法の改正は、全国人民代表大会常務委員会又は五分の一以上の全国人民代表大会代表がこれを提議し、かつ、全国人民代表大会が全代表の三分の二以上の賛成によって、これを採択する。

2 法律その他の議案は、全国人民代表大会が全代表の過半数の賛成によって、これを採択する。

 憲法改正案及び法律その他の議案の採決に関する規定である。最高法規である憲法の改正については、発議・表決ともに厳格な要件が課せられている。

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中国憲法評解(連載第9回)

2015-03-07 | 〆中国憲法評解

第五一条

中華人民共和国公民は、その自由及び権利を行使するに当たって、国家、社会及び集団の利益並びに他の公民の適法な自由及び権利を損なってはならない。

 本条以下は、公民の義務に関する規定である。本条はその総則的な意義を持つもので、内容的には、自由及び権利を行使するに当たり、国家、社会及び集団の利益と他の公民の適法な自由及び権利を損なわないことを義務づけている。
 言い換えれば、公民の自由及び権利の限界を画するものであるが、第二の「他の公民の適法な自由及び権利」はあらゆる自由及び権利に内在する当然の制約であるとして、第一の「国家、社会及び集団の利益」は広範であり、結局のところ、中国公民の自由及び権利はそうした広範な外部的制約を受けることとなる。

第五二条

中華人民共和国公民は、国家の統一及び全国諸民族の団結を維持する義務を負う。

 本条以下に、前条にいう「国家、社会及び集団の利益」の観点からする種々の義務が定められているが、本条の国家統一・民族団結維持義務は分離独立運動の自由を封じる意義を持つ。

第五三条

中華人民共和国公民は、この憲法及び法律を遵守し、国家の機密を保守し、公有財産を大切にし、労働規律を遵守し、公共の秩序を守り、並びに社会の公徳を尊重しなければならない。

 本条は、簡素な条文の中に、法令遵守、国家機密保持、公有財産擁護、労働規律遵守、公共秩序維持、社会道徳尊重という六つの義務を列挙している。いずれも自由及び権利に対する広範な制約の根拠となる義務であり、統制的な社会主義憲法の特質が滲み出ている。

第五四条

中華人民共和国公民は、祖国の安全、栄誉及び利益を擁護する義務を負い、祖国の安全、栄誉及び利益を損なう行為をしてはならない。

 本条は国防の義務を定める次条と並び、愛国的な義務の規定と言えるが、本条は祖国の安全、栄誉及び利益というより広範な国益保持義務を定めている。これも、自由及び権利の広範な制約根拠となり得る規定である。

第五五条

1 祖国を防衛し、侵略に抵抗することは、中華人民共和国の全ての公民の神聖な責務である。

2 法律に従って兵役に服し、民兵組織に参加することは、中華人民共和国公民の栄光ある義務である。

 本条は、一般的な国防の義務及びその具体化としての兵役について定めている。国防は「神聖な責務」であり、兵役は「栄光ある義務」とされ、軍事的な義務が称揚されている。いずれも同種文言の規定を持った旧ソ連憲法からの影響と思われる。

第五六条

中華人民共和国公民は、法律に従って納税する義務を負う。

 納税の義務である。日本国憲法第三〇条と文言が類似するが、日本国憲法のように私有財産の保障の後に規定するのでなく、公民の義務として独立して規定している点で、社会主義的な特徴を持つ。

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中国憲法評解(連載第8回)

2015-03-06 | 〆中国憲法評解

第四二条

1 中華人民共和国公民は、労働の権利及び義務を有する。

2 国家は、各種の方途を通じて、就業の条件を作り出し、労働保護を強化し、労働条件を改善し、かつ、生産の発展を基礎として、労働報酬及び福祉待遇を引き上げていく。

3 労働は、労働能力を持つ全ての公民の栄光ある責務である。国有企業並びに都市及び農村の集団経済組織の勤労者は、みな国家の主人公としての態度をもって自己の労働に取り組むべきである。国家は、社会主義的労働競争を提唱し、労働模範と先進活動家を報奨する。国家は、公民が義務労働に従事することを提唱する。

4 国家は、就業前の公民に対して、必要な職業訓練を行う。

 本条から第五〇条までは、おおむね社会権に関わる権利条項がまとめられている。筆頭の本条は、労働基本権に関する規定である。労働者階級主体の国家を公称する旧ソ連型社会主義体制では定番的な構成である。
 ただ、第二項以下、国家主導での労働条件確保という側面が強く、第三項では労働の義務性が強調されるとともに、労働規律強化のための「社会主義的労働競争」に言及されているのが特徴である。さらに第四項では、就業前の職業訓練が国家の任務として明記されている。

第四三条

1 中華人民共和国の勤労者は、休息の権利を有する。

2 国家は、勤労者の休息及び休養のための施設を拡充し、職員・労働者の就業時間及び休暇制度を定める

 前条の労働の権利と対になる休息の権利の規定である。理念にとどまらず、第二項で国家が休息の権利の確保のために施設及び法制度の両面でなすべき任務が明記されている。

第四四条

国家は、法律の定めるところにより、企業及び事業組織の職員・労働者並びに国家公務員について定年制を実施する。定年退職者の生活は、国家及び社会によって保障される。

 定年制が憲法上明記されている珍しい例である。定年制の詳細は法律に委ねられている。

第四五条

1 中華人民共和国公民は、老齢、疾病又は労働能力喪失の場合に、国家及び社会から物質的援助を受ける権利を有する。国家は、公民がこれらの権利を享受するのに必要な社会保険、社会救済及び医療衛生事業を発展させる。

2 国家及び社会は、傷病軍人の生活を保障し、殉職者の遺族を救済し、軍人の家族を優待する。

3 国家及び社会は、盲聾唖その他身体障碍の公民の仕事、生活及び教育について按排し、援助する。

 生存権の規定であるが、まず生存権を規定した後に労働の権利を規定する日本国憲法とは反対に、労働の権利の後に生存権の規定が来るのは、まず国家が国民の最低限度生活を保障したうえで、国民に労働の権利を保障する福祉国家ではなく、労働を前提として、一定の場合に国家が公民の生存を確保するという労働国家体制(旧ソ連と同様)を採ることの現れと読める。なお第二項で特に傷病軍人、戦没軍人家族の生活保障を明記しているのは、重要な国家セクターである軍を重視する政策の反映である。

第四六条

1 中華人民共和国公民は、教育を受ける権利及び義務を有する。

2 国家は、青年、少年及び児童を育成して、彼らの品性、知力及び体位の全面的な発展を図る。

 教育を受ける権利の規定である。ごく簡単な規定であり、むしろ第一章総則で国家が教育に果たす役割をより詳細に規定していたところである。

第四七条

中華人民共和国公民は、科学研究、文学・芸術創作その他の文化活動を行う自由を有する。国家は、教育、科学、技術、文学、芸術その他の文化事業に従事する公民の、人民に有益な創造的活動を奨励し、援助する。

 学術・芸術活動の自由を保障する規定であるが、これについても、第一章総則に具体的な規定が存在した。第二文で、国家は「人民に有益な創造的活動を奨励し、援助する」とある反面、人民に有害とみなされる創造的活動は禁止、抑圧されることが示唆される。

第四八条

1 中華人民共和国の女性は、政治、経済、文化、社会、家庭その他の各生活分野で、男性と平等の権利を享有する。

2 国家は、女性の権利及び利益を保護し、男女の同一労働同一報酬を実行し、女性幹部を育成し、及び登用する。

 ジェンダー平等に関する進歩的な規定である。ただし、国連開発計画が公表した中国のジェンダー不平等指数は2013年度で日本(25位)より若干低い37位と、必ずしも高くなく、憲法の目標が達成されているとは言い難い。

第四九条

1 婚姻、家族、母親及び児童は、国家の保護を受ける。

2 夫婦は、双方ともに計画出産を実行する義務を負う。

3 父母は、未成年の子女を扶養・教育する義務を負い、成年の子女は、父母を扶養・援助する義務を負う。

4 婚姻の自由に対する侵害を禁止し、老人、女性及び児童に対する虐待を禁止する。

 家族・婚姻にまつわる権利・義務のまとめ規定である。第二項で、計画出産が夫婦双方の義務と明記されるのは、人口調節が国家的課題である中国ならではのことである。
 第三項で親子間での相互扶養義務という保守的な家族観が規定される一方、第四項では婚姻の自由という近代的家族観が併記されるなど、新旧価値観の混在が見られる。第四項で弱者への虐待が憲法上禁止されているのも、特徴的である。

第五〇条

中華人民共和国は、華僑の正当な権利及び利益を保護し、帰国華僑及び国内に居住する華僑の家族の適法な権利及び利益を保護する。

 華僑の権利が憲法上特別に明記されるのは、世界各国に移民を送り出し続けてきた中国の歴史を反映したものである。

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中国憲法評解(連載第7回)

2015-03-05 | 〆中国憲法評解

第二章 公民の基本的権利及び義務

 第二章は、各種人権規定をまとめたいわゆる人権カタログに相当する章と言える。しかし、ここで規定されているのは人一般が享有する基本的人権ではなく、中国国民(公民)の権利である。この点、「国民の権利及び義務」という類似の表題を持つ日本国憲法第三章では、個別的に人一般が享有する基本的人権の規定を含むことと比較しても、国民の権利を優先する中国憲法の姿勢は明確である。
 しかも権利規定はいずれも素っ気ないほど簡素な一方、本章全二十四か条中、後半の六か条が義務の規定に充てられている。このような義務規定の多さも旧ソ連憲法からの影響と見られ、社会主義憲法の統制的な特質を示している。ただ、体系的には、社会権を自由権よりも先行的に規定していた旧ソ連憲法とは異なり、自由権を社会権に先行させる自由主義的な構成を採っているが、現実の政策を見ると、自由権を尊重しているとは言い難く、憲法的タテマエと政策的現実の間に齟齬がある。

第三三条

1 中華人民共和国の国籍を有する者は、すべて中華人民共和国の公民である。

2 中華人民共和国公民は、法律の前に一律に平等である。国家は、人権を尊重し、保障する。

3 いかなる公民も、この憲法及び法律の定める権利を享有し、同時に、この憲法及び法律の定める義務を履行しなければならない。

 第二章筆頭の本章は人権総則的な三つの内容が列挙されているが、人権規定の冒頭に国籍条項が来るのは、旧ソ連憲法や日本国憲法とも共通し、国民優先政策の現れと言える。第三項で人権享有主体を規定する前に、第二項第二文で国家の人権尊重義務という形で、人権をまず国家の義務として規定しているのは、天賦人権思想の否定、すなわち人権の設定も国家の政策次第であることを示唆している。

第三四条

中華人民共和国の年齢満一八歳に達した公民は、民族、種族、性別、職業、出身家庭、信仰宗教、教育程度、財産状態及び居住期間の別なく、すべて選挙権及び被選挙権を有する。ただし、法律によって選挙権及び被選挙権を剥奪された者は除く。

 表現の自由の前に選挙権の規定が置かれるのは日本国憲法と類似するが、これも外国人を含む人一般の権利ではなく、国民=公民の権利を保障する中国憲法の特質を示すと同時に、国民優先の権利保障の体系という点では、日本国憲法との共通性も示している。

第三五条

中華人民共和国公民は、言論、出版、集会、結社、行進及び示威の自由を有する。

 表現の自由に関する簡素な規定である。ただし、後で見るように、公民には「国家、社会及び集団の利益」を損なわないようにする義務が課せられるため、本条の保障範囲は大幅に制約され、体制批判の自由は封じられることになる。

第三六条

1 中華人民共和国公民は、宗教信仰の自由を有する。

2 いかなる国家機関、社会団体又は個人も、公民に宗教の信仰又は不信仰を強制してはならず、宗教を信仰する公民と宗教を信仰しない公民とを差別してはならない。

3 国家は、正常な宗教活動を保護する。何人も、宗教を利用して、社会秩序を破壊し、公民の身体・健康を損ない、又は国家の教育制度を妨害する活動を行ってはならない。

4 宗教団体及び宗教事務は、外国勢力の支配を受けない。

 信教の自由に関する規定であるが、ここでは社会秩序等の維持や外国勢力の支配の禁止という制約が特別に課せられるため、やはり保障範囲は制約され、むしろ宗教活動は国家による監視と統制の対象となるであろう。これも、統制的な社会主義憲法の特質と言える。

第三七条

1 中華人民共和国公民の人身の自由は、侵されない。

2 いかなる公民も、人民検察院の承認若しくは決定又は人民法院の決定のいずれかを経て、公安機関が執行するのでなければ、逮捕されない。

3 不法拘禁その他の方法による公民の人身の自由に対する不法な剥奪又は制限は、これを禁止する。公民の身体に対する不法な捜索は、これを禁止する。

 人身の自由に関する規定である。ただ第二項で、検察院(検察官)の承認や決定のみでも公民を逮捕できるとされるのは、人身の自由に対する司法的保護としては不十分であるが、これも同種の規定を持った旧ソ連憲法からの影響と見られる。

第三八条

中華人民共和国公民の人格の尊厳は、侵されない。いかなる方法によっても公民を侮辱、誹謗又は誣告陥害することは、これを禁止する。

 人格権の保障規定であるが、公民への侮辱等を禁止する第二文の規定は、為政者批判の抑圧に転用される危険を持つ。

第三九条

中華人民共和国公民の住居は、侵されない。公民の住居に対する不法な捜索又は侵入は、これを禁止する。

 住居のプライバシー権に関する規定であるが、内容上は人身の自由を規定した第三七条に近く、主として警察・司法手続上の権利である。

第四〇条

中華人民共和国公民の通信の自由および通信の秘密は、法律の保護を受ける。国家の安全又は刑事犯罪捜査の必要上、公安機関又は検察機関が法律の定める手続きに従って通信の検査を行う場合を除き、いかなる組織又は個人であれ、その理由を問わず、公民の通信の自由及び通信の秘密を侵すことはできない。

 住居のプライバシー権に続き、本条は通信のプライバシー権を保障している。ただし、その保障範囲は法律に委ねられており、「国家の安全又は刑事犯罪捜査の必要上」という広範な理由に基づき、警察・検察による盗聴を含む「通信の検査」が認められている。

第四一条

1 中華人民共和国公民は、いかなる国家機関又は国家公務員に対しても、批判及び提案を行う権利を有し、いかなる国家機関又は国家公務員の違法行為及び職務怠慢に対しても、関係国家機関に不服申し立て、告訴又は告発をする権利を有する。但し、事実を捏造し、又は歪曲して誣告陥害をしてはならない。

2 公民の不服申し立て、告訴又は告発に対しては、関係の国家機関は、事実を調査し、責任を持って処理しなければならない。何人も、それを抑えつけたり、報復を加えたりしてはならない。

3 国家機関又は国家公務員によって公民の権利を侵害され、そのために損失を受けた者は、法律の定めるところにより、賠償を受ける権利を有する。

 本条は全体として受益権に関する規定である。特に第一項では国家機関又は国家公務員に対する批判・提案、不服申し立てなどの広範な訴願の権利を保障している点で注目される。この権利が十全に保障されれば、共産党支配体制の枠内での民主主義の深化につながる可能性を秘めているが、事実捏造・歪曲による誣告陥害の禁止を規定する但し書きの解釈運用いかんでは、本文の権利が形骸化する恐れがある。

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中国憲法評解(連載第6回)

2015-02-20 | 〆中国憲法評解

第二七条

1 すべての国家機関は、精鋭・簡素化の原則を実行し、職務責任制を実施し、職員の研修及び考課制度を実施して、絶えず執務の質及び能率を高め、官僚主義に反対する。

2 すべての国家機関及び国家公務員は、人民の支持に依拠して、常に人民との密接なつながりを保ち、人民の意見と提案に耳を傾け、人民の監督を受け入れ、人民のために奉仕することに努めなければならない。

 本条から第一章末尾の第三二条までは、主に治安・軍事・行政の基本原則を定めているが、本条は全国家機関・公務員に共通する活動上・執務上の規範を定めている。その中心は反官僚主義と人民への奉仕であるが、現状は本条の目標から遠い状況にあるようである。

第二八条

国家は、社会秩序を維持保護し、国家に対する反逆及び国の安全に危害を及ぼすその他の犯罪活動を鎮圧し、社会治安に危害を及ぼし、社会主義経済を破壊し、及びその他の罪を犯す活動を制裁し、犯罪分子を懲罰し、改造する。

 国家の体制護持の責務を定めている。反体制活動に対する厳格な取締りの直接的な根拠となる規定である。中国憲法が国家権力の統制よりも、社会の統制に関心を向けていることをよく物語る規定である。

第二九条

1 中華人民共和国の武装力は、人民に属する。その任務は、国防を強固にし、侵略に抵抗し、祖国を防衛し、人民の平和な労働を守り、国家建設の事業に参加し、人民のために奉仕することに努めることである。

2 国家は、武装力の革命化、現代化並びに正規化による建設を強化し、国防力を増強する

 軍に関する原則を定める本条は第一項で武装力を人民に属すると宣言するが、実際上、中国軍(人民解放軍)は今なお共産党の武装力(党軍)という性格が強い。ただし、第二項では武装力の現代化並びに正規化も謳っており、法律上国家の常備軍と規定される人民解放軍は実質的な国軍としての装備と機能を備えるに至っている。
 一方、第一項で軍は国家建設の事業にも参加するとされ、国防にとどまらない広範な活動領域を与えられている。これは中国の特徴である軍独自の経済活動の根拠ともなる規定であり、軍の経済利権問題につながるところである。

第三〇条

1 中華人民共和国の行政区画の区分は、次の通りである。

一 全国を省、自治区及び直轄市に分ける。
二 省及び自治区を自治州、県、自治県及び市に分ける。
三 県及び自治県を郷、民族郷及び鎮に分ける。

2 直轄市及び比較的大きな市を区及び県に分ける。自治州を県、自治県及び市に分ける。

3 自治区、自治州及び自治県は、いずれも民族自治地域である。

 本条は、地方行政区分に関する規定である。憲法上は省‐県‐郷の三層構造であるが、実際上は省と県の中間に地区が存在する四層で運営される。地方自治制ではなく、中央集権制の地方区分である。自治区/州/県はいずれも民族自治地域とされるが、自治権の範囲は限定されている。

第三一条

国家は、必要のある場合は、特別行政区を設置することができる。特別行政区において実施する制度は、具体的状況に照らして、全国人民代表大会が法律でこれを定める。

 特別行政区は、いわゆる一国二制度の下で本国とは別の法体系による高度の自治権が付与される区域であり、現時点では香港とマカオがそれに該当する。

第三二条

1 中華人民共和国は、中国の領域内にある外国人の適法な権利及び利益を保護する。中国の領域内にある外国人は、中華人民共和国の法律を遵守しなければならない。

2 中華人民共和国は、政治的原因で避難を求める外国人に対し、庇護を受ける権利を与えることができる。

 本条は、外国人の扱いに関する基本原則を定めている。第一項は国際法上当然の確認規定であるが、第二項は亡命権を正面から認めた規定である。同様の規定を持った旧ソ連憲法からの影響と考えられる。

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中国憲法評解(連載第5回)

2015-02-19 | 〆中国憲法評解

第一九条

1 国家は、社会主義の教育事業を振興して、全国人民の科学・文化水準を高める。

2 国家は、各種の学校を開設して、初等義務教育を普及させ、中等教育、職業教育及び高等教育を発展させ、かつ、就学前の教育を発展させる。

3 国家は、各種の教育施設を拡充して、識字率を高め、労働者、農民、国家公務員その他の勤労者に、政治、文化、科学、技術及び業務についての教育を行い、自学自習して有用な人材になることを奨励する。

4 国家は、集団経済組織、国の企業及び事業組織並びにその他社会の諸組織が、法律の定めるところにより、各種の教育事業に取り組むことを奨励する。

5 国家は、全国に通用する共通語を普及させる。

 本条から第二六条までは、主として国家の社会事業に関する役割が列挙されている。国家社会主義体制では、国家が教育文化や公衆衛生などの諸事業を幅広く主導的に展開することが特色であり、これも旧ソ連憲法からの影響と考えられる。
 その筆頭の本条が教育事業で始まっていることは、巨大な農村人口を抱え、啓発教育に重点を置く中国的な特色である。第四条は集団経済組織や企業が直営する学校制度という労働と教育の結合を象徴する政策の根拠であったが、社会主義市場経済の現在では逆に、大学が企業を設立する形態(校弁企業)が発展している。

第二〇条

国家は、自然科学及び社会科学を発展させ、科学知識及び技術知識を普及させ、科学研究の成果並びに技術の発明及び創造を奨励する。

 前条の教育事業と並んで、国家が科学振興事業にも主導的な役割を負うことを定めている。具体的には、国立研究機構としての中国科学院及び社会科学院として制度化されている。

第二一条

1 国家は、医療衛生事業を振興して、現代医薬と我が国の伝統医薬を発展させ、農村の集団経済組織、国家の企業及び事業組織並びに町内組織による各種医療衛生施設の開設を奨励及び支持し、大衆的な衛生活動を繰り広げて、人民の健康を保護する。

2 国家は、体育事業を振興して、大衆的な体育活動を繰り広げ、人民の体位を向上させる。

 教育・科学振興事業に関する前二条に対し、本条は国家の医療衛生・体育振興事業に関する役割を定めている。体育事業に関しては長く国家体育委員会が指導機関であったが、1998年以降は国家体育総局に改組された。

第二二条

1 国家は、人民に奉仕し、社会主義に奉仕する文学・芸術事業、新聞・ラジオ・テレビ事業、出版・発行事業、図書館・博物館・文化館及びその他の文化事業を振興して、大衆的文化活動を繰り広げる。

2 国家は、名勝・旧跡、貴重な文化財その他重要な歴史的文化遺産を保護する。

 本条は、メディアを含む文化事業に関する国家の役割を定めている。第一項で「人民に奉仕し、社会主義に奉仕する」という限定句が付せられているのは、反対解釈として、「人民に敵対し、社会主義に敵対する」文化活動は抑圧されることを示唆している。ひいては、検閲制度の根拠ともなるだろう。

第二三条

国家は社会主義に奉仕する各種専門分野の人材を育成して、知識分子の隊列を拡大し、条件を整備して、社会主義現代化建設における彼らの役割を十分に発揮させる。

 本条は前条に関連し、「社会主義に奉仕する」知識人の育成を定めた規定である。ここでも、反対解釈として、「社会主義に敵対する」知識分子は抑圧されることになる。

第二四条

1 国家は、理想教育、道徳教育、文化教育及び規律・法制教育の普及を通じて、都市と農村とを問わず諸分野の大衆の間で各種の守則と公約を制定し、実施することにより、社会主義精神文明の建設を強化する。

2 国家は祖国を愛し、人民を愛し、労働を愛し、科学を愛し、社会主義を愛するという社会の公徳を提唱し、人民の間で愛国主義、集団主義、国際主義及び共産主義の教育を進め、弁証法的唯物論及び史的唯物論の教育を行い、資本主義、封建主義その他の腐敗した思想に反対する。

 本条は、前条よりも一般的な思想教育の根拠となる規定である。とりわけ、第二項では「資本主義、封建主義その他の腐敗した思想に反対する。」と宣言されており、思想統制の根拠ともなる規定である。

第二五条

国家は、計画出産を推進して、人口の増加を経済及び社会の発展計画に適応させる

 産児統制を国家の役割として明記する本条は、大人口を抱え、人口調節が国の存亡に関わる中国ならではの規定である。いわゆる「一人っ子政策」の根拠となる。

第二六条

1 国家は、生活環境及び生態環境を保護し、及びこれを改善し、汚染その他の公害を防止する。

2 国家は、植樹・造林を組織及び奨励し、樹木・森林を保護する。

 本条は環境保護に関する国家の役割を規定している。しかし、環境的持続可能性の原則については言及がない。第二項で特に植林・造林が明記されているのは、砂漠化の進行防止が重要な環境課題となっていることを反映するものであろう。

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中国憲法評解(連載第4回)

2015-02-06 | 〆中国憲法評解

第一一条

1 法律に規定する範囲内の個人経済及び私営経済等の非公有制経済は、社会主義市場経済の重要な構成部分である。

2 国家は、個人経済、私営経済などの非公有制経済の合法的権利および利益を保護する。国は非公有制経済の発展を奨励、支持およびリードし、非公有制経済に対して法にもとづいて監督および管理を行う。

 本条から第一八条までは、おおむね「社会主義市場経済」にまつわる原則的な規定が並んでいる。筆頭の本条では、法律の範囲内で国家により保護・監督管理される個人経営及び私営経済等の非公有制経済という社会主義市場経済の具体的な内実が示されている。

第一二条

1 社会主義の公共財産は、神聖不可侵である。

2 国家は、社会主義の公共財産を保護する。いかなる組織又は個人も、国家及び集団の財産を不法に占有し、又は破壊することはその手段を問わず、これを禁止する。

 本条は、一転して社会主義公共財産の保護に関する規定である。ブルジョワ憲法とは正反対に、社会主義公共財産を「神聖不可侵」と謳っている。社会主義市場経済が、あくまでも「社会主義」を土台とすることを強調しようとするものであろう。
 しかし、市場経済化の進展により、公共財産自体の比重が減少するとともに、第二項第二文の禁止にもかかわらず、公共財産の私物化は免れない。

第一三条

1 公民の合法的私有財産は侵されない。

2 国家は、法律の規定にもとづき公民の私有財産の所有権および相続権を保護する。

3 国家は、公共の利益の必要性のために、法律の規定にもとづき公民の私有財産に対して収用ないし徴用をなし、併せて補償することができる。

 本条は、前条と対の形で、私有財産の保護に関する規定である。ただし、私有財産の主体は「公民」であって、「個人」ではない。よって、第三項で公共収用・徴用に対する国家補償が義務的でなく、任意的とされているように、私有財産の保障には大きな制約がある。そのため、しばしば無補償の強制立退き措置等の根拠規定となる可能性がある。

第一四条

1 国家は、勤労者の積極性と技術水準の向上、先進的な科学技術の普及、経済管理体制と企業経営管理制度を完備、各種形態の社会主義的責任制の実施並びに労働組織の改善を通じて、絶えず労働生産性と経済的効果を高め、社会的生産力を発展させる。

2 国家は、節約を励行し、浪費に反対する。

3 国家は、蓄積と消費を合理的に調整し、国家、集団及び個人の利益を併せて考慮し、生産の発展をふまえて、人民の物質と文化面の生活を一歩一歩改善する。

4 国家は、経済発展水準にみあった社会保障制度を整備、健全化させる。

 本条は、国家による経済指導の原則を定めている。国家は、生産・消費から人民生活、社会保障に至るまで、経済社会の設計全般を掌握する。改革開放後、社会主義市場経済の時代にあっても、依然として旧ソ連流の国家社会主義の土台をタテマエ上は維持していくことを示す規定である。

第一五条

1 国家は、社会主義の市場経済を実施する。国家は経済立法を強化し、マクロコントロールを完備する。

2 国家は法律に従い、いかなる組織又は個人も社会経済秩序を攪乱することを禁止する。

 前条の延長として、国家が経済立法やマクロコントロールを通じて市場経済も管理することを定めた規定である。このことから、社会主義市場経済の本質を国家が資本主義を主導する「国家資本主義」とみなす向きもある。ただ、その国家を共産党が指導する現行体制では、「共産党が指導する資本主義」という実質を持つことになる。この点こそ、範とした旧ソ連が果たすことなく終わった技巧的な路線転換の要である。

第一六条

1 国有企業は、法律の定める範囲内で自主的に経営する権利を有する。

2 国有企業は法律の定めるところにより、職員、労働者代表大会その他の形態を通じて、民主的管理を実施する。

 本条は、国有企業の自主的経営と民主的管理の原則を定めたものであるが、前回述べたように、市場経済化の進展により国有企業の比率自体が減少し、残った国有企業も株式会社化が進められているため、国有企業の民営化がいっそう進めば、本条の意義も失われていくであろう。
 第二項の民主的管理の原則は、旧ユーゴスラビアで実験されていた「自主管理社会主義」を意識した規定とも思われるが、その内実は職員・労働者代表大会等を通じるということ以外に憲法上明らかでなく、下位法令に委ねられている。

第一七条

1 集団経済組織は、関係法律を遵守することを前提として、独自に経済活動を行う自主権を有する。

2 集団経済組織において、民主的管理を実施し、法律の定めるところにより、管理要員の選挙及び罷免並びに経営管理に関する重大な問題の決定を行う。

 本条は第八条に規定されていた農村集団経済組織について、国有企業と同様に自主的運営権と民主的管理の原則を定めたものであるが、民主的管理については管理職の任免・経営管理に関して、民主的な決定が求められている。

第一八条

1 中華人民共和国は、外国の企業その他の経済組織又は個人が、中華人民共和国の法律の定めるところにより、中国で投資し、中国の企業又はその他の経済組織と各種形態の経済的協力を行うことを許可する。

2 中国領内の外国企業その他の外国経済組織及び中外合資経営企業は、すべて中華人民共和国の法律を遵守しなければならない。その適法な権利及び利益は、中華人民共和国の法律の保護を受ける。

 本条は、改革開放の目玉でもあった外資導入・合弁事業に関する原則的規定である。社会主義市場経済下でも引き続き、この原則は維持されている。第二項で、中国領内の外国企業等に中国法の遵守を要求するのは当然の規定であるが、第五条で宣言されていた社会主義的法治国家の建設が完了していないため、法令の不備から、第二文による法的保護が不十分となる危険性がある。

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