日本ではあまりなじみのない旧ソ連邦構成国ウクライナで続く政治混乱は、東欧のこの貧しい国がロシア対EUの代理戦争の場となっているという点で、ソ連邦解体後の世界秩序の一端を示している。
EUはソ連邦解体後、旧ソ連陣営の東欧諸国を取り込んで東方に拡大し、もはや「西欧」だけの共同体ではなくなり、世界秩序のキープレーヤーとして台頭してきた。一方で、ソ連の看板を下ろした再生ロシアは旧ソ連圏で再び覇権を握り、EUに対抗しようとしている。
こうしたEUとロシアの綱引きの中に巻き込まれたウクライナは歴史上キエフを首都とするロシアの発祥地でもあり、元来はロシアと一体だった。だが、その後ロシアと分かれ、ポーランド・リトアニアの支配・影響下に置かれるが、帝政ロシアが北方の大国として台頭すると、ロシアに従属し、ロシア革命後はソ連邦内でロシアに次ぐ枢要構成国ながら、ロシア化され閉塞していた。
ソ連邦解体後、独立を果たすも、共産党一党支配下で隠蔽されていた親露系の東部と親欧系の西部の対立が独立後「民主化」の過程で導入された西欧流党派政治の中で顕在化してきた。そこへ再生ロシアとEU両極が付け入って、東西関ヶ原の戦いの様相となった。
こたびは「西軍」に軍配が上がった形だが、根本的な解決にはならない。大国がパワーゲームをやめない限り、ウクライナの政争は終わらないだろう。さしあたりウクライナが中立国となることが混乱収拾の唯一の選択肢であるが、独立後導入された「民主的な」党派政治がその障害要因となりかねない。
かくして歴史的にも国家の領域的な枠組みが曖昧で、大国に翻弄され、分裂も経験してきたウクライナの再分裂の危機は、国家及び国際関係なるものの本質をめぐる困難な試金石である。