このところ数か月も連日のようにメディアを賑わせてきた防衛省「日報」隠匿問題、M学園国有地不当取得問題、さらに東京都の豊洲市場不明瞭移転問題などはいずれも少なからぬ登場人物が複雑な相関関係を形成していたり、行政首脳部周辺の関与も取り沙汰されたりする難題である。
そのため、市民の関心が高いわりに解明は進まない。これらのケースはいずれも明確に犯罪行為と言える要素が少ないため、捜査機関が直ちに捜査着手するような事案ではない一方で、党派性の強い議会の調査では与野党間の綱引きに陥り、うやむやに終わりやすい。市民の苛立ちは募り、次第に諦めの境地に達する。
しかし、犯罪捜査でも議会調査でもない第三の方法がある。それが表題の政府独立調査委員会である。これは特定の問題の調査のためだけにそのつど政府(自治体も含む。以下同様。)が設置する非常設型の調査委員会であるが、その調査は政府や議会から独立して中立に行なわれる。委員長をはじめ、調査委員は全員が法律家や会計士、さらには問題の内容に対応する分野の専門家で構成される。
その調査は違法行為ばかりでなく、違法でないが不当な行為にも広く及ぶ。そのため調査は基本的に任意であるが、正当な理由のない調査への協力拒否には罰則が科せられる。その点では最高執権者やその親族、政府閣僚、自治体首長らも例外たり得ない。また必要に応じて証拠提出命令及び裁判官の令状に基づく証拠保管場所への立入り調査の権限も保持する。
独立調査委員会の調査はすべて非公開で行なわれるから、「証人喚問」のようなハイライトはないが、その代わり、委員会の詳細な調査報告書は政府及び議会に提出されることはもちろん、一般公開もされ、閲覧に供される。
ちなみに、近年各方面で不祥事に際してよく見られる「第三者委員会」と「独立調査委員会」は似て非なるものである。「第三者委員会」は法律上の根拠にも独立性にも欠け、如上の強力な調査権限も持たない臨時の諮問機関的な制度に過ぎず、その設置動機もたいていは世論対策的なアリバイ作りの不純なものである。
独立調査委員会の設置は法律に基づいて行なわれるが、実際の設置は政府の判断となるため、政府が設置を頑なに拒否する事態もあり得る。そこで、例えば議会の三分の一以上の要求があれば、政府は委員会の設置義務を負うというように、低いハードルのもとに議会側の要求で設置を強制することもできるようにすることが望ましい。
このような洗練された調査制度が存在しない国は、民主主義の現代的な水準を満たしていないと疑われてもやむを得ない。さらに付け加えれば、党派的な議会調査を劇場的におもしろおかしく取り上げ、芸能仕立てにするメディア慣習は、民主主義の質を著しく劣化させていると言わざるを得ない。