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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載最終回)

2024-07-30 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

八 独立宗教自治圏域

世界共同体は、特定の宗教の聖地・聖域として特別の歴史的意義を持つ都市または地域を世界共同体の枠外で独立し、宗教組織または宗教的権威者によって自治的に統治される独立宗教自治圏域として保障する。これらは、当該の都市または地域と世界共同体の協約に基づき、個別的に設定される。独立宗教自治圏域は世界共同体憲章の適用を受けないが、それぞれの宗教上の教義と矛盾しない限りで憲章の各条項を尊重することが認証の条件となる。認証された独立宗教自治圏域は、世界共同体総会に各一名のオブザーバを送ることができる。また、近隣の領域圏と共通経済協定を締結して、共通経済計画の適用を受けることもできる。こうした独立宗教自治圏域として、さしあたり次の二つの自治市と二つの自治域が想定されるが、上記条件を満たせばさらに追加される可能性もある。

 

メッカ独立市
サウジアラビア領内のイスラーム教聖地メッカが、民衆会議制度による中央アラビア領域圏とは分離される形で設定される。市の運営は、サウジ王家であるサウド家の首長が世襲総督として行なう。中央アラビア領域圏と共通経済計画協定を締結する。

バチカン独立市
ローマ・カトリック総本山のバチカン市国を継承する独立市。市国時代と同様、バチカン市の運営はローマ教皇庁が行ない、民衆会議制度は導入されない。イタリア‐サンマリノ領域圏と共通経済計画協定を締結する。

マルタ宮独立域
国際連合との関係において、領土なき主権実体としての地位を認証されてきた通称マルタ騎士団が拠点を置くイタリア‐サンマリノ領域圏ローマ市内のマルタ宮殿敷地内に限定された最小の独立域。騎士団による自治が認められる。イタリア‐サンマリノ領域圏と共通経済計画協定を締結する。

アトス山独立域
ギリシャ領内の正教聖地アトス自治修道士共和国を継承する独立域。その運営はアトス域内の主要修道院によって自治的に行なわれ、民衆会議制度は導入されない。ヘラス領域圏と共通経済計画協定を締結する。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第43回)

2024-07-28 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

六 世界共同体直轄圏

世界共同体は、前回まで個別に見てきた五つの汎域圏に包摂される領域圏のほかに、いくつかの地域を直轄圏として包摂する。直轄圏は、いずれの汎域圏にも包摂されないという限りで世界共同体の直轄であるが、それにも一般永住民が居住しない直轄行政圏と、一般永住民が居住する直轄自治圏とがある。前者には世界共同体の管理機関が存在するだけである。 後者の直轄自治圏では民衆会議を通じた自治が認められる点で、一般の領域圏と実質的な差はない。ただし、直轄自治圏は世界共同総会が任命する直轄自治圏特別代表が総代として世界共同体で議決権を行使するが、各直轄自治圏は一名のオブザーバーを送ることができる。


(1)直轄行政圏
直轄行政圏は、次の三つである。

南極大陸圏
南極大陸全体を包摂する直轄圏。旧南極条約を継承・発展させた世界共同体南極条約に基づき、南極大陸には人が恒久的に居住する領域圏を設定せず、世界共同体の直轄管理下に置くことが約される。地球環境全般の指標となる南極の環境観測のため、世界共同体南極観測センターが設置される。

サウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島
南大西洋の旧英領サウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島を継承する行政圏。世界共同体の海外領土禁止の原則により、英領から移行する。

北太平洋環礁群
北太平洋上のアメリカ合衆国領ウェーク、ジョンストン、ミッドウェーの各環礁をまとめて世界共同体直轄圏に移行する行政圏。主としてオセアニア全域の海洋環境保全を目的とした環境保全基地がウェーク島に設置される。

 

(2)直轄自治圏
直轄自治圏としては、以下のものがある。

ラカイン
現ミャンマーのラカイン州を分立した自治圏。迫害されてきたイスラーム教徒ロヒンギャの人道的保護を目的とする直轄自治圏である。汎西方アジア‐インド洋域圏の招聘自治圏。

サンピエール島‐ミクロン島
北米における旧フランス海外準県サンピエール島及びミクロン島を継承する自治圏。世界共同体の海外領土禁止の原則により、英領から移行する。汎アメリカ‐カリブ域圏の招聘自治圏。

フォークランド諸島
南米の旧英領フォークランド諸島を継承する自治圏。世界共同体の海外領土禁止の原則により、英領から移行する。汎アメリカ‐カリブ域圏の招聘自治圏。

ジブチ
東アフリカの独立国家ジブチを継承する自治圏。小国ながら紅海の要衝に位置することや、世界共同体平和維持巡視隊海上部隊の基地を設置する関係から、直轄自治圏となる。汎アフリカ‐南大西洋域圏の招聘自治圏。

北部ダルフール
スーダンのダルフール地方のうち、民族紛争が激しい北部を分立させる自治圏。迫害されてきた非アラブ系住民の人道的保護を目的とする自治圏。汎アフリカ‐南大西洋域圏の招聘自治圏。

西サハラ
アフリカ北西の西サハラはモロッコ占領地と独立運動組織ポリサリオ戦線支配地に分断された長期の紛争地帯であったが、西サハラ全体を直轄自治圏とすることで合意される。汎アフリカ‐南大西洋域域圏の招聘自治圏。

○スヴァールバル諸島
北極圏の旧ノルウェー領スヴァールバル諸島を継承する自治圏。加盟国の自由な出入を保障していたスヴァ―ルバル条約を発展的に解消し、ノルウェー領から直轄圏に移行する。北極圏の環境観測を目的とする北極圏環境観測センターが設置される。また北極圏の海洋巡視のため、世界共同体平和維持巡視隊海上部隊の基地も設置される。汎ヨーロッパ‐シベリア域圏の招聘自治圏。

※オセアニア諸島
キリバス、ツバル、ナウル等、オセアニア地域で海面上昇による水没の危険の高い島嶼において、居住環境を維持するため、世界共同体の環境保護及び人道的目的から、直轄圏となる可能性がある。ただし、世界共同体の創設時に居住可能状態がなお維持されているが、危機に瀕しているという仮定上の直轄圏である。

 


七 信託代行統治域圏

世界共同体は、直轄自治圏を含めた構成主体の民衆会議の決議に基づき、一定期間代行統治を行なうことができる。これは、当該領域圏の自立的統治が紛争や災害その他の事変によって著しく困難になった場合、例外的に世界共同体が直接に行なう暫定統治の形態である。信託代行統治域圏に認定された領域では世界共同体が設置した暫定代行統治機構が統治を行ない、所定期間の満了後に、民衆会議に統治権を返還する。信託代行統治域圏は恒久的ではなく、そのつど個別的に設定されるため、具体例を予め示すことはできない。

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弁証法の再生(連載最終回)

2024-07-26 | 〆弁証法の再生
Ⅵ 現代的弁証法の構築
 
(18)弁証法の展開過程Ⅱ:小脱構築
 前回、事物の対立が生じる以前の未分化な状態にいったん立ち返る遡行的弁証法について提起したが、遡行的弁証法も弁証法であるからには、止揚という最終段階の展開が控えている。
 対立項の限定否定から止揚へという展開プロセスはへ―ゲル弁証法においても、それを作り替えたマルクス弁証法においても、その過程が見えにくい手品のような謎めいた過程であったが、実際のところ、止揚過程では何が起きているのか。
 それをより明瞭に可視化するには、対立する各項それぞれの脱構築という思考操作が必要になる。その点、元来はジャック・デリダの提唱にかかる脱構築は止揚という過程を否認し、言わば終わりなき開かれた思考に道を開く概念であった。
 その意味では、同様に、弁証法の持つ強制的同一化の危険を認識しつつ、弁証法自体の脱構築を企てたとも言えるアドルノの否定弁証法の方向性をさらに徹底させ、止揚することなく、概念に内在する未発見の要素を抉り出すための思考法が脱構築であったと言える。
 遡行的弁証法にあっては、遡行過程をいったん辿りつつ、そこから反転・止揚する過程で、対立以前の未分化状態を参照項としつつ、対立する二項内部で言わば小さな脱構築のような思考展開が起きていると考えられる。
 すなわち、対立項X及び対立項Yを遡行的弁証法によって止揚する場合、XとYの対立が生じる以前の未分化状態0にまでいったん遡行するが、そこから改めて反転し、X及びYそれぞれの項を脱構築することによって、止揚された概念X’Y’―全く別概念のZではない―へ到達するという思考過程となる。
 ここで具体的な対立項として、資本主義(理念的モデルとしてアメリカ経済)と集産主義(理念的モデルとして旧ソヴィエト経済)という今なお本質的には未解決の対立問題を遡行弁証法によって考察してみると━
 まず第一段階として、両項対立以前の原始共有経済にまでいったん遡行する。そこでは、所有の観念も未発達で、貨幣交換もせず、人々は狩猟採集か原始農耕で生活し、すべての物品を(場合により人も)共同体で共有し合っている。
 続いて、第二段階として、改めて資本主義と集産主義の対立項に反転して対立の止揚過程に入るが、そこでは、原始共有経済を参照項としつつ、私有経済を土台とする資本主義が脱構築されて営利企業に伏在する共同的な生産様式が、他方では集団経済を土台とする集産主義が脱構築されて共同所有企業に伏在する自由な結合的生産様式が導かれる。
 最終的に、貨幣資本によらず、かつ集団統制的でもない協働生産様式を軸とする共産主義へと止揚される理路が展開されるだろう。このように遡行弁証法的に止揚された共産主義は、止揚されることなく図式的に思考された「共産主義」―その正体は止揚前の集産主義との混同―のような統制的で自由のない生産様式とは全く異なるものである。
 
 
 以上で現代的弁証法の構築としての遡行的弁証法の試論を終えるが、以前にも述べたとおり、弁証法は形式論理学と並んで物事を実質的に思考するうえで有効、不可欠な思考法であり、とりわけ形式論理学だけでは解決のつかない社会科学分野の思考にあっては、欠かせないものである。
 もちろん形式論理学→自然科学、弁証法→社会科学というように形式的な切り分けはできず、自然/社会いずれの科学にあっても両思考法が必要であるが、今日、弁証法が忘れられ、ともすれば形式論理学一辺倒の風潮が見られることは、人間の思考を退化させる主因の一つとなっている。
 遡行的弁証法の構築はいまだ補正や錬成を要する発展途上にあり、形式論理学の水準に追いついているとは言えない状況ではあるが、遡行的弁証法の考究作業が弁証法の現代的な再生に寄与できることを願って、稿を閉じる。
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弁証法の再生(連載第18回)

2024-07-24 | 〆弁証法の再生
Ⅵ 現代的弁証法の構築

(17)弁証法の展開過程Ⅰ:遡行
 弁証法は、形式論理学に比して、動的なダイナミズムを帯びた論証法である。中でも、対立項を統一する止揚の思考過程では、形式論理学的には論理飛躍と言えなくもない思考操作が行われる。
 反面、この止揚を通じて、個別的なものを軽視する同一性思考にも結びつきやすい。それが政治思想に(不適切に)援用されると、全体主義に陥る危険がある。近代弁証法の二大巨頭ヘーゲルとマルクス双方にその危険が内包されている。このことは、アドルノが否定弁証法という弁証法の言わば脱構築へ赴いたゆえんでもあった。
 それに対して、西洋近代の弁証法とは全く異なる思考によって、ある種の弁証法を示したのが、東洋古典哲学の老子である。老子は、二項の対立が発生する以前の根源にまで遡って、原初的な同一性へ復帰しようとする。
 そうした老子哲学のエッセンスと言えるのが、「有と無と相い生じ、難と易と相い成り、長と短と相い形われ、高と下と相い傾き、音と声と相い和し、前と後と相い随う」の詩的な対句で知られる『老子道徳経』第二章の万物相同論である。
 有無、難易、長短、高下、音声、前後のような二項対立の発生源となる「何か」を、老子は「道(タオ)」と名付けた。老子はあらゆる事物の根源を「道」で説明するので、これもある種の同一性哲学と言える面はあるが、近代弁証法の前進的な止揚とは異なり、根源へと復帰する遡行的な思考操作による統一である。
 その限りで、老子の復帰の思考はある種の弁証法でもあるが、前進的な弁証法に対して、遡行的弁証法と名付けることができる。もちろん、老子は弁証法という用語を示してはいないが、二項対立の根源に遡る老子的思考は、弁証法を再生するうえで有力な一助となり得る。
 ただし、根源に遡行して仕舞いということではない。それだけでは、ある種の反動思想あるいは老子から派生した荘子のような神秘思想に傾き、実際、道教のような宗教実践に転化するからである。
 遡行的弁証法を現代社会に適用するためには、ひとたび対立の根源まで遡行したならば、今度はそこから一挙に反転・前進し、止揚するという前進的弁証法と同じ思考経路をたどらる必要がある。言い換えれば、止揚の前段階として遡行するという趣意である。
 そうすると、例えば、国家と個人の対立という基本的な問題にあっても、対立以前の国家なき原初の共同態(イメージとして、老子的小国寡民を想起してもよい)にひとたび遡行するが、そこから一挙反転し、国家という政治体によらずして個々が結ばれる新たな共同関係体へと止揚する道も拓かれてくるだろう。
 このような新たな共同関係体にあっては、個人を法令で縛って従わせるという強制は必要最小限度に限局され、むしろ社会を運営する個々の自発的な協力と責務とが強調されるようになるだろう。
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弁証法の再生(連載第17回)

2024-07-22 | 〆弁証法の再生

Ⅵ 現代的弁証法の構築

(16)弁証法の適用条件
 弁証法を現代的な水準で再生するためには、弁証法の適切な適用条件を見定める必要がある。これは、形式論理が広汎な適用性を持つことと対照的である。弁証法は、打ち出の小槌のように形式的な思考道具ではなく、より実質的かつ目的的な思考法だからである。
 そうした弁証法の適用条件の第一は、本質的に対立する二項の間で成立するということである。弁証法は対立物の対立を止揚する思考であるからして、これは当然である。従って、例えば、日常的な思考において対立的にとらえられる「白」と「黒」は本質的に対立するものではなく、「黄」と「緑」と同様の色の種別にすぎないから、弁証法の適用条件を満たさない。
 さらに、弁証法の適用条件の第二は、対立する二項は互いに等質的なものではなくてはならないことである。例えば、市民社会内の個人的利益と公共的利益の対立関係などはその例である。この場合、個人と公共(社会)はそれだけ取り出せば等質的とは言えないが、利益性という性状を加えることで等質的な二項となる。
 弁証法の適用条件の第三は、対立する等質的な二者がともに量的に把握できない性質を持つことである。もし、対立二者がそれぞれ量的に把握できるならば、足して二で割る平均法や最大公約法のような算術的な対応によって対立を解消することができるので、あえて弁証法による必要はない。従って、弁証法では算術的に明快な解答を導出することができないという点で、ある種の不確実性を甘受しなければならない。
 上例で言えば、個人的利益と公共的利益とはともに量的ではなく、質的な要素である。そして、公共的利益はしばしば保守的である。これを目下の先鋭なテーマでさらに具体化すれば、同性婚の是非をめぐる議論がある。
 この問題に関して、既成の社会秩序の維持という公共的な利益を重視すれば、婚姻は異性間に限られることになるが、婚姻に伴う諸権利の獲得という個人的な利益を重視するなら、性別組み合わせを問わず同性婚も認めるべきことになる。
 ここで典型的に見られるように、公共的利益は伝統的社会秩序の維持という保守的契機を持つのに対し、個人的利益はそれを打破しようとする革新的契機を持つがゆえに、この対立関係はしばしば先鋭な社会的論争に発展する。
 このような対立関係を解決するには形式論理学では無理があり、弁証法の登場が待たれる。その点、異性婚絶対主義と同性婚自由主義の対立を止揚する方策として、対立する二項をそれぞれ限定否定する思考プロセスを通じて、結合関係を婚姻以外の方法で公に証明できる公証パートナーシップ制度のような新たな制度を創設するという方向性が考えられる。
 これは異性婚制度を維持する限りで同性婚自由主義は否定しつつも、同性パートナー関係にも婚姻に準じた法的地位を保障する限りでは同性婚に準じた新たな結合制度を創設し、異性婚絶対主義も否定するという構想である。結果、異性婚絶対主義も同性婚自由主義も共に限定否定されることになる。
 ちなみに、この弁証法的な公証パートナーシップ制度にあっては、パートナーは別姓を原則とするから、この制度を異性間にも適用可能とすれば、日本では現時点で依然として解決がつかない夫婦別姓婚問題にも解決がつく可能性があり、汎用性は高い。
 もちろん、婚姻法の大改正を通じて同性婚を解禁するという方策もあり、これは弁証法によることなく、同性婚自由主義の立場を全面的に打ち出す方向性である。今日では一部アジア諸国を含む少なからぬ諸国でこうした同性婚解禁の流れが見られるので、公証パートナーシップ制度はすでに無用の段階に来ているのかもしれない。
 しかし、保守的な価値観が根強い諸国では同性婚の解禁は容易でないことから、弁証法的な制度構想である公証パートナーシップ制度にもなお有用性はあると考えられるところであり、弁証法は単なる思弁的思考法を超えて政策論においても適用可能な実践性を持つ。
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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第42回)

2024-07-20 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(15)ルーシ

(ア)成立経緯
主権国家時代のロシア連邦から、「極東ユーラシア」として分離したシベリア最東部の極東連邦管区を除いたうえ、ロシアと国家連合を結成してきた主権国家ベラルーシが統合されて成立する連合領域圏。ウクライナとの間で係争地となっていたクリミア半島はウクライナとの協定に基づき正式にルーシに包摂される。また、ジョージア領内で分離独立状態となっていた南オセチアも、ロシア領内の北オセチアと統合されてルーシに包摂される。飛び地禁止原則により、旧ロシア飛び地のカリーニングラードとルーシを結ぶスバウキ回廊もルーシに帰属するが、回廊地域の行政管理は汎ヨーロッパ‐シベリア域圏が合同で行う。

(イ)社会経済状況
主権国家時代は、豊富な天然資源を活かした鉱業や旧ソ連時代を継承する軍需産業に強みがあったが、天然資源は世界共同体の下で世界共同体の管理下にあり、常備軍も世界共同体憲章に基づき廃止されるため、かつての二大産業部門は解体される。しかし、旧ソ連時代の計画経済の蓄積を再活用しつつ、環境持続的な計画経済に採り組み、成功を収める。ベラルーシ地域は麦類を中心とした農業生産に基盤を置く。

(ウ)政治制度
連合民衆会議は、旧ロシア時代の連邦構成主体を統廃合して引き継いだ準領域圏に、ベラルーシを加えた準領域圏から抽選された代議員で構成される。ただし、連合協約により、ベラルーシは他の準領域圏より高度の自治権が与えられており、代議員定数も多く配分される。連合の政治代表都市はサンクトペテルブルグだが、ベラルーシのミンスクも副代表都市と位置づけられる。

(エ)特記
ルーシ(英語:Rus')とはロシアの原型を成す古民族名ないし古地名に由来する。ベラルーシが包摂されることに伴う名称変更である。

☆別の可能性
ベラルーシが統合されず、単立の領域圏となる可能性、または単立の領域圏としてロシアと合同領域圏を形成する可能性もある。

 

(16)南コーカサス合同

(ア)成立経緯
アルメニア、ジョージアに、ジョージアから分立するアブハジアが合同して成立する合同領域圏。西アジアに近接した地理的条件から、汎西方アジア域圏の招聘領域圏でもある。一方、南コーカサスに位置しつつも汎西方アジア‐インド洋域圏に属するアゼルバイジャンが招聘領域圏となる。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の3圏である。いずれも統合領域圏である。

○ジョージア
主権国家ジョージアから、南オセチアとアブハジアを除いた領域圏。

アブハジア
ジョージア領内で分離独立状態となっていたアブハジアが正式に分立して成立する領域圏。

○アルメニア
主権国家アルメニアを継承する領域圏。

(ウ)社会経済状況
農業、工業ともに発達したジョージアを軸とする合同共通経済計画が施行される。同じ南コーカサス圏内のアゼルバイジャンとは経済協力協定を締結し、共通経済圏を形成する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、三つの領域圏の都市で輪番開催される、構成領域圏により使用言語が異なるため、合同共通語はエスペラント語。

(オ)特記
アブハジアについて、旧版では他の旧ソ連諸国内の分離独立地域とともに世界共同体直轄自治圏(それぞれの頭文字を取ったアブサップ直轄自治圏)に包摂していたが、改訂版では同自治圏を廃したため、アブハジアを単立の領域圏とした。

☆別の可能性
アルメニアとの関係改善が進展すれば、アゼルバイジャンが当合同に正式に参加する可能性もある。また、可能性は乏しいものの、アブハジアが分立せず、ジョージア領域圏内で高度な自治権を保持する準領域圏として留まる可能性もある。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第41回)

2024-07-18 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(13)北部ヨーロッパ合同

(ア)成立経緯
北欧諸国及びバルト三国がまとまって成立する合同領域圏

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の6圏である。

○デンマーク
主権国家デンマークを継承する統合領域圏。ただし、エスキモー系主体のデンマーク領グリーンランド(カラーリットヌナート)は汎アメリカ‐カリブ域圏内の極北領域圏に統合され、同じくデンマーク領フェロー諸島は言語的に近いアイスランドと統合される。

○スウェーデン
主権国家スウェーデンを継承する統合領域圏

○ノルウェー
主権国家ノルウェーを継承する統合領域圏。世界共同体平和構築センターが所在し、平和学と平和工作の戦略的な拠点となる。世界共同体の飛地禁止原則により、北極圏のスヴァールバル諸島領土は、世界共同体直轄圏に移行する。

○アイスフェロー
主権国家アイスランドとデンマーク領フェロー諸島が統合されて成立する。フェロー諸島は高度の自治権を持つ準領域圏のため、複合領域圏

○フィンランド
主権国家フィンランドを継承する領域圏。スウェーデン系住民の多いオーランド諸島は高度の自治権を持つ準領域圏のため、複合領域圏である。

○バルト
エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト三国が統合され、それぞれが準領域圏として高度の自治権を維持しつつ結成される連合領域圏。連合公用語はエスペラント語。

(ウ)社会経済状況
元来、資本主義時代から北欧を中心に持続可能性を重視する社会経済体制を構築してきた経験を活かし、持続可能的計画経済への移行は円滑に運び、ジャーマニーと並ぶモデル領域圏の一つとなる。アイスフェローは水素利用の先進地として、水素のエネルギー利用に関する先端研究が行なわれる。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の評議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、デンマークのコペンハーゲンに置かれる。合同全体の共通語は、エスペラント語。なお、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーの各君主制は廃されるが、王室は一般公民化されたうえ、王は称号のみの存在して存続する。

(オ)特記
スカンジナビア半島北部ラップランドに居住する先住トナカイ遊牧民サーミ人は主権国家時代には複数の国に分断されて居住し、少数民族として差別されることもあったが、当合同成立後は、地域横断的なサーミ民族自治体を結成し、合同の政策協議会に代表者を派遣する。

☆別の可能性
バルト三国のエストニア・ラトビア・リトアニアが統合されず、それぞれ単立の領域圏として当合同に参加する可能性もある。他方、北欧諸国及びバルト三国が合同することなく、それぞれが別立ての合同領域圏として並立する可能性もある。

 

(14)ポーランド‐ウクライナ合同

(ア)成立経緯
国境を接する主権国家ポーランド及びウクライナが合同して成立する合同領域圏

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の2圏である。

○ポーランド
主権国家ポーランドを継承する統合領域圏

○ウクライナ
旧ソ連から独立した当時のウクライナ共和国領のうち、後述のルーシ(ロシア)に編入されるクリミア半島を除いた残余を領域とする統合領域圏

(ウ)社会経済状況
工業化が進んでいたポーランドの産業基盤と農業地帯であったウクライナ農業基盤をベースとする共通経済計画が導入される。ウクライナの産業基盤は旧ソ連からの独立後の混乱やとロシアとの戦争で疲弊していたが、持続可能的計画経済の下で復興的発展を遂げる。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、ポーランドのワルシャワとウクライナのキエフで交互に開催される。両領域圏で使用言語が異なるため、合同共通語はエスペラント語。

(エ)特記
ロシア系が多く、分離独立運動やロシアの占領にもさらされてきた東部ドンバス地域のロシア系またはロシア語話者住民は、ロシア文化自治共同体を形成して、ウクライナ領域圏民衆会議に一定数の代議員を送ることができる。

☆別の可能性
ポーランド及びウクライナが合同することなく、各々が単立の領域圏となる可能性もある。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第40回)

2024-07-16 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(11)ベネルクス

(ア)成立経緯
主権国家のベルギー、ネザーランド(オランダ)、ルクセンブルクの三国が合併して成立する連合領域圏。三国は従来から強い同盟関係を形成してきたが、これをさらに発展させ、一つの連合にまとめるものである。ただし、三国の単純な合併ではなく、旧オランダの州が各々自治権を持つ準領域圏となり、旧ベルギー領域はフランデレン地域(オランダ語使用地域)とワロン地域(フランス語使用地域)、ブリュッセル大都市圏が準領域圏として分立され、ルクセンブルクはそのまま準領域圏に移行する。なお、旧オランダの海外領土はすべて分立する。

(イ)社会経済状況
主権国家時代から、三国は高い生活水準と先進的な社会政策を共有してきたが、こうした蓄積は共産主義体制の連合形成後も継承される。ただし、小国ゆえに金融立国だったルクセンブルクは貨幣経済の廃止に伴い、主要産業を失うこととなるが、連合を構成する準領域圏として、計画経済により維持される。

(ウ)政治制度
連合民衆会議は、各準領域圏から人口規模で比例した定数抽選された代議員で構成される。連合の政治代表都市は、ハーグに置かれる。多言語のため、連合全体の公用語はエスペラント語。

(エ)特記
連合形成前のベネルクス三国は、いずれも立憲君主制(ルクセンブルクは君主制に準じた大公制)を採用してきたが、連合形成を機に君主制は廃止される。ただし、いずれの王室・公室も一般公民化されたうえ、称号のみの存在として残される。

☆別の可能性
三国が完全に連合せず、各単立の領域圏としてベネルクス合同領域圏を形成する可能性もある。また、旧ベルギーでは、フランデレンとワロン両地域内の各州が準領域圏として再編される可能性もある。

 

(12)ジャーマニー

(ア)成立経緯
主権国家ジャーマニー(ドイツ)を継承する連合領域圏。旧連邦を構成する各州及び都市州(州相当の大都市)が、連合を構成する準領域圏にそのまま移行する。

(イ)社会経済状況
ドイツでは革命前から環境政党・緑の党が強かったこと、東西ドイツ分断時代の旧東ドイツでは計画経済が実施されていた歴史があることなどから、持続可能的計画経済への移行が最もスムーズに運ぶモデル領域圏となる。旧欧州連合内最大の経済大国であった時代を継承し、計画経済下でも汎ヨーロッパ‐シベリア域圏を代表する存在である。20世紀末の東西ドイツ統一以来の懸案であった東西経済格差は、計画経済の導入により解消される。

(ウ)政治制度
連合民衆会議は、各準領域圏から人口規模に比例した定数抽選された代議員で構成される。

(エ)特記
資本主義時代から環境技術で屈指の存在であったジャーマニーには、世界共同体の環境技術開発機構が置かれる。

☆別の可能性
なし。

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弁証法の再生(連載第16回)

2024-07-13 | 〆弁証法の再生
Ⅴ 弁証法の再生に向けて 

(15)自然科学と弁証法
 前回、形式論理学が支配する自然科学分野においても、形式論理学のみではとらえ切れない点があり、弁証法の適用余地があり得ることを指摘したが、その具体例として、量子物理学の分野における「物質と反物質」という現代的なテーマが挙げられる。
 反物質とは、簡単に言えば、反粒子から成る物質である。陽子、中性子、電子から成る物質と、対になる反粒子としての反陽子、反中性子、陽電子から成る反物質が衝突すると、対消滅現象を生じ、質量がエネルギーとして放出される。
 この対消滅現象においては、粒子と反粒子が衝突し、エネルギーが他の粒子に変換される。 例えば、電子と電子の反粒子たる陽電子の衝突では、電子と陽電子がそれぞれの静止エネルギーとそれらの持つ運動エネルギーの和に等しいエネルギーを持つ光子に変換され、γ線として観測される。
 対消滅では運動量が保存されるため、電子と陽電子の対消滅により変換された二つの光子は、均等に分配された静止エネルギーを持つ。このような現象は、まさに対立物が出合い、それらが限定否定されつつ止揚されるという弁証法の定式にあてはまるものである。
 科学史的には、陽電子が未発見だった時代、英国の物理学者ポール・ディラックが、真空という状態について、すべての負エネルギー状態が通常の電子によって占められている状態であると仮定し、負エネルギーの電子が正エネルギー状態に移った後に残る空孔は見かけ上、正の電荷をもった電子のようにふるまうとする「空孔仮説」を立てたが、かかる「空孔」こそ反物質たる陽電子にほかならないことが証明され、より簡明な物質‐反物質の弁証法的定式が可能になったと言える。
 もう一つの事例は、生物学の分野における進化論である。進化とは、生物個体群の性質が世代を経るにつれて変化する現象と定義されるが、この定義のうちには、発達と退化という相反する現象が弁証法的に包摂されている。
 すなわち退化とは、生物の個体発生または系統発生の過程において、特定の器官、組織、細胞、もしくは個体全体が次第に縮小、単純化、時に消失することと定義されるが、進化論との関わりでは、系統発生の過程における退化が想定される。人間の尾の消失が、最も身近な例である。
 このような退化は、人間の脳の発達のように、発達と相伴う形で進化の過程を形成しているのであり、その意味では、進化とは相対立する発達と退化の弁証法的総合であると換言できる。なぜそうであるのかについては、適者生存を説く自然選択(淘汰)説が長く主流であったが、これに対し、進化の偶然性(中立性)を説く木村資生[もとお]の中立進化説が提起された。
 しかし、現代では両理論の対立は緩和され、折衷的な総合説が有力化している。とはいえ、自然選択と偶然性の対立がどのように止揚されるのかついてはまだ確定的とは言えず、ここでの「総合」はより整理された「止揚」の域にはまだ達していない。
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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第39回)

2024-07-09 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(9)フランス

(ア)成立経緯
主権国家時フランスを継承する統合領域圏。ただし、離島のコルシカは分立するほか、帝国主義時代の名残である海外領土もすべて分立するか、周辺領域圏と合併する。先述したように、フランス大統領が共同大公の一人を務めてきたスペイン国境の小国アンドラはスペインから分立するカタルーニャと統合されてカタランドラとなり、スペイン飛地領だった町リヴィアもフランスに編入される。

(イ)社会経済状況
資本主義時代に達成された高水準の多角的な工業化を継承するが、農業分野でも汎ヨーロッパ‐シベリア域圏内ではロシアに次ぐ生産力を擁する。資本主義時代に依存率がトップクラスだった原子力発電は、世界共同体の原発廃止政策に沿って、廃炉作業が長期進行していく。

(ウ)政治制度
中央集権制の強かった主権国家時代からの伝統を引き継ぎ、統合型領域圏であるが、民衆会議制度の下、広域地方行政体である地方圏の自治権が強化され、地方自治の拡大が実現する。スペインから編入のリヴィアは特別地方圏として、最も高度な自治権が保障される。

(エ)特記
旧版では、フランスに接する小国モナコをフランスに統合していたが、モナコの独自性を考慮し、単立の領域圏としたうえ、環西地中海合同領域圏に包摂した。

☆別の可能性
可能性は高くないが、分権化を一層進めて連合領域圏となる可能性がある。また、コルシカが分立せず、フランスに留まる可能性もある。

 

(10)ブリティッシュ‐チャンネル諸島合同

(ア)成立経緯
グレートブリテン・北アイルランド連合王国を構成した邦のうちイングランド、スコットランド、ウェールズに、主権国家アイルランドが加わって成立する合同領域圏。英王室属領のマン島とチャンネル諸島、連合王国構成主体の北アイルランドは合同直轄自治域となる。旧連合王国時代に保有していた海外領土はすべて分立し、もしくは他領域圏や世界共同体直轄圏に編入され、消滅する。なお、英国及びその旧植民地諸国を中心とする緩やかな国家連合であった英連邦も世界共同体の設立を機に解体される。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の4圏である。いずれも統合領域圏である。

アイルランド
主権国家アイルランドを継承する領域圏。

スコットランド
スコットランドを継承する領域圏

ウェールズ
ウェールズを継承する領域圏。

イングランド
イングランドを継承する領域圏。

(ウ)社会経済状況
旧連合王国の産業基盤をベースに、アイルランドの農業を加味した共通経済政策が施行される。連合王国の貴族制度は世襲か一代限りかを問わず全廃され、階級社会は消滅する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏及び合同直轄自治域の民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、エディンバラに置かれる。旧連合王国時代の君主制は廃止されるが、英王室は革命後も全廃されず、称号のみの存在として残される。居城は連合民衆会議の所有管理下に置かれ、王や王族も一般公民として職に就く。カトリックとプロテスタントの宗教紛争が根強い北アイルランドでは、南部レバントの方式にならい、カトリック系とプロテスタント系はそれぞれ固有の自治体を持ち、両自治体間の共通政策を協議する調整委員会が常置されるとともに、合同管轄の紛争調停機関として北アイルランド高等評議会も常設される。

(オ)特記
旧版では、ケルト系のアイルランド、北アイルランド、スコットランドでケルティック合同領域圏を想定し、イングランドとウェールズ及びマンをサウスブリテン領域圏、チャンネル諸島を世界共同体直轄自治圏としたが、補訂版では連合王国の四つの構成主体をそれぞれ分立させたうえ、アイルランドを含むブリティッシュ諸島とチャンネル諸島を包摂する合同に整理した。

☆別の可能性
グレートブリテン・北アイルランド連合王国がそのままの構成で連合領域圏に移行する可能性もある。また、君主制廃止に伴い、英王室属領のマン島とチャンネル諸島が世界共同体直轄自治圏を選択する可能性もある。

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弁証法の再生(連載第15回)

2024-07-07 | 〆弁証法の再生

Ⅴ 弁証法の再生に向けて

(14)弁証法の位置づけ
 現代は「科学の時代」と言われ、科学的思考が強調される反面、人間の思考を長く支配した哲学的思考は廃れていく傾向にあるが、弁証法は形式論理学と並び、科学的思考法の基礎を成す一個の哲学的方法論であり、言わば「科学哲学」の方法論である。そのようなものとして、弁証法の再生を考えていく。
 弁証法を再生させるに当たり、思考方法論におけるその位置づけについて考慮しておく必要がある。その際、今日、科学的思考法の基礎として定着している形式論理学との関係において、位置づけを見定める。なぜなら、弁証法は形式論理学と互いに排斥し合う関係にないからである。
 弁証法は形式論理学とは異なるとはいえ、形式論理を無視した非論理的・直観的思考によるのではなく、形式論理を踏まえながらも、より事物の実質的な価値に即した思考をする点で、実質論理学とも呼べるものである。その点で、弁証法は形式論理学のような明証性に欠けるきらいはあるが、それゆえに形式論理学より下位に落ちるわけではない。
 形式論理学は、三段論法に代表されるような形式論理によって結論を導く際の最も合理的な思考方法であり、その最も純粋な形態は数学に現れる。形式論理学は、数学を基盤とする数理的思考になじみやすい。そのため、数理的思考を基礎とする自然科学全般の思考的土台となる。
 しかし、自然現象も数理的思考だけではとらえ切れない。その困難さは量子物理学のようなミクロな世界に至るほどに増し、弁証法的思考を要する場面が増す。また、自然科学の中でも特に複雑な生命現象を扱う生命科学も、数理的思考の独壇場ではない。そうした自然科学における弁証法の適用領域に関しては、次節で改めて検討を加えることにする。
 ところで、今日、科学と言った場合、自然科学のほかに、社会科学という比較的後発の科学分野がある。社会科学は、社会性生物である人類の社会に関する科学的な探求を目的とする学術分野であるが、人類社会という人工物の諸原理を解明するには、形式論理学だけでは不足である。
 人類社会といえども、自然法則の支配を免れることはできないが、人類社会においては、しばしば形式論理を越えた価値命題が介在して、数理的思考だけでは解決できない諸問題を惹起することがある。ここに、弁証法の最大の出番がある。もっとも、社会科学的思考においても、データや数式を用いるに際しては形式論理学が適用されるが、それは手段的な意義にとどまる。
 また、地球環境科学のように、自然科学と社会科学の双方に融合的にまたがり、それ自体が弁証法的な止揚の産物でもあるような総合科学も今日、重要性を増してきているが、このような文理総合科学の分野にあっては、方法論的にも形式論理学と弁証法が総合的に適用されることになる。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第38回)

2024-07-04 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(8)イベリア合同

(ア)成立経緯
主権国家スペインから独自性の強いカタルーニャ、バスク、ガリシアが分立し、残余はイスパニアとして再編されたうえ、英領から編入されるジブラルタル及びポルトガルが合同して成立する合同領域圏。カタルーニャは象徴的ながらフランス大統領及びカタルーニャのウルヘル司教が共同大公を務める隣接の主権国家アンドラと統合される。一方、北アフリカのスペイン領自治都市セウタとメリリャは汎アフリカ‐南大西洋域圏のモロッコに編入される。合同には現ポルトガル領アソーレス、マデイラと現スペイン領カナリアの大西洋諸島直轄自治域も含む。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の6圏である。

○カタランドラ
スペインのカタルーニャ州と隣接するカタルーニャ系小国アンドラが合併して成立する。アンドラの共同大公制は廃止される。アンドラは準領域圏として高度の自治権を保持するため、複合領域圏。カタルーニャ州飛地のリヴィアは飛び地禁止原則によりフランスに編入される。

○イスパニア
スペインからカタルーニャ、バスク、ガリシアを除いた領域で再編される統合領域圏。スペイン王室(ボルボン家)は称号のみの存在となる。

ジブラルタル
英領植民地から自立して成立する都市領域圏

ポルトガル
主権国家ポルトガルを継承する統合領域圏

○ガリシア
スペインのガリシア州が分立して成立する統合領域圏

○バスク
スペインのバスク州が分立して成立する統合領域圏

(ウ)社会経済状況
旧スペイン時代の経済基盤を維持するカタランドラとイスパニアを軸とする共通経済計画が施行される。資本主義時代は遅れがちであったポルトガルも合同に参加することで、共産主義的発展を享受する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏及び大西洋諸島直轄自治域の各民衆会議及びから選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会はジブラルタルに置かれる。

(オ)特記
旧版ではジブラルタルをイスパニアに編入していたが、長年の英領化により英語圏に含まれているため、単立の都市領域圏とした。

☆別の可能性
スペインが解体されず、現行のまま連合領域圏となる可能性もある。その場合、アンドラが単独の準領域圏として、またはカタルーニャと統合されて連合に参加する可能性、あるいは世界共同体直轄自治圏を選択して合同に参加しない可能性もある。また、ジブラルタルが世界共同体直轄自治圏を選択して合同に参加しない可能性もなくはない。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第37回)

2024-07-01 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(6)イタリア‐サンマリノ

(ア)成立経緯
主権国家イタリアとイタリア半島内陸の小国サン・マリノが合併して再編される複合領域圏。ただし、イタリア離島部のシチリアとサルデーニャは単立の領域圏として分立し、次項の環西地中海合同領域圏に加入する。またスイス領内の飛地カンピョーネ・ディターリアも前出スイシュタイン領域圏に編入される。 

(イ)社会経済状況
資本主義時代の工業化の成果が持続可能的計画経済に継承される。深刻だったイタリア半島の南北間格差は、貨幣経済を廃した共産主義計画経済の導入によって解消される。もっとも、南部は依然として農業が主軸であり、産業種別上の南北相違は残される。資本主義時代のイタリア経済の影の柱であった地下経済は貨幣経済の廃止に伴い消滅するが、もう一つの宿痾である汚職問題については、反汚職オンブズマンの設置により、防止と摘発体制が強化される。

(ウ)政治制度
複合領域圏のため、主権国家時代のイタリアの州を継承する地方圏と、イタリアの特別州にサン・マリノを加えた複数の準領域圏から混成される。準領域圏は特別州以上に高度な自治権を持つ。全土民衆会議は、各地方圏及び準領域圏から人口に比例した定数抽選された代議員で構成される。加えて、準領域圏には各一名ずつ追加議席が与えられる。

(エ)特記
19世紀のイタリア統一以来、イタリアの一部であったシチリアとサルデーニャの両離島の分離をめぐっては議論があり得る。特にサルデーニャはまさにイタリア統一運動の中心であったことから、島内でも議論は分かれるであろうが、両島ともイタリア本土とは異なる歴史文化と言語を持つ独自の地域であることから、世界共同体の創設に当たり、分立を果たす。

☆別の可能性
4世紀の建国と伝わり、独立気風の強いサン・マリノはイタリアに統合されず、世界共同体直轄自治圏の道を選択する可能性もある。

 

(7)環西地中海合同

(ア)成立経緯
西地中海に点在する離島領域圏であるマルタ、シチリア、サルデーニャ、コルシカに、加え、沿岸小国モナコが合同して成立する合同領域圏。このうちシチリア、サルデーニャは上記のとおりイタリアから、コルシカはフランスから分立する。イタリア‐サンマリノも招聘領域圏として参加する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の5圏である。いずれも統合領域圏である。

○マルタ
主権国家マルタを継承する領域圏。

○シチリア
イタリアのシチリア自治州から分立する領域圏。

○サルデーニャ
イタリアのサルデーニャ自治州から分立する領域圏。

○コルシカ
フランスのコルシカ地域圏(コルス地方公共団体)から分立する領域圏。

モナコ
主権国家モナコを継承する領域圏。大公制(準君主制)は廃止され、大公は称号のみの存在となる。

(ウ)社会経済状況
イタリア時代から多角的産業化が進んだサルデーニャを主軸に、農業はシチリアを軸とする共通計画経済計画が施行される。また、モナコを軸に環境的に持続可能な観光計画も計画経済に取り込まれる。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、マルタのバレッタに置かれる。5圏で言語が異なるため、合同の第一公用語はエスペラント語だが、域内で通じやすいイタリア語に加え、フランス語も準公用語に指定される。

(オ)特記
旧版では「環地中海合同領域圏」としていたが、当合同の地理的範囲は西地中海域に限局されるため、掲記の名称とした。

☆別の可能性
そもそも当合同が形成されず、マルタとモナコ以外は現行どおり、イタリアまたはフランスに留まる可能性もある。その場合、マルタとモナコは単立の領域圏か世界共同体直轄自治圏のいずれかとなる。

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