ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

共産法の体系[新訂版]・総目次

2020-06-13 | 〆共産法の体系[新訂版]

本連載は終了致しました。下記目次各「ページ」(リンク)より全記事をご覧いただけます。


新訂版まえがき&序言
 ページ1

第1章 共産主義と法

(1)共産される法 ページ2
(2)法の生産方法 ページ3
(3)法の活用① ページ
(4)法の活用② ページ5
(5)交換法から配分法へ ページ6
(6)重層的法体系
 ページ7

第2章 民衆会議憲章

(1)国憲から民憲へ ページ8
(2)憲章の統一的構造 ページ9
(3)民衆会議憲章の内容① ページ10
(4)民衆会議憲章の内容② ページ11
(5)民衆会議憲章の内容③ ページ12
(6)憲章の解釈と適用 ページ12a

第3章 環境法の体系

(1)環境法の位置づけ ページ13
(2)世界地球環境法の根本理念 
ページ14
(3)世界地球環境法の基本原則 ページ15
(4)統一環境法典 ページ16
(5)環境法の執行 ページ17

第4章 経済法の体系

(1)共産主義的経済法の意義 ページ18
(2)経済計画法① ページ19
(3)経済計画法② ページ20
(4)企業組織法 ページ21
(5)労働関係法 ページ22
(6)土地管理法 ページ23

第5章 市民法の体系

(1)共産主義的市民法の内容 ページ24
(2)市民権法①
 ページ25
(3)市民権法②
 ページ26
(4)財産権法①
 ページ27
(5)財産権法② ページ28

第6章 犯則法の体系

(1)刑法から犯則法へ ページ29
(2)犯則行為の成立 ページ30
(3)犯則行為の種類 ページ31
(4)矯正処遇の諸制度①
 ページ32
(5)矯正処遇の諸制度② ページ33
(6)少年処遇の諸制度③ ページ34

第7章 争訟法の体系

(1)共産主義的争訟法 ページ35
(2)市民司法 ページ36
(3)経済司法 ページ37
(4)犯則司法① ページ38
(5)犯則司法② ページ39
(6)護民司法 ページ40
(7)弾劾司法 ページ41
(8)法令司法 ページ42

第8章 法曹法の概要

(1)法務士と公証人 ページ43
(2)法曹の独立性 ページ42
(3)司法人工知能 ページ43
(4)公的法務職域 ページ44
(5)私的法務職域 ページ45

コメント

共産法の体系(連載最終回)

2020-06-12 | 〆共産法の体系[新訂版]

第8章 法曹法

(5)私的法務職域
 
共産主義的法曹の在野における活動分野である私的法務職域には大別して、独立開業法務士と企業体等私的団体における法務部署の勤務法務士とがある。
 前者の独立開業法務士は私的法務職域の最も典型的な形態ではあるが、資本主義社会における独立開業法曹とは内実が相当に異なる。
 貨幣経済が存在しない共産主義社会においては、法律業務によって貨幣収入を得るという行為自体が成立しないため、法律業務も無償サービスとなる。従って、法律事務所は公益奉仕的な性格の強いものとなり、ビジネスとしてのロー・ファーム(法務企業)は存在しない。
 
 そのうえ、基本的に裁判所制度も存在しないから、弾劾司法の分野を除いては訴訟代理業務もほとんどないことになる。その代わり、いくつかの司法手続きにおいて、弁務人または補佐人としての法的地位を専業的に独占する。

○弁務人:各種の審問・弁論手続きにおいて、当事者を代理し、有益な弁明・弁論を行なう。
○付添人:犯則法関連の聴取・取調べや矯正保護委員会の審査等に同席助力し、当事者の権利を擁護する。

 なお、共産主義的法曹は、その独立性原則から、特定の個人や団体に対して専属的に常時有利な法的助言を行なうことで依頼者への従属関係を生む法律顧問業務も禁じられるため、法律顧問という地位は認められない。
 他方、勤務法務士は企業体等の私的団体の法務部署に所属して当該団体の法律事務を取り扱う専門職員であるが、同時に法曹としての独立性も保持する。従って、職員としての一般的な職務忠実義務は負うものの、法的判断に関しては外部はもちろん、団体の経営陣その他内部の他部署からも干渉されない。

コメント

共産法の体系(連載第46回)

2020-06-11 | 〆共産法の体系[新訂版]

第8章 法曹法

(4)公的法務職域
 
共産主義的法曹制度の全体像をより明確にするため、本節及び次節では、法曹の具体的な職域について、その概要を述べる。本節で見るのは公務員としての公的法務職域である。
 この領域に属する法曹の代表例は、司法職である。司法職と言えば、裁判所制度下ではほぼ裁判官を指すが、原則的に裁判所制度を持たない共産主義的司法制度下では、下掲のような個別的な役割を担う司法職の総称である。
 これらの司法職はいずれも法曹共通資格であるところの法務士のうち、法務士職能団体の司法職候補者名簿に登載された者の中から、所定の手続きを経て、いずれかの圏域の民衆会議により任期を区切って任命され、個別の選抜試験等による官僚的な任用制にはよらない。

○衡平委員:市民法に関わる紛争の調停
○真実委員:犯則事件の真相解明

○護民監:基本的人権・市民的自由の擁護

○民衆会議法理委員会判事委員:有権的法令解釈
○民衆会議憲章委員会判事委員:有権的憲章解釈

○弾劾法廷検事及び判事:公職者・公務員等の弾劾裁判

 ところで、裁判所制度を持たない共産主義社会で比重を増す公証人も公務員であるが、司法機能そのものを担う司法職には含まれない。公証人は独立して事務所を構える公的法務職域の特例的な職能である。
 さらに、民衆会議法制局やその他の民衆会議所管機関の内部部局として設置される法務部署のスタッフも法務士または法務士補から任用される法務事務職として、公的法務職域に属する。
 これらの法務事務職も司法職には含まれないが、法曹の独立原則からその職務は部署外からの干渉に対して守られねばならない。

コメント

共産法の体系(連載第45回)

2020-06-06 | 〆共産法の体系[新訂版]

第8章 法曹法の概要

(3)司法人工知能
 見てきたように、共産主義的司法制度は弾劾司法の分野を除けば、裁判所という伝統的な司法制度によらないので、裁判の先例、いわゆる判例の集積が得られない。とはいえ、各分野の司法機関が示す先例の蓄積というものはあって、それらが判例に匹敵する役割を果たす。
 しかし、そうした司法先例はもやは紙書籍の判例集のような形態では記録されず、それらは専用の人工知能に記憶される仕組みが導入される。これを「司法人工知能」と呼ぶことができる。
 一般的に、人工知能が実用投入される場合、その機能には記憶された膨大なデータを必要に応じて抽出する参照機能、特定の事例について解決法を質問し、妥当な回答を得る諮問機能、さらに特定の案件について判断を下す決定機能を区別することができる。
 このうち司法人工知能が持つのは、参照機能と諮問機能だけであって、決定機能を持たせてはならない。すなわち、司法的決定はあくまでも人間たる法曹が独立して行うのであり、決定を人工知能に委任することは許されない。言い換えれば、前回見た「法曹の独立」テーゼは、人工知能からの独立にも及ぶものである。
 司法人工知能の参照機能は、言わば判例集に匹敵するような機能であり、人工知能が記憶するあらゆる司法先例を法曹が参照し、利用できるようにする機能である。この参照機能は、一般市民にもアクセス権が認められ、司法先例に関する情報公開の意義も持つことになる。
 一方、司法人工知能の諮問機能は、法曹が職務を行うに際して、担当する事案の先例に基づく妥当な解決例を諮問し、人工知能が回答する機能である。司法的解決を求められる事案は過去の同種事案の先例に沿った解決をすることが法的な平等性と安定性に資するため、法曹はまず司法人工知能の諮問機能を利用して、その回答を得ることが望ましい。
 従って、このような司法人工知能の諮問機能は現職の法曹にのみアクセス権が認められ、一般市民によるアクセスは原則的に制限される。ただし、前出法学院の学生が学習目的でアクセスする権限は認められてよい。
 この諮問機能は、人工知能が人間たる法曹になり代わって判断を下すことを意味しないこと、すなわち人工知能に決定権能はないことを改めて確認しなければならない。
  従って、人工知能の回答はあくまでも諮問への答申であって、拘束性はないから、法曹が最終的に判断を下すに当たって、司法人工知能の回答と異なる判断を下すことは何ら問題とならない。
 以上のような司法人工知能の機能と運用に関する詳細は、それ自体も法曹法の一環を成す専用の法律によって明確な規定として定められなければならない。
 なお、人工知能も民衆会議により民主的に管理され、悪用や自立的暴走から防護される必要があるので、各領域圏の全土民衆会議の下に、公的分野に投入される人工知能を統一的に管理する人工知能管理センターが設置される。司法人工知能も、同センターによって管理される。

コメント

共産法の体系(連載第44回)

2020-06-05 | 〆共産法の体系[新訂版]

第8章 法曹法の概要

(2)法曹の独立性
 共産主義的社会運営機構は古典的な三権分立体制を脱し、全権力が民衆代表機関としての民衆会議に統合される。従って、司法権も民衆会議から離れてはあり得ず、「司法の独立」といった古典的な概念も妥当しない。
 とはいえ、司法権が外部から介入を受け、特定の個人や団体、社会集団の利益に奉仕するような偏向を来たしてはならず、中立性を高度に保持すべきことは司法の普遍的な鉄則である。この鉄則を実現するため、共産主義的司法制度にあっては、司法を担う法曹の独立性が保障される。
 「法曹の独立性」とは、前回見た法務士と公証人という二種の法曹がその職務遂行上、外部から干渉されることなく、独立して判断することを意味する。法務士は種々の司法職の人的給源ともなるが、司法職に就いている間はもちろん、民間で私的な法律業務に従事している間も独立性を保障される。
 例えば、企業体の法務部署に勤務する法務士であっても、その業務遂行に当たり、他の内部機関・部署から介入を受けることはない。そうした独立性が保障される結果、経営陣の指示によって企業内法務士が不正の法的隠蔽を図るような企業ぐるみの不正工作を防止することができる。
 また、法務士が特定個人や企業その他の団体の法律顧問として専属することは認められない。こうした専属的法律業務は、依頼者との継続的な互恵関係ゆえに法曹の独立性を保持できないからである。個人も企業その他の団体も、何らかの法的助言を得たければ、そのつど法務士に相談、依頼することになる。
 一方、法務士が私的に経営する法律事務所や公証人が詰める公証役場は捜査機関等の法執行機関による安易な捜索押収を受けない権利が保障される。捜査の必要上、それらの場所で捜索押収するときは、人身保護監が発付する特別な授権令状を要する。
 さらに、法曹は身分保障という点でも特別な処遇を受ける。各種司法職にある間、その罷免やその他の懲戒処分は民衆会議弾劾法廷の判決によらなければならない。また民間にある間も、法務士や公証人の懲戒処分はその職能団体のみが行なうことができる。
 法曹の職能団体は法に基づいて高度な自治権を保障され、その内部運営に関しては、民衆会議を含む外部からの監督・干渉を受けることはない。ただし、準公的な団体として、一般護民監の監査対象となることはあり得る。

コメント

共産法の体系(連載第43回)

2020-06-03 | 〆共産法の体系[新訂版]

第8章 法曹法の概要

(1)法務士と公証人
 法とそれを適用して種々の争訟を解決する司法の運用に当たっては、法律事務や司法職務を専業とする法律専門家(法曹)という担い手の存在が不可欠である。後に述べるように、司法分野における人工知能の活用も推進されるが、人工知能を運用するのもまた、人間たる法曹にほかならない。
 法曹の資格や職務権限などを定める統一的な法律が存在するわけではないが、本章では、法曹に関する定めが置かれる諸法を「法曹法」と総称して、その概要を見ていくことにする。
 弾劾司法の分野を除いて、基本的に裁判所という伝統的制度によらない共産主義的司法制度の下では、法曹のあり方も資本主義社会のそれとは大きく異なってくる。裁判所制度が存在しないことにより、当然ながら裁判官という職務は存在せず、また刑事事件を中心に国側代理人として法廷に立つ検察官の職務も存在しなくなる。
 一方、民間にあって法律事務を専業とする法律家は不可欠であるが、その任務の中心は法廷弁論ではなくなるので、弁護士というよりは法務士という新たな専門職に純化される。
 そのうえで、これまでに見た衡平委員や真実委員、護民監その他の司法職は、法務士の中から所定の手続きにより任命されることになる。その意味で、法務士はあらゆる司法職の統一的な人的給源となる。
 他方、裁判所制度が存在しないことにより、公的証明を専業的に行なう公証人の任務が重要となる。古い歴史を持つ公証人は契約その他の法律関係を証明する公正証書を作成し、法的紛争を未然に防止するうえで決定的な役割を負うため、法務士と並ぶ第二の法曹として、改めて明確な位置づけを与えられる。
 これら法務士と公証人を併せた法曹の養成は、高度専門職学院の一つである法学院を通じてのみ行われる。すなわち法学院を修了し、法務士または公証人の資格試験に合格して初めて法曹として合法的に業務を行なうことができることになる。
 ただし、最終的に法務士となるには、二段階にわたる法務士試験の初級段階に合格してまずは法務士補となる必要がある。法務士補の業務は後に述べる企業等の法務部署等の私的法務職域のほか、公的法務職域の補助職に限られ、法務士としての業務を単独で行なうことはできない。
 いさかか迂遠ではあるが、法務士補として所定の年数の経験を積んだうえで、最終試験に合格すると、正式の法務士となる仕組みである。共産主義社会では、全般的に専門職も一回的な試験だけで終身間地位が保障される特権ではなく、徒弟制的なプロセスで養成されていくことの反映である。

コメント

共産法の体系(連載第42回)

2020-05-30 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(8)法令司法
 法令司法は、司法各部で法令を適用するに際して生ずる法解釈上の争点を解決する法律審を行なう司法である。民衆会議制度の下では、法令の解釈は法令を制定した民衆会議自身が有権的に示すことにより、民主主義が徹底される。
 法令司法の中でも、最高法規たる民衆会議憲章(以下、単に憲章という)の解釈に関わる違憲審査と、憲章以外の一般法令の解釈に関わる法令審査は区別される。違憲審査は、各圏域民衆会議に設置される憲章委員会が担い、法令審査は各圏域民衆会議に設置される法理委員会が担う。
 両委員会は、民衆会議の常任委員会であると同時に、法令司法権も行使するという二重の役割を持つ。従って、憲章委員会の委員は憲章そのものの改正発議に関わる一般代議員のほかに、法律家から任命され、専ら違憲審査を担う特別代議員(判事委員)を擁し、法理委員会は全員が法律家たる特別代議員(判事委員)で占められる(特別代議員の地位については拙稿参照)。
 前回まで見た各司法分野における司法機関はそれぞれ担当する案件を処理するに当たり、憲章をはじめとする法令の解釈を迫られる場合もあり得るが、そうした場合、第一次的には自ら法解釈を示す権限を持つ。その法解釈に基づく審決に不服のある当事者は、上記の各委員会へ法令不服審査を請求することができる。
 請求を受けた委員会では、第一次的な法解釈の妥当性を審査し、これを是認するか否かを決する。是認しない場合は、委員会としての解釈を審決したうえで事件を差し戻す。差し戻しを受けた司法機関は、改めて委員会の示した解釈を前提として処理をし直さなければならない。
 ところで、憲章は世界共同体憲章を究極的な統一法源とするため、領域圏憲章(例えば日本領域圏憲章)に関して示された民衆会議憲章委員会の解釈が世界共同体憲章に違反している疑いがある場合、不服の当事者は世界共同体憲章理事会に海を越えた民際上告をすることができる。
 同理事会は、世界共同体憲章の解釈に関する最終的かつ唯一の司法機関である。その審決は、世界共同体を構成する各領域圏すべてを等しく拘束する世界共通の先例として領域圏の法令司法機関もこれを前提とした審理を義務づけられることになる。

コメント

共産法の体系(連載第41回)

2020-05-29 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(7)弾劾司法
  
弾劾司法は公務員や公務員に準ずる公職者の汚職、職権乱用等の職務上の犯則行為を審理する特別な司法分野である。これは基本的に裁判という制度によらない共産主義的司法体系にあって、唯一裁判の形式による例外司法である。
 弾劾司法に属する裁判機関としては、民衆会議の現職代議員及び民衆会議が直任する公務員の犯則行為を審理する民衆会議弾劾法廷のほか、公務員及び公務員に準じる公職者による職務上の人権侵害事案を審理する特殊な弾劾法廷としての特別人権法廷、民衆会議が直任しない公務員及び公務員に準じる公職者の汚職事案を審理する公務員等汚職弾劾審判所がある。
 このうち、民衆会議弾劾法廷と特別人権法廷は事案ごとに設置される非常置の裁判機関であるが、公務員等汚職弾劾審判所は常設裁判機関である。
 裁判機関といっても、刑罰制度は存在しないから、有責と認められた者に科せられる制裁の中心は罷免であり、情状に応じて公民権の有期もしくは無期の停止または永久剥奪という処分が併科される。公民権が停止・剥奪されると、およそあらゆる公職に就くことができなくなる。

 民衆会議弾劾法廷は、領域圏及び領域圏内の各圏域すべての民衆会議にそのつど設置される特別法廷である。その第一の対象は民衆会議代議員であるが、民衆会議が直任する公職者の中でも中立性確保のため身分保障が強く求められる各種の司法職が第二の対象範囲である。その他の民衆会議直任職がそれに続く。
 民衆会議弾劾法廷は裁判の形式を取るため、刑事裁判に準じた起訴の手続きによって開始される。そのために検事団が任命されるが、その前に民衆会議弾劾委員会が予備調査を行い、弾劾法廷を設置する必要性の有無を議決する。
 弾劾法廷が設置されると、任命された検事団は、必要があれば人身保護監から令状を得て各種の強制捜査を実施する権限を有するが、被疑者に対する長期間の身柄拘束を行なう権限は持たない。被疑者や証人聴取のための勾引が限度である。
 捜査を遂げた検事団が起訴を決定すると、判事団が任命される。判事団は、法律家及び2名の民衆会議代議員で構成され、起訴事実に関して審理し、判決する。検事団の立証行為に対抗し、被告人は反論反証する権利を保障されるが、判決に対して控訴することはできず、一審限りで終結する。
 民衆会議弾劾法廷の対象外の公務員等の汚職事案は、常設の公務員等汚職弾劾審判所で審理される。常設裁判機関であるため、審判所検事局は、予備調査を経ず、直接に被疑者を起訴できる。公務員等汚職弾劾審判所の審判は法律家たる判事と民衆会議代議員免許を有する2名の市民参審員で構成される。
 一方、特別人権法廷の対象となるのは、主として市民に対して強制権力を行使する立場にある公務員等である。法廷の設置は、公務員による人権侵害を訴える市民の請求を受け、人身保護監が決定する。
 非常置である点を除けば、審判の手続き的な流れは公務員等汚職弾劾審判に似るが、審理の結果、反社会性が強く、一般の犯則行為者に準じて矯正処遇を要すると判断された場合は、有責者を矯正保護委員会に送致する。

コメント

共産法の体系(連載第40回)

2020-05-23 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(6)護民司法
 護民司法は、基本的人権・市民的権利の擁護を主任務とする司法分野である。しかし、統一的な組織は持たず、一般護民監と個別の専門分野ごとに任命される専門護民監がそれぞれ単独で、各自所掌する事案の解決に当たる。
 また、各護民監は、当事者の請求によることなく、自身が独自に認知した問題事案に対して強制調査権を行使し、是正のための措置を取ることができる点で、護民司法は受動的な紛争解決を超えた能動性を持つ点に特色がある。
 護民監は、いずれも司法作用を担うからには、証人の召喚・聴取や各種証拠の提出命令などを発する司法的権限を有し、命令違反者は司法侮辱の犯則に問われる。
 また、護民監は司法作用として終局的な審決ないし決定を発することができる。護民監の審決は遵守違反に対して司法侮辱の制裁を科せられる是正命令という形で示される。ただし、審決に至らず、強制力のない是正勧告で終了させることもできる。
 
 一般護民監は最も広範囲な権限を有する護民監であり、各圏域の民衆会議によって任命され、各民衆会議管轄下のあらゆる法権力機関を対象とし、法令適用・法執行をめぐる不服・紛争の解決及び法令順守の監査にも当たる。
 一般護民監の任務は個人の権利の擁護とともに、それを超えて法権力機関やその他の公的組織体に対する監察を通じた公正な社会の保持という公益にも及ぶものとなる。
 さらに、一般護民監は、以下の各専門護民監の決定ないし審決に対する不服審判を担当する上級審の役割も担う。
 一般護民監は常に複数任命されるが、その職権行使は各自単独で、かつ民衆会議からも独立して行なう。
 
 一方、専門護民監として最も主要なものは、人身保護監である。これは人身保護に専従する護民監職ゆえに、名称を人身保護監とする。
 その最も重要な任務は犯則司法の分野で、身柄拘束令状や捜索差押令状、通信傍受、監視撮影等の監視令状等各種の強制捜査令状の発付とそれに付随する被疑者の権利擁護、さらに前回見た真実委員会の招集や再審議請求などである。
 それ以外にも、私的か公的かを問わず、不法・不当な拘束状態にある人やその親族、第三者の請求に応じ、人身保護令状を発して直接に身柄を解放する任務も持つ。
 人身保護監は広域自治体である地方圏(連合型の場合は、準領域圏)の民衆会議が地域ごとに管轄を定めて任命するが、その職権行使は常に単独で、かつ民衆会議からも独立して行なう。

 その他の専門護民監職の例を挙げると、次のようである。

〇情報護民監
 これは、公私を問わず、個人情報を蓄積する組織における個人情報の扱いをめぐる不服・紛争の処理や問題事案の調査・是正に当たる護民監職である。

〇労働護民監
 これは、労働基本権の擁護に特化した護民監職である。職場における各種のハラスメント事案の解決にも当たる。ただし、企業体の場合は、護民監への跳躍出訴が認められるハラスメントの事案を除き、企業内の労働仲裁委員会で解決できなかった事案に限り、当事者の請求に基づいて介入し、紛争解決に当たる二段階制を採る(拙稿参照)。

〇反差別護民監
 これは、個人または集団が引き起こす各種の差別事案に対応し、被差別当事者の救済と差別解消を図る護民監職である。

〇子ども弁務監
 これは、未成年者の権利擁護に特化した護民監職である。いじめを含め、子どもの人権全般に関する紛争解決を担う。権利主張が未熟な子どもを代弁するという趣意から、名称を「弁務監」とする。

 なお、これらの専門護民監はいずれも中間自治体(郡)及び大都市ごとにそれぞれの民衆会議によって任命されるが、職権公使は単独で、かつ民衆会議からも独立して行なう。

:人身保護監を除く専門護民監の制度は、上掲の代表的な制度以外にも、実情に応じて個別の分野ごとに新設することができ、そうした新設あるいは統廃合は各圏域民衆会議の政策に委ねられる。

コメント

共産法の体系(連載第39回)

2020-05-21 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(5)犯則司法②
 前回も触れたように、捜査が終了した後、被疑者が被疑事実を争う意思を表明した場合、事実解明のプロセスは、事実の解明のみに特化した司法機関である真実委員会に託される。
 真実委員会は法律家2名(うち1名は委員長)、法律以外を専攻する有識者1名及び民衆会議の代議員免許を有する一般市民代表2名の計5名で構成される合議体であり、人身保護監の請求に基づきそのつど招集される非常設機関である。
 真実委員会の審議開始前には、証拠関係を整理する予備調査が行なわれる。予備調査員は捜査機関から送致された証拠を検分し、適法性が確認された適格証拠のみを整理して真実委員会に提出する。その際、予備調査員は必要に応じて被疑者・証人等の関係者を召喚聴取することができる。
 真実委員会は罪人を裁く裁判制度ではなく、純粋に事件真相を解明するための制度であるから、訴追専門職としての公訴官(検察官)は存在せず、被疑者も被告発者たる「被告人」とはならず、プロセスの過程を通じて「被疑者」のままである。
 よって真実委員会の審議は刑事裁判に見られるような当事者間での主張立証の応酬にはならず、提出された証拠に基づき事実関係を再構築することに重点が置かれる。そこでは、被疑者も、真実委員会の審議の必要に応じて一個の証人として召喚・聴取されるにすぎない。
 ただし、被疑者を含むすべての証人は真実委員会による召喚・聴取に際して、法曹資格を有する弁務人を付けて、証言の補佐を依頼することができるが、弁務人が代わって証言することはできない。
 真実委員会の審議は原則として公開されるが、少年事件の場合はその親族や被害者のほか、第三者から選ばれる独立傍聴人を含む当事者限定公開とする。
 審議を終了した真実委員会は、解明された事実関係を示す審決を発する。これは刑事裁判の判決に相当するが、「有罪」「無罪」という形式で示されるのではなく、事案の真相を詳述する報告書の体裁で記述的に提示される。従って、被疑者が真犯人と確証できない場合は、「無罪」ではなく、犯行者不詳として記述される。
 真実委員会の審決に不服のある被疑者は人身保護監に対し、再審議を請求することができる。この場合、第一次真実委員会とは全く別個のメンバーによる第二次審議が行われるが、そこでの結論のいかんを問わず、第三審を求めることはできない。
 
 被疑者を真実の犯行者と認定する真実委員会の審決が確定した場合、引き続いて犯則行為者の処遇を決定する矯正保護委員会へ送致される。
 この委員会は矯正保護の専門家のみで構成された常設機関であり、犯行者の犯行内容や犯歴、人格特性、心身の病歴などを科学的に審査した上で、最適の処遇を決定する。少年事件の場合は、少年問題の専門家で構成された矯正保護委員会少年分科会が特別に審査する。
 矯正保護委員会の審議は非公開で行なわれるが、被審人は法律家または矯正保護に関する専門知識を有する有識者を付添人として補佐させることができる。
 矯正保護委員会の決定に不服のある被審人は、矯正保護委員会の控訴審に相当する中央矯正保護委員会に不服審査を請求することができるが、そこでの結論のいかんを問わず、第三審を求めることはできない。
 矯正保護委員会は、決定確定後も犯則行為者に対する処遇の執行から終了までフォローアップする任務を負い、処遇タームの更新の権限を有するほか、処遇の執行状況に対する監督是正の権限も有する。それには、処遇執行中の犯則行為者からの苦情申立てに応じて必要な監督是正措置を取る権限を含む。
 その限りにおいて、矯正保護委員会は犯則司法と同時に、処遇の執行過程での人権擁護を担う護民司法という二つの司法領域にまたがる任務を持つ特殊な司法機関であると言える。

コメント

共産法の体系(連載第38回)

2020-05-21 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(4)犯則司法①
 犯則司法は、犯則行為の解明及び犯則行為者の処分を目的とする司法の分野を指す。資本主義社会における刑事司法に相当するものであるが、「刑事」と呼ばないのは、共産法には刑罰制度が存在しないからである。
 犯則司法の入り口となるのは、言うまでもなく犯則事実の解明であるが、刑事司法のプロセスでは通常、事実の解明と処罰とが刑事裁判という形で一括的に行われるのに対し、犯則司法においては事実の解明とそれに基づく犯則行為者の処遇のプロセスは明確に区別され、完全に別立てとなる。本来、両プロセスは実質を全く異にするからである。
 犯則事実の解明の端緒は、捜査機関による正式の捜査に始まる。共産主義的捜査は、警察ではなく、専従の捜査機関が遂行する。貨幣経済が廃されることにより、貧富階級差もなく、治安状況が極めて安定に保持されるであろう共産主義社会に警察という強大な治安機関の存在は必要なく、そもそも存在しないからである(参照拙稿)。
 捜査機関は捜査の追行のために必要な場合、市民の人身保護を任務とする司法職の一種である人身保護監に身柄拘束令状や捜索差押令状の発付を請求して強制捜査を行なうことができる。一方、令状によらない現行犯逮捕は防犯を主任務とする準公務員である警防員も行うことができる。
 身柄を拘束された被疑者は、直ちに人身保護監のもとへ召喚され、公開の審問を受ける。その結果、継続的な身柄拘束の必要性がないと判断されれば、人身保護監は釈放を命じなければならない。
 ちなみに、明らかな病死以外の要因による変死体が発見された場合は、捜査機関から独立した公的専門職である検視監による検視が実施される。検視結果は人身保護監が主宰する検視審問会による公開審問を経て最終的に確定される。
 捜査が終了すると、捜査機関が収集した証拠はいったん人身保護監に送致される。人身保護監は改めて被疑者を召喚聴取し、被疑者が全面的に被疑事実を認める場合は、犯則行為者の処遇を決定する矯正保護委員会に事件を送致する。被疑者が被疑事実の全部または一部を否認する場合は、事実を改めて解明するため、真実委員会の招集を決定する。
 ここで改めて伝統的な刑事司法と対比すれば、刑事司法のプロセスにおいて、フランス革命後のナポレオン法典以来、定番となってきた公訴官(検察官)による起訴という手続きは、共産主義的犯則司法においては存在せず、上述のように、人身保護監を介して捜査と事実解明、処遇の各プロセスが有機的につながる体系となる。
 なお、訓戒以上の処分を要しない軽微な犯則行為や少年の非行については、防犯活動の一環として、警防員の正式文書による訓戒限りで処理され、正式の捜査は省略される。

コメント

共産法の体系(連載第37回)

2020-05-16 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(3)経済司法
 経済司法は、経済法をめぐる紛争の解決を目的とする司法の分野を指す。経済法には経済計画法・企業組織法・労働関係法、さらに広義の経済法として土地管理法の3プラス1の計四分野があり、各分野に対応して紛争の内容及び処理方法も異なる。
 このうち経済計画法に関しては、紛争が発生する余地は少ない。なぜなら、経済計画は計画対象企業が経済計画会議(以下、単に「計画会議」という)を通じて共同で策定する規範だからである。ただし、対象企業が計画に違反した場合、計画会議は計画違反の生産活動の差止と関与した役職員に対する制裁を求めることができる。
 このような計画違反に対する対抗・制裁措置は計画会議の審問会を通じて実施される。この審問会は計画会議内に設置されるが、メンバーは中立的に選出され、計画会議はその判断を左右できない独立的付属機関であり、告発された当事者には弁明・反証の機会が保障される。
 企業組織法関連では、経営機関と労働者代表機関や組合員の間での経営判断をめぐる紛争が想定される。これについては、監査機関に差止のような準司法的な機能を付与することによって、内部的に処理される。これは公式の司法ではなく、企業内で紛争を自治的に処理する企業内司法と呼ぶべき制度である。
 監査機関で処理し切れない複雑な紛争案件については、次の労働紛争に該当する場合を除き、外部の法律家で構成される中立的な企業紛争調停委員会が処理する。
 労働関係法関連では、労働紛争が想定される。もっとも、共産主義的企業体では労使の対立が止揚されているため、深刻な労働紛争は通常想定できないが、個別的には労働者と所属企業の間で労働条件等をめぐる紛争は発生し得る。
 そのような労働紛争は、まず第一段階として企業内第三者機関である労働仲裁委員会が処理する。これは当該企業と利害関係を持たない法律家で構成される調停機関で、やはり企業内司法の一種である。
 労働仲裁委員会は、少数人の協同労働グループを除くすべての企業体で常置が義務づけられ、労働紛争は、労働護民監への跳躍出訴が認められるハラスメント事案を除き、先行的に企業内の労働仲裁委員会での仲裁を経なければならない。
 多くの場合はこの段階で解決するが、解決しない場合は、労働護民監への出訴により公的な解決に委ねられる。これは労働紛争を専門的に解決する護民司法の一環である。護民司法については後に改めて述べるが、護民監の審決は終局性を持つ。
 市民法と経済法の中間的な位置づけを持つ土地管理法をめぐっては、私人間はもちろん、私人‐公法人間で土地をめぐる紛争が起こることも通常考えられない。なぜなら、共産主義における土地は、何人にも属しない無主の自然物として、各領域圏が土地管理機構(以下、「管理機構」という)を通じて管理するからである。
 ただ、私人は管理機構の許可を得て土地上に所定用途の不動産たる建造物を所有できるほか、管理機構の許可を得て土地利用権の譲渡等もできるが、こうした土地利用権をめぐって管理機構との間で紛争が生じた場合は、管理機構の独立的付属機関である土地利用権審判会(以下、「審判会」という)で解決される。
 審判会は法律家で構成される審決機関であり、管理機構と相手方当事者はそれぞれ証拠を示して主張を展開し、争うことができるが、審判会の審決には終局性がある。
 なお、私人が特定の土地区画を管理機構に無断で占拠する場合は不法占拠となり、暴力的手段や詐欺的手段を用いた悪質な事例は土地管理法違反の犯則行為として告発され、次項(4)で見る犯則司法の対象となることがある。

:企業間で紛争が生じた場合は、法人企業も集団的な市民であるから、市民法紛争に準じて、衡平委員が調停する。

コメント

共産法の体系(連載第36回)

2020-05-15 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(2)市民司法
 市民司法は、市民法をめぐる紛争の解決を目的とする司法の分野を指す。市民法は市民権法及び財産権法とから構成される。このうち後者の財産権法部分は資本主義社会における民法に相当する内容を含み、私人間の権利義務に関わる紛争において解決の法的基準となる。
 しかし、たびたび述べてきたように、貨幣経済が存在しない共産主義社会では金銭をめぐる紛争はそもそも発生しないので、紛争の多くは私人間の交渉をもって解決され得るであろう。
 しかし交渉によって解決できない紛争は、司法によって公的に解決される必要を生じる。そうした市民法紛争を公的に解決する司法手続として、衡平委員による調停が用意される。
 これは現行裁判制度の和解に近いが、和解が勝敗を決する判決を回避する手段であるの対し、衡平委員の調停ではそもそも勝敗を決する判決によらず、すべての案件が調停によって解決される点に大きな違いがある。
 非金銭的な紛争がすべてを占める共産主義的市民法紛争では、勝敗を決する判決より調停のほうがよりふさわしいのである。
 衡平委員による調停手続は紛争当事者の一人または全員の申立によって開始され、当事者は証拠を示してそれぞれの主張を展開する。その限りでは、裁判に近い要素もある。
 衡平委員は当事者の主張とその根拠とされる証拠を検討したうえで、中立的な立場から適切な調停案を示し、全当事者がこれを受諾した段階で調停終了とする。一人でも受諾しない当事者が存在する間は調停は継続されるので、調停案が数次に及ぶ場合もあり得る。 
 衡平委員の調停には終局的な効力があり、確定した調停は調停結果を変更すべき新たな証拠が発見されない限り、覆されることはない。しかし、調停結果を変更すべき新たな証拠が発見された場合は、当事者の申立により、再調停が行なわれる。
 なお、衡平委員による調停手続に関する規定は市民権法の内に含まれ、民事訴訟法のような形で別途法律が立てられるわけではない。
 以上に対して、市民法の市民権法部分は公法的性格が強く、私人間で紛争化する可能性のない権利義務に関わるので、衡平委員の調停手続の対象外である。この領域で紛争が生じるとすれば、それは人権救済案件として後に見る護民司法の対象となる。

コメント

共産法の体系(連載第35回)

2020-05-14 | 〆共産法の体系[新訂版]

第7章 争訟法の体系

(1)共産主義的争訟法
 貨幣経済の究極的な権化としての資本主義社会では、貨幣をめぐる紛争・犯罪が絶え間なく発生するため、犯罪を含む広い意味での争訟を迅速かつ強制的に裁定するための強力な司法制度が不可欠となる。通常それは裁判所と呼ばれる権威主義的な権力機関を通じて行なわれ、裁判手続の細目を定めた各種の訴訟法が存在している。
 それに対して、貨幣経済が廃される共産主義社会においては、貨幣をめぐる紛争・犯罪は当然にも消滅する。とはいえ、およそ人間社会に争いごとは付きものであるとすれば、なお不可避的に発生する争訟を公的に処理する司法権力の必要性自体がなくなることはない。
 しかし、そこでは司法=裁判ではある必然性はもはやなく、従って訴訟を権威的に裁定する裁判所という制度も必要なくなる。共産主義的争訟を解決するための司法手続はより柔軟かつ非権威主義的なもので足り、かつそのような手続のほうが解決にとって効果的でもある。
 こうした共産主義的司法手続のおおまかなイメージとしては、現行裁判制度の下でも補充的に実施されている非訟手続や裁判外紛争解決手続(ADR)としての諸制度と類似したものを想起すればよいかもしれない。
 このように司法=裁判という定式によらない司法手続の根拠となる法律を総称して「争訟法」と呼ぶことができるが、もとよりそれは一本の法律ではなく、争訟の種類ごとに大別され、それぞれに個別の手続法が定められる。
 それらを列挙すれば、市民法争訟を扱う市民司法、経済法争訟を扱う経済司法、犯則行為の解明及び処遇を扱う犯則司法、人権救済及び対公権力不服事案を扱う護民司法、公務員の弾劾事案を扱う弾劾司法、違憲審査を含む法令の解釈を扱う法令司法の六分野に大別される。続く(2)以下の各節では、この六つの各司法分野について個別に見ていくことにする。

コメント

共産法の体系(連載第34回)

2020-05-10 | 〆共産法の体系[新訂版]

第6章 犯則法の体系

(6)少年処遇の諸制度
 刑罰制度を持たない共産主義的犯則法は、結果として成人に対する処遇と少年に対する処遇の区別を相対化させるため、いわゆる少年法に相当する特別法を別途用意する必要がない。
 とはいえ、成人と少年を完全に同等に処遇するという極端な政策は採らず、発達途上にある少年の特性を考慮し、少年に対する処遇に関しては相応の特例が設けられる。
 少年処遇における基本的な理念は、未成年ゆえに人格的な成長可能性を残す可塑性(柔軟性)の尊重である。このことは、刑罰制度を前提とした少年法においても理念としては否定されていないが、刑罰制度の例外として措定される少年法では、重大事犯ほど犯人たる少年への厳罰欲求が高まり、可塑性の理念は脇に押しやられがちとなる。
 これに対して、共産主義的な少年処遇にあっては、可塑性の尊重は例外なく貫徹される指導理念となる。そのためにも、「少年」の概念は法律上の成人年齢で形式的に区切られるのでなく、生物学的・医学的な発達段階に応じて決定される。
 従って、例えば法律上は成人年齢に達していても、発達障碍や知的障碍などから発達段階上は未成年とみなすべき者は、「少年」として認定・処遇されることになる。
 反対に、法律上は未成年であっても、発達段階上は成人に準じた段階にあると判断される者―法律上の成人年齢に近接する未成年者ほどそのように認定されやすいであろう―は、「成人」として認定・処遇されるのである。
 このように少年の概念を柔軟化したうえで、少年認定された犯則行為者に与えられる処遇は「教育観察」と「矯導学校編入」の二種である。
 「教育観察」は反社会性向の低い少年向けの少年版保護観察と言うべき処遇であるが、成人の保護観察よりも教育に重点が置かれる。
 「矯導学校編入」は、「教育観察」では更生が困難な反社会性向が高い少年向けの拘束的処遇の一種であるが、成人の矯正施設とは異なり、矯正と学業とを両立させるものである。
 なお、犯則には該当しない特定の問題行動(非行)をして補導された少年や単品の万引きのような軽微初犯の少年に対しては、少年処遇のルートから外し、直接に然るべき少年福祉機関に送致して福祉的な保護対応がなされる。

コメント