24日投票のドイツ総選挙で、「ドイツ人のための選択肢」(以下、「選択」と略す)なる政党が躍進、議席数で第三党、野党第一党の地位に就いた。躍進の最も大きな要因は報道でも指摘されているように、党がイスラーム系移民の排斥を強く訴えたことにある。その意味では、同党は近年の欧州で隆盛化している反移民政党の一環とも言える。
しかし、同党の綱領では、とりわけ反イスラーム主義を強く打ち出すとともに、直接選挙による強力な大統領制への移行(議会権限の縮小)、反フェミニズム、男性兵役義務の復活など、全体としてファシズム色の滲む政策を掲げている。
ドイツでは、ナチズムへの歴史的反省から、ナチス党の復活は事実上禁じられており、より明確にナチズムに傾斜した先行政党・国家民主党の躍進は困難である。それを補填するかのように、近年はペギーダ(西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者)を名乗る反イスラーム主義政治団体が形成され、「選択」にも浸透し、連携する党員も存在する。
「選択」指導部は、表向きペギーダとの連携を禁止する活動方針を決めている。しかし、この方針はイデオロギー的な相違によるものではなく、総選挙で幅広い支持を得るための党略的な姿勢であり、方針は厳守されないだろう。そればかりか、党内にはナチ的用語を用いる者もおり、反イスラーム主義の裏にはナチスの基盤でもあった反ユダヤ主義も二重に見え隠れする。
総合的に見て、「選択」はナチスの復刻とは言えないまでも、ナチズムを迂回する形のネオ・ファシズム政党とみなす余地が十分にある。かかる政党がドイツで野党第一党となったことは憂慮すべき事態である。党がさらに躍進を続けて与党化する可能性を視野に入れれば、ドイツもファッショ化要警戒段階に入ったと言えよう。
〔追記〕
10月のオーストリア総選挙では、保守系国民党が第一党を維持した。メディアは「反移民」の主張で勝利と報じ、31歳のクルツ新首相に焦点を当てた。しかし、国民党はオーストリアの伝統的な保守政党であり、従来は社会民主党と大連立を組んでいたところ、クルツ執行部の下で右傾化を進め、連立協議では従来からオーストリアのネオ・ファシズムを代表する自由党と組もうとしている。
この国民党‐自由党連立は1999年にも成立し、当時はファッショ化を警戒したEUから制裁を受けた。当時よりもEUが拡大し、移民問題が深刻化した現在、EUが国民党‐自由党連立の再来にどのような反応を示すか、注目される。