暫定結語
前回まで、近世に始まり現代に至る広い意味での「近代」の世界で続発してきた革命事象を個別に取り上げ、それら革命事象を惹起した人間の集団的な力学―社会力学―という視点から、その発生の背景や展開、余波や事後の展開等について解析してしてきた。
それら過去500年内外の間に継起した近代革命の流れを見ると、現代の同時代に近づくにつれ、革命事象がイデオロギー性を脱し、特定のイデオロギーに基づかない民衆蜂起の形態を取ることが多くなってきたことに気づかされる。
それに伴い、革命の力学においても、イデオロギー的に結束した職業的革命家集団が主導する典型的な革命に代わり、自然発生的なデモ行動の拡大によって体制が崩壊するパターンの革命が増加している。その結果として、民衆蜂起を契機とする政変=民衆政変と革命との事象的な差異が微妙になっている。
このような革命事象の傾向的変化は、革命のプロセスがある意味で民主化されてきたものと好意的に評価することもできる一方、理念的な統一性を欠くため浮動的で、現体制を打倒することが一過性の自己目的化し、その後の展望に乏しく、結果として類似の体制が再現前するに終始することも少なくない。
それとも関連して、革命が政治的上部構造の部分的改変に終わり、社会経済体制には十分切り込まないか、むしろ資本主義的市場経済化の推進というある意味では反革命的な方向に流れやすいことも、冷戦終結・ソ連邦解体以降の諸革命に見られる特徴である。
とはいえ、職業的革命家集団主導のより徹底しているはずの革命も、革命後に革命前の体制と同等か、それを上回るような圧政を結果したり、反動化したりする事例も見られ、決して革命の理想型を示しているとも言い難いことは、フランス革命やロシア革命のような代表的な革命事象から導かれる教訓である。
おそらく、今後は、民衆蜂起型の革命―民衆革命―が主流化していくであろう。その傾向は、情報通信技術の持続的な発達によって促進され、最終的には、一国や一地域を超えたグローバルな次元での民衆革命という歴史的に未体験の世界革命に達する可能性もある。
その際、民衆革命の持つ理念的な不統一性や浮動性、一過性といった短所をいかに克服するかいうことが課題となるであろう。言わば、職業的革命家革命と民衆革命の間をつなぐ新たな革命の力学が発見されなければならない。
一方で、革命というものが思念されることさえなく、大衆が脱政治化され、動員解除状態に置かれている諸国も少なくなく、それら諸国ではそもそも革命の力学が作動しなくなっている。そうした言わば「革命の反力学」の解明は本連載の論外となるので、別の機会に回すことにする。
当連載は、2014年ウクライナ自立化革命を最終として、いったん暫定的に完結とする。その後も、まさに現時点にかけて、革命事象は世界で継起しているが、現在進行中もしくは帰趨未確定の事象であり、個別的に叙述するには時期尚早だからである。
なお、今後しばらくは、これまで保留してきた20世紀以前のあまり注目されていないいくつかの革命事象を補遺として追加していく。