ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

弁証法の再生(連載第14回)

2024-06-28 | 〆弁証法の再生

Ⅴ 弁証法の再生に向けて

(13)弁証法の第二次退潮期
 前回まで、弁証法の歴史をかなりの駆け足で概観してきたが、アドルノの否定弁証法を最後に、1970年代以降、弁証法を主題とする有力な哲学書自体がほとんど世に出なくなる。そして、20世紀末におけるソヴィエト連邦解体という世界史的な出来事の後、弁証法という思考法自体が急速に衰微していった。21世紀前半の現在は、その真っ只中にある。
 実のところ、弁証法の退潮はソ連邦解体前から始まっており、まさにソ連自身が弁証法を体制教義化することによっても弁証法の衰退を促進していたのであるが、そのソ連がほとんど自滅的に解体消滅し去ったことにより、ソ連邦解体後の世界では、ソ連が象徴していたものすべてが否定・忘却された。弁証法もその一つである。
 こうして、現代という時代は、弁証法の第二次退潮期にあると言える。弁証法の第一次退潮期は、アリストテレスが弁証法の意義を格下げして以降のことであった。この時は、アリストテレスが最も重視した形式論理学が優位となり、19世紀にヘーゲルが新たな観点から弁証法を再生するまで、弁証法の逼塞が続いた。
 これに対して、第二次退潮期は、第一次退潮期に比べ、ソ連が象徴していたマルクス主義の退潮と絡んだ政治的な要因が強い。実際のところ、ソ連はマルクスの理論に対して離反的ですらあったのであるが、「ソ連=マルクス主義」というソ連の公式宣伝は、ソ連に批判的な人々によってすら奇妙に共有されていたのである。
 そうではあっても、マルクス自身が下敷きとしていたヘーゲルの弁証法—言わば、近代弁証法—はマルクスと切り離して保存されてもよいはずだが、マルクス主義の退潮のあおりを受けて、無関係のヘーゲル弁証法までとばっちりを受けた恰好である。
 その結果、ヘーゲル弁証法も遡及的に取り消され、再びアリストテレスの形式論理学優位の世界へと立ち戻っているのが現状である。後に整理するように、形式論理学は数学的・科学的思考法の共通的基礎であり、弁証法と矛盾対立するものではないが、形式論理学だけですべてを思考できるものでもない。
 とりわけ、実験や演算が効かず、収拾のつかない価値の対立状況を来たしやすい社会的な諸問題は、形式論理学では解くことができない。そうした場合にこそ、弁証法的思考は強みを発揮する。そこで、弁証法の再生に向けて新たな思想的な革新を要するが、その際、ヘーゲルやマルクスの弁証法の単純な復活ではなく、より広い視野で現代的な弁証法の構築を構想してみたい。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第36回)

2024-06-25 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(5)中央ヨーロッパ合同

(ア)成立経緯
いわゆる中欧に属する主権国家のうち、ドイツとポーランドを除く諸国を引き継ぎ、一部領土が中欧にかかるクロアチアを加えた領域圏が合同して成立する合同領域圏。そのうちの最小国家リヒテンシュタインはスイスと合併して単一の連合領域圏となる。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の7圏である。

○ハンガリー
主権国家ハンガリーを継承する統合領域圏

クロアチア
主権国家クロアチアを継承する統合領域圏。飛び地禁止原則により、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ領に属していたバルカン半島部の都市ネウムが編入される。

○スロベニア
主権国家スロベニアを継承する統合領域圏

○チェコ
主権国家チェコを継承する統合領域圏

○スロバキア
主権国家スロバキアを継承する統合領域圏

○オーストリア
主権国家オーストリアを継承する連合領域圏

○スイシュタイン
主権国家スイスのカントン(州)とリヒテンシュタインが合併されたうえ、イタリアから編入される飛び地のカンピョーネ・ディターリアを準領域圏とする連合領域圏。準領域圏の中には、直接民主制の伝統を継承して、民衆会議に加え、全住民参加型の民衆総会を併置するものもある。リヒテンシュタインはリヒテンシュタイン侯を君主とする侯国であったが、君主制は廃され、侯家は旧宗主のオーストリアへ転居する。

(ウ)社会経済状況
スイスの金融業は貨幣経済廃止に伴い消滅するが、精密機械工業や製薬に基盤のあるスイスを継承するスウィシュタイン、工業化の進んだチェコやハンガリーとする共通経済計画に基づく計画経済が行われる。また中欧地域全体での食糧生産力の高さを生かし、持続可能的農業が発達する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、チェコ領域圏の政治代表都市プラハは、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏全体の政治代表都市でもある。

(オ)特記
スイスとオーストリアは共に永世中立国を標榜してきたが、世界を一つにまとめる世界共同体の設立に伴い、永世中立の理念は役割を終え、合同参加に道が開かれる。

☆別の可能性
スイスは歴史的な独自性を重視し、合同に包摂されない単立の領域圏となる可能性もある。その場合、リヒテンシュタインが合併される場合とされない場合とが想定される。また、主権国家スイス時代の永世中立政策を維持し、スイシュタインが汎ヨーロッパ‐シベリア域圏に加入せず、世界共同体直轄自治圏を選択する可能性もなくはない。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第35回)

2024-06-21 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(3)バルカン合同

(ア)成立経緯
旧ユーゴスラビアから独立した主権国家セルビア、ボスニア‐ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニアに加え、ブルガリアが合同して成立する合同領域圏。アルバニア‐コソヴォも招聘領域圏として参加する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の5圏である。

○モンテネグロ
主権国家モンテネグロを継承する統合領域圏

○セルビア
主権国家セルビアを継承する統合領域圏。事実上の独立国となっていたアルバニア系のコソヴォはアルバニア‐コソヴォに包摂される。

○ボスニア‐ヘルツェゴビナ
主権国家ボスニア‐ヘルツェゴビナを継承する連合領域圏。クロアチアの飛地ドゥブロヴニクを隔てていたネウムは飛び地禁止原則により、クロアチアに編入される。

○新マケドニア
北マケドニアに改称していた主権国家マケドニアが再改称して成立する統合領域圏。ギリシャ系古代国家に由来するマケドニア名称をスラブ人による冒用と主張する旧ギリシャ(ヘラス)との紛議に一定の妥協が成立。

○ブルガリア
主権国家ブルガリアを継承する統合領域圏

(ウ)社会経済状況
農業に加え、自動車工業なども発達したセルビアを軸とする合同共通経済計画に基づく持続可能的計画経済が施行される。陸地の三分の一を森林が占めるブルガリアは持続可能的林業のモデルとなる。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、ボスニア‐ヘルツェゴビナのサラエボに置かれる。民族紛争の再発防止のための調停機関として、民族関係高等評議会を常設する。合同の共通語はエスペラント語。

(オ)特記
バルカン半島は歴史的に世界でも最も熾烈な民族紛争が起きた場所として記憶されるが、民族紛争を社会主義連邦という形で一定止揚していた旧ユーゴスラビア連邦を構成した共和国中、クロアチアとスロベニアを除く領域に、ブルガリアが新たに加わって成立したバルカン合同の成立は、地域紛争の歴史に新たな解決をもたらし、同種事例に対する範例となる。

☆別の可能性
かつて民族紛争の中心であり、内戦終結後も民族分断的な状況が続くボスニア‐ヘルツェゴビナ全体が合同直轄圏となる可能性もある。


(4)ダキア

(ア)成立経緯
言語的・文化的な共通性の高かった主権国家時代のルーマニアとモルドバが統合して成立する領域圏。ただし、ロシア系・ウクライナ系住民の多い旧モルドバ東部の沿ドニエストル地方は準領域圏として高度の自治権を保持するため、複合領域圏となる。

(イ)社会経済状況
ルーマニア、モルドバともに農業を土台産業としつつ、旧ルーマニア地域は社会主義時代の計画経済経験を活かし、環境持続的な工業生産も活発化する。旧モルドバ地域では工業生産の拠点がある沿ドニエストルが経済的な軸となる。

(ウ)政治制度
全土民衆会議には沿ドニエストルに人口割合に応じた優先議席枠が配分される。また少数民族ロマも民族自治体を構成し、民衆会議に代表者を送る。

(エ)特記
ルーマニアの旧称に由来するダキアは、モルドバを包摂することに伴う名称変更である。なお、沿ドニエストルはモルドバから事実上分離し、ロシアへの帰属を要望していたが、世界共同体の飛び地禁止原則によりロシア帰属は断念し、ダキアに包摂されつつ、高度の自治権を保持する。

☆別の可能性
ルーマニアとモルドバ、沿ドニエストルがそれぞれ単立の領域圏としてダキア合同領域圏に包摂される可能性もある。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第34回)

2024-06-17 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

汎ヨーロッパ‐シベリア域圏は、現在の欧州連合領域を超えて、欧州大陸及び大西洋上の島嶼域(現スペイン及びポルトガル領)に、シベリアにまたがる現ロシア連邦の領域も包摂する汎域圏である。ただし、ロシア連邦の東端に当たる極東地方はロシアから分立した極東ユーラシア領域圏として汎東方アジア‐オセアニア域圏に包摂される。また、欧州諸国が南太平洋及びカリブ海域に保持する海外領土はすべて分立し、当汎域圏には包摂されない。汎域圏全体の政治代表都市はチェコ領域圏のプラハに置かれる。

包摂領域圏:
ヘラス、アルバニア‐コソヴォ、バルカン合同、ダキア中央ヨーロッパ合同イタリア‐サンマリノ、西地中海合同イベリア合同フランス、ブリティッシュ‐チャンネル諸島合同ベネルクス、ジャーマニー北部ヨーロッパ合同、ポーランド‐ウクライナ合同ルーシ、南コーカサス合同

 

(1)ヘラス

(ア)成立経緯
主権国家ギリシャを基本的に継承する領域圏。ただし、トルコとの協定に基づき北部の北キプロスから分割された南キプロスが編入される。南キプロスは準領域圏として高度の自治権が保障されるため、複合領域圏となる。また、現在のギリシャ領内の特殊な宗教自治体であるアトス自治修道士共和国はヘラスから分離され、世界共同体との協定に基づく独立宗教自治圏域となる(後述)。

(イ)社会経済状況
資本主義時代のギリシャは、債務危機に陥るなど財政面での問題国家であったが、共産化により貨幣経済が廃されると、財政問題からも解放され、ギリシャは一転、バルカン地域での模範領域圏となる。農業が主産業であるが、資本主義時代に盛んだった海運業も、環境的持続可能性に配慮したグローバルな共産化に伴い、新たな形で中枢産業となる。豊富な遺跡を資源とする観光は、共産化による商業活動の廃止に伴い、「産業」ではなくなるが、欧州方面の文化的観光地としてイタリアと並ぶ中心地であり続ける。

(ウ)政治制度
全土民衆会議にはコソボに人口割合に応じた優先議席枠が配分される。

(エ)特記
ヘラスとはヘレニズムという用語にも残るギリシャの古代名称に由来する。ギリシャ系ながら現在は独立国家である南キプロスが包摂されることに伴う名称変更である。

☆別の可能性
南キプロスが完全に統合され、全体として統合領域圏となる可能性もなくはない。また、可能性は高くないが、南北キプロスが統合され、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏に包摂される可能性もなくはない。

 

(2)アルバニア‐コソヴォ

(ア)成立経緯
主権国家アルバニアと、セルビアから分離して事実上の独立国家となっていたアルバニア系のコソヴォが合併して成立する領域圏。コソヴォは準領域圏として高度の自治権が保障されるため、複合領域圏となる。バルカン合同領域圏の招聘領域圏でもある。

(イ)社会経済状況
統合されたコソヴォ地域を含め、農業が主産業である。しかし、旧社会主義体制時代のアルバニアで試みられた集団農場制の経験を活用しつつ、計画的な持続可能的農業が発達する。市場経済化の時代に蔓延した汚職やマフィアは、貨幣経済の廃止により撲滅される。

(ウ)政治制度
全土民衆会議にはコソヴォに人口割合に応じた優先議席枠が配分される。

(エ)特記
旧版ではコソヴォを完全に統合した統一アルバニアを想定していたが、コソヴォの独自性とアルバニアの膨張を志向する「大アルバニア主義」への懸念に配慮し、複合名称を持つ複合領域圏とした。

☆別の可能性
旧版どおり、統一アルバニアとして統合領域圏となる可能性もなくはない。また、コソヴォが単立の統合領域圏となったうえ、バルカン合同領域圏に加入する可能性もなくはない。

コメント

弁証法の再生(連載第13回)

2024-06-13 | 〆弁証法の再生

Ⅳ 唯物弁証法の救出

(12)アドルノの否定弁証法
 エンゲルスがいささか形式的に整理したヘーゲル弁証法の三法則は①量から質への転化②対立物の相互浸透③否定の否定の三つであるが、このうち、ソ連の独裁者スターリンは第三法則の否定の否定を「否定」した。これは、スターリンの反知性的な教条主義にとって、止揚(揚棄)を導出する否定の否定は、自身の絶対性を揺るがす容認し難い思考操作だったからにほかならない。
 スターリンに限らず、およそあらゆる教条主義者は、自身が信奉する教条を絶対化するので、それを止揚されることを忌避する。止揚・揚棄された命題はもはや教条でなくなってしまうからである。その意味で、教条主義と弁証法は相容れない。
 一方、スターリンとは全く異なる見地から、第三法則を否定しようとしたのがテオドール・アドルノであった。アドルノは第三法則が内包する個別性の否定と、全体—ヘーゲルの場合は絶対精神—への収斂という同一性の思考を批判し、個別性=非同一性を保存すべく、対立命題を止揚することを否定しようとした。これが彼の否定弁証法の趣意である。
 系譜上はマルクス主義に属するアドルノがそこまで思い詰めたのは、自身ユダヤ人としてナチスの全盛期に亡命を余儀なくされた経験を踏まえ、啓蒙的理性が全体主義体制の道具と化し野蛮な暴力に転化したことを悲観し、その大本を全体への収斂を志向する一元主義的な弁証法的思考の欠陥に見たからであった。
 そこで、全体への収斂という思考を断ち切り、止揚の手前で対立命題の個別性=非同一性を徹底的に保存しようとするのが否定弁証法であり、その意味では、ここでの弁証法は新たな真理を導くことなく、未知の真理を浮かび上がらせる対話問答術としてとらえられていたソクラテスの弁証法にまで立ち戻ったと言えなくもない。
 ただ、ヘーゲルが確立した弁証法的思考の本義は、対立命題を全否定することなく止揚して新たな境地を開こうとする点にあり、その点において、対立命題の一方に偏る両極主義も、足して二で割る式の平均主義やつまみ食いの折衷主義も排する新たな思考を開拓したのであった。
 そうした止揚を導出する定式が否定の否定、すなわち二重否定であるが、これも形式論理学的な二重否定=肯定ではなく、対立命題双方を限定的に否定すること、言い換えれば対立命題を限定的に保存することを通じて、新しい命題を導出しようとする思考法であって、必ずしも絶対的な全体に収斂する全体主義的思考とイコールではない。
 アドルノの否定弁証法は全体への収斂を恐れるあまり、無限の相対主義に陥る危険がある。実際、アドルノが一時的とはいえ、ナチス政権最初期にナチス関連広報誌に寄稿するなど、ナチスににじり寄ったことがあったのも、ナチズムを限定否定する—裏を返せば、限定的に肯定する—ばかりで揚棄しない相対主義の危険な一面が露出したものかもしれない。*アドルノ自身は相対主義を批判しているが、それは反動的な偏向を含む特定の相対主義への批判である。
 とはいえ、アドルノの否定弁証法は弁証法そのものを否定するものではなく、片やナチスにより野蛮と化した啓蒙的理性の弁証法、片やスターリン以後のソ連によって教条化された唯物弁証法から、弁証法そのものを救出せんとする試みの一つであったと言える。
 その意味で、否定弁証法は弁証法の否定ではなく、弁証法的思考法に重大な修正を加える新たな弁証法のあり方を示したものである。しかし、弁証法の真骨頂である止揚を否定すれば、弁証法の肝に当たる部分を取り去ることとなり、弁証法の否定と紙一重ではある。そのことによって、否定弁証法はかえって弁証法の退潮に手を貸したように見えるのである。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第33回)

2024-06-09 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(16)マグレブ合同

(ア)成立経緯
マグレブ合同領域圏は、北アフリカマグレブ地域のモロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビアが合同して成立する合同領域圏。モーリタニアも招聘領域圏として参加する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の4圏である。

○モロッコ
主権国家モロッコ王国を継承する領域圏。スペイン領のセウタとメリリャの両都市が編入される。両都市は高度の自治が保障される準領域圏となるため、モロッコ全体は複合領域圏である。独立運動勢力との係争地西サハラは、世界共同体直轄自治圏となる。

○アルジェリア
主権国家アルジェリアを継承する統合領域圏

○チュニジア
主権国家チュニジアを継承する統合領域圏

○リビア
主権国家リビアを継承する統合領域圏

(ウ)社会経済状況
モロッコやアルジェリア、チュニジアで限定的に試行されながら、市場経済原理に押されて発展していなかった脱資本主義的な社会連帯経済を土台に、持続可能的な共通経済計画が施行される。モロッコはこの地域の自動車生産の中心となる。リビアでは、内戦からの復興計画が導入される。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、モロッコのラバトに置かれる。モロッコの王制は廃止されるが、王は世襲の宗教面での精神的指導者となる。 

(オ)特記
旧版では、2010年代のリビア内戦と分裂を想定して、リビア領域圏と東部のキレナイカ領域圏に分立させていたが、2020年代の再統一を受け、リビア領域園に統一した。

☆別の可能性
リビアが再分裂し、旧版どおり、西部と東部が分立する可能性、最悪可能性として内戦が再発継続する可能性もある。また、可能性は乏しいものの、西サハラがモロッコから分立し、単立の領域圏として当合同に参加する可能性もなくはない。

 

(17)エジプト

(ア)成立経緯
主権国家エジプトを継承する統合領域圏。シナイ半島部が西アジアにもまたがることから、汎西方アジア‐インド洋域圏の招聘領域圏でもある。

(イ)社会経済状況
農業を主軸とするが、北アフリカ随一の工業力をも土台に、持続可能的計画経済が施行される。ナイル流域評議会の中心的なメンバーとして、流域の希少な共同水源となるナイル河の持続可能的な水利管理を主導する。また、主権国家時代からアフリカ随一の鉄道網を活かし、アレクサンドリアから南部アフリカ合同領域圏のケープタウンまでを結ぶ新設のアフリカ縦貫高速鉄道の起点として、運営の中心を担う。

(ウ)政治制度
主権国家時代は高度な中央集権国家だったが、民衆会議制度の下、地方自治が進展する。アフリカ最強にして、中東戦争で数々の戦歴を持つとともに、20世紀のエジプト革命以来、政治的な実力も保持した軍は常備軍廃止を定める世界共同体憲章に基づき解体される。

(エ)特記
ナイル流域評議会は、ナイル河流域の生態学的な持続可能性を保障するため、ナイル河流域のエジプト、スーダン、エチオピア、ケニア、南スーダン、コンゴ、ウガンダ、ブルワンディ、タンザニアの9領域圏で構成される領域間協調機関であり、本部はエジプトのルクソールに置かれる。世界共同体世界水資源調整機関とも連携するこの機関の存在により、主権国家時代ナイル河水利をめぐる流域の紛争や環境的に有害なダム開発などが抑止される。 

☆別の可能性
軍部の実権支配が継続し、民衆革命が不発に終わる可能性もある。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連最第32回)

2024-06-06 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(15)サヘル合同

(ア)成立経緯
サハラ砂漠南淵のサヘル地域を共有するモーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、チャドの5つの領域圏が合同して成立する合同領域圏。サヘル地域の東部を共有するスーダンも招聘領域圏として参加する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の5圏である。いずれも統合領域圏である。

モーリタニア
主権国家モーリタニアを継承する領域圏。

マリ
主権国家マリを継承する領域圏。

ブルキナファソ
主権国家ブルキナファソを継承する領域圏。

ニジェール
主権国家ニジェールを継承する領域圏。

チャド
主権国家チャドを継承する領域圏。

(ウ)社会経済状況
主権国家時代におけるこの地域の政情不安と武力紛争の解決、さらに持続可能的な共通経済計画によって構造的な貧困や人口爆発が解消されるとともに、世界共同体再生可能エネルギー機関との協働での再生可能エネルギーの開発・利用も進展する。この地域特有の干ばつも、世界共同体の砂漠化抑止計画により改善され、食糧難も解消される。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、各領域圏の政治代表都市で持ち回る。サヘル地域に領域圏をまたいで居住する自立的な遊牧民トゥアレグ民族も独自の民族自治体を結成し、政策協議会に代表者を送る。紛争防止のため、世界共同体平和維持巡視隊と協働しつつ、サヘル平和維持隊を共同運用する。

(オ)特記
旧版ではモーリタニアを除く4圏を環赤道‐中央アフリカ合同領域圏の各領域圏とともに、一つの合同領域圏に包括していたが、サヘル地域には固有の特色と課題があるため、分割した。また、旧版ではモーリタニアをマグレブ合同領域圏に包摂していたが、地政学的にはサヘル地域にかかるため、当合同に包摂した。

☆別の可能性
モーリタニアがマグレブ合同領域圏に加入する可能性もなくはない。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第31回)

2024-06-02 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(13)ナイジェリア合同

(ア)成立経緯
主権国家ナイジェリア連邦が南北に分割されたうえで、改めて南北合同して形成された領域圏である。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の2圏である。いずれも連合領域圏である。

○南ナイジェリア
ナイジェリア連邦のうち、キリスト教が優勢な南部諸州を継承する領域圏。政治代表都市はラゴス。

○北ナイジェリア
ナイジェリア連邦のうち、イスラーム教が優勢な北部諸州を継承する領域圏。政治代表都市はカドゥナ。

(ウ)社会経済状況
資本主義時代に発達した経済を基盤にしつつ、持続可能的な南北共通経済計画が運営される。自動車製造や製薬が軸となる。持続可能的農業も発達する。石油は世界共同体の管理下に移行する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会が置かれる旧ナイジェリア首都アブジャは、南北両ナイジェリア領域圏による合同管理下の中立都市という位置づけになる。

(オ)特記
主権国家時代はイスラーム優勢の南部とキリスト教優勢の北部という分裂構造から、宗教紛争が絶えず、暴力主義的なイスラーム武装組織が跋扈してきたが、あえて分割‐合同という方式に踏み切ることで、宗教紛争を止揚することに成功する。そのうえで、南北両領域圏それぞれに宗教評議院が設置され、宗教紛争の調停や少数宗派の権利保護を行なう。

☆別の可能性
南北が分割されず、統一性を保ちつつ、連合領域圏として成立する可能性もある。

 

(14)西岸アフリカ合同

(ア)成立経緯
アフリカ大陸北西岸に密集する10の領域圏に、南大西洋上の離島国家カーボヴェルデを加えた計11の領域圏が合同して成立する合同領域圏。11の構成領域圏はいずれも主権国家時代の領土区分をそのまま継承する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の11圏である。いずれも統合領域圏である。

○ベナン
主権国家ベニンを継承する領域圏。

○トーゴ
主権国家トーゴを継承する領域圏。

○ガーナ
主権国家ガーナを継承する領域圏。

○コートジボワール
主権国家コートジボワールを継承する領域圏。

○ライベリア
主権国家ライベリアを継承する領域圏。なお、旧和表記は「リベリア」であったが、誤記のため公式に訂正。

○シエラレオーネ
主権国家シエラレオーネを継承する領域圏

○ギニア
主権国家ギニアを継承する領域圏。

○ギニア‐ビサウ
主権国家ギニア‐ビサウを継承する領域圏。

○ガンビア
主権国家ガンビアを継承する領域圏

○カーボヴェルデ
主権国家カーボヴェルデを継承する領域圏。

○セネガル
主権国家セネガルを継承する領域圏。

(ウ)社会経済状況
西アフリカ経済共同体時代の経済統合を基盤に、共通経済計画が運用される。ダイヤモンドなど内戦の経済要因となった天然資源管理は世界共同体の管理下に移行することで、社会的な紛争も激減する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、セネガルのダカールに置かれる。多言語のため、合同公用語はエスペラント語に統一。

(オ)特記
合同を構成する各領域圏はいずれも中小国ながら、それぞれにアフリカ特有の多部族を抱え、主権国家時代には内戦や独裁の絶えない不安定地域であった。そうした反省から、合同領域圏には世界共同体平和理事会と連携する合同紛争調停機関を常設し、紛争の未然防止と早期解決を図る。

☆別の可能性
可能性は高いと言えないが、緩やかな合同にとどまらず、11の準領域圏から成る連合領域圏として成立する可能性もある。

コメント