自民党が昨日、「日本国憲法草案」と銘打ち、逐条式の全文改憲案を公表した。その内容には幾多の問題点があり、波紋を呼ぶであろうが、そもそも内容を云々する前に、一介の政党が独断で全文改憲案を出すということが、民主主義の常道を逸脱している。
自民党は小泉政権時代の2005年にも一度、全文改憲案を出しており、これで二度目である。今回は近く想定される総選挙に合わせ、政権奪回を目指す野党の立場からのものではあるが、野党だからといって一党で改憲案を出すような不遜な真似をすべきではない。
民主的な憲法は一党の判断のみで起草・制定されるものではなく、議会で正式に改憲が提起されれば、その段階で個別条項ごとに審議・発議されるものである。それに反して、一党のみで一方的に、しかも前文から大幅に改変する改憲案を策定するのは、一党独裁的なやり方である。
自民党はわずか三年前まで、90年代のわずかな中断を除いて一貫して与党の座にあり、事実上の一党支配体制を維持してきた頃の感覚でのまま、野党に回っても支配政党意識が抜けていない。それで、与党奪回を想定して再び改憲案の提示に出たのであろう。
その点では、改憲に傾斜しつつも「提言」にとどめ、党としての全文改憲案をまとめていない与党・民主党のほうがまだしも複数政党制下の与党にふさわしい態度と言える。もっとも、これは民主党が意識的にそうしているというよりは、護憲派と改憲派が混在する雑居政党ゆえの制約なのだろうが。
自民党改憲案をめぐっては、今後個別的な批評が多々現われるだろうが、これをあたかも正式の改憲案のごとく扱い、論評の対象とするのは適切でない。一介の政党が自党の綱領を憲法の形式で表現したかのごとき一つの政治文書としての扱いにとどめるべきであろう。