結論
2009年9月の政権交代により、ある種の熱狂の中でスタートした民主党政権は、三代目野田内閣の下、消費増税策をめぐる内紛から反増税派の小沢一郎とその支持グループが集団離党するなど分裂・迷走の末、12年12月の解散・総選挙の結果、わずか57議席にとどまる壊滅的大敗を喫し、幕を閉じた。代わって、野党・自民党が前回総選挙とは正反対の地滑り的圧勝を収め、政権に返り咲いたのだった。
政権の主は、再び安倍晋三である。この第二回安倍政権は1年で挫折した第一回政権の反省を踏まえてか、かつての愛国主義的なスローガンは封印し、長期不況からの脱却を目指す経済対策プログラムを前面に打ち出してきた。
とはいえ、第二回安倍政権が第一次政権時よりも穏健化したわけではない。それどころか、民主党が壊滅し、日本維新の会も伸び悩んだ中、戦後史上例を見ないほどに野党が断片化し、与野党格差が広がった状況下、13年7月の参院選でも圧勝して衆参両院を制した安倍政権は巨大化した連立与党の力をもって、改憲という悲願達成へ向けて動き出そうとしている。
さしあたりは、国家安全保障・機密保護に関する政府権力を強化して下準備を着々と進めているところである。またNHK経営委員人事に対する政府の影響力を強め、公共放送を通じたイデオロギー宣伝に乗り出そうとしているのも、そうした準備工作の一環とみなし得る。
一方で、第一回安倍政権時には十分に展開できなかった新自由主義的な経済政策に関しては、戦後改革の重要な産物の一つである労働法制の抜本的な規制緩和―労働ビッグバン―を改めて目指しており、言わば小泉政権時の第二次新自由主義「改革」に引き続く第三次新自由主義「改革」を断行する構えを見せている。
第一回安倍政権当時の包括的スローガンは「戦後レジームからの脱却」であったが、これは今まさに権力基盤を大幅に強化して再生した第二回政権の下、本格的に実施に移されようとしているのである。これを本連載のキーワードで表現し直せば、「逆走」のゴールへ向けたラストスパートということになろう。
こうして3年3か月間の中だるみを経て再開された「逆走」の急流は、以前にも増して急ピッチとなることは間違いない。この激流を阻止し得るだけの力量を備えた勢力は、少なくとも議会内には存在しないと言ってよい。今や、日本の政党地図は共産党を含めて「総保守化」してしまっているからである。
もっとも、共産党は12年12月総選挙で議席を伸ばし、一定の党勢回復傾向を示したが、これは民主党とともに壊滅した社民党支持票を吸収する形で、一定の積み増しがあったからにすぎない。その党名にもかかわらず、日本共産党の現行路線は実質上社会民主主義であって、これは本来の革命的な共産主義の理念からすると資本主義的後退・保守化を示しているのである。
一方、12年に結党されたばかりの反原発派環境政党・緑の党も13年の参院選で初めて立候補者を立てたが、一人も当選者を出すことはできなかった。選挙戦略上の不備もあったとはいえ、あれほどの原発大事故も、緑の党に議席をもたらす追い風とはならなかった。
こうして「赤」も「緑」も対抗力を持つことができない現在、1950年を起点とする「逆走」は半世紀以上をかけてゴールに達しようとしているのである。最終ゴールはまだ視界にはっきりととらえられているわけではないが、行く手にうっすらと浮かび上がって見えるのは、議会制の枠組みを伴いつつ、ファッショ的色彩を帯びた管理主義的かつ選別・淘汰主義的な国家社会体制である。(連載終了)