今月19日に米国防総省が公表した今後数年の優先課題を示す新たな国防戦略では、中国とロシアについて、自国の権威主義モデルに沿った世界の構築を目指す「修正主義国家」と規定し、過去十数年の間、米国が優先課題としてきた対テロ戦争から両国との対抗に重点を移すとした。
トランプ政権発足1年の節目前日に公表され、トランプ大統領による初の合衆国現状演説(一般教書)にも取り込まれたこの「新戦略」は、米国の21世紀第二四半世紀へ向けた新たな世界戦略を示したものと言えるであろう。
その特徴として、「競合国」と名指す中露両国の現状を「修正主義」と規定していることが注目される。「修正主義」とは、かつてマルクス主義内部で、その教条から離反しようとする一切の主義を非難する文脈で用いられた用語であったが、それを反マルクス主義総本山の米国政府が公式文書で用いるとは驚きである。
たしかに、現時点での中国は政治的には共産党体制を固守しながら、経済的には党の管理下で市場経済化と実質的な資本主義路線が定着、毛沢東時代であれば、間違いなく「修正主義」と断じられる道を歩んでいる。一方、ソ連解体後のロシアは共産党体制を清算した後、プーチン大統領率いる旧ソ連保安機関を出自とする諜報官僚集団が前面に出て、やはり国家管理の強い資本主義体制を構築しようとしている。
両体制に共通するものがあるとすれば、マルクス主義の修正よりも、むしろ資本主義の修正であろう。すなわち国家管理の強いタイプの資本主義―国家資本主義―というモデルを共有していると言える。その上部構造は両国で異なっているが、権威主義的な集権体制―筆者はこれを現代的な管理ファシズムと規定する―という限りでは近似している(拙稿1・拙稿2参照)。
実際、近年の中国とロシアは、国際社会で共同歩調をとることが多い。とはいえ、現時点では経済力で明らかに優位に立つ中国がロシアに主導権を譲る可能性はないし、他方でロシアも中国に従属する意思はなく、両者の関係性は微妙である。その意味で、中と露の間には/記号を挿入しておく必要があろう。
こうした中/露に「対抗」して、再び大国間の競争的な世界を構築しようという米国新戦略の発想は、21世紀における新たな冷戦宣言と呼んでもよい意義を持つことになるだろう。世界の流極化のなかで、米国の絶対的優位性が示せない中、時間軸を再び冷戦時代に戻して覇権を取り戻そうという懐古主義の悲哀も感じられる。
しかし、旧冷戦時代とは異なり、新冷戦にあって、米国はもはや「自由」の守護者を主張することはできないだろう。なぜなら、米国トランプ政権も発足から一年、議会対応に苦慮しながらも、移民排斥や白人優越主義の活性化では着実な“実績”を上げ、自由の女神を色褪せさせているからである。
トランプ政権発足前の拙稿で予見したアメリカン・ファシズムの性格はまだ顕著化していないが、大統領が自身の「宣伝大臣」を務め、議会を通さない大統領令を濫発するトランプ政権の権威主義的性格は、歴代どの米政権よりも濃厚である。
とすると、中/露vs.米の新冷戦とは、権威主義vs.自由主義の対抗関係ではなく、権威主義―ひいては管理ファシズム―同士の内輪もめ的な内戦的対抗関係ということに帰着しそうである。この偏向した対抗関係の終着点が奈辺にあるのかはまだ不透明である。