フルール・ダンテルディ

管理人の日常から萌えまで、風の吹くまま気の向くまま

Dグレ「クロスXラビ」小説①

2009年01月10日 | Dグレイマン関連

注意!!
①これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、
そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。
②Dグレ「クロスXラビ」です。ドSのクロスとドMなラビなので、このカップリングやラビ受けが苦手な方はご遠慮ください。
③原作の設定は一部無視、また多数捏造しております。くれぐれも信じないように!(笑)


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            regret


 硬い木の扉をノックする。が、返事はない。彼はさっきよりも強くこぶしでドアを叩いた。
「クロス元帥殿、部下のラビであります」
 扉に耳をくっつけると、入れ、と唸るような声が聞こえた。
「失礼いたします」
 鍵はかかっていなかった。ラビは細く開けた扉の隙間から、身を滑り込ませた。
 隊服の上着を脱ぎ、だらしなくシャツの前をはだけた姿で椅子に座り、両脚をテーブルの上に投げ出したクロスは、長い前髪の下から不機嫌さも露わにラビへと視線を向けた。
「てめえを呼んだ覚えはないぞ」
 そんな視線も蛙の面になんとやらの見本のように、ラビはへらっと笑って返した。
「この機を逃すと、着任のご挨拶もできないうちに、また異動になる可能性もあるかと思いまして。初めてお目にかかります、クロス元帥殿。2年前に閣下の部隊に配属されました、ラビ・ファーガソンです。お見知りおきを」
「……お前らのことはコムイに任せてある。お前だってわかっているんだろう。どこの部隊も引き受けないはみだし者が突っ込まれるのが俺の部隊だ。俺からして教団の鼻つまみ者だからな。俺の好きなようにやれるように元帥なんてもんになっただけだ。お前らの面倒を見る気なんぞねえ。お前らも好きにしろ。下っ端のやれる範囲でな」
「ありがとうございます。私も、コムイ室長からの命令遂行以外のときは自由にやらせていただいております」
 ラビは笑みを顔に貼り付かせたまま答えた。
「そうかい」
 もういいだろう、とばかりにクロスはテーブルの酒瓶を取ると、直接口をつけてあおった。ラビはそれを笑みを消してじっと見つめる。
「……まだ何か用か」
「……お噂では、元帥殿は赴いた先々に愛人がいらっしゃるとか」
「それが何だ」
「支部内へは団員以外立入禁止ですから、お慰め申し上げようかと思いまして」
 クロスは、胡乱な者を見る目つきでラビを見た。
「ヤローに用はない。失せろ」
「………」
 ラビはバンダナを解いた。すると上げられていた髪が落ち、意外と長い髪が肩にかかる。
「……あの時はお役に立てませんでしたが、今ならご満足いただけると思いますよ?」
「……」
 クロスは白く光る眼でラビを見据える。ラビは彼の足元に片膝をついた。
「あなたは覚えていらっしゃらないかもしれませんが、オレは覚えています。……忘れられるわけがない。あの日以来オレは……あなた以外ほしくない……あなただけが欲しくてたまらない体になってしまったんですから……」
 クロスを見上げるラビの目は、すでに欲望に潤んでいる。それを見てもクロスは心を動かされた様子もなく、無表情にそれを見返していた。ただ無言で。──出ていけとも、黙れとも言うことなく、恭しく彼の手を取ったラビの手を振り払うこともなく──



 寒い夜だった。雪こそ降ってはいないが、それだけに乾いた風が身を切るようだった。こんな日は、さすがの色街も、外に立って客を引く女の姿はなかった。男たちは早々に女を置いている宿に逃げ込み、立ちんぼうの女たちは今夜の収入をあきらめ、自分のベッドでありったけの服をかきよせて寒さをしのいでいた。
 飲み屋からは明かりと酔客たちの声が洩れていたが、街の通りは人影もまばらで、たまに道を行く者も、コートと帽子に顔を埋め、早く暖かな部屋にたどり着こうと、周りも見ずに足早に通り過ぎていくだけだ。
 そんな凍える夜の街に、細い路地に身を隠すように座り込んでいる子供がいた。
 建物の壁にくっついてしゃがみこみ、分厚いマントですっぽり体を包んで膝の上に顔を伏せて、まるで傍らに積み上げられた木箱や麻袋などと同じに見せかけようとでもしているようだった。けれどその子供の特徴が、それを裏切っていた。
 鮮やかな赤い髪が、そこにあるのはゴミではなく、人だと教えていた。
 子供は、うとうとと眠りかけていた。行くあてもなく逃げてきて、せめて少しでも風を避けようと建物と建物の間の、人1人通るのがやっとのこの路に入り込み、疲れたのと寒いのとで震えながら体を縮めて休んでいたのだが、夜も更けて、睡魔に襲われ始めていた。
 眠ったら凍死するだろうと、年齢よりもはるかに賢い子供にはわかっていたが、それに抵抗する気力は湧いてこなかった。
 8歳になった彼は、父から引き離され、「教団」とやらに連れて行かれるところだった。彼は特殊な能力と役目を持つ一族に生まれた。その中でも彼は生まれながらにその右目に「ロトの印(しるし)」を持っていて、当然その役目を継ぐ者として育てられ、教育されてきた。
 一族は一般人に比して際立って「適合者」が現れる確立が高く、イノセンスが見つかったときは、「教団」はまず彼の村の中から「適合者」を探す。それが「ロト一族」と「教団」とのはるか昔からの約束であり、契約だった。特にごく稀に生まれる「ロトの印」の所有者はほとんどが「適合者」なので、彼も「適合者」かどうか調べるために、現役「ブックマン」に、「ブックマン」(それが役目を継ぐ者のことだ)となる訓練を受けながら「教団」へ向かう途中だった。
 母は彼を産むときに亡くなった。一族の役目に忠実だった父は、「印」を持つ彼を息子としてではなく、次期「ブックマン」として接し、教育することにのみ熱心だった。その教えにもかかわらず、それともそうだったからこそかもしれないが、彼は物心がつくにつれ「ブックマン」になどなりたくないと願うようになっていた。「適合者」だったなら、「エクソシスト」にもならねばならない。そうなれば彼は「一族」のみならず「教団」にも縛られ、生き方を定められ、何一つ彼の自由は許されなくなってしまう。かといって、村に帰りたくもなかった。帰ったところで彼を待っている者は誰もいないし、「ブックマン」にならなかったところで、村にいれば「書記者」として世界中から集められた膨大な記録を書き記し、整理し続ける生活が待っているだけだ。それが、村での唯一の生き方なのだから。
 だから、彼は「ブックマン」であり「エクソシスト」である男が、「教団」から悪魔退治の命令を受けて、数日宿に彼を置いて任務に出かけなければならなくなった隙に、逃げ出したのだ。行くあてなどない。帰るところもない。逃げたところで浮浪児となるか野垂れ死ぬかだとわかっていたが、そうせずにはいられなかった。
どうだっていい。彼がいなくなったところで、村には同じように「ブックマン」となるべく教育されている子供が何人かいる。彼よりずっと年上の子供もいた。彼らのうちの誰かが選ばれて、現「ブックマン」とのマンツーマンの訓練を受ける旅に出ることだろう……。
「……おい。起きろ、ガキ」
 彼はのろのろと顔を上げた。幻聴だと思っていたが、何度も呼ばれていたらしい。
 路地の入口に、背の高い男が立っていた。顔は陰になっていてよく見えないが、帽子の下で長い髪が大きく跳ねているシルエットが印象的だった。
「ついてこい」
 どうした、とも訊かず、彼が立ち上がるかどうかも確かめず、男は身を翻して路地から出て行った。それを見送って彼はしばらくぼんやりとしていた。
 全く知らない男だったし、こんな色街で野垂れ死に寸前の子供に声をかけてくるのだから、どんな目的があるかわからない。それでも死にたくないと思う子供ならついていくだろう。だが、彼は別に死んだってかまやしないと思っていた。
 ──なのに立ち上がり、男のあとを追ったのは、なぜだったのか。
 街灯に照らされた男の髪が、彼と同じ赤毛だったからか。それとも他に理由があったのか。
 彼はかじかんで感覚のない足でよろよろと、足の速い男を見失わないようについていった。
 男は一軒の宿に入っていった。そこはこの辺りの宿の例に洩れず、置いている女を呼ぶことを前提として部屋を提供するところだった。
 受付の男は、あとからふらふらと入ってきた子供にちらりと目を向けたが、客には愛想良い顔を向け続けた。
 男は鍵を受け取り、階段を上っていく。遅れて2階にたどり着いた彼は、開け放したドアを見つけてそこへ向かった。
 入口からのぞくと、男はすでに帽子もマントも脱ぎ、ベッドに寝転んでタバコに火をつけたところだった。
「閉めろ」
 彼は慌てて中に入り、ドアを閉めた。
 男の髪は、彼のものほど明るくはなかったが、混じりけのない見事な赤毛だった。しかしそれより彼の目を引いたのは……
「風呂に入ってこい。お前が寝るのはそこのソファだ」
 男は彼に目を向けもせず言うだけ言うと、目を閉じてタバコの煙をふーっと吐き出した。とりつく島もない男の態度に、彼はおどおどしながらバスルームに入った。
 服を脱いだところで、鏡の中の自分が目に入った。鏡に映った彼の右目は、黒い眼帯に覆われている。「印」を隠すためのものだ。
 あの男も、長い前髪に隠れてはいたが、右目に眼帯をつけていた。それを除けば切れ長の目も高い鼻梁も、口角の引き締まった厚い唇も、初めて見るほど秀麗で男らしい美貌の持ち主だった。
 彼は眼帯を外した自分から目を逸らした。シャワーの湯は冷え切った体に飛び上がるほど熱く感じたが、やがてそれが心地良いものに変わってから、ようやく彼は風呂から上がった。髪は濡れたままだったが眼帯をしっかりと結び、服を着てマントを手にバスルームを出る。
 一歩出た途端、彼は固まった。
 男の上に女が跨り、はだけられた胸に唇を這わせていた。赤い爪の白い指が、幾筋も傷痕の走る、筋肉の盛り上がった胸を、愛しげに撫で回している。
 茫然と立ち竦む彼を、じろりと男はねめつけた。
「ガキはさっさと寝ろ」
 弾かれたように彼はソファに飛び込み、マントを頭から引っ被った。そのまま体を縮め、息を殺す。
 幼い彼にはその行為の名前も意味もわからなかったが、ただ見てはいけないとだけ感じた。自分はまだ知らない。だが知らないことは知ろうとしなければならない。すべてを知り、記憶すること。それが我々の役目だと、旅立つ日にブックマンから言われた。そして知ったことに心を乱されてはならない。押し潰されてはならない。そのために心を剛くしなければならないと。
 それでも、今は知りたいと思わなかった。それはまだ自分には早い。大人になってからでいいと自分に言い聞かせ、狭い部屋なのでベッドからそう距離があるわけはなく、何がどうなっているのかわからないが、聞こえてくる彼らの睦みあう音から耳を塞ぐ。
 ふと、彼は気づいた。いつの間にか、甘い花の香りに包まれていた。さっき使った石鹸の匂いではない。女のつけている香水だろうか?まるで部屋中に花が敷きつめられているかと思うほど、窒息しそうなくらい濃密で、クラクラしてくる。
彼の体は、抗いようもなくその香りに寄った。見も心も痺れさせるほど甘く、心を奪っていく。体から力が抜ける。半ば夢うつつで、時折こみ上げる甘い疼きに洩れ出る声を、両手で塞ぐ。それは、甘やかな拷問だった。
 ──どれくらい経ったのか、もう女の嬌声もベッドがきしむ音も聞こえなくなっていた。聞こえてくるのは、ガラスの触れあう音と、液体が注がれる音……。
 彼は、そっとマントから顔を出した。
 女の姿はなかった。男はベッドの背にもたれ、ひとり琥珀色の酒を飲んでいる。
 彼は、ひどく喉が渇いているのに気づいた。気づいてしまうといっそうその乾きは耐え難く感じた。
 サイドテーブルの水差しが目に入った。水割り用のものだろう。彼はほんの2、3歩をよろめき歩いて、テーブルに掴まった。グラスが見当たらなかったので、水差しを両手で抱え持つと直接口をつけ、こぼれた水が喉を伝い落ちるのも構わず貪り飲んだ。
 はあ、と息をついで水差しを置く。香りはまだ宙を漂っている。それは残り香ではなく……今、目の前にいる男から発していることが、彼にはわかった。その香りをかいでいるだけで体が熱くなり、惹きつけられる。ひたひたと足元から満ちてくる、陶酔感。
「……ずいぶんと早熟なガキだな」
 男は、まだ頭の芯が痺れてトロンとしている彼を見て、片頬を歪めた。
「だが……それも当然か」
 グラスを置き、男は彼に背を向けて横になり、毛布を引き上げた。
「俺はガキをどうこうする趣味はねえ。そっちに戻って寝ろ」
 男の言う「どうこう」がどういう意味かわからなかったが、男が自分に興味がないのはわかった。だったらなぜ彼を拾ったのか、単に気まぐれを起こして凍死しそうな子供を助けてくれただけなのかと疑問に思いながら、彼はソファに戻り、熱い体とは裏腹に冷えた心を温めるように、マントを体に巻きつけ手足を縮めて横になった。
 翌朝、「義理は果たしたからな。あとは勝手にしろ」という科白を残して宿の前で別れた男を見送り、彼は逃げてきたはずの自分の宿に戻った。宿には、任務から戻ったブックマンが、一睡もせずに待っていた。彼は少年を叱責することも、どこへ行っていたのかと問うこともせず、何もなかったように「行くぞ」と荷物を担いだ。少年も、自分のバッグを背負った。
 前を歩く師からは、以前はわからなかった、かすかな花の香りがした……。

②に続く・・・


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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2009-01-10 22:47:23
ファーガソンって初めて知った…
意外と詳しいのねセンパイ…

ラビがいきなりひわいでびっくりしたじょ…!
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Unknown (幸田萬里)
2009-01-11 12:40:49
nao.ちゃんへ。だーかーらー、注意書きに「多数捏造」って書いてあるじゃん!この間も言ったが、書いてあることはよく読めよ…。
いっそ、「人名、地名等すべての設定は99%捏造設定です」って書いたほうが良かったかね~?
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