講師・雁部先生の歌「石巻・北上河口にて」

石巻・北上河口にて（歌壇　二月号より）

・わが同族（やから）十幾人か失ひし津波の去りて早や八か月
・疎開せし日のごと水を湛へたる北上河口にいま葦を見ず
・何もなしまともに残る何もなし市民病院わづかに立てど
・日和山その山下の大き寺瓦の屋根と柱のみ見す
・老人と幼児はこの坂のぼり得ず壮（わか）きはその死免れたれど
・映像といへど津波にひしめける車の中に生（しょう）ある人も
・あな哀し業火に焼かれし小学校「健やかに育て心と体」の標語残るも
・北上の河口の中州に残りゐる聖ハリストス教会奇蹟のごとく
・沙の中に見出でてしばし戸惑ひぬ紛れもあらぬロザリオなれば
・天の啓示と思ひて沙より拾ひ上ぐ伊万里の皿と白きロザリオ
・大地震（おほなゐ）の津波もなべて攫ひ得ずこの会堂と白きロザリオ
・聖ザビエルの御骨（みほね）拝せし日も遠し「エレミア哀歌」かく唱へしか