( 河原なでしこ 赤塚薬草園 )
大阿蘇の撫子なべて傾ぎ咲く 岡井省二
朝顔は夏の花か秋の花か、歳時記には秋の花と
してゐるものが多い。この花を見ると秋を感じるといふ
理由で秋の部に編入されてゐるのだ。
しかし俳句作者は朝顔を見て本当に秋を感じるだろうか
却って夏を感じる人のほうが多いのではなかろうか
少なくとも私などは夏を感じる一人である
朝早く起きると白く立ち込めた靄の中に朝顔が咲いて
ゐる。やがて靄が薄れて強い朝日が射してくる
この朝日に秋の感じはない、尤も八月も五、六日からは
暦は秋になっていまふから、その後の朝顔は秋に花だと
言われれば仕方ないが 朝顔は七月の初めから咲くし
八月半ばまでは十分夏の花の感じを持っている
九月になって秋雨が降る頃の朝顔の花ならば無論秋の
感じもするが朝顔の一般論にはならない
朝顔は人家の庭や垣根と密接な関係をもつ 狭い露地
などに沢山咲かせた家があり、今では甚だ非現実的な
感じがして面白くない それよりも街路樹などの
下に咲かせてあるもののほうがよほど現代の題材として
好ましい
朝顔を置きたる縁に日はいまだ 風幽子
朝顔の紫紺にしろき斑のあはれ 呉車
朝顔に日の照りそめて濯ぎをふ 美世子
朝顔にみとりつかれの目をやりぬ 白雨
** 水原秋桜子 花の句作法(1951年 歴程社刊)より**