◎「コンビニ受診」を減らしましたね 県立柏原病院の小児科を守る会代表 患者も変わらなければ
母親たちの呼びかけによって、兵庫県立柏原病院小児科の時間外受診が半分以下に減った。スロ-ガンは三つ。「コンビニ受診を控えよう」「かかりつけ医を持とう」、そして「お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう」だ。
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柏原病院は兵庫県の中東部、丹波市内にある。2007年春、2人しかいない小児科医の1人が辞意を表明し、小児科がなくなるかもしれないと地元紙の記事でで知った。「小児科医がいなくなれば、産科も維持できない。安心して子育てできなくなる」。危機感を抱き、医師を招くために署名活動に取り組んだ。地域のお母さんたちが中心となって「守る会」をつくり、5万5千人余の署名を集めた。県庁に届けた時、言われた。「医師が足りないのは丹波だけではない」小児科医はとどまり、危機は回避したものの、「医師が働きやすい環境を地域がつくらねばならない」と思い至った。勤務医は激務なのに、「SOS」を自分からは発信しづらい。一方、患者側の要求水準は高い。スロ-ガンに基づいて啓発用のステッカ-を作り、「お医者さんにいままで以上の感謝を伝えよう」と院内に「ありがとうポスト」を設けた。ふつうなら苦情であふれる投書箱が感謝の手紙でいっぱいになる。取り組みから2ヵ月で夜間や休日の受診は激減した。「子どもが熱を出し、軽症かなと思っても、受診せずに様子を見るのは勇気が要ります」細かな判断材料を提供するため、柏原病院の小児科の監修で作ったのがA4判の冊子「病院に行く、その前に・・・」だ。発熱や嘔吐などの症状と程度によって、「心配ない」から「救急車を呼ぶ!」まで、受診の目安をチャ-ト化した。一冊100円。イラストは絵が得意な会員が担当した。話題を呼び、自治体を中心に北海道をはじめ全国から引き合いがある。これまで3万部印刷して配布した。柏原病院の医師が02年の43人から19人に半減したなか、小児科医は5人に増えた。守る会の活動を知り、希望して来たのだ。神戸大からは夜間当直の医師が応援で来るようになった。開業医の理解もあり、初期医療としてのかかりつけ医が定着してきた。「医師を増やせ」「病院を残せ」といった要求型ではなく、医療者と患者の間に橋を架け、「患者も変わろう」とのメッセ-ジを発信する活動が功を奏した。
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結婚した翌年、西宮で阪神・淡路大震災に遭った。家は全壊した。「あの時、死ななかったから、いま、ここにいる。守る会の代表も役割だと受け入れています」市営住宅に家族5人で住む。夫は高校の教師。小6、小4、小2の子どもがいる。ス-パ-マ-ケットの青果コ-ナ-で週に2回パ-トタイムで働いている。会員はいま20人。それぞれ仕事を抱え、日中は子連れで車で集まり、夜は電子メ-ルを交換しながら、地域医療のために何かできるか知恵を出し合う。子育て世代対象の勉強会「ママのおしゃべり救急箱」は好評だ。「ふつうのお母さん」のしなやかな取り組みが地域医療再生のモデルとして注目されている。自治体から講演に招かれたり、視察を受けたりする機会が増えた。市民運動をしているとの気負いはない。厚生労働省の担当者が面談に訪れた時は、「厚労省にしてほしいことはありますか」と聞かれて、「何もありません」と答えた。「医師を守る、地域医療を守るとは、魅力ある地域をつくること」結論はシンプルだ。