○ 「良い家」とはどのようなものですか 天然素材で安全を追求
だれしも「良い家」に住みたいと思う。では、「良 い家」とは、どんな家だろう。1998年、全国の腕 利き大工でつくる「削ろう会」の大会で、阿保昭則 さんはカンナの薄削りの日本記録を出した。厚さ 3ミクロン(1000分の3㍉)。五枚重ねても、新聞 の文字が見える薄さである。「日本一の大工」を目指して研さんを重ね、 それほどの技術を持つ阿保さんでも、「家づくりは難しい」という。「お 客さんがどんな家を求めているか、それを見極めることが一番難しい。 自分が満足しても、お客さんに心から喜んでもらえなければだめなん です」
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故郷は、白神山地に近い、青森県の小さな村。子供のころから物づく りが大好きで、中学を卒業して地元の大工に弟子入りした。「学ぶこと がなくなり」、三年目には親方の元を飛び出して、札幌などの建築現 場で就業。20歳のときには、一人で親の家を建てた。腕の良い大工 として、多くの住宅の建築を手がけてきた阿保さんに転機が訪れたの は、不惑を迎えようとするころ。現場で化学物質を多量に含む新建材 を扱ううちに、体調を壊してしまったのだ。「それまでは、あまり疑問も なく、きれいだからと新建材を使っていたんですよ。でも、つくっている 自分の体もだめになる家が、住む人の体に良いわけがない。健康で安 全に暮らせる家でなければ、つくる意味がないと思ったのです」しかし、 使われる身では不本意な仕事もしなくてはならない。「自分が納得ので きる家だけを建てたい」と、2000年に千葉県の大綱白里町で「耕木社」 を設立。三人の職人とともに、注文住宅の建築と木の家具づくりを行っ ている。
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大工になって35年。木やしっくいなどの天然素材と、在来の木造軸 組工法に徹底してこだわる阿保さんは、「社会が豊かになるにつれ、 日本の住宅の質は、どんどん落ちてきた」と憂う。「化学物質を含む 新建材を使い、工場で加工された部材を現場で組み立てるだけの 住宅が増えてきた。その方が、住宅メ-カ-も大工も、楽してもうか るからです。確かに見た目は良いのですが、それが住む人に良い 家と言えますか」大工の技術の低下も、気にかかる。「一人前の技 術を持つた大工は、今や全体の3%もいないでしょう」原因は、部材 を現場で組み立てるプレハブ建築や、前もって機械で木材を寸法通 り加工するプレカットが主流になり、職人技が必要とされなくなつたた めだ。技術を伝えようと、阿保さんは専門学校などで、大工就業を志 す若者の指導にも力を入れている。「大工を一生の仕事と考えてが んばっている若者も多い。そんな子は、基礎からきちんと育ててやり たいから」天然の素材と、大工の技術。阿保さんは、それに加えて、 「良い家には美しさも必要」という。「これからは、大工もデザインを勉 強しなくてはいけない。大工の都合で、つくりやすい家にするのでは だめ。昔の民家が美しいように、今の住宅にも時代に合った美しさが 求められていると思います」そして、最後に必要なのは「心」だという。 住む人の安全と健康を考え、好みを理解して家をつくること。「その心 がなければ、お客さんに喜んでもらえる家にはなりません」阿保さん は今、化学物質過敏症に悩む人からの家づくりの依頼を、優先して 受けている。「聞くと、みんさん本当に苦労されているんですよ。こん なに苦しんでいる人のために、天然素材で安全な家をつくるのは、自 分の義務だと思うんです」天職という言葉が、とても似合う人である。
あとか゛き=阿保さんは、昨年10月に出した単行本「大工が教える ほんとうの家づくり」で、これまでにつくった家の間取りや坪単価を詳 しく紹介している。技を伝えるため、現在手がけている住宅建築現場 の見学も、可能な限り受け入れている。 問い合わせは、同社℡0475・72・2162(ファックスも)へ。
大工が教えるほんとうの家づくり 価格:¥ 1,680(税込) 発売日:2007-10 |