熊本熊的日常

日常生活についての雑記

雪が降っても降らなくても

2014年02月16日 | Weblog

娘と会う場合、普段なら新宿で待ち合わせることが多い。昨日は東京駅周辺へ行くつもりだったので、最初はそうするつもりだった。しかし、京王線の混雑を体験して、新宿での待ち合わせは避けることにした。別の駅で待ち合わせて池袋から地下鉄丸ノ内線で東京に出た。丸ノ内線はガラガラで、しかもほぼ定刻通りに運行されていた。

今、都内の美術館では英国関連の企画展が3つ開催されている。
森アーツセンターギャラリー「ラファエル前派展」 
三菱一号館美術館「ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860ー1900」
東京ステーションギャラリー「プライベート・ユートピア」

他にもやっているかもしれないが、私が把握しているのはこれら3展である。既に「プライベート・ユートピア」は観ており、「ラファエル前派展」は妻と観に行く予定なので、今回は「唯美主義」を観てきた。展示の中心はロンドンのVAが所蔵する作品群で、どちらかといえば単なる絵画というよりも、アート・アンド・クラフト運動のような社会に影響を与えた美術運動系の作品だ。絵画だけでなく家具や調度品も展示されている。産業革命で急速に失われた手仕事に回帰しようという方向性は日本の民芸運動に通じるものがあるが、ウィリアム・モリスらのまずかったところは「クラフト」よりも「アート」に重きを置き過ぎたところだろう。壁紙のよパターン化などにコストを抑えようという姿勢が観察されるが、使い手の支持がなければ日用品にはならない。アートになってしまうと限られた人々の間でしか流通せず、社会運動に広がるということは期待できない。結果としては単に物好きの新ジャンルが生まれただけ、ということになってしまう。おそらくモリスらは彼らの作品や商品の需要家としての市民の感性を過大評価していたのではないだろうか。

昼は久しぶりに東京會舘でカレーライスを食べた。社会人になったばかりの頃、職場がこの近くだったので、たまに昼にここのカレーを食べに来た。インド料理でもなければ日本の家庭料理でもない、格調を感じさせるカレーである。東京のインド料理屋のカレーも、家庭で食べるカレーも、洋食屋のカレーも、蕎麦屋のカレー南蛮も、牛丼屋のカレーも、それぞれに旨いと思うし大好きである。しかし、口に入れた瞬間に、ちょっと他所とは違うと思わせる、東京會舘のようなところのカレーが日本が誇るべきもののひとつではなかろうか。大袈裟かもしれないが、私はそう思っている。

食事の後、出光美術館で板谷波山を観る。勿論、面識も縁もゆかりも無いけれど、作品からは作り手の人間性の高さのようなものが感じられる。私ごときが評するべき相手ではないのは承知の上だが、計算され尽くしているかのような図案と施釉の完成度の高さは人間技を超えていると思う。それで人間国宝の指定を辞退するのもかっこいい。自分は伝統技法の継承者ではなく芸術家なので、という理由が素晴らしい。そういうことが言えるような生き方をしてみたいと思う。もう遅いかもしれないが。

有楽町から新橋まで電車で移動して、パナソニック汐留ミュージアム「メイド・イン・ジャパン南部鉄器 伝統から現代まで、400年の歴史」を観る。茶道具はいいとして、妙な色を付けて海外市場に媚を売るようなデザインの鉄器というのはいかがなものかと思う。この展覧会のチラシにつかわれているような作品は、ロンドンのLibertyあたりに並んでいそうな雰囲気がある。Libertyが悪いというつもりは全くないのだが。

日本橋三越で陶芸の先生の個展を拝見する。前回に続いて今回も冷やかしだ。そろそろひとつくらいは買わないといけないかなとは思うのだが、本人の前で買うのは気が引けてしまう。特に理由はないのだけれど。

好きなものを眺めて歩くのは楽しいことではあるのだが、自分が無駄に存在していることを否応無く認識せざるを得ない辛さもある。そして、今更どうしょうもないという諦観もあって、一方で、まだなんとかなるかもしれないという色気もある。我がことながら面白いものだと思いながら今日も過ぎて行く。