勤めからの帰り道、目が釘付けになる風景に出会ってしまった。
新宿で京王線の橋本行き急行に乗って発車を待っていた。車両のつなぎ目に近いドアの脇に進行方向に向かって立った。発車間際になって、そのつなぎ目に若い小柄な女性がやってきた。見た目はごく普通の勤め帰りのお嬢さんだ。耳に赤いイヤホン。イヤホンのコードは手にしたスマホにつながっている。ドアが閉まり電車が動き出すと、彼女は肩にかけた革の鞄からビニールに入った菓子パンを取り出し豪快に食べ始めた。小柄なので一口で食べることのできる量が私に比べて少ないが、文字通り「頬張って」食べている。時間も遅かったので小腹でも空いたのだろうと思っていた。やがて一つ目のパンを食べ終えて二つ目に取りかかった。次はおにぎりだ。次もおにぎり。そしてまたパンになった。私はつつじヶ丘で下車したが、その時までずっと口が動きっぱなしである。小腹が減る、というようなことではなく、それは彼女にとっての夕食なのだろう。太っているわけでもなく、むしろ細いほうだ。京王線の急行で新宿からつつじヶ丘までは約20分だ。20分間、携帯を眺めながらひたすら食い続けるというのは、なんだか人間のようではなかった。