万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国民投票が示すEUの民主主義のジレンマ

2008年06月15日 13時49分56秒 | アジア
EU各国、「リスボン条約」否決に衝撃と落胆(朝日新聞) - goo ニュース

 EUは、「欧州憲法条約」の批准に際してはフランスとオランダの国民投票で躓き、修正を加えた「リスボン条約」の批准に際しても、アイルランドの国民投票で頓挫することになりました。この一連のNOについては、EUの統合が後退するものとして落胆の声があがる一方で、裏を返しますと、これもまた、EUの民主主義の証ではないか、と思うのです。

 民主主義とは、民意を汲んだ政治を目指す言葉です。EC時代から、EUは、一部のエリート官僚によるビューロクラティックな手法が”民主主義の赤字”として問題視され、民主主義の発祥の地を自負するヨーロッパにあって、さらなる制度の民主化が模索されてきました。新たな条約の発効に、加盟国全ての批准を要することもその一つと言えます。そうして、この批准手続きでは、加盟国レベルの民主主義と結びつき、少なくない加盟国で、国民投票という手段が用いられることになったのです。

 こうして加盟国を含めたEUの民主主義の深化がすすめられたのですが、その過程で明らかとなったもう一つの側面があります。それは、民主主義は、国境を超えることが難しいということです。もし、EU全体を枠組みとした民主主義が成立しているならば、多数決により、一部の加盟国の国民多数が反対しても、条約を発効させることができたことでしょう。しかしながら、これでは、加盟国の主権が無視されると共に、民主主義の原則にも反してしまうことになるのです。

 アイルランドの国民投票における否決は、EUが、加盟国の国民が自らの意思でNOを言えるように、民主的な制度設計されている故に起きた出来事です。NOを言える正当な権利を、加盟国は与えられているのです。その一方で、EUの視点から見ますと、それは、自らの限界を画する民主主義の大いなるジレンマなのです。

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