万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ICJ提訴は何故”中国の思う壺”なのか

2012年10月01日 15時36分11秒 | アジア
橋下氏主張の尖閣「司法裁」決着、政府は否定的(読売新聞) - goo ニュース
 尖閣諸島に関するICJへの提訴案について、政府内では、領土問題を認めたことになり、”中国の思う壺”になるとして否定的な意見があるそうです。

 日本国政府が、ICJへの提訴に対する態度を決めかねている中、中国政府は、対外宣伝工作を強めています。米紙では、宣伝活動の一環として、13世紀から中国が尖閣諸島を領有していたところを、日本国が19世紀に台湾と共に占領し、米国による信託統治の後に日本に返還されたとする記事が掲載されたそうです。琉球への冊封使の中継地として使われていたと説明しているそうですが、この説は初耳ですし、明代までは、台湾さえ夷外の地であり、当時、東シナ海での倭寇の活発な活動があったことを考えれば、中国の歴代王朝が、尖閣諸島を長期にわたり実効支配していたとは到底考えられません(台湾を下関条約で割譲したのは、清朝が、自国の”固有の領土”とは考えていなかったため・・・)。実際に、清代に編まれた地誌―「大清一統志」―では、尖閣諸島は、清朝の版図に含まれていないそうです。にも拘らず、アジア史に比較的疎い欧米では、中国側の主張だけが鵜呑みにされるかもしれません。しかも、アメリカ政府の基本的な立場は、”施政権は日本に返還したが、領有権争いについては中立”というものです。たとえ日本国政府が、”領土問題はない”と言い張っても、一つ間違いますと、中国の宣伝に国際社会が惑わされ、中国による武力奪取が”自衛権”の発動として容認されてしまう可能性も否定できないのです。

 こうした日本国が置かれている厳しい国際環境を考えますと、ICJの法廷こそが、日本国が自らの領有の正当性を主張する絶好の場となるはずです。”中国の思う壺”であるならば、中国政府が真っ先に、ICJへの共同付託を日本国政府に申し出るはずなのですが、その気配は感じられません。日本国政府が、”中国の思う壺”と考えるならば、国民に対して、具体的に、どのような理由で中国を利すことになるのか、説明していただきたいと思うのです。

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コメント (4)
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