万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

尖閣諸島問題―明帝国の亡霊は蘇らない

2012年10月03日 16時03分02秒 | 国際政治
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 尖閣諸島について積極的な国際宣伝活動を展開している中国は、明時代に遡って自国の領有権を主張しているそうです。こうした主張は、国際法において正当な根拠と認められるのでしょうか。中国の主張については、以下の点において問題点があり、国際法において領有権の根拠とはならないのではないかと思うのです。

(1)明時代の尖閣諸島に関する史料は、琉球に至る航海の目印にしたとする記述に過ぎないこと(実効支配していない…)。
(2)14世紀から16世紀にかけての東シナ海は、琉球の勢力範囲であるとともに、倭寇の活動領域であったこと(明は、倭寇に対して守勢…)。明が編纂した『籌海図編』は、倭寇に対する海上防衛区域を示したものである。
(3)明は1644年に滅亡しており、異民族である女真族が建国した清は、明の継承国家ではないこと(現在の中華人民共和国もまた、清の継承国家とは言えない…)。
(4)明代の『壽源県志』(1614年)や清代の『寧徳県志』(1718年)、『重纂福建通志』(清代一八三八年)の巻一にある「福建海防全図」といった官製地方志では、尖閣諸島はこれらの県の行政の範囲に含まれおらず、また、 清の地誌―「大清一統志」―でも、尖閣諸島は、清の版図外にあること。
(5)尖閣諸島は、中国大陸から330キロも離れた沖にあり、中国人の伝統的な漁場であったはずがないこと。
(6)尖閣諸島は、日本国が、1895年に先占の法理によって領有するまで無人島であり、どの国の住民も居住していないこと(実効支配の形跡なし…)。

 以上から、中国は、明時代に尖閣諸島を領有していた事実を証明できないばかりか、そもそも、滅亡した明の権原に基づいて、今日の領有権を主張することにも、無理があります。もし、既に滅亡した帝国や王朝の権原を根拠に、現代の国家が、領有権を主張できるとしますと、世界中の国家は、過去の帝国の亡霊の蘇りを恐れなければならなくなります。諸国の権利を保護するはずの国際法が、消滅した帝国の復活を許すとしますと、異民族支配と国境線の流動化を招きかねないと思うのです。

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コメント (6)
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