万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

「領土問題の処理急ぐな」論の迷走

2012年10月10日 15時50分39秒 | アジア
尖閣、登記簿に「中国」でいい話…鷲尾政務官(読売新聞) - goo ニュース
 昨日の日経新聞の経済教室欄で、東大の小寺教授が執筆した「領土問題の処理急ぐな」という一文が掲載されておりました。読み進めて行くうちに、どうもこの論、迷走しているように思えてきたのです。

 氏によりますと、領有権をめぐる争いには、(1)片方による言いがかりのタイプと(2)双方に一定の根拠のあるタイプがあり、領土紛争の存在承認は、(2)のタイプにおいて、相手国の領有権主張に対して、一定の正当性があることを認めることであると解説しています。しかしながら、これらのタイプの他にも、(3)として、法的根拠がないにも拘わらず、不法占拠しているタイプもあります(氏は、このタイプについては触れていない…)。そして、この記事の方向性を見ますと、どうやら、領土問題と資源問題を分離し、資源については相互に協力すれば、領土問題は相対的に重要性が低下し、双方ともに、国際裁判で委ねても良いとする意識が生まれるのではないか、ということらしいのです。つまり、維新の会の共同管理案とほぼ同一の主張なのです。この解決策では、(1)の言いがかりタイプであったとしても、国際裁判への前段階として、資源については、クレームを付けられた側は、相手国と折半しなければならなくなります。日中国交正常化交渉における周恩来氏の発言を、中国側は”棚上げ論”の根拠としていますが、氏の言葉には、”石油が出なければ、問題にしなかった”という重大な証言も含まれています。つまり、中国側は、領土よりも、資源を狙っているのですから、これを認めますと、”言いがかりを付けたが勝ち”となります。一方、竹島に関しては、韓国側は、(3)の不法占拠という明白な事実がありながら、日本国の”言いがかり”と決めつけ、日韓漁業協定が締結されているにも拘わらず、日本国の漁船は、竹島近海から締め出されているのが現状です。氏の論調の歯切れの悪さは、尖閣諸島と竹島のダブル・スタンダードに起因しているのかもしれません。中国に対しては資源で譲歩を、そして、韓国に対してはICJでの解決を急がず気長に待てと…。

 国際裁判ともなりますと、国際法に照らして判決が下されるのですから、氏の主張するような資源問題での両国間での協力の有無に拘わらず、結果は同一のはずです。国際裁判で、日本国の領有権が確定されることは、相手国が、(1)の言いがかりタイプ、あるいは、(3)の不法占拠タイプであることが判明することでもあります。国際社会で考えるべきは、こうした悪質なタイプへの対処法であり、ICJの強制管轄宣言の促進、ICJにおける領有権確認の単独訴訟の手続き整備、国連の安保理や総会における勧告の活用など、国際法秩序を乱す行為に対する方法こそ、提言すべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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