万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日銀の責任―円高危機における”通貨の番人”の出番

2012年11月21日 16時23分29秒 | 日本経済
安倍氏主張のインフレ目標導入に否定的…日銀総裁(読売新聞) - goo ニュース
 本日、NHKのお昼のニュースを見ておりましたところ、驚くべき数値が報じられていました。生活保護世帯の数が、ひと月の間に5000世帯も増えたというのです。僅か、ひと月で。

 この数値は、日本経済の現状が、大失業時代に突入しつつあることを示しています。また、貿易統計でも、貿易赤字の額は予想を上回る数値となり、日本経済は、実のところ、危機的な状況にあるのです。日本経済の衰退要因は、経済の6重苦にあるのですが、中でも円高の影響は、ここ数年にわたって深刻な懸念材料となってきました。一方、日銀の白川総裁は、中央銀行の独立性を盾に、円高に対する対応には否定的な姿勢を頑なに貫いてます。インフレ・ファイターとしては、立派に仕事を成し遂げたことになるのですが(本ブログでも、2008年の日銀総裁の人選には、インフレ・ファイターを求めていました…)、先日の本ブログの記事でも述べたように、通貨価値には、国内的な価値と国際的な価値の二つの側面があります。国内的な通貨価値の維持については、マネー・サプライの調整で済みますが、諸外国が戦略的に対外通貨政策を展開し、民間の投機筋も活発に動いている国際経済の場では、国内優先で何も政策をとりませんと、あっという間に、外部環境の変化や他国の通貨戦略により、自国の輸出産業が潰されるほどの為替変動に襲われてしまいます。中央銀行の独立性は、インフレに悩まされてきた歴史的な経験に基づき、国内的な金融政策の文脈から確立されてはいますが、それ自体が、外的な危機対応に対する免責を意味しないと思うのです。かつては、外国為替市場における政府の直接的な市場介入によって、円安誘導を行うことができましたが、今日では、この方法は、国際ルールに反するとして批判されています(実施するには、相当の根拠と国際的な理解が必要…)。政府介入の場合には、不胎化すれば国内のマネー供給量に影響を与えず、国内の金融政策とは分離した形で対外通貨政策を実施することができたのです。この方法が難しいとなりますと、残る政策手段は限られており、日銀の金融緩和は極めて有効な手段の一つです。今日では、中央銀行の金融政策は、対外通貨政策の役割をも背負わされていっても過言ではないのです。この状況下では、独立性を保障された中央銀行が、政治とは無関係とばかりに”我関せず”の態度を採りますと、輸出競争力の喪失による経済の疲弊を止めることができなくなります。

 国際社会の動向や悲惨な現実を見ることなく、特定の主義主張に固執しますと、国民を見殺しに、救えるものも救えなくなる可能性があります。これ以上失業者を増やさないためにも、日銀には、為替相場の変動に起因する経済危機への対応もまた、”通貨の番人”の役割であることを、深く認識していただきたいと思うのです。

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コメント (2)
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