万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

トランプ大統領への金委員長からの高圧的な親書

2018年07月13日 10時47分36秒 | アメリカ
トランプ氏、金正恩氏の親書公開 ツイッターに投稿
7月の6・7日の日程で北朝鮮を訪問したポンペオ米国務大臣は、金正恩委員長がトランプ大統領に宛てて認めた親書を持ち帰ったようです。本日、同親書を受け取ったトランプ大統領は、ツイッターを介してその内容を公開しております。

 それでは、この親書、どのような内容が書かれてあったのかと申しますと、まずは、その曖昧模糊とした言い回しにうんざりさせられます。6月12日の米朝首脳会談を‘有意義な旅の始まり(a meaningful journey)’と表現し、美辞麗句で飾られながらも、肝心の非核化については、‘核’の一文字も述べられていません。「共同声明の誠実な施行」という言葉を見つけることはできますが、非核化プロセスに関する具体的な措置についても沈黙しているのです。米朝交渉上の実務的書簡としては期待外れなのですが、それでも、この北朝鮮の‘ファジー戦略’にあっても、その行間から北朝鮮の真意を読み取ることができます。

北朝鮮が込めた真意は、同親書の最後の段落に見受けられます。まずは、「大統領閣下に対する不変の信用と信頼が、今後の実際的な行動のプロセスにおいてさらに高まることを願いつつ…」とあり、今後の米朝関係は、アメリカ側の行動次第であると述べています。言い換えますと、北朝鮮の要求通りにアメリカが行動を採らない限り、米朝首脳会談で築いた信頼関係も揺らぐとトランプ大統領に迫っているのです。この発言から、米朝関係を緩和し、朝鮮戦争の終結から平和条約の締結へと導くのが、北朝鮮側の最大、かつ、最優先の目的であり、未だに行動対行動を原則とする「段階的非核化」の方針を捨てていないことが窺えます。そして上記の文章は、「米朝関係を促進させる歴史的前進が次回の首脳会談でもたらされることに確信を深めている」と続いているのです。つまり、9月中とも囁かれている二度目の米朝首脳会談も、アメリカの具体的な行動を見てから決めると述べているに等しいのです。

同親書から読み取れる北朝鮮の態度は極めて高圧的であり、しかも、罪の意識も欠如しています。アメリカのみならず、国連安保理における制裁決議の下で国際社会から非核化を迫られているのは北朝鮮の側にも拘らず、公然と開き直っているのです。北朝鮮は、核・ミサイル問題を巧妙に朝鮮戦争の終結問題と結びつけ、一般的な米朝二国間交渉に矮小化することで、国際法上の違法行為を棚に上げ、自国の非核化をディーリングの交渉材料に利用しているのでしょう。

常識的に考えれば、こうした慇懃無礼な親書を受け取った場合、怒りの方が込み上げてくるのではないかと思われるのですが、不思議なことに、トランプ大統領は、同親書を肯定的に解釈しており、ツイッターに「北朝鮮の金委員長からの非常に良い手紙だ。大きな進展がなされている!」と書き込んだそうです。トランプ大統領は、本心から同親書を高く評価し、金委員長が誠実に非核化を実行すると信じているのでしょうか。あるいは、既に北朝鮮は、アメリカの要求を丸呑みして非核化のための具体的な措置を開始しているのでしょうか(北朝鮮は、ポンペオ国務長官のCVIDの要求に触れて“ギャングのよう”と反発しているので、この線は薄い…)。北朝鮮以上に掴み難いのは、トランプ大統領の真意かも知れないと思うのです。

よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村
コメント (141)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする