万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

金世襲独裁体制が諸悪の根源なのでは?

2018年07月09日 15時23分57秒 | 国際政治
「北朝鮮もベトナムと同じ道歩める」 ポンペオ氏、非核化へ行動促す
ベトナムを訪問しているポンペオ国務長官は、首都ハノイでの講演において、北朝鮮に対してベトナムと同じ道を歩むよう促したと報じられております。両国は共にソ連邦を後ろ盾として戦後に建国された国ですので、同長官の期待にも根拠がないわけではありません。しかしながら、両国の間には、重要な相違点があるように思えます。

 両国とも南北に分裂していながらベトナムは既に統一している点において顕著な違いがみられるものの、もう一つ、重要な違いを指摘するとすれば、両国の国家体制です。国家体制を支える政治思想を見れば、両国ともマルクス・レーニン主義を発展させる形で、ベトナムはホー・チミン思想を、北朝鮮は主体思想を奉じています。ホー・チミン思想は、共産党一党独裁を土台としつつも個人独裁色は極めて薄く、小作人層を中心とした労働者を中心勢力とした国家体制を目指していたようです。実際に、ベトナムの国家体制は、「四柱」と称される共産党中央委員会書記長、国家主席、首相、国会議長による集団指導体制を採用しています。一方、北朝鮮の主体思想は、基本的には国家有機体説の流れを汲んでおり、頭に当たる最高指導者に絶対的な権力を与えています。しかも、平等に価値を置く社会・共産主義思想においてはあり得ない世襲制を採用しており、金一族による権力の独占が是認されているのです。

 それでは、世襲制を正当化し得る根拠を金一族が有しているのか、と申しますと、そうではないようです。ソ連邦によって‘建国の父’としてリクルートされた‘抗日戦線の英雄金日成’なる人物は、年齢や容貌が歴史上の金日成将軍とは違っており、別人であったそうです。つまり、建国当初から金家には歴史や伝統に根付く正統性が欠如しているのです。にもかかわらず、今では、‘白頭の血統’として半ば神格化されています。2013年に死刑に処された張成沢国防委員会副委員長に対する特別軍事裁判の判決文では、「歳月は流れ、世代が十回、百回交代しても変化することも替わることもないのが白頭山の血統である。…」と記されており、金一族による永遠の世襲が宣言されているのです。

 しかしながら、常識に帰って考えてもみますと、偽者を‘建国の父’と祭り上げた上に、暴力による脅しを以って‘白頭山の血統’として絶対化し、全国民に対して絶対服従を命じる体制は、馬鹿馬鹿しいカルト以外何者でもありません。一介の誰とも知れない人物に国家の全権力を与えることなど、理性を備えた一般の人々からしますと、正気の沙汰とも思えないのです。そして、こうした愚かしい世襲独裁体制こそが、核・ミサイル問題を生み出し、全世界に脅威を与えているとしますと、諸悪の根源は、騙しと暴力と醜い私欲に塗れた、北朝鮮の金世襲独裁体制なのではないでしょうか。

 民主主義の価値に照らせば、ベトナムの共産党一党独裁体制を支持することはできないにしても、北朝鮮の国家体制の劣悪さは、ベトナムの比ではありません。ポンペオ国務長官は、ベトナムを引き合いに出すならば、せめてベトナムと同程度の集団指導体制に国制を改革するよう、北朝鮮に訴えるべきではなかったかと思うのです。

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コメント (2)
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