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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

習主席批判-個人崇拝は‘知能レベルが低い’理由

2018年07月31日 11時25分16秒 | 国際政治
個人崇拝は「知能レベル低い」…習近平主席母校の教授、共産党指導部に“反旗”
7月下旬、中国の習近平主席の母校でもある精華大学の教授が、同主席が構築した個人崇拝を痛烈に批判する論文を、民間シンクタンクを通じてインターネット上に公表したそうです。現在、同記事は閲覧できないそうですが、同論文を執筆した許章潤教授が‘体制派知識人’であった点を考慮しますと、米中貿易戦争を機に習近平独裁体制に揺らぎが生じているとする説は、あながち否定はできないのかもしれません。

 予想外のお膝元からの反旗に習政権側も動揺を隠せないようですが、当局の厳格な情報統制や監視の下にあるネットやSNSの他に、中国社会には従来型の口コミのネットワークがあるのでしょうから、同論文の内容は、相当の範囲で国民の間に広まっていることでしょう。もっとも、同氏が書き残している点があるとすれば、それは、批判理由の論理的、かつ、明快な説明です。論文では、国家主席の任期撤廃を中心に罵詈雑言と言ってよい程過激な言葉で個人崇拝をこき下ろしており、特に印象深いのが、「なぜこのような知能レベルの低いことが行われたのか、反省する必要がある」とする件です。‘知能レベルが低い’というぐらいですから、現体制に腹を据えかねている筆者の心情が伝わるものの、個人崇拝が何故、‘知能レベルが低い’のか、その説明がないのです。

 そこで、‘個人崇拝とは何か’という定義づけから始めなければならないのですが、考えても見ますと、‘個人崇拝’と表現する以上、それは、特定の個人のパーソナリティーに人々が心を動かされ、尊敬の念を寄せる状況を意味します。乃ち、強制力を働かせることなく、あるいは、演出や洗脳することなく人々の崇拝の対象となるのは、誰もが否定のし得ない程の高い徳や能力を備えた人物となります。現実の世界では、数百年に一度ぐらいしかこの世に現れないような徳性、カリスマ性、そして神性を帯びた人であり、しかもそれは、自然体でなければならないのです。個人崇拝を“本性からして有徳な人、あるいは、超人的な人への人々の自由意思による崇拝”と定義しますと、現在の習主席への個人崇拝は、この定義から外れていることは確かです。何故ならば、習国家主席に対する個人崇拝は、国家による強制、演出、そして洗脳の成果に過ぎないからです。つまり、‘まがいもの’を無理矢理に崇拝させる行為は、‘知能レベルが低い’ということになるのです。精華大学は、習主席の出身大学であるからこそ同氏の学生時代の成績や素行に関する記録が保管されており、その真の姿を知っているのかもしれません。

 しかも、‘個人崇拝’の強制は、全体主義体制、あるいは、独裁体制を維持するための道具として利用されてきた歴史があります。こうした体制では、自らの権力を維持するために人々の心の自由までも縛ろうとするからです。この傾向は、‘個人崇拝’が、(1)抑制なき権力の暴走、(2)私利私欲による権力の腐敗、(3)公的利権の独占、(4)民意の無視、(5)独裁者の能力不足…といった枚挙に遑がないほどの、全体主義、あるいは、独裁体制の欠陥を隠し、国民からの批判を封じるために好都合であったことを意味します。国民による批判精神の発露は‘体制側’にとりましては脅威であり、それ故に、従順に指導者の命令に従うよう、神話化や奇跡の演出を含む様々な詐欺的手法を凝らして‘個人崇拝’を国民に強要するのです。ところが、一般的な知力を備えた人であれば、誰もがこの‘からくり’を容易に見抜くことができます。誰もが見抜くことができるようなレベルの使い古された手法を以って体制維持を図ろうとする行為は、やはり、‘知能レベルが低い’と言わざるを得ないのです。

 全てとは言わないまでも、人とは、論理的な説明を受ければ納得するものです。中国の現体制が‘知能レベルが低い’理由をきちんと説明すれば、中国国民も現体制において何が間違っているのかをより明確に理解することでしょう(もっとも、詳しく説明せずとも、習氏の実像を知る中国の人々の間には暗黙の理解がある?)。何れにせよ、今般の一件で、習独裁体制が必ずしも盤石ではない実情が明らかとなったのですが、最後に、自らの命の危険をも顧みず、堂々と批判文を公表した許章潤教授に対し、心より敬意を表したいと思います。氏こそ、劉暁波氏と共に、中国の知性と名誉を護ったのかもしれないと思うのです。

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