北朝鮮「対話望むなら見合った行動を」 日本に過去の清算要求
今月3日、北朝鮮は、朝鮮中央通信を通し、日本国に対して‘過去の清算’を要求したと報じられております。果たして、同国が要求する‘過去の清算’とは、一体何を意味するのでしょうか。
北朝鮮が‘過去の清算’という言葉を使う時、最初にイメージされるのは、日本国による朝鮮半島併合によって生じた被害に対する賠償要求です。1965年の日韓基本条約、並びに、日韓請求権協定の前例があるため、日本国内でも、北朝鮮に対しても同程度の経済支援をすべきとする見解が広まっています。しかしながら、この問題、原点に返って考えて見ますと、極めて奇妙な要求なのです。
国際法に照らしますと、北朝鮮には、日本国に対して“過去の清算”を要求する法的な権利がありません。日韓請求権協定締結の発端は、サンフランシスコ平和条約の第4条にあり、同条約の第2条で日本国が朝鮮の独立を認めたため、双方の国家、並びに、国民間の財産に関する請求権を処理する義務があったからです。言い換えますと、日韓交渉における当初の‘過去の清算’とは、日韓双方の実質的な被害に基づいて財産上の問題を解決することを意味したのです。こうした財産権の相互処理は、第一次世界大戦においてオーストリア・ハンガリー帝国から中東欧諸国が独立した際にも用いられており、国際法上の一般的な解決方法に従ったものでした。日本と朝鮮半島との関係は、どちらかと言うと、アジア・アフリカにおける本国とその植民地という関係よりも、オーストリア・ハンガリー帝国といった同君連合からの異民族国家の独立に近かったのではないでしょうか(韓国併合条約では、‘韓国皇帝の日本天皇への統治権の譲与’としている)。
ところが、韓国側は、日韓交渉を日本国の‘植民地支配’に対する償いを要求する場として利用しようとします。日本側は、朝鮮半島におけるインフラ等の残置財産を清算に含めようとしますが(同条約は、残置財産の処分権は中国にのみ認めている…)、結局、平和条約第4条(2)に、日本国は、「米軍政府により、又はその指令に従って行われた日本国およびその国民の財産処理の朝鮮半島でとった効力を承認する」とする一文があり、また、冷戦を背景に韓国支援の必要性も強く認識されたことから、当時のアメリカ政府が韓国の要求を半ば認める形で、財産権の相互放棄と日本側の一方的な経済支援が決定されたのです。ただし、日韓請求権協定ではあくまでも経済支援とし、‘植民地支配’の償いとする立場は採らなかったのです。
日韓請求権協定の実態とは、法的な解決と言うよりは、アメリカの仲介による政治的な妥協ですので、このモデルを北朝鮮にそのまま適用することはできないはずです。そして、北朝鮮がサンフランシスコ講和条約の締約国ではないにせよ、仮に国際社会における一般ルールに従って純粋に日朝両国間で朝鮮独立に際しての法的清算を行うならば、むしろ北朝鮮が、日本国に対してインフラ等の財産の対価を支払う立場にあります。また、‘植民地支配’の償いについても国際法上に根拠はなく、欧米諸国から独立を果たしたアジア・アフリカ諸国にあっても、‘過去の清算’として賠償金が支払われた事例はないのです。これらの植民地では、毎年、朝鮮半島に財政移転を行った日本国とは逆に、植民地から本国への富の移転が行われていたにも拘わらず…。
さらに、もう一つ、指摘する点があるとすれば、かの「日朝平壌宣言」では、日韓請求権協定と同様に日朝双方の国および国民の請求権を相互放棄している点です。請求権が相互に消滅する以上、‘過去の清算’はあり得ませんので、北朝鮮の清算要求は、北朝鮮が同宣言を空文と見なしている証ともなりましょう。
何れにしましても、北朝鮮は、日本国に対して財産上の請求を成し得る歴史的根拠も法的根拠も有してはいません。あるいは、独立を失った精神的な苦痛に対する償いを根拠とするかもしれませんが(朝鮮は、歴代中華王朝の冊封体制における属国でもあったので、中国に対しても請求することに…)、ウィルソン米大統領の「十四か条の平和原則(1918年1月8日)」の提唱により民族自決権が確立するのは第一次世界大戦後のことです。一方、日本国による朝鮮半島の統治が開始されるのは、同原則成立以前の1910年なのです(もちろん、民族自決の原則が確立することは、人類の道徳・倫理的向上…)。日本国政府は、北朝鮮の主張を鵜呑みにしてはならず、不当な要求に対しては正当なる根拠を挙げて拒否すべきではないでしょうか。
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今月3日、北朝鮮は、朝鮮中央通信を通し、日本国に対して‘過去の清算’を要求したと報じられております。果たして、同国が要求する‘過去の清算’とは、一体何を意味するのでしょうか。
北朝鮮が‘過去の清算’という言葉を使う時、最初にイメージされるのは、日本国による朝鮮半島併合によって生じた被害に対する賠償要求です。1965年の日韓基本条約、並びに、日韓請求権協定の前例があるため、日本国内でも、北朝鮮に対しても同程度の経済支援をすべきとする見解が広まっています。しかしながら、この問題、原点に返って考えて見ますと、極めて奇妙な要求なのです。
国際法に照らしますと、北朝鮮には、日本国に対して“過去の清算”を要求する法的な権利がありません。日韓請求権協定締結の発端は、サンフランシスコ平和条約の第4条にあり、同条約の第2条で日本国が朝鮮の独立を認めたため、双方の国家、並びに、国民間の財産に関する請求権を処理する義務があったからです。言い換えますと、日韓交渉における当初の‘過去の清算’とは、日韓双方の実質的な被害に基づいて財産上の問題を解決することを意味したのです。こうした財産権の相互処理は、第一次世界大戦においてオーストリア・ハンガリー帝国から中東欧諸国が独立した際にも用いられており、国際法上の一般的な解決方法に従ったものでした。日本と朝鮮半島との関係は、どちらかと言うと、アジア・アフリカにおける本国とその植民地という関係よりも、オーストリア・ハンガリー帝国といった同君連合からの異民族国家の独立に近かったのではないでしょうか(韓国併合条約では、‘韓国皇帝の日本天皇への統治権の譲与’としている)。
ところが、韓国側は、日韓交渉を日本国の‘植民地支配’に対する償いを要求する場として利用しようとします。日本側は、朝鮮半島におけるインフラ等の残置財産を清算に含めようとしますが(同条約は、残置財産の処分権は中国にのみ認めている…)、結局、平和条約第4条(2)に、日本国は、「米軍政府により、又はその指令に従って行われた日本国およびその国民の財産処理の朝鮮半島でとった効力を承認する」とする一文があり、また、冷戦を背景に韓国支援の必要性も強く認識されたことから、当時のアメリカ政府が韓国の要求を半ば認める形で、財産権の相互放棄と日本側の一方的な経済支援が決定されたのです。ただし、日韓請求権協定ではあくまでも経済支援とし、‘植民地支配’の償いとする立場は採らなかったのです。
日韓請求権協定の実態とは、法的な解決と言うよりは、アメリカの仲介による政治的な妥協ですので、このモデルを北朝鮮にそのまま適用することはできないはずです。そして、北朝鮮がサンフランシスコ講和条約の締約国ではないにせよ、仮に国際社会における一般ルールに従って純粋に日朝両国間で朝鮮独立に際しての法的清算を行うならば、むしろ北朝鮮が、日本国に対してインフラ等の財産の対価を支払う立場にあります。また、‘植民地支配’の償いについても国際法上に根拠はなく、欧米諸国から独立を果たしたアジア・アフリカ諸国にあっても、‘過去の清算’として賠償金が支払われた事例はないのです。これらの植民地では、毎年、朝鮮半島に財政移転を行った日本国とは逆に、植民地から本国への富の移転が行われていたにも拘わらず…。
さらに、もう一つ、指摘する点があるとすれば、かの「日朝平壌宣言」では、日韓請求権協定と同様に日朝双方の国および国民の請求権を相互放棄している点です。請求権が相互に消滅する以上、‘過去の清算’はあり得ませんので、北朝鮮の清算要求は、北朝鮮が同宣言を空文と見なしている証ともなりましょう。
何れにしましても、北朝鮮は、日本国に対して財産上の請求を成し得る歴史的根拠も法的根拠も有してはいません。あるいは、独立を失った精神的な苦痛に対する償いを根拠とするかもしれませんが(朝鮮は、歴代中華王朝の冊封体制における属国でもあったので、中国に対しても請求することに…)、ウィルソン米大統領の「十四か条の平和原則(1918年1月8日)」の提唱により民族自決権が確立するのは第一次世界大戦後のことです。一方、日本国による朝鮮半島の統治が開始されるのは、同原則成立以前の1910年なのです(もちろん、民族自決の原則が確立することは、人類の道徳・倫理的向上…)。日本国政府は、北朝鮮の主張を鵜呑みにしてはならず、不当な要求に対しては正当なる根拠を挙げて拒否すべきではないでしょうか。
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