万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

元号選定-秘密主義の限界

2019年04月04日 13時01分32秒 | 日本政治
令は「美しい」の意=外務省、新元号の対外説明を統一
新元号の令和については、マスメディアが祝賀ムードを演出する中、ネット上では芳しくない情報も流布しているようです。人は情報によって物事を判断しますので、マイナス情報接した国民の令和に対する感じ方も、今後は変わってくるかもしれません。そしてこの現象は、元号選定に際しての秘密主義の限界をも示しているように思えるのです。

 令の文字については、最も一般的に使われている意味が命令の令であるため、政府は、‘良い’という別の意味があることを国書である『万葉集』を典拠として懸命にアピールしています。言い換えますと、政府が特別な解釈を付さない限り、令は、国民にとりましては受け入れ難い文字であったことになります。また、外務省が使用拒否の意向を示したのは、令和を他の言語に翻訳した場合の意味や発音に問題があったからであり、‘使わない’のではなく‘使えない’のかもしれないのです。その他にも、元号選定の手続きの不透明性に加えて、令和には様々な観点からの問題や難点が指摘されています。

 こうした混沌とした事態に陥った最大の理由は、元号を、事実上、密室で決定したからなのではないでしょうか。一般の国民が新元号を知るのは、官房長官が公表した瞬間です。現行の手続きですと、たとえ決定された元号に重大問題が潜んでいたとしても、そして、好感を持てない元号であったとしても、国民は、同元号を使用せざるを得ないのです。これでは‘後の祭り’になりかねませんので、現行の手続きには看過し得ない欠陥があると言わざるを得ないのです。

 仮に、数か月前に元号案を試案として公表していたら事態はかなり違っていたはずです。特に今般の改元は、崩御ではなく譲位(生前退位)に伴うものですので、より丁寧な手続きを試みるだけの時間的な余裕もありました。予め試案が分かっていれば、多数の専門家の方々が学問的な見地から慎重に吟味を加え、政府に具申したでしょうし、一般の国民からも様々な意見が寄せられたことでしょう。また、当該漢字2文字を人名に持つ人物、その発音の海外の言語における意味や使用例等についても調査する時間もあったはずです。少なくとも、今般の令和のように、決定後に次々と問題が噴出すると言った事態は回避できたはずなのです。

また、新元号の発表前夜までは、ネットではさながら‘元号コンペ’のような状況にあったそうです。中には不真面目な案もありましたが、元号の試案についても、広く国民から募集する公募方法もあり得ます。言葉や文字に対する感性が問われるため、専門家の案が必ずしも優れているとは限らないからです。令和の他にも英弘、久化、広至、万和、万保の5案が提出されたものの、何れも魅力的な案ではありませんでした。消去法の結果として令和が残ったとも言え、委託した考案者や候補数の少なさが、選択肢を狭める要因ともなったのです。

 政府は、令和の選定に際して厳密な秘密主義を貫き、一切の情報が漏れないように細心の注意を払いましたが、結果的には、こうした権威主義的な態度が仇になったようにも思えます。政府の令和についての説明に付されたように、国民の誰もが新しいことにチャレンジできる時代の到来を期待するならば、政府が率先して新たなる、より国民に開かれた元号制定の手続きを考案し、それを実行すべきであったのではないでしょうか。近年の政府の言動をみておりますと、言動が真逆であるケースが多々あり、右に行くと左に行き、上に向かうと下に行くメビウスの輪がふと思い起こされるのです。

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コメント (4)
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