万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘戦争ができる国’になった中国の脅威-米中半導体寡占体制の行方

2019年04月25日 14時41分14秒 | 日本政治
少し前まで、中国の軍事的脅威については同国の工業生産のすそ野の狭さを根拠とした不可能論が唱えられてきました。中国はハイテク兵器の能力においてアメリカに追いつきつつあるものの、これらの製造に不可欠となる部品を国内生産できないため、日米等からの供給網が断たれた途端、戦争を遂行することができなくなるとする説です。

 この説は、当時の中国の産業状況にある程度は合致していたためにそれなりに説得力もあり、周辺諸国にとりましては安心材料となってきました。しかしながら、この状況は、永遠に続くことはないかもしれません。本日も、日経新聞朝刊の一面に、5G時代を前にしたスマホ半導体の分野にあって、クアルコムとファウエイによる米中二大企業の寡占状態が出現する見通しを報じる記事が掲載されておりました。半導体は、かつては‘日本のお家芸’とも称され、日本製品が世界市場を席巻していたのですが、今ではその影も見られなくなりつつあります(東芝メモリも日米韓連合へ…)。

 日本国の半導体産業が躓く切っ掛けとなったのは80年代に熾烈を極めた日米貿易摩擦です。飛ぶ鳥をも射落とす勢いの日本製品の輸出拡大に危機感を覚えたアメリカは、同問題を含めた両国間の通商問題を外交交渉の場に上げ、1985年にプラザ合意に持ち込むことで日本国の産業力を抑え込みます。懸案とされてきた半導体分野についても、1986年に締結された日米半導体協定によって両国政府の管理下に置かれ、ここに日本国の半導体産業はトップランナーの座から降りることとなったのです。

 過去にあって日本国は苦い敗北を経験しているのですが、米中貿易戦争は、日米関係とは異なる展開を見せる気配がします。その主たる理由は、中国こそ、産業に不可欠となる基幹的な部品を押さえれば、全世界をコントロールできると信じているからです。日米貿易摩擦当時、日本国による半導体市場の独占状態にあって、それが日本国の世界支配のための国家戦略であると見なした国は皆無であったことでしょう。おそらく、日米交渉に乗り出したアメリカでさえ、政治的な意味においては日本国を危険視はしていなかったはずです。アメリカが容易に日本国の譲歩を引き出せたのも安全保障面において日本国がアメリカに依存していたからでもあり、日本国の政治面における脆弱さがアメリカをして対日強硬姿勢を貫かせたとも言えます。

 一方、今日の米中貿易摩擦をみますと、中国の立場は当時の日本国のそれとは全く違っています。中国は、安全保障をアメリカに依存していないどころか、政治・軍事的にあって対立関係にあります。この点を一つとってもアメリカが中国を屈服させることは難しく、中国側のしぶとい抵抗が予測されるのです。あるいは、たとえ表向きには米中合意が成立したとしても、中国は水面下では着実に重要部品の内製化を進める共に、先端性を維持すべく半導体等の研究・開発を維持することでしょう。そして、冒頭で述べた‘戦争ができない’状態から早々に抜け出し、自力で‘戦争ができる’国へと変貌することでしょう。そしてこの時、既に他の諸国が半導体といった重要部品を中国からの輸入に頼る状況に至っているとしますと、これらの諸国は‘戦争ができない国’、否、中国にコントロールされる国と化してしまうのです。‘半導体は産業のコメ’とも称されてもいますので、中国が自国製品の禁輸を決定すれば、他の諸国の産業はいとも簡単に麻痺し、戦争どころではなくなります。つまり、石油禁輸と同等の経済制裁効果が生じるかもしれないのです。

 日本国政府は、これまで、中国への安易な技術移転を許してきましたし、また、自国企業による独自の研究・開発を後押しすることも怠ってきました。’戦争ができる国’となった中国の軍事的脅威が高まる中、日本国政府は、安全保障を考慮した産業政策への転換を迫られているように思うのです。

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コメント (2)
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