万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

台湾に‘郭総統’が誕生するリスク-トロイの木馬疑惑

2019年04月20日 12時39分26秒 | 国際政治
台湾では、2020年1月に予定されている総統選挙に向けて、早、前哨戦が始まっているようです。与野党の候補者が乱立する中、4月17日には鴻海精密工業の郭台薫会長も、国民党からの立候補を表明しています。直近の世論調査では、現職の蔡総統を大きく引き離し、支持率においてトップに躍り出たそうですが、郭総統の誕生にはリスクが伴うように思えます。

 郭氏に関する最大のリスクが中国関連であることは、マスメディアが報じる通りです。郭氏は、‘台湾の政界’と柵のない新鮮さが人々から支持を集める要因となっていますが、‘中国の政界’との関係は周知の事実です。今年の年初に当たって中国の習近平国家主席は、台湾併合への並々ならぬ決意を内外に示しましたが、中国にとりましては、‘平和裏’に台湾を併合するためには親中政権を何としての誕生させる必要があります。2020年1年の次期総統選挙こそ、独立派の民進党から親中派の国民党への政権交代を実現する千歳一隅のチャンスとなるのであり、このプランを実現するために候補者として白羽の矢が立てられたのが、郭氏であったのではないでしょうか。

 この推測を裏付けるかのように、郭氏の立候補には、純粋な経営者としての判断から逸脱した別のベクトルが働いているように見えます。郭氏が総統に就任した場合、企業の会長職とは兼任できないため、シャープを含む鴻海グループの経営が危ぶまれているにも拘わらず、敢えて出馬を決意したのですから。もちろん、グローバル企業の経営者では飽き足らず、総統の地位を手にしたいという権力欲や名誉欲が働いたのかもしれませんが、何れにしましても、同氏は、経営よりも政治を選択しています(ゴーン容疑者もブラジル大統領選への出馬を試みようとしていた…)。中国側から秘かに立候補の打診を受けて応じた、あるいは、煽てられて野望に火が付き、その気になったのかもしれません。何れにしましても、郭政権が成立した場合、台湾は、総統が操られることで中国のコントロール下に置かれるリスクが極めて高いのです。もしかしますと、鴻海精密工業の設立の時点から事業資金の援助を受けるなど、既に中国共産党の息がかかっていた可能性も否定はできないように思えます(鴻海とは、台湾併合を目的に、‘トロイの木馬’となるよう台湾で中国が育てた企業かもしれない…)。

 第2のリスクは、国家運営と企業経営とは別物である点です。企業の場合、経営が傾けば、人員を整理したり、不採算部門を売却する、あるいは、コストカットを図るなど、リストラを徹底して業績の回復を図ることができます。一方、国家ともなりますと、国民や領域を対象としてリストラすることは許されません。逆に、企業のリストラによって失業者が増加すれば、これらの人々を社会保障政策や福祉政策等によって支援するのが国家の役割なのです。となりますと、郭氏が経営者感覚で台湾の国政を統べるとしますと、経費節減のために中国から安価な労働力や資材を大量に受け入れたり、M&Aの感覚で中国からの‘台湾合併案’に応じるかもしれないのです。第2のリスクは、第1のリスクに拍車をかけかねないのです。

 第3のリスクは、公約の反故です。郭氏は、日本企業であるシャープを買収するに際して日本国内の雇用確保、並びに、シャープ経営の独立性の尊重を約束し、日本国内の懸念の払拭に努めています。ところが、いざ買収が成立しますと、手の裏を返したように同約束を反故にし、今ではシャープの液晶技術の結晶とも言える亀山工場を閉鎖してしまいました。総統選挙にあっても、同氏は親中姿勢に対する警戒論に対して台湾ファースト’を強調し、有権者に対して反中的な政策方針を公約とすることでしょう。しかしながら、前例を見る限り、総統のポストに就いた途端、これらの公約は、反故にされてしまう可能性が高いのです。

 米中貿易戦争の最中にあって、台湾系企業は、中国から東南アジア諸国への製造拠点の移動を急いでいるそうです。郭総統が実現すれば、脱中国の流れをも止めることができると中国は秘かに期待しているかもしれません。安全保障問題にも与えるリスクを考慮しますと、郭総統の誕生は、台湾のみならず、日本国をはじめ国際社会にとりまして、歓迎すべき未来ではないように思えるのです。

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