‘適者生存’はダーウィンの進化論におけるセントラルドグマですが、ある特定の環境において最もそれに適応した者が生き残るのは、あらゆる分野で通用する自然の理であるかもしれません。この観点から経済を眺めて見ますと、劇的な環境変化の末に現れつつあるグローバル市場にあっても、同環境において自らの有利性を発揮できる適者と不利な境遇に置かれる不適者の両者が生じるのは当然とも言えましょう。
一般的には、グローバル時代の到来は、全ての国、企業、そして個人に対してチャンスを与える人類の理想郷として宣伝されています。しかしながら、現実には、チャンスは必ずしも全てに対して公平ではありませんし、‘適者生存’の結果として絶滅、即ち、淘汰される危機に直面する者もあり、結果の平等も望むべくもありません。グローバリズムの進展とともに格差が拡大したのも、環境の変化という要因によって説明できなくもないのです。もっとも、グローバリズムの効用として途上国における貧困の改善がしばしば指摘されますが、現象としてはファクトであっても、富裕層50%:先進国中間層45%:途上国貧困層0%の富の配分図が、富裕層90%:先進国中間層6%:途上国貧困層4%となったのであれば、全体を見ればやはり格差は拡大したこととなります。
それでは、グローバル時代においては、どのような要素を有していれば‘適者’となれるのでしょうか。それは、言うまでもなく‘規模’です。グローバル市場とは、人類が到達したこれ以上の大きさはない究極の市場であり、そこでは、人口、資金、経営組織、人材…等において規模が大きければ大きい程に有利となるのです。規模を基準とすれば、13億の人口を擁する中国や資金力に優る米国にとりましては、グローバル市場は最適の環境とも言えるのです。
この点から見れば、日本国政府が、グローバル市場の実現に協力すべく自国を無防備に開放する政策は、規模に劣る日本企業にとりましては、過酷な環境に放り出されるに等しくなります。言い換えますと、日本国政府は、自国企業にとりまして生存が難しい環境を自ら造りだしていることを意味します。実際に、全世界レベルで導入が予定されているG5の政府調達の分野では、日本の通信機器メーカーは、絶滅寸前の状態にあります。政府の国家戦略の下で特許の大半を有する中国のメーカー、5Gの中核技術を押さえる米国企業、そして、ノキアやサムスンといった企業がシェアを寡占すると予測されており、日本の通信機器メーカーは、今や風前の灯なのです。
そして、規模に加えて、グローバル市場において優位性をもたらすもう一つ要素は‘スピード’です。‘スピード’にあっても‘規模’が関係する場合もありますが、特に時空の占有を伴うインフラ事業やプラットフォーム型のビジネスでは、‘先手必勝’の側面があります。また、新ビジネスはいわばフロンティアの開拓であるため、各国とも政府の規制がほとんどなく、一気に事業を広げるチャンスにも恵まれています。知的財産権の独占性も最大限に活かされるのであり、中国企業が、5Gの導入を機にグローバル・スタンダードの設定者の地位に上り詰めたのも、それが新規導入というフロンティアの分野であったからです。日本国政府は、スピード感をもった改革を訴えていますが、実のところ、この方針は、逆に自国経済の衰退を速めている可能性さえあるのです。
‘規模’と‘スピード’を兼ね備えれば鬼に金棒であり、ここに、グローバル時代における‘適者’の条件が見えてきます。そして、この条件を備えているのは、米中企業、並びに、極少数のその他のグローバル企業となるのですが、これまでの日本国政府の政策は、自国企業が敗者となることを忘却し、‘適者’のために立案されてきたように思えます。仮に、G5の分野において日本企業が‘絶滅’するならば、米中企業に対して支払われる特許の使用料だけでも膨大となり、エネルギー資源と同様に、構造的な知財依存体質が国際収支の悪化を招くかもしれません。中規模国家における成功例であるノキアやサムスンと比較しますと(ノキアは欧州市場を背景に独仏等の大手企業を買収し、サムスンには政府や国際金融の支援があった…)、技術立国であった日本国がG5においてグローバル市場から姿を消すとしますと、これは、日本国政府の産業政策上の失策であったとも言えるのではないでしょうか。かつて、保護主義の根拠として幼稚産業の保護が挙げられてきましたが、今日のIT大手がグローバル市場を瞬時に席巻してしまう状況を見ますと、この説にも一理があるように思えます。
上記の諸点を考慮すれば、日本国政府が今後において目指すべき方向性とは、徒に自己を不利にする極端なグローバリズムに同調するのではなく、内外両面において自国企業を保護・強化する必要があるように思えます。基本的には、(1)外部環境への働きかけにより、日本企業のサバイバル環境を整えること(この点については、他の中小諸国と連携できる…)、(2)独自技術を育成すべく、国家レベルでの情報・通信インフラに関する研究・開発体制を再構築する(3)自国の5G関連の政府調達に際しては日本企業を優先する(情報・通信分野であるために、安全保障を理由に認められる可能性がある…)(4)ポスト5Gを睨んだ新たな分散型システムの開発を促進する…といった方策が考えられます。不適者が苦境にあって適性を獲得してゆくことで生物に多様性がもたらされ、高い知性を有する人類をも誕生させたのであるならば、日本国もまた座して‘淘汰’を待つのではなく、その知恵を以って難局を乗り越えるべきではないかと思うのです。
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一般的には、グローバル時代の到来は、全ての国、企業、そして個人に対してチャンスを与える人類の理想郷として宣伝されています。しかしながら、現実には、チャンスは必ずしも全てに対して公平ではありませんし、‘適者生存’の結果として絶滅、即ち、淘汰される危機に直面する者もあり、結果の平等も望むべくもありません。グローバリズムの進展とともに格差が拡大したのも、環境の変化という要因によって説明できなくもないのです。もっとも、グローバリズムの効用として途上国における貧困の改善がしばしば指摘されますが、現象としてはファクトであっても、富裕層50%:先進国中間層45%:途上国貧困層0%の富の配分図が、富裕層90%:先進国中間層6%:途上国貧困層4%となったのであれば、全体を見ればやはり格差は拡大したこととなります。
それでは、グローバル時代においては、どのような要素を有していれば‘適者’となれるのでしょうか。それは、言うまでもなく‘規模’です。グローバル市場とは、人類が到達したこれ以上の大きさはない究極の市場であり、そこでは、人口、資金、経営組織、人材…等において規模が大きければ大きい程に有利となるのです。規模を基準とすれば、13億の人口を擁する中国や資金力に優る米国にとりましては、グローバル市場は最適の環境とも言えるのです。
この点から見れば、日本国政府が、グローバル市場の実現に協力すべく自国を無防備に開放する政策は、規模に劣る日本企業にとりましては、過酷な環境に放り出されるに等しくなります。言い換えますと、日本国政府は、自国企業にとりまして生存が難しい環境を自ら造りだしていることを意味します。実際に、全世界レベルで導入が予定されているG5の政府調達の分野では、日本の通信機器メーカーは、絶滅寸前の状態にあります。政府の国家戦略の下で特許の大半を有する中国のメーカー、5Gの中核技術を押さえる米国企業、そして、ノキアやサムスンといった企業がシェアを寡占すると予測されており、日本の通信機器メーカーは、今や風前の灯なのです。
そして、規模に加えて、グローバル市場において優位性をもたらすもう一つ要素は‘スピード’です。‘スピード’にあっても‘規模’が関係する場合もありますが、特に時空の占有を伴うインフラ事業やプラットフォーム型のビジネスでは、‘先手必勝’の側面があります。また、新ビジネスはいわばフロンティアの開拓であるため、各国とも政府の規制がほとんどなく、一気に事業を広げるチャンスにも恵まれています。知的財産権の独占性も最大限に活かされるのであり、中国企業が、5Gの導入を機にグローバル・スタンダードの設定者の地位に上り詰めたのも、それが新規導入というフロンティアの分野であったからです。日本国政府は、スピード感をもった改革を訴えていますが、実のところ、この方針は、逆に自国経済の衰退を速めている可能性さえあるのです。
‘規模’と‘スピード’を兼ね備えれば鬼に金棒であり、ここに、グローバル時代における‘適者’の条件が見えてきます。そして、この条件を備えているのは、米中企業、並びに、極少数のその他のグローバル企業となるのですが、これまでの日本国政府の政策は、自国企業が敗者となることを忘却し、‘適者’のために立案されてきたように思えます。仮に、G5の分野において日本企業が‘絶滅’するならば、米中企業に対して支払われる特許の使用料だけでも膨大となり、エネルギー資源と同様に、構造的な知財依存体質が国際収支の悪化を招くかもしれません。中規模国家における成功例であるノキアやサムスンと比較しますと(ノキアは欧州市場を背景に独仏等の大手企業を買収し、サムスンには政府や国際金融の支援があった…)、技術立国であった日本国がG5においてグローバル市場から姿を消すとしますと、これは、日本国政府の産業政策上の失策であったとも言えるのではないでしょうか。かつて、保護主義の根拠として幼稚産業の保護が挙げられてきましたが、今日のIT大手がグローバル市場を瞬時に席巻してしまう状況を見ますと、この説にも一理があるように思えます。
上記の諸点を考慮すれば、日本国政府が今後において目指すべき方向性とは、徒に自己を不利にする極端なグローバリズムに同調するのではなく、内外両面において自国企業を保護・強化する必要があるように思えます。基本的には、(1)外部環境への働きかけにより、日本企業のサバイバル環境を整えること(この点については、他の中小諸国と連携できる…)、(2)独自技術を育成すべく、国家レベルでの情報・通信インフラに関する研究・開発体制を再構築する(3)自国の5G関連の政府調達に際しては日本企業を優先する(情報・通信分野であるために、安全保障を理由に認められる可能性がある…)(4)ポスト5Gを睨んだ新たな分散型システムの開発を促進する…といった方策が考えられます。不適者が苦境にあって適性を獲得してゆくことで生物に多様性がもたらされ、高い知性を有する人類をも誕生させたのであるならば、日本国もまた座して‘淘汰’を待つのではなく、その知恵を以って難局を乗り越えるべきではないかと思うのです。
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