本日、日本国の菅首相をはじめ、RCEP参加各国の首脳は、RCEP協定に署名するそうです。同協定は秘密交渉であったため、署名の段となってようやくその内容が明らかにされつつあります。そして、漏れ伝わる同協定の内容からしますと、日本国は、RCEP協定の批准は見送るべきではないかと思うのです。
RCEPにはアメリカが参加せず、かつ、中国が中心国となりますので、同枠組みは、行く行く先には人民元が決済通貨として使用される‘デジタル人民元圏’に発展するリスクがあります。グローバリズムの理想と現実は大きくかけ離れており、規模の経済が圧倒的な競争力を有する上に、‘共通通貨’が存在していない以上、決済通貨、あるいは、流通通貨における非対称性、否、不平等の問題に直面せざるを得ません。つまり、RCEPにあって、世界最大の貿易国である中国の通貨である人民元が地域限定であれ‘国際基軸通貨’となる可能性は極めて高いのです。それは、中国人民銀行、否、中国共産党のコントロール下に入ることをも意味しますので、日本国、並びに、他の参加国にとりましては重大なリスクとなりましょう。
こうした懸念に加えて、もう一つ、重大な問題点を挙げるとすれば、IT分野におけるデータ・サーバーの設置国に関する合意項目です。日経新聞の朝刊2面に掲載された記事によれば、「事業をする条件としてサーバーなどの自国への設置を外国企業に強要することも禁止する」と記されています。仮にこのルールに従えば、日本国内に進出してきた中国IT大手に対して、日本国政府が、同社に対して日本国内にサーバーを置くことを求めることはできなくなります。サーバーとは、情報の提供、並びに、保管場所となりますので、日本国内の企業並びに個人のユーザー情報は、全てサーバーの設置場所、即ち、中国に渡ることとなりましょう。
しかも、現状にあって、5G分野にあってはファウェイ製品を政府調達から排除しても、日本国政府は、顔認証システム等において中国製品を採用していることが問題視されています。中国では「国家情報法」制定されており、民間企業であれ中国政府に情報を提供する義務を負っていますので、RCEPに乗じた中国IT企業の日本国内での事業拡大に伴って、日本国のあらゆる情報が中国政府に握られてしまう可能性も否定はできないのです。
こうした懸念に対しては、中国市場に進出する日本国のIT企業もまた日本国内にサーバーを置けるのであるから、公平であるとする反論もありましょう。しかしながら、規模において劣位する日本のIT企業が中国IT企業を差し置いてシェアを伸ばせるとは思えず、しかも、サーバーは電力料金の安い国に設置される傾向にありますので、日本国は、サーバーの設置国としての競争力も劣位しています。ここにも、現実としての日中間の不平等が見受けられるのです。
マスメディアの多くは、米中対立の最中にあって孤立化を恐れた中国が大幅に譲歩したとするスタンスですが、報じられる内容を見る限りでは、明らかに中国有利の協定です。例えば、工業製品の分野では、中国は、日本製品の輸入に際して86%の関税を削減するそうですが、同分野におけるRCEP全体91.6%ですので、結局、日本国の方が高い率で中国製品の輸入関税を撤廃することとなるのでないでしょうか。そもそも、自由貿易圏という広域的な枠組み自体が、大国、並びに、価格競争力を有する側に有利なのですから、その結果は、容易に予測できます。RCEPには、その他もろもろのリスクが潜んでいることでしょう。軍経が一体化した中国の危険性を多くの国民がしるところとなり、かつ、民間レベルにおいてもデカップリングを模索されている折、RCEPを推進しようとする日本国政府は、逆走して言えるようにも見えます。あるいは、リスクを知りながらの‘確信犯’なのでしょうか(国民を騙している?)。
協定が内包するチャイナ・リスクが明らかになったのですから、RCEP協定の批准の是非については、参加各国において議論されることとなりましょう。各国の首脳が署名するとなりますと、その際、批准を決定する権限を有する議会の役割は重大なのですが、日本国の国会は、大丈夫でしょうか。そして、同協定によって直接的な影響を受ける諸々の産業や国民も、積極的に意見や立場を表明すべきなのではないかと思うのです。