万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米大統領選挙に見る民主主義と投票制度の問題

2020年11月04日 11時23分56秒 | アメリカ

 4年ごとに実施されるアメリカの大統領選挙は、同国のみならず全世界の運命をも左右しますので、別格というほどに注目度の高い選挙です。投票日は11月3日に設定されているものの、今般の選挙は、民主主義国家における投票制度の問題を浮き彫りにした選挙でもあったと言えましょう。

 

 民主的選挙の結果の正当性は、偏に選挙制度にかかっています。選挙人名簿の作成、あるいは、有権者登録から投票用紙の送付、投票、そして開票・集計に至るまでの各作業段階において、一寸のミスやエラー、並びに、不当行為は許されず、全てが見事なまでに正確でなければならないのです。国民一人一人の自由意思による政治的な選択が票として正確にカウントされなくては、民主的制度はその意味をなさないのです。

 

 しかしながら、今日の民主的選挙制度は100%正確である、と言い切れる人は、何れの国にあっても少ないのではないかと思います。不正選挙と言えばロシアの名が上がりますが、自由主義国であっても、多くの国民が自国の選挙制度を疑っています。その一方で、政府側を見ますと、自由主義国の政府であって、長足の発展を遂げたITテクノロジーを国民管理システムとして導入しようとしながら、選挙制度については正確さを極めようとする姿勢には乏しいと言わざるを得ません。戸籍、住民登録、出入国管理といった個人管理の分野や給付金の支給といった行政サービス分野にあっても導入可能なほどにデジタル化の信頼性が高ければ、投票システムもまたデジタル化し得るはずです。しかしながら、投票システムについては、案外、旧態依然とした方法が維持されているのです。

 

 IT先進国であるアメリカを見ましても、期日前投票にあって郵送による投票が導入されています。多くの人々がこの方法を選択することとなりましたが、投票用紙に自筆で記入して投じるという基本的な方法には変わりはありません。それどころか、選挙戦の最中にあって議論されたように、郵送による投票は、正確さという点からしますと、投票所における期日前投票以上に難があります。例えば、(1)投票用紙への記入に際して本人確認が難しい(全米有権者を対象とした筆跡鑑定は困難)、(2)郵便ポストは投票箱ではないので、有権者は、自らの票が確実に開票所に届いたのか確認ができない、(3)本人確認が困難であるため、投票用紙の偽造が容易である、(4)第三者(対立政党、外国勢力、国際組織など)による組織的な郵便事業への介入がありえる(実質的な選挙への介入であり、郵送過程における意図的な投票用紙の紛失や水増し)…といった問題点を挙げることができます。つまり、不正選挙が起こりやすいという条件が揃っているのです。

 

 郵便投票のみならず、アメリカでは、ドライブスルーの投票所における票や開票日後に届く在外投票の有効性なども問われており、不正選挙に対する警戒心は高まる一方なのです。そして、こうした投票システムに対する両陣営、並びに、国民の不信感は、アメリカの民主主義を揺るがしており、報道によりますと、両陣営とも、敗北を受け入れない相手陣営の熱狂的な支持者による暴動を恐れているというのです。

 

 最も正確性の高い選挙の投票方法とは、全ての有権者が公開の場で投票用紙に記入すると同時に、その場で、即、票をカウントして表示する方法です。投票箱を用いないこの方法ですと、一票を投じた有権者本人が自らの選択を確認できますし、投票から開票までの全てが衆人の前に公開されますので、複数の人によって結果は常にチェックされることになります。選挙に関しては、案外、アナログな方法の方が正確性を確保することができるのかもしれません(もっとも、デジタル投票も、不正選挙の可能性を完全に排除できるのであれば、導入すべきなのでしょうが…)。

 

問題は秘密投票ではないことですが、政治的選択が秘密にすべき事柄であるのかどうかは、今日にあっては疑問なところです。何故ならば、政策や政党への支持は隠すべき事でもありませんし、多様性が尊重されるべきならば、政治的意見や支持政党の多様性こそ最大限に尊重されるべきであるからです(アメリカ国民の多くは、ステッカーやグッズなどで自らの支持を表明しているのでは…)。自由で民主的な社会であれば、自らの政治的スタンスを明確にしたり、政治について自由に討論することは至極当然のことであるべきなのです。

 

 法廷闘争も視野に入りますので、選挙結果が確定するには、相当の時間を要するとも報じられています。不正選挙疑惑が政権の正当性を揺るがし、民主主義さえも危機に陥れている今日、不正を完全に封じ、正確さを極めるような選挙制度こそ必要とされているのではないでしょうか。現行の選挙方法が維持される限り、今後とも、同様の問題を繰り返すこととなるのではないかと思うのです。


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