万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国政府は尖閣諸島の領有権確立戦略を

2020年11月28日 12時42分44秒 | 日本政治

 中国の習政権が戦争の準備に着手したとする情報が囁かれる中、尖閣諸島にも荒波が押し寄せています。中国公船による周辺海域での活動が活発化してきており、領海侵犯も頻繁に起きているようなのです。日本国側の再三にわたる停止要求をよそに、先日来日した際に王毅外相は、記者団を前にして日本漁船が同海域に入らぬように措置を採るように要請したというのですから、中国側は、一歩も二歩も歩を進めてきています。

 

 中国が尖閣諸島の奪取に向けて攻勢に出る一方で、日本国政府は、言葉だけの対応に終始し、具体的な行動を取ろうとはしていません。従来の日本国政府の立場を繰り返すのみで、戦略や政策が伴っていないのです。そして、この従来の立場にこそ、中国が高飛車な態度に出る要因が潜んでいるように思えます。

 

 尖閣諸島に関する日本国政府の基本的な立場とは、「領土問題はない」というものです。茂木外相も、王毅外相の発言に関連して「尖閣諸島を巡り、解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない」と述べています。この意味するところは、‘日本国政府が尖閣諸島の領有権をめぐって係争が存在することを認めたが最後、中国の言い分にも一理があることを認めたことになるので、仮に、同国から侵略を受けた場合、国際法上の侵略行為として認定できなくなる’というものです。つまり、自衛権を発動することが難しくなるのです(また、領土問題化すると、‘領土交渉’に持ち込まれて譲歩を迫られることに…)。

 

この認識は、自衛権の問題とも関連している故に、厄介です。第一に、日本国憲法の第9条に関する日本国政府の公式の解釈は、自衛のための戦力は保持できるとするものです。仮に、中国の主張を認めて侵略認定ができなくなりますと、自衛権の発動とは言い難くなる、あるいは、自衛隊の出動を違憲として反対する声が上がる事態も想定されるのです。個別的自衛権に対する発動のハードルが高くなる一方で、集団的自衛権の発動にも支障をきたす可能性があります。その理由は、日本国政府は、中国が尖閣諸島を奪取した際に、日米安保の対象から外される怖れがあるからです。フォークランド紛争に際してアメリカは、同紛争をイギリスとアルゼンチン間の‘領土問題’とみなし、NATOを枠組みとする集団的自衛権を発動させませんでした。

 

以上の側面から、日本国政府は尖閣諸島問題については‘領土問題は存在しない’とする立場を貫いてきました。しかしながら、この方針は、暴力主義を奉じる中国には無力であり、突然の領有権主張⇒棚上げ論⇒一方的領有宣言⇒実力行使…へと、中国の行動をエスカレートさせるのみでした。中国は、‘物量作戦’に転じたとする指摘もあり、このままの状態を放置いたしますと、中国は、尖閣諸島に対する日本国の実効支配を切り崩すことでしょう。日米安保条約の条文では、対象地域を日本国の施政権の及ぶ範囲としていますので、中国は、同島を自らの施政下に置くことで、米軍の介入を排除しようとするかもしれないのです。

 

それでは、日本国政府は、この難局をどのように乗り切るべきなのでしょうか。最も重要なポイントとなるのは、中国の武力による尖閣諸島の奪取を、国際社会から国際法上の侵略行為として認定してもらうことです。それは、日本国政府が、中国の主張を一切認めることなく、国際法上において日本国の領有権を確立させることを意味します。つまり、領土問題が内包する意味を‘中国の主張の一部容認’から’中国の主張の全面否定‘に変えるのです。

 

国際法上の領有権確立の効果として期待できるのは、第一に、侵略行為として認定できさえすれば、個別的自衛権であれ、集団的自衛権であれ、中国による侵略行為を自衛隊、並びに、日米両軍によって排除することができる点です。つまり、領土問題化に伴う日本国政府の懸念は、払拭されることとなるのです。第二に、日本国の領有権が確定されれば、それは、中国に対する強力な抑止力ともなります。王毅外相は、尖閣諸島を中国領と強気に言い放っていましたが、法的に領有権が確定している他国の領域を占領すれば、侵略行為として激しい批判を受けることを、中国は、覚悟しなければならなくなります。そして第三に、日本国が、法的手段を以って同問題を平和的に解決する姿勢を見せることは、国際社会における法の支配の実現に大きく貢献することとなりましょう。

 

以上のように考えますと、日本国政府は従来の主張を繰り返すのではなく、これまでの基本方針を抜本的に見直し、尖閣諸島の領有権確立に向けて戦略を練り直すべきなのではないでしょうか。最も望ましいのは、国際司法機関への提訴ですが、国際司法裁判所の場合、解決の付託には両国政府の合意が必要となりますので、現状では難しいのですが、竹島問題でも指摘されているように、領有権確認訴訟としての形態であれ、単独提訴は試みるだけの価値はあるはずです。また、南シナ海問題で判決を下した常設仲裁裁判所であれば、日本国のみによる単独提訴は可能です。あるいは、現状の国際司法制度では、領有権確認訴訟の道が閉ざされているのであれば、同制度の設立を国際社会に提案することも、遠回りのようですが、尖閣諸島問題の平和的解決のみならず、国際司法制度の発展を促すことにもなりましょう。座して死を待つよりも、日本国政府は、知恵を絞るべきではないかと思うのです。


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