世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。
核実験自制決議案を配布=安保理月内採択目指す―米
北朝鮮の核実験は、無法国家による実戦用核配備の日が目前に迫っていることを意味します。国連安保理でも、北朝鮮に対する制裁決議を準備しておりますが、それが自制を求めるに過ぎないならば、効果は全く期待できません。
北朝鮮の相次ぐ核実験は、NPT体制の限界をも示しております。そして、この事態に対して最も憤慨し、抗議すべきは、非核保有国ではないかと思うのです。非核保有国がNPT体制に参加した理由は、この条約に加われば核拡散が効果的に防止され、自国の安全が高まると信じたことにあります。例えば日本国でも、NPTへの加盟に際しては、核武装が不可能となるため、国内では懸念や反対の声があったそうです。しかしながら、核の不拡散による”核なき世界”は人類の理想でもあるとする、大局的な見地から同体制に加わったのであり、他の締約国も、同様の判断が働いたものと推測されます。
ところが、蓋を開けてみますと、最も危険な国である北朝鮮が核を保有してしまっているのですから、他の非核保有国は、重大なる裏切りを受けたことになります。NPT体制の維持を信じて加盟したのに、”約束が違うではないか!”ということになるのです。この点、核保有国は、自らは核武装しているのですから、たとえ北朝鮮が核を保有したとしても、然したる影響は受けません。一方、NTP体制に縛られて核によって自らの身を守ることができない非核保有国にとりましては、国家存亡にかかわる死活問題なのです。
こうした場合、核拡散によって不利益を被る非核保有諸国こそ、団結して強く抗議すべきなのではないでしょうか。数の上では、核保有国よりも非核保有国の方が圧倒的に多いのですから。抗議の先は、まずは、明白なる違反国である北朝鮮となるのですが、核拡散を防止できなかった核保有国にも責任があります。核実験の通告を受けていた中国に至っては、北朝鮮の核保有を黙認さえしているのです。核保有国は、NPT違反により窮地に立たされる非核保有諸国の立場を理解し、その抗議の声に真摯に耳を傾けるべきでなのではないでしょうか。
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「驚異的成果」を強調=北朝鮮で核実験祝賀集会
先日、第五回目の核実験を実施した北朝鮮では、国際社会からの激しい批判の声も”どこ吹く風”で、核実験の成功を祝う祝賀集会が開かれているそうです。米軍爆撃機の朝鮮半島展開により核施設等を空爆される可能性がありながら、祝賀集会を開く余裕を見せている背景には、既に”核の抑止力”を手にしたとする自負があるようです。空爆するなら核攻撃も辞さないと…。
アメリカの情報筋も北朝鮮の核保有を確実視しているようですが、仮に、このまま北朝鮮の核保有の既成事実化を認めるとしますと、NPT体制は崩壊の危機に直面することは火を見るよりも明らかです。NPTは、その裏側に日独の核武装の阻止の思惑があったとしても、まさに北朝鮮のような無法国家によって核が保有され、国際の平和が脅かされる事態を防止するためにこそ制定されているからです。今日の国際社会では、北朝鮮は、”狂人国家”とでも譬えられるように、日独よりもはるかに危険な存在であり、最も核の保有を阻止すべき国の核保有を防ぐことができなかったのですから、NPTは、根本からその意義を失うことになるのです。NPT体制では、国際法を誠実に順守した”正直者が馬鹿を見る”ことが北朝鮮の核保有によって立証されたのですから。これでは、日本国をはじめ、北朝鮮の核の脅威に晒される他の非核保有国の不満は高まる一方となり、NPT見直し論も取り沙汰されることでしょう。NPT第8条によれば、何れの締約国も改正を提案することができ、締約国の3分の1の要請を以って審議会が開かれ、最終的には締約国の過半数が賛成票を投じれば条約の改正は可能です。
”核なき世界”を標榜してきたオバマ大統領は、イランに対しては交渉妥結により核開発を凍結させるなど、一定の成果を上げてきました。また、被爆地広島の訪問にあっても、歴代アメリカ大統領のうち、最も核問題に熱心に取り組んだ大統領として、その姿が印象付けられています。しかしながら、北朝鮮の核保有を許し、NPT体制を崩壊させたのでは、こうした成果は水泡に帰し、皮肉な事にも、”史上最も核を拡散させた大統領”として名を残すことになりかねません。もっとも、仮にNPT体制の崩壊よって新たな核の均衡が生まれ、結果として平和が訪れる可能性も否定はできず、歴史的な評価が必ずしもマイナスとは限らないのが、この問題の難しいところではないかと思うのです。
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北朝鮮、核実験を中国に事前説明「米韓軍事計画に対抗」
先日の北朝鮮による核実験に際して、中国は、事前説明を受けていたと報じられております。北側の説明によりますと、核実験の意図は、”米韓軍事計画”への対抗のようですが、この一件、中国にも責任がありそうです。
NPT(核兵器不拡散条約)では、核保有が特別に認められる代わりに、核保有国には、非核保有国に核が拡散することを防ぐ義務があります。条約名が示すように”核拡散の防止”こそ本条約の主たる目的なのですから、核保有国は、あらゆる手段を講じ、全力で核の拡散を防止しなければならないのです。しかしながら、北朝鮮への対応を見る限り、中国は、条約上の核拡散防止義務を果たしてはおりません。否、北朝鮮から事前に説明を受けながら、みすみすその実施を許しているのです。おそらく、北朝鮮としては、中国の”お墨付き”を得た上での実験であるならば、国際社会から批判を浴びても、中国に庇ってもらえると踏んだのでいたのでしょう。実際に、中国の対北批判のトーンは低く、制裁強化にも消極的です。北朝鮮が非核保有国としてのNPT違反国であれば、北朝鮮の核実験を止める義務を怠った中国も、核保有国としてのNPT違反国なのです。この点に鑑みれば、アメリカが北朝鮮の核施設を破壊しても、核保有国の義務を果たしたことになり、中国も、批判はできないはずです。
如何なる特権も、それに見合った義務が付随するものであり、その義務を果たさないとなりますと、特権剥奪の根拠となります。NPTについては、非核保有国のみならず、核保有国の違反にも関心を払うべきであり、中国の核保有国としての地位は見直されて然るべきと思うのです。
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米爆撃機、朝鮮半島出動へ=韓国メディア
北朝鮮の度重なる核実験に対して、アメリカは、グアムのアンダーセン空軍基地に配備している爆撃機を朝鮮半島に出動させたと報じられております。北朝鮮に対する強い牽制の意味が込められておりますが、朝鮮半島において有事となる可能性も否定はできません。それでは、仮に、北朝鮮に対しては軍事的手段しか道がないと判断された場合、どのようなシナリオが想定されるのでしょうか。
第1のシナリオは、朝鮮戦争の休戦協定が、南北どちらか一方の破棄により破られ、両軍の戦闘が再開されるというものです。いわば第二次朝鮮戦争であり、このケースでは、事実上、当事の米韓対中朝の対立構図が再燃するものと予測されます。米韓間において1954年に米韓相互防衛条約が結ばれる一方で、中朝間でも、1961年に参戦条項を含む軍事同盟である中朝友好協力相互援助条約が締結され、2001年に更新されているからです(20年ごとに更新…)。
第2の想定は、北朝鮮の核・ミサイル開発を国連憲章上の平和への脅威とみなし、NPT等の国際法違反を根拠として、軍事制裁を課すというシナリオです。この場合には、中国の出方によってもその後の展開は変化します。仮に、中国が、北朝鮮を見捨てる形で北朝鮮への軍事制裁を認める安保理決議に賛成するとしますと、国連の枠内の下で多国籍軍が結成されます。一方、中国が拒否権を発動して制裁決議に反対した場合には、アメリカ軍を中心に、有志連合による多国籍軍が北朝鮮に対して軍事制裁を実施することでしょう。前者が最も円滑に目的が達成できるシナリオですが、後者のシナリオでは、国際社会が分裂し、中国のみならず、ロシアが北朝鮮を支援する可能性もあり得ます。
第3のシナリオは、米軍の爆撃機がピンポイントで、北朝鮮の核施設等を破壊し、核・ミサイル開発能力を喪失させるというものです。国連決議が成立しなくとも、現状でさえ、北朝鮮は、重大な国際法違反の状態にありますので、国際法の執行という意味において、国際社会は米軍の行動を容認することでしょう。
以上に三つの最もあり得そうなシナリオを描いてみましたが、国連安保理決議の下で対北軍事制裁を実施するのが最善の策なのでしょうが、仮に、このシナリオが無理な場合には、最も低いリスクで一定の効果を望めるシナリオは、第3であるかもしれません。その理由は、第1、並びに、第2の中国拒否権のシナリオでは、第三次世界大戦を招くリスクが高いものの、第3のシナリオでは、国際法の執行であれば、米軍の行動は、朝鮮戦争、並びに、中ロの介入ルートとは一先ずは切り離されるからです。また、国際社会において、大量破壊兵器である核開発を続ける北朝鮮を危険な国家とみなす共通認識が成立している以上、中国もロシアも表立っては米軍を批判できず、黙認せざるを得ないことでしょう。
第3のシナリオには、少なくとも、他のシナリオより介入の口実が乏しい点においてメリットがあります。加えて、核施設等の重要施設が徹底的に破壊された場合、面目を失った金正恩が失脚し、北朝鮮の独裁体制が内部崩壊する効果も期待できるかもしれません。任期を後僅かに残すばかりとなったオバマ大統領が、歴史に名を残し、念願であった”核なき世界”を実現するために果たすべき最後の大仕事とは、もしかしますと、北朝鮮の空爆かも知れないと思うのです。
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北朝鮮対応も争点に=クリントン氏「同盟国守る」―トランプ氏「外交の失敗」
北朝鮮による5回目の核実験を受けて、アメリカ大統領選挙でも、俄かに対北政策が争点に浮上してきたようです。目下、共和党のトランプ候補は、民主党政権の”外交上の失敗”との批判に終始する一方で、クリントン候補は、北朝鮮の”後ろ盾”である中国の説得に努める方針を示しています。
中国の国柄と北朝鮮に対する過去の対応から判断しますと、制裁強化のために、中国が説得される可能性はかなり低いのですが(あるいは、北朝鮮の体制崩壊に向けた合意取り付けのための説得?)、北朝鮮問題の核心が、大量破壊兵器である核・ミサイル開発にあることを思い起こしますと、対北政策のオプションには、本来、当然に軍事制裁が含まれるはずです。
何故ならば、イラク戦争では、独裁体制であったフセイン政権の元での大量破壊兵器、すなわち、核兵器開発の疑惑が、開戦の直接的な根拠となったからです。イラクの場合には、大量破壊兵器の保有禁止やIAEAの査察受け入れ義務は、湾岸戦争時の国連決議660号等に拠るものですが、北朝鮮の場合、正式にNPTからの脱退が認められていませんので、NPT上の違法行為として咎めることができます。また、イラク戦争では、フセイン政権による少数民族のクルド人に対する弾圧も開戦の根拠とされましたが、カルト的独裁体制を敷く北朝鮮では、弾圧の矛先は自国民に向けられています。弾圧的独裁体制の基準からしても、北朝鮮には、軍事制裁を受ける理由があるのです。
トランプ候補は、自らの対北政策については明かとしてはいませんが、どちらの候補が大統領に当選しても、アメリカ大統領は、北朝鮮問題について重大な決断を下さざるを得なくなるのではないでしょうか。仮に、次期大統領が軍事的オプションを選択するとしますと、それは、第二次朝鮮戦争であれ、別個の軍事制裁であれ、それは、北朝鮮がアメリカ本土を射程距離に収めた核ミサイルの開発に成功する以前の段階となるのではないかと予測するのです。
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フィリピン大統領、また暴言 国連事務総長に「ばか」
フィリピンのドゥテルテ大統領は、オバマ米大統領に次いで、今度は、国連の藩事務総長に対して暴言を吐いたと報じられております。大統領を暴言に駆り立てた理由は、今回もまた、麻薬取締問題です。
政治家の暴言は、外交関係を損ないかねませんので、誉められたものではないのですが、メキシコ化のリスクを抱えているフィリピンの危機感に対する理解は必要なように思えます。フィリピンとメキシコとでは地理的に離れていますが、両国には、幾つかの共通点があります。
第一に、フィリピンは、米西戦争でアメリカの植民地となりましたが、それ以前には、長期に亘り、スペインの植民地とされていました。宗主国がスペインであった点は、メキシコと共通しています。第二に、両国とも、スペイン領であった歴史を背景として、宗教的にはカトリック信者が多い国です。カトリック諸国には、教会の懺悔制度が影響してか、犯罪に対して比較的寛容な傾向が見られます。第三に、両国とも、国民の多くは、モンゴロイド系の先住民と他の人種との混血であり、西欧文明の影響を受けつつも、血縁関係等を絆としたネポティズムが強い社会です。ネポティズムは、麻薬が組織的に広がる基盤ともなります。第四に、アメリカとの微妙な関係も両国の共通点です。トランプ候補の”壁建設”発言で注目された不法移民問題も然ることながら、1846年の米墨戦争で、テキサスやカリフォルニアがアメリカに割譲された歴史もあり、必ずしも両国の関係は良好とは言えません。一方、フィリピンも、先日、ドゥテルテ大統領が東アジアサミットで人権問題としても言及したように、アメリカの植民地であった歴史は、両国間に隙間風を吹かせています。そして、第五に指摘する共通点とは、中国との関係です。メキシコの麻薬戦争の遠因は、中国が麻薬原料をメキシコに大量に輸出していることにもありますが、地理的により近いフィリピンにおける麻薬蔓延にも、中国との関連が推測されます(未確認情報による…)。
フィリピンでは死刑は廃止されており、警察の捜査や捕縛段階における麻薬密売人の”殺害”が、その罪に対する罰の重さとして妥当であるのか、という問題にもなるのでしょうが、メキシコを見る限りでは、麻薬戦争と呼ばれるほど、麻薬犯罪組織との闘いは、苛烈極まるものです。麻薬密売組織は、犯罪ビジネスとして他者の命や身体、そして健康な精神と引き換えに、巨万の富を得ているに留まらず、麻薬の撲滅に取り組もうとした勇気ある人々をも無情にも殺害しているのです。メキシコ化の危機に直面しているフィリピンの現状を考慮しますと、この件については、一方的なフィリピン批判は、人権を擁護しているようで、より悪辣な人権侵害行為を見過ごすことになりかねないと思うのです。
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北朝鮮の核実験に断固反対、状況悪化回避を=中国外務省
本日、北朝鮮は、NPT体制を嘲笑うかのように、第5回目とされる核実験を実施しました。さすがの中国も、北朝鮮の核実験に対して断固反対の声明を発表していますが、似た者同士である中国に北朝鮮の制御役を期待するには無理があります。
南シナ海問題の仲裁裁定受け入れであれ、東シナ海における尖閣諸島周辺での活動と言い、中国は、国際社会や他国からの自粛要請に耳を貸そうとはしていません。外部からの要請を一斉受け付けない中国の態度から想定されるのは、自らが”核心的利益”と定めた事柄については、たとえ国際法を破り、国際社会から痛烈な批判を受け、他国からの強い反対を受けても、絶対に譲らないとする強固な意志です。そしてこの頑迷な態度は、北朝鮮とも共通しています。北朝鮮もまた、順法精神や国際協調のかけらもなく、たとえ厳しい経済制裁を受けようとも、核保有国の地位を既成事実化したいのです。しかも、他国を脅すための暴力手段として…。中国が北朝鮮を制御できないのは、まさにこの点にあります。同類の中国にとりまして、北朝鮮の傍若無人ぶりを批判することは、則、自らに跳ね返り、自己批判となるからです。
中国は、この問題の解決について六か国協議の活用を求めているようですが、この方法も、法のみならず、”合意も破るためにある”と考える北朝鮮には効果は期待できません。話し合いが無駄である現実は、似た者同士の中国が一番よく知っています。そして、無駄と知りつつ中国が六カ国会談を提案し出したこと自体が、北朝鮮の暴挙を容認する方針の現れなのかもしれません。中国は、南シナ海でも既成事実化を着々と進めつつ、平和的解決のポーズとしては当事国間の話し合いを提案しているのですから。中国と北朝鮮、これらの似た者同士の二国の基本戦略が力による現状の変更である以上、表面的な言葉には騙されてはならないと思うのです。
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南シナ海で中国支持=仲裁裁判所は主張聞かず―ロシア大統領
先日杭州で開かれたG20の場で、ロシアのプーチン大統領は記者団に対し、南シナ海問題の仲裁判決について「中ロは結束している。ロシアは中国の立場を支持する」と述べたと報じられています。果たして、この発言は、何を意味するのでしょうか。
プーチン大統領の発言は、”南シナ海で中国支持”という見出しで報じられ、この見出しの字面だけを追うと、ロシアは、仲裁判決を拒絶する中国の態度を支持すると読めます。つまり、国際法を順守せず、国際司法制度による紛争の解決をも拒絶する無法国家を”よし”とし、ロシアも中国と並んで無法国家であると宣言しているように読み取れるです。しかしながら、ロシアが中国を支持する理由を見ますと、早急には判断できないのかもしれません。何故ならば、取っ手付けたようではあれ、プーチン大統領は、ロシアの立場は「政治的ではなく、純粋に法的だ」とも説明しているからです。そして、”法的”とする理由として、仲裁裁判手続きにおいて、一方の当事者である中国の意見を聞いていない、という点を挙げているのです。
しかしながら、当仲裁裁判が一方的な提訴となったのは、応訴しなかった中国側に責があり、応訴拒否は、仲裁裁判手続きでは自発的な権利放棄と見なされます。この点をプーチン大統領が認識していたか否かは定かではありませんが、中国は自らチャンスを放棄したのですから、プーチン大統領の中国支持の根拠は失われるのです。また、仲裁判決文では、従来の主張等を取り上げる形で中国側の立場をも推定しており、完全に無視しているわけでもありません。となりますと、ロシアは、もはや中国を擁護できなくなるのですが、この発言は、あるいは、北方領土問題を想定しての対日牽制であった可能性も否定はできません。ロシアは、南シナ海における領土問題については二国間による解決を主張してきましたので、北方領土問題でも、二国間で解決したいロシア側の基本姿勢の表れかもしれないのです。
日本国としては、安易な妥協でソ連邦の”戦利品”として割譲を認めるよりも、北方領土問題も司法解決に付した方が有利であり、法の支配の確立を目指す国際社会にとっても、最も望ましい解決方法です。そして、案外、ロシアにとりましても、この方法は検討に値するのではないかと思うのです。何故ならば、仮に、プーチン大統領が、日ロ交渉で日本側に妥協した形で北方4島を返還すれば、国民世論の強い反発を買うことが予測されますが、中立的な国際司法の場での判決であれば、諦めが付くからです。つまり、ロシアの国内世論を納得させることができるのです。当事国双方が参加し、しかも、中立的な国際裁判の判決であれば、大統領も国民も批判のしようがないのですから、今年12月に訪日した際に、プーチン大統領がどのような姿勢で日ロ交渉に臨むのか、注目されるところなのです。
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日本の「警告」、大きく報道=EU離脱めぐる要望書―英メディア
外務省のホームページには、イギリスとEUとの間に予定されている将来の離脱交渉を念頭に置いた、日本国政府による両者に宛てたメッセージが掲載されています。このメッセージの文面を読んでみますと、イギリスの国民感情に対していささか無神経であったのではないかと思うのです。
本メッセージは、日本企業の要望を纏めており、イギリスに進出している日本企業の利益を代弁しています。イギリスのEUからの離脱は、現地の日本企業にも直接にマイナス影響や不利益を与えますので、日本国が、イギリス、並びに、EUに対して要望を述べる機会はあって然るべきです。日本国側の意見を伝えること自体には問題はないのですが、その要望の内容が、イギリス国民の選択を真っ向から否定するとなりますと、相手国との間に摩擦が生じることは当然に予測されます。
特に問題となるのは、人の自由移動に関わる部分です。”高度人材”のみならず、単純労働者についても、”日本企業は、製造業や農業ビジネス分野で東欧からの低賃金の労働者に依存しており、仮に、こうした労働力へのアクセスに制限が設けられた場合には、人材不足と労働コストの上昇が、製品価格に影響を与えるであろう”とはっきり書いているのです。つまり、しばしば批判的に指摘されている通り、外資系の企業がイギリスに製造拠点を移しても、イギリスの雇用改善に貢献しない実態を明かにしており、移民を呼び込む日本企業のイメージは、イギリスにおいて反日感情を煽りかねないのです。当メッセージは、既にイギリス国内のメディアによって取り上げられており、日本製品のボイコットを呼びかけたり、”英国から出て行け”といったコメントも見られるそうです。
日本国内においても、国民の多くは移民の受け入れ拡大には反対ですが、本メッセージから読み取れる日本の経済界の本音が安い労働力としての移民歓迎であるならば、この問題は、イギリス・EU間の問題に留まらなくなります。仮に、同様の要望書を日本国政府が受け取った場合、日本国政府は、その要望を素直に受け入れるのでしょうか。少なくとも一般の日本国民の多くは反発を感じることでしょう。もっとも、このメッセージは、EU残留派を含む新自由主義勢力の利益を代表して書かれたのかもしれません。
本メッセージの本文では、冒頭でイギリス国民の選択を尊重すると明記してありますし、直接的には”人の自由移動の原則を維持せよ”とも書いていません。しかしながら、国民投票で最大の焦点となった移民問題に関しては、相手国国民に対する配慮と慎重さが必要であったのではないかと思うのです。
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米比首脳会談取りやめ=アジア戦略の不安要素に
杭州G20の日程に合わせて予定されていた米比首脳会談は、ドゥテルテ大統領の過激な麻薬取締政策をめぐる両国の対立から取り止めとなりました。両国は同盟関係にあり、かつ、南シナ海問題で結束する必要がありますので、米比対立が中国を利することは必至です。
米比対立の発端となったのはフィリピンの麻薬取締政策であり、仮に、この問題が解決すれば、両国間に刺さっている棘は抜けます。ドゥテルテ大統領の麻薬取締は、麻薬密売人を、即、射殺するなど、超法規的な手法によって進められてきました。この政策により、2400人余りの密売人が既に殺害されており、人権問題として国連からも見直しを求められる事態を招いています。その一方で、ドゥテルテ氏を大統領の座に押し上げたのも氏の容赦なき麻薬取締であり、国民の多数が同政策を支持していることも確かなことです。国連もアメリカ政府も、フィリピンに対して同政策の放棄を求めているのでしょうが、この問題には、もう一つ、解決方法があります。
それは、フィリピンの国会が、国際法に違反しない範囲で、警察に麻薬密売現行犯や構成員に対して殺害処分を認める方向で、刑法、刑事手続法、警察法等の関連法を改正する、あるいは、特別措置法を制定することです。つまり、麻薬密売行為を、殺害処分が認められているテロ等と同程度の重大犯罪と定め、合法的に現行の政策を継続できるように法整備を行うのです。実際に、麻薬密売とは、たとえ直接的な殺人ではなくとも、他者の脳を深く静かに破壊する隠れた殺人とも言える行為であり、麻薬中毒によって人生が終わってしまう人も少なくありません(隠れた”大量殺人”では…)。麻薬密売人や密売組織は、他者を害することで巨額の利益を得ているのですから、極めて重い罪を犯しているのです。メキシコでも麻薬戦争が戦われていますが、麻薬密売勢力の放置は国を傾ける要因ともなります。
フィリピンでは、大統領に議会の会期初日に演説を行う権限があるそうですので(フィリピン憲法第7条23)、議会に対して麻薬取締に関する法整備を訴えてはどうでしょうか。法改正が実現すれば、ドゥテルテ大統領に対する国際的批判は止むことでしょうし、米比関係の悪化が安全保障を脅かす怖れも低減するのではないかと思うのです。
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南シナ海の関与、域外国は認めず ASEAN・中国声明
杭州で開かれているG20では、議長国を務める中国の抵抗により、南シナ海問題は議題には上らない模様です。G20における議題外しも然ることながら、それにも増して懸念すべき事態がASEANでは進行しているようなのです。
報道によりますと、今月7日にラオスの首都ビエンチャンで開かれる予定のASEAN・中国間の首脳会議での共同声明案が明らかになったそうです。当声明案では、法的拘束力を持つ南シナ海での行動規範の作成については合意するものの、紛争解決方法については玉虫色です。紛争の解決に際しては、”内政不干渉などの原則のもと国連海洋法条約などに沿って法的・外交的プロセスを尊重する”方針を示す一方で、”米国などの域外国の批判や国際司法の関与などは受け入れない姿勢”を明らかにしているというのです。この共同声明は、幾つかの側面で問題含みです。
第一に、国際社会の原則と国連海洋法条約に誠実に従うならば、当然に、中国にも国際司法の関与を受け入れる義務がありますので、前者の方針と後者の方針との間には整合性が欠けています。すなわち、国連海洋法条約の尊重を謳いながら、同条約に照らして下された仲裁裁判の判決は拒絶するという態度は、本来、あり得ないのです。
第二の問題点は、同声明は、域外国の関与を認めないとしていますが、南シナ海は、ASEAN諸国、並びに、中国だけの海ではないことです。先日の仲裁裁判に従えば、南シナ海は公海部分を含みますし、況してや南シナ海は、全世界を結ぶ国際航路としての国際公共財でもあります。域外国の締め出しは同海域の囲い込みともなりかねず、その背後に、中国の”一路一帯構想”の野望が見え隠れしています。
第三に挙げられる点は、締約国に対して様々な権利を保障する国連海洋法条約は、一般国際法としての強行規範性を有していることです。ASEAN諸国と中国のみで地域的な行動規範を多国間条約や協定の形式で締結したとしても、それは、国連海洋法条約に優位するはずはありません。国際法上の強行規範とは、侵略やジェノサイドといった行為がこれに当たりますが、国連海洋法条約が、領海やEEZなどを含む権利保障を含む条約である以上、同条約に対する違反行為は、国内法に譬えるならば、強行法規となる刑法上の”犯罪”をも構成します。仮に、Asean諸国と中国との間で結んだ条約や協定において、中国の「九段線」の主張を認められると共に、国連海洋法条約の規定に反して、公海や他国EEZ内での人工島建設や平和目的以外の使用をも認めるような場合、他の諸国から、同条約・協定を無効とする訴えが国際司法機関に提起されることでしょう。
当声明案は中国ペースで作成されたのでしょうが、ASEAN諸国には、安易な妥協が、国際法にる権利保障の枠から自ら出てゆく行為に等しいことに気が付いていただきたいものです。仲裁裁判の結果を無に帰する合意は、フィリピンのみならず、他の諸国にとりましても、国際社会から引き離され、中国の軍門に下ることに他ならないのですから。
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米中、パリ協定批准=共同発表で「協調」演出―南シナ海問題は平行線か・首脳会談
本日の日経新聞の片隅に、目立たないながらも中国の全国民人代表大会の常務委員会で「国防交通法」を承認したとの記事が掲載されおりました。この法律、有事に際し、民間企業に対して軍への補給や輸送協力、さらには、船舶、飛行機、車両の提供を義務付けるという内容のようです。
当法案の成立から、中国が戦時体制に備えて着々と法整備を進めている現状が伺えます。発動対象には、国際平和維持活動や海上紛争も含まれていることから、当然に、南シナ海や東シナ海での軍事衝突をも想定しているのでしょう。そして、まさに時を同じくして、杭州でのG20を前に設けられた米中首脳会談の場で、両国首脳は、南シナ海問題については平行線を辿ったと報じられております。”平行線”とは、双方が妥協点を見い出せず、お互いに自らの主張を曲げない状況を表現する言葉ですが、南シナ海問題における”平行線”は、その言葉の響き以上に深刻な事態を予測させます。
何故ならば、中国が自らの方針を貫くということは、南シナ海問題の仲裁判決のみならず、アメリカの中止要求をも蹴って、あくまでも、仲裁裁判で否定された「九段線」の主張を維持し、南シナ海の軍事拠点化の完成を目指すことを意味するからです。それは、”侵略”とも言うべき東南アジア諸国、及び、公海に対する侵害であり、国際法秩序の破壊行為に他なりません。たとえ地球温暖化問題の分野では「パリ協定」の批准に合意し、米中協調を装ったとしても、南シナ海問題での”平行線”は事実上の決裂であり、近い将来、戦争が起きる可能性は格段に高まったのです。
中国は、仲裁判決を拒絶した時点で、越えてはならない一線を越えています。アメリカの軍事的優位や兵器部品の対日依存度等により、中国の敗戦は必至との見方もありますが、共産党一党独裁体制の維持、即ち、国内的な理由から、中国が敢えて戦争に訴えないとも限りません。歴史においては、サラミス海戦のように軍事的に優勢と見なされていた側が戦略的に敗北を喫する事例もあり、また、劣勢であるが故に、奇襲作戦や国際法の裏をかくような作戦を計画するかもしれません。日米をはじめ国際社会もまた、中国に対して決して油断せず、有事に対して十分備えるべきであると思うのです。
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アップル課税問題、アイルランドが提訴へ
先日、EUが、アイルランドに対して米アップル社に1.5兆円もの巨額の追徴課税を課すようにと求めたことで、俄かにアイルランドの外国資本の移入促進を目的とした税制が注目を浴びることとなりました。この要求を不服としたアイルランド側は、EUの司法裁判所に提訴する構えのようです。
このEUの対応は、『パナマ文書』によって明らかとなった租税回避行為への対応とも共通しており、基本的な構図は、低率の法人税など税制上の優遇制度を設ける特定の国と企業との間の”持ちつ持たれつ”の関係による租税回避行為に対する取締の一環として理解することができます。その一方で、この一件は、経済成長率が、如何に当にならないのかをも示しています。何故ならば、昨年2015年のアイルランドの経済成長率は、26.3%という驚異的な伸びを示しているからです。経済成長率はGDPに基づいて計算されており、GDPには、市場における財やサービス等の取引額が合算されています。当然に、金融市場等における取引も含まれており、アイルランドの異常なまでの高い成長率は、アイルランドの外資優遇税制の賜物でもあるのです。つまり、外国からの膨大な資本や資産の移転が、GDPの数値算出に加算され、アイルランドの経済成長率を大幅に押し上げているのです。この高い成長率については、一般のアイルランド人からしますと実感はなく、「26%という数値は経済実勢からかけ離れている」との疑問の声も上がったそうですが、EUの統計局によれば、数値算出に際しての計算ミスではないとのことです。
アイルランドの事例は、経済成長率=国民生活の向上ではなく、たとえ成長率やGDPでは高い数値を誇っても、必ずしも一般の国民に恩恵が及ぶわけではない現実を示しています。海外からの資本移転のみならず、株式市場や不動産市場等でのバブルであっても、計算上は高い数値を弾き出すのですから。経済成長率やGDPへの過信や信仰には、国民生活の向上に繋がる’真に豊かな経済’を見失なわせるリスクがあるのではないかと思うのです。
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奴隷売買、公式に認める=178年ぶり謝罪―米名門大
日本国の戦国時代は、ポルトガル船の来訪を機に西欧諸国との間に交易が開かれると共に、イエズス会の宣教師、フランシスコ・ザビエルにより国内にキリスト教の布教が始まった時代でもあります。しかしながら、豊臣秀吉が天下を取ると一転して禁教へと転じ、多くのキリスト教徒が弾圧されることとなりました。このため、キリスト教世界では、日本国はキリスト教徒を弾圧した”悪しき異教国家”とするイメージがあります。
江戸時代に至るまで、確かに、キリスト教の宣教師を火炙りにしたり、その信者を拷問にかけて棄教を迫ったりしておりますので、日本人の多くも、まことに残酷な仕打ちをしたものと、キリシタン弾圧を忌まわしい過去と見なしています。しかしながら、今日、イエズス会等のキリスト教教団が裏で行ってきた悪行が明るみになるにつれ、キリシタン弾圧にもそれなりに理由があったことも分かってきました。
これらの教団は、表向きはキリスト教の世界大での布教を目指す宗教組織ですが、その背後では、布教先の諸国の植民地化を画策したのみならず、奴隷貿易、人身売買、武器弾薬の提供、麻薬密売等に手を染めていたらしいのです。当時、日本国内には、火薬の入手を目的としてキリシタンに改宗した大名もおり、日本国の戦国時代は、当事にあって先端的武器であった銃を大量に使用した過酷な戦争が繰り広げられました。伊達正宗が慶長遣欧使節団としてフランシスコ派カトリック教徒の支倉常長をスペインに送り出したのも、同国との連携による天下取りという政治的野心が潜んでいたとされています(因みに、天正遣欧少年使節団はイエズス会系…)。日本国のみならず、アジアでは内乱に乗じた植民地化は後を絶たず、その背後に、キリスト教教団が蠢いていた事例も少なくないのです。しかも、キリシタン大名であった高山右近などは、領内の寺社仏閣を悉く焼き払い、伝統宗教に対する宗教的弾圧者ともなったのです。18世紀には、ヨーロッパでも、イエズス会の国境を超えた陰謀めいた活動に危機感を抱いたポルトガル、フランス、スペインなどが、相次いでイエズス会士を国外追放しており、政治や治安上の理由によるキリスト教教団に対する弾圧は、日本国に限定されているわけでもありませんでした。
今月1日、イエズス会系の名門大学である米ジョージタウン大学は、過去に同大学が経営していた農場にて奴隷を使役し、かつ、売却していたとして公式に謝罪を表明しました。高い倫理性を以って人々に教えを説いてきたキリスト教の教団と雖も無誤謬なはずもなく、倫理に悖る行為によって罪を負っていることもあります。日本国の禁教の歴史も同時代の世界の動きを踏まえて理解すべきであり、歴史を反省するならば、両者共に自らの過去の行為を真摯に省みるべきではないかと思うのです。
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南シナ海「軍事的解決なし」=米国務長官
インドを訪問中の米ケリー国務長官は、インド工科大学での講演で南シナ海問題に言及し、「軍事的に解決するという選択肢はない」と述べたと報じられております。果たして、ケリー国務長官の発言の真意は、どこにあるのでしょうか。主語がはっきりしていないのですが、この発言、誰を主語にするかによって意味内容が大きく違ってきます。
仮に、主語をアメリカとしますと、”たとえ中国が南シナ海問題の仲裁判決に従わず、かつ、軍事拠点化を進めたとしても、アメリカには軍事介入する意図はない”とするメッセージと解されます。中国としては願ってもない発言となり、大手を振って東南アジア諸国を軍事力で威圧し、かつ、海洋覇権の確立を目指した太平洋進出計画を実行に移すことができます。ケリー国務長官は、筋金入りの平和主義者として知られており、また、仲裁判決を拒絶し続けている中国に対して目立った批判は控えていることから、主語がアメリカである可能性もないわけではありません。
それでは、主語がアメリカではなく、中国であるとしますと、この発言にはどのような解釈が成り立つのでしょうか。この場合には、”中国には、軍事的に解決する選択肢はない”となり、アメリカは、実力で中国の軍事行動を抑え込む用意があると宣言していることとなります。つまり、たとえ中国が武力行使を試ようとしてもできない、と述べているのです。折しも、東シナ海では、米軍が強襲揚陸艦や攻撃型原子力潜水艦を配備したとする情報もあり、これらの戦力は、南シナ海でも展開可能です。主語が中国であれば、ケリー国務長官の発言は、中国に対する強い牽制と警告を意味しているのです。
東シナ海における米軍の動きを見る限り、後者、即ち、中国に対する警告の発言であった可能性の方が高いものと推測されます。しかしながら、ケリー国務長官の真意が後者であったとしても、中国は、アメリカへの対抗心から敢えて”軍事的解決”を選択し、武力に訴えるシナリオもあり得ます。何れにしても、中国が、平和的解決を望む国際社会に対して弓を弾いていることだけは確かであり、日米をはじめ国際社会は、矢が放たれる前に全力で中国の行動を阻止すべきなのではないでしょうか。
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