

Tete Montoliu Trio / A Tot Jazz 2 ( Concentric 5703 SZL )
このころのテテ・モントリューはまだコードをたくさん鳴らしてメロディーを構成するスタイルで、単音でフレーズを紡ぐ時はどこを切っても
バド・パウエルのフレーズそっくりの、まだまだ発展途上のピアニストでした。 特にこのレコードを聴くと、この人はバド・パウエルの演奏をお手本に
練習していたんだなあ、ということがよくわかります。
ところが、そのパウエル・ラインに被さってくるのが当時世界を席巻していたコルトレーン・カルテットのサウンドの影響をモロに受けたベースとドラムで、
その中でもビリー・ブルックスのドラムはエルヴィン・ジョーンズのドタバタ太鼓のまんまコピーなので、ジャズに精通したリスナーはバド・パウエル~
ジミー・ギャリソン~エルヴィン・ジョーンズという、決してあり得ないはずのピアノ・トリオを聴いている感覚に面喰ってしまうことになります。
ピアノの上手さはこの時点で既に完成していて、最後に収められた "ソルト・ピーナッツ" の長いアドリブを一息で弾き切ってしまう様子は圧巻です。
まるで雪解けで水量の増した渓流の早い流れを見ているようで、ピアノの音が発する情報量のおびただしさにこちらが押し倒されてしまう感があり、
そういう意味においてはジャズピアノというよりはクラシックピアノに近いものがあります。
楽曲が本来持っているモチーフをドラマチックに表象させるのがとにかく上手い人で、"チム・チム・チェリー" の8小節の主題からブリッジに移る時の
ジェットコースターのような急降下ラインは、場面転換時に流れる舞台歌劇曲のようだし、"シークレット・ラヴ"ではモードジャズっぽい独特の
アレンジで最後まで幻想的に進みながらも、なぜか懐かしいビング・クロスビーの歌が聴こえてくるような美旋律の陶酔感があります。
これを聴いていると、この録音の3~4年後にやってくるこの人の音楽的頂点に向かって真っすぐに伸びた道が見えてくるような気がしますが、
上記のような音楽的にかなり凝った仕掛けがあちこちに施されているなかなか高度なアルバムです。