

Billy Bauer / Plectrist ( Norgran MG N-1082 )
残されたレコードが少ない場合、そのミュージシャンは私生活に問題を抱えていることが多いものですが、この人の場合はどうもそういうトラブルは
なかったようだし、なぜアルバムがこれしかつくられなかったのかがよくわかりません。 Ad Libレーベルに10inchがありますが、これはミュージック・
マイナス・ワンのレコードなのでこの人の作品として語るには適当ではない。
活動初期にトリスターノ一派に加わったので、一般的にはリー・コニッツのレコードでの尖った演奏のイメージが刷り込まれてしまっているかも
しれませんが、ここで聴かれる演奏にはあの面影はまったくなく、別人のように穏やかで上品で落ち着いた内容に逆に面喰ってしまいます。
コードワークでメロディーを展開する曲なんかはジョニー・スミスを思わせるような優雅さをみせますが、難しい技を簡単そうにあちこちに混ぜながら
なめらかに弾いていくスタイルはジョー・パスに近いかな、と思います。 その曲に必要な分だけのテクニックを棚から取り出してくる、そういう感じです。
ピアノトリオをバックにしたカルテットですが、このバックのピアノトリオが非常に上質な演奏を聴かせます。 バウアーのギターを邪魔しないよう
終始控えめで静かな演奏をしてくれるので、ギターの演奏が前面に押し出されています。 このアルバムの音楽的な成功はこのバックのおかげです。
自身が作曲した4曲がスタンダードに混ざっていますが、これらもきれいなメロディーをもった佳曲で、そういう才能もあった。 注意してよく見ると
他のいろんなレコードでも伴奏の一員としてその名前をみることができるのに気が付きますが、何と言っても一番目を引くのはパーカーの最後のスタジオ
セッションに参加していることです。 そんな風に数多くのレコーディングを支えながら、ギター・スクールを開校して多くの後進も育てて、2005年に
90年の生涯を終えました。 控えめな人柄だったことが伺えます。
ノーグランらしい枯れた趣きのある作風ですが、演奏自体はみずみずしく、とても上品な演奏に終始する本当に素晴らしい内容です。
もっと広く認知されていいレコードだと思うし、残されたリーダー作が唯一これだけだということがこの盤に特別な重みを与えているように思えます。