廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

クロージング・テーマ

2016年06月19日 | Jazz LP (Prestige)

Charles McPherson / Bebop Revisited !  ( 米 Prestige PR 7359 )


13歳の時に近所のキャンディ・ストアに置いてあったジュークボックスから流れてきたパーカーの "Tico Tico" を聴いて床に伸びてしまって以来、
パーカー直系の道を歩いてきたマクファーソンの初リーダー作。 1964年にタッド・ダメロン、ファッツ・ナヴァロ、バド・パウエルらの曲をパーカー&
ガレスピー・スタイルで正面きってやってしまうんだから恐れ入る。 究極の時代錯誤なのか、それとも本気でビ・バップの復興を目論んだのか。

生まれはミズーリ州だが9歳の時にデトロイトに移り、そこで育った彼は、地元のジャズクラブでハウスミュージシャンだったバリー・ハリスのもとで
ジャズを学んだ。 だから、このデビュー作はバリー・ハリスが手を貸している。 60年代にビ・バップをやったら、という内容だが、やはりそこには
ハード・バップのスタイルも混ざっていて、単なるビ・バップの焼き直し以上の内容になっている。

マクファーソンのアルトはまだ初々しく、とても素直に吹いている。 後年になると個性を出そうとしてちょっとひねり過ぎでは?と思うようなところも
出てくるけれど、ここでは非常に清々しい吹き方でとても感じがいい。 カーメル・ジョーンズとの技巧的なバランスもうまく釣り合っており、うまい人選
になっていると思う。 "Hot House" にしても "Wail" にしても、パワーとスピードが十分あって見事な演奏になっている。

出来ることならずっとこういう演奏をやっていきたかったんだろうなあ、と思う。 でも、もうこういう音楽が求められる時代ではなかった。 あと10年
早く生まれていれば大スターになっていただろうけど、こればかりはどうしようもないことで、気の毒なことだったとしか言いようがない。 時代の潮流に
合わせることを嫌い、地道に主流派のジャズをやり続けて、まだ現役のミュージシャンとして今もサン・ディエゴに住みながら元気に活動しているのは
喜ばしいことだと思う。 

パーカーに捧げたのであろう、"Embraceable You" ではワンホーンで究極のバラードを聴かせる。 これはこの曲の最高の演奏の1つだろう。
まるでパーカーが完全には出来なかった録音の仇を自分がとるのだと言わんばかりの演奏で、深い哀感の表現が素晴らしい。 その素晴らしい演奏を
RVGが見事な録音で捉えており、風前の灯だったバップ期最後の名盤と言える内容だ。 良い悪いは別にして、これ以降、こういう主流派ど真ん中の
名盤と言える演奏はほとんど見当たらなくなる。 歴史を俯瞰する目線でこのアルバムを眺めると、まるでバップという音楽のクロージング・テーマ
として生まれてきたかのように見えて、なかなか切ない気持ちにさせられる。



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