Miles Davis / Live in Stockholm 1960 ( 日 DIW 25006/25007 )
これはブートレグでなく、北欧DRAGONレーベルが発掘した未発表ライヴで、DIWが日本に輸入した時には大きな話題なったのをよく憶えている。
DUで大々的に新譜として売られていたが、まだジャズを聴き始めたばかりだった私はあまりその意味がよくわかっていなかった。
一通り正規録音物を聴いてしまった後でこういう未発表音源を聴くと、その価値というものが本当によくわかる。 コルトレーンがマイルスの下にいた際の
録音としては 59年の"Kind Of Blue" が最後で、61年の "Someday My Prince will Come" のゲスト録音までに2年間の空白がある。 コルトレーンが独立
したのは60年4月末なので、ちょうどこの空白の前半部分はマイルス・バンドでの最後の1年間として最も成熟した時期であったはずだ。 にも関わらずこの
時期の演奏には正規録音がなく歴史的な欠損箇所になっていたところに60年3月のこの演奏が登場したわけだから、如何にそれが重要な価値があるかが
わかるだろう。 これを聴かない手はない。
マイルスのライヴ演奏はアメリカ本国のものよりも国外に出た時のほうが丁寧な内容になっている傾向があって、このストックホルムでの演奏も例外では
ない。 バンドの纏まりよく、とてもデリケートな演奏に終始している。 そんな中で、コルトレーンはもはやこのバンドの音楽とはうまく噛み合わなく
なってきてしまっているのがよくわかる。 マイルスもバンドのメンバーたちもこれがコルトレーンとの最後の演奏になることを残念に思いながらも、
一方ではもうここは彼のいるべき場所ではないことを十分過ぎるほどわかっていただろう。 特にウィントン・ケリーのピアノは好調で弾むように美音を
まき散らしているけれど、コルトレーンの演奏と並べてみるとまるで遊園地の拡声器から流れてくる音楽のように安っぽく聴こえてしまう。 よくマイルスの
バンドメンバーの善し悪し話でハンク・モブレーやジョージ・コールマンがやり玉に挙げられるけれど、私が一番イマイチだと思うのはウィントン・ケリーだ。
モノラルながら録音状態の良さも嬉しく、ポール・チェンバースのベースの音がクリアで大きく録れており、この時のバンドの演奏の良さを際立たせてくれる。
おそらく当時は契約関係の都合で発売することができなかったのだろうが、こうして陽の目を見ることができたのは素晴らしいことだと思う。 未発表音源の
発掘の最も優れたお手本の一つと言っていい。