Al Hibbler / Sings Love Sings ( 米 Verve MGV-4000 )
ヴァーヴのレコードには時々こういう女性の姿をあしらったデザインのジャケットがある。 ジャズを聴くのは男性のほうが圧倒的に多いから、
こういうジャケットはそれなりに販売に寄与したんだろう。 3大レーベルなんかは硬派だったからこういう戦略は取らなかったが、商売人だった
ノーマン・グランツはそんなことにはお構いなしで、おそらくその影響で他のマイナーレーベルも時々真似するようになったんじゃないだろうか。
アル・ヒブラーはハーブ・ジェフリーズの後任としてエリントン楽団に入った人で、50年代にソロで作ったレコードにはその人脈でエリントン楽団の
メンバー達が参加しているものが多い。 このアルバムではカウント・ベイシー楽団やルロイ・ロベット楽団など複数のビッグバンドを背景に歌って
いるが、その中には当然ジョニー・ホッジスの楽団もいる。 そういうオールドビッグバンドのリッチなサウンドをバックに快調に歌っていく。
ハーブ・ジェフリーズの名唱で知られる "Flamingo" も表敬としてちゃんとやっている。
商業的にはR&Bシンガーとしての認知度が高いのかもしれないが、やはりこの人の本懐はジャズの作品のほうじゃないだろうか。 特に美声という訳では
ないし、深いバリトンというほどでもないけれど、情感豊かに表現するし、意外にさっぱりとした後味が残る。 不思議と心に残る歌い方をする人で、
やはりそこは何かを持っているんだと思う。
昔はエサ箱でよく見かけたこの人のレコードも、今では見かけることはまずない。 もう誰も聴かないんだろうし、きっとこのまま忘れ去られてしまう
んだろうなと思う。 "Unchained Melody" だって、日本ではこの人が歌ったオリジナルヴァージョンを知っている人はあまりいないんだろう。
残念なことだがアルバムとしての有名作がないと、こういう末路を辿るのはある意味やむを得ないことなのかもしれない。