Cecil Taylor All Stars featuring Buell Neidlinger ( 日本 CBSソニー SONF 01107 )
ジャズ・ピアニストなのにピアノ・トリオとしてのフル・アルバムを1枚も作らなかった、おそらく唯一の人がセシル・テイラーだった。
これが私のこの人に関する唯一の不満で、アルバムの中で何曲かはトリオで演奏してはいるものの、1枚全部という作品は私の知る限りはない。
その限られたトリオやプラス・ワンでベースを弾いていたのがビュエル・ネイドリンガーだ。 テイラーが常設トリオで活動しなかったので、ネイドリンガーの名前も
有名になることがなかった。 テイラーのデビュー作での縁からスティーヴ・レイシーのプレスティッジのモンク集なんかにも参加してるけど、それでもその名前が
クローズアップされることはなかった。
テイラーはベースを入れる時は必ずこの人を呼ぶ程仲が良く、その彼にスポットライトを当てようと企画されたのがこの録音だった。 ところがマスタリングも終わり、
いよいよリリースという直前になってCANDIDレーベルが倒産し、ついにリリースされることがなく終わってしまう。 ツイてない人はとことんツイてない。
その音源をCBSソニーが特典盤として初めて配布したのがこのレコード。 その時は非売品だったが、その後は違う形で再発されているようなので、特に
稀少な音源ということもなくなった。 私がこれを拾ったのはこの中にセシル・テイラー・トリオの演奏があるからだ。 元々はネイドリンガーのリーダー作だったのに、
世に出る時はテイラーの名前が前に出ている。 まあ、そのおかげで私の目にも留まることになったのだから、彼には気の毒だけどこれで正解だった。
3種類のセッションで構成されている。 クラーク・テリー、ラズウェル・ラッド、スティーヴ・レイシー、アーチー・シェップ、チャールズ・デイヴィスの多管編成では
何とスイング・ジャズをやっていて、これには驚く。 ミディアム・テンポでほんわかとしたオールド・スイングで、テイラーはゆったりとしたフリースタイルの
不協和音をまき散らしていて、これがなぜか曲調と違和感なく会っていて面白い。 こういうスイングとフリーの親和性の高さを聴くと、テイラーの演奏が
伝統に根差しているという言い方が紋切り型の文節ではなく真実であることがよくわかる。
お目当てのピアノトリオでは、重くどっしりとしたネイドリンガーのベースとデニス・チャールズのドラムの上でテイラーのピアノがまるでテープを早回しした
セロニアス・モンクのような感じで、これがとてもいい。 やはり、アルバム1枚分の演奏が聴きたかった。
まともに聴く人なんてほとんどいないようなアルバムだろうけど、私には面白いレコードだった。 安レコだからこそ、こういう音楽に接することができる。
安レコは凝り固まった世界観を大きく拡げてくれる扉なのだ。