廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

存在理由があるピアノ・トリオ

2018年10月07日 | Jazz LP (Savoy)

Vinson Hill / And His Trio  ( 米 Savoy MG-12187 )


仕事帰りに拾った安レコ。 何者なのかは不明だが、取り敢えずはサヴォイだし、安レコだし、ということで連れて帰った。 その程度の消極的動機で
聴き始めたのだが、これが予想外の良さでちょっと驚いた。 これだから安レコ漁りは止められない。

スタンダードとオリジナルが半々の構成だが、スタンダードへのアプローチがありきたりのやり方ではなく、現代の方へ向いた当時としては新しい演奏をしている。
オリジナルも思索的な仕上がりで、全体的に聡明さに溢れ、自身の内面と上手く交感し合った音楽を創り上げている。 知的、という意味で言うなら、
例えばドン・フリードマンなんかよりはこちらのほうがずっと優れていると思う。 ただ、知的という言葉で表現されるよりは、もっとしっかりと地に足が着いた
ソリッドな手触り感のある音楽で、これは見事な出来だ。

最近はそうでもないようだが、一時のピアノ・トリオ・ブームは凄くて、CDの新品フロアがピアノ・トリオの作品で埋め尽くされていた時期があった。
ピアノ・トリオは一番平易な音楽で、音楽の素養なんかなくても誰でも楽しめるからだろうけど、供給側の粗製濫造振りには嫌悪感しか持てなかった。
どれだけ耳を凝らして聴いてもどれも皆同じような演奏で、各々の違いなんてさっぱりわからなかったけど、店頭では次から次へと新しい作品が陳列されて、
その回転の速さにはまったくついて行けず、呆然と眺めるしかなかった。

別に昔はよかったというつもりはないけど、こういうレコードが作られていた時代は各レーベルの中でピアノ・トリオの作品が占める比率はさほど多くはなく、
制作は厳選されていた。 だから残されたピアノ・トリオの作品はどれもしっかりと耳に残るものが多く、そういう意味では健全な時代だったのではないか。
このアルバムもなぜ作られたのか、その理由がよくわかる内容だろうと思う。


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする