Max Roach / Quartet featuring Hank Mobley ( 米 Debut DLP-13 )
これはハンク・モブレーのレコーディング・デビュー作で、1953年4月10日にテナーのワンホーンで録音されている。
1930年にジョージア州イーストマンで生まれたモブレーは20歳になるとプロとして活動を始め、51年にはニュージャージーのニューアーク・クラブのハウス
バンドのメンバーとしてギグに出るようになる。 このハウスバンドのピアノはウォルター・デイヴィスJr.、ドラムがマックス・ローチで、それが縁で
ローチはモブレーとウォルターに声をかけて自身のバンドを作った。 そのバンドで録音したのがこのデビュー・レーベルのレコードということになる。
この演奏を聴くと、モブレーは早熟だったことがわかる。 技術的にはまだ覚束ないけれど、まるでロリンズのような音色で悠然とした演奏をしているのだ。
これを聴いてモブレーだとわかる人はおそらくいないだろう。 このレコードはこのレーベルにしては珍しく録音が良くて、楽器の深い響きが上手く録れて
いるせいもあるけれど、テナーの重く深い残響が響く様子には凄みがある。 私が知っているモブレーのテナーの音色では、これが一番いい。
この頃からローチは自己名義の録音ではドラム・ソロを無遠慮に始めるけれど、このレコードで聴ける彼のソロは悪くない。 殺伐として殺気立った雰囲気が
あり、これは聴かせる。 そして、それに互角に張り合うモブレーのテナーが見事な出来なのだ。 短い演奏時間であっという間に終わってしまうのが
残念だが、このレコードの演奏は粗削りな雰囲気とそれを活かす残響感豊かな音場が素晴らしい。
ローチがモブレーに目を付けたのは慧眼だったと思う。 いけ好かないやつだけど、ある種のセンスがあったのはどうやら間違いなさそうである。
自分が作ったバンドだから仕方ないのかもしれないけれど、このレーベルの趣旨を考えればハンク・モブレーのリーダー作として売り出してもよさそうなのに
そういう気遣いを全くせずにアルバムを出してしまう。 パーカーのバックでドラムを叩き、クリフォード・ブラウンを自己のバンドメンバーとして囲い込み、
ロリンズのサキコロに参加し、常にそうやって天才たちの傍にいることで自己の評価を確立してきたのが、このマックス・ローチという男なのである。